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藤井聡太さんの将棋に関する棋士の方々の意見など

 藤井聡太の表情は「もう終わっちゃうの?」と…激闘の最終盤で一瞬の「詰み」を見逃さなかった“規格外の読み”
 勝又 清和───2023年9月25日 11時42分
(前略)
 208手目、3筋か9筋の歩を成り込めば敵陣の駒が10枚となり、すべての条件を満たして勝利宣言できる。タイトル戦初の宣言法での決着か、と見ていると、藤井が馬取りに歩を打った。えっ? そこに歩を打ったら条件を満たさなくなるぞ、一体何を考えているんだ。
 その疑問は続く△5六馬の王手で解決した。つ、詰んでいる! △5六馬から数えて19手詰めだ。
 藤井聡太はやっぱり規格外だ。秒読みだけで50手以上も指し、点数勝負に切り替えて、しかも相手玉が入玉寸前なのに、それでも詰ませることを考えていたなんて。自陣に何も抑える駒がなかったのに、空中に打った歩と飛車だけで捕まえてしまった。彼が1分あればどんな詰みでも読めてしまうことはわかっていたけど、この状況下で入玉形の難しい形の詰みを読み切るとは。
 22時2分、214手目の馬引きを見て、永瀬が負けましたと頭を下げた。
(中略)
 最終盤については、後日、藤井から直接聴くことができた。
 まずどこから点数勝負に切り替えたのか? 180手目に成香で金を取るつもりが、玉を上に逃げられて寄せられないことをウッカリしていたのだという。そこで、竜を取れば点数が足りそうなので点数勝負に切り替えて本譜のように銀を取ったという。それをまた詰ますほうに切り替えたのは、永瀬が205手目に玉で歩を取ったのを見てだった。藤井は言った。
「その意を汲んで、宣言法は考えませんでした」
 それはつまり、点数勝ちでなく寄せきってみせろという永瀬の意地を、だ。2人は戦っている最中も盤上で対話をしていたのだ。そして一分将棋のなか、209手目に馬を寄られたところで、詰みを読み切ったという。(後略)

 藤井聡太竜王、局後に明かした驚異的な読み 絶句した佐藤天彦九段
 村瀬信也───2023年4月7日 21時00分
(前略)6日午後2時31分。藤井の右手がようやく盤上に伸びた。50手目△3五歩(図1)。攻めに必要な歩を補充する代わりに、相手の攻めの銀を呼び込むリスクもある。決断の一手だ。
図1・△3五歩まで
 藤井がこの手に費やした時間は1時間47分。正午から1時間の昼食休憩を挟んでいたので、さらに考えたことになる。勝負どころを自覚していたからこその長考だった。
 この手を境に局面の流れが速くなった。互いに敵陣に攻め込んだが、徐々に藤井の優位が明らかになる。夕方の休憩明けの午後5時40分ごろ、82手目△9八竜(図2)の局面を見た副立会人の千田翔太七段(28)は「藤井竜王が優勢です」と断言。藤井はその後もリードを広げ、名人戦初白星を挙げた。
図2・△9八竜まで
 1時間47分の長考で、藤井竜王はどこまで先の展開を読んでいたのでしょうか。本人から返ってきた答えは、元名人の佐藤天彦九段が絶句するような内容でした。
 藤井と渡辺がタイトル戦で対戦するのは今回が5回目。注目点の一つが、タイトル戦最長の9時間という持ち時間だった。
 2〜3月にあった棋王戦五番勝負は、藤井が3勝1敗で制した。藤井が初の六冠を達成するシリーズとなったが、持ち時間4時間の棋王戦と名人戦とでは、時間を使うペース配分が変わってくる。藤井は4日の前夜祭で「(9時間という)持ち時間を使って、じっくり考えられるのが楽しみ」と述べていた。
 藤井は、実際にはどのようなペースで時間を使ったのか。棋譜を見返してみると、図1での長考の後、藤井は74手目に25分考えたのが目立つ程度で、あまり時間を使っていなかった。終局の時点で渡辺が1分将棋だったのに対し、藤井は22分残していた。「あの長考で、どこまで先を見通していたのだろう」。そんな疑問が浮かんだ。
 感想戦を終えた藤井に尋ねると、予想外の答えが返ってきた。
 「△3五歩(図1)を指した時点で、△9八竜(図2)まで進む可能性はあるかなと思いました」
 図1から図2に至るまでの手数は32手。対局中、検討室にいる棋士たちは時に意外そうな表情を見せながら進行を見守っていた。だが、藤井にとってはずっと織り込み済みの展開が続いていたのだ。
 藤井への取材を終えて検討室に戻ると、名人3連覇の実績を持つ佐藤天彦九段(35)の姿があった。この日、大盤解説を務めた佐藤に藤井の回答を伝えると、「えっ」と絶句。改めて局面を確認して、「信じがたい」と驚いた。
 佐藤によると、二つの局面の間には分岐点となる箇所が複数あるという。さらに、一般的に、長く考えれば考えるほど深く読めるかというと、そうとは限らない。「長考しても、結局読みが堂々巡りになっていることもよくある」からだ。藤井の卓越した集中力が驚異的な読みを生んだことが裏付けられる形となった。

 藤井聡太棋聖防衛で10代ラスト飾る 高野秀行六段が分析「常識覆した語り継がれる一局」
 スポーツ報知───7/18(月)
 将棋の第93期棋聖戦五番勝負第4局が17日、愛知県名古屋市の「亀岳林 万松寺」で指された。藤井聡太棋聖(19)=竜王、王位、叡王、王将=が挑戦者の永瀬拓矢王座(29)を後手番の104手で破り、シリーズ3勝1敗で3連覇を達成した。19日に20歳の誕生日を迎える藤井は、地元・愛知で10代最後のタイトル戦を勝利で飾った。
 * * *
 今までも歴史を塗り替えてきた藤井棋聖が、10代最後にもうひとつ、歴史を作った一局だったと思います。
 序盤の23手目で▲6四飛と6筋の歩を取らせたのは将棋界の常識にはなく、昔から取らせてはいけないと本に書いてある手。あえて考えられない手をやって勝ったことで、「6筋の歩を取らせても指せる」と常識を覆しました。
 アインシュタインの言葉に「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションだ」というのがあります。藤井棋聖は10代にして、「常識」と言われる偏見が一切ない。このすごさを改めて感じました
 正直、永瀬さんの39手目▲9七桂は力が入りすぎた印象も受けました。ただ、藤井棋聖が今後活躍を続けた時、「ああ10代最後の対局で6筋の歩を取らせた将棋ね」と語り継がれる一局であることは間違いないと思います。
 永瀬さんは今回は残念でしたが、努力の先にあるのが「永瀬の努力」。努力を続け、大舞台に戻って来てくれるに違いない。また二人の対局を楽しみにしています。(高野秀行)

 勝又清和七段が見た藤井4冠の強さ 豊島と激闘繰り返し進化“人間離れ”した強さに
 Ssponichi Annex───11/15(月)
(前略)この一年で最も磨きがかかったのは序盤ではなく終盤だ。NHKの藤井特集で将棋AI開発者の山口祐さんが豊島を含めた2人の将棋を分析したが、番組では紹介されなかったPR(パフォーマンスレート)というデータがある。1手ごとにAIの手と比較して何%勝率を下げるかを調べた指標で、少なければ少ないほどAIに近づく。終盤のPRは豊島が1・2と超トップレベルだったのだが、藤井は20年度の1・6に対し今年はなんと0・59。山口さんは竜王戦直前に「番勝負で(藤井に)勝つのは人間には相当大変ではないかと思います」とツイッターでつぶやいたが、その予言通りの結果となった。
 AIは序盤は予習できるが終盤は復習しかできない。将棋は終盤になればなるほど複雑になるため、終盤を制するものが勝つゲームだ。藤井が勝ち続けているのは決してAIのおかげではない。
 藤井と豊島は居飛車党で、後手では相手の得意を受けて立ち、AIでの研究にたけているところなど、共通点が多く方向性も似ている。その豊島と長い持ち時間で対局することで、豊島の思考や指し手を学んで吸収した。藤井を最も強くしたのは豊島なのだ。
 私は東日本大震災のあった11年3月11日に順位戦で直接対戦して以来、豊島ファンでもある。調子は決して悪くない。残念ながら無冠となったが、きっと必ずタイトル戦で藤井の前に座る。2人の戦いはまだ序章だ。

 藤井3冠3連勝の竜王戦第3局 驚きの手に現れた両者の研究の深さ 真田圭一八段解説
 https://encount.press/───11/1(月)
(前略)注目したのは53手目。後手からは△1九角成と香を取る手が見えているが、それには▲3三角と王手飛車で強襲する手がある。それを踏まえて、例えば▲7九玉と玉の安全度を高めておくのか、或いは▲1七香と取られそうな香をあらかじめ逃がしておくのか。
 他にもさまざまな有力手があり手の広い局面。いかにも棋士の個性が表れそうな局面で、藤井3冠の選択した手は▲4五飛。この手は一番自然な手だが、このような手を選ぶ場合、大局観が重要になる。自分の方が形勢がいいと判断し、それが正しければ自然な手の積み重ねで勝てるが、判断に誤りがあると一気に形勢を損ねかねない。
 藤井3冠は形勢は既に我に利ありと判断し、具体的には以下55手目▲2五飛、63手目▲8五飛と、飛車の威力を前面に押し出すことで手勝ちできるとの読みだ。その途中、61手目▲2二角と打ちにくい角を打つなど才能を感じさせる手も織り交ぜている点も見逃せない。
 豊島竜王から見れば不利になったのはいつの間にかなのか、それとも徐々になのか。▲8五飛の局面は△7一金と頑張っても勝ち目がないと判断せざるを得なかった。68手目△4九馬以降は、お互い一直線に相手玉に迫る長手順ながら、最終93手目▲3四香まで決められた結末に向かう作業のような流れで藤井3冠の勝利となった。
 一言で言えば、こうなるともう藤井3冠には強すぎるという言葉しかない。とにかく難解な中盤戦での指し手の精度の高さが群を抜いている。これでいよいよ竜王獲得に王手。藤井時代の本格的な幕開けが近づいている。

 藤井聡太2冠勝利の王位戦第3局、プロが注目した中盤2つの指し手 真田圭一八段が解説
 https://encount.press/───9/25(土)
(前略)△1三香と香を渡さない指し方もあっただろう。本譜は攻め合い志向の△8六歩。ずっと受けに回っていた側が、いつ攻め合いに転じるかはプロでも本当に難しく、それこそいくら時間があっても足りないくらい微妙な判断だ。千田七段が期待したのはその後の78手目△8七歩。この王手の対応は本当に悩ましく、どう応じても一長一短で、まさしくセンスが問われる局面だ。私が最も注目した局面でもある。
 実戦は▲8七同金。この手もかなり指しにくい手だ。玉の横腹が空く、△7五桂で金を削られる等、マイナスを挙げればキリがない。だが他の対応より、本譜が一番マイナスが少ないと判断した。この辺りが藤井3冠のセンスなのだろう。
 その後、飛車に弱くなった先手陣だが、安易に遠くに逃げずに85手目▲3九飛と飛車を攻撃活用したのも地味だがしっかりした手。△3八と▲同飛△4九角が気になるが、▲4八飛で飛車を渡しても大丈夫と見切っている。このように、「なんとなく怖い」という気持ちに流されず、はっきり良しとなるまではリスクを背負えるところに強さを感じる。
 内容的には、91手目▲7五桂が攻防の一手で、以下は藤井3冠が攻め切っての勝利となった。早指しでも、1局を通して大きく精度がブレることのない指し回し。藤井3冠の強さがよく表れた1局だったと思う。

 藤井3冠の強さが表れた1局 JT杯で見せた精度のブレない指し回し 真田圭一八段解説
 https://encount.press/───7/22(木)
(前略)その中で藤井2冠に注目の指し手が2つあった。59手目▲4五銀と、63手目▲5六歩だ。
 まず▲4五銀は中央を厚くした手だが、直接的な狙いに乏しく指しにくい手だ。そして続く63手目▲5六歩は、打ったばかりの▲4五銀の退路を断つ手でさらに指しにくい。この辺りの藤井2冠の大局観(状況判断能力)、感性は独特で、やはり藤井将棋の強さを支えているのはこの難解な中盤戦での指し回しにあるのだと思う。
 この後、豊島2冠は不安定な▲4五銀を標的に動いていく。そして74手目△4五同飛と飛車をさばいた局面は、豊島2冠の側も十分戦えるように感じた。だが83手目▲3三同馬と強力な馬を切り捨て、85手目▲3五歩とした局面は、玉が堅く攻め手に困らない藤井2冠がいつの間にか指しやすい展開になっていた。
 ここまで進んでみると、▲4五銀と狙いの分かりにくい手の意味は、それを標的に狙わせている間に、自玉を安定させておくのが第1の効果だったのだ。そして豊島2冠の側から見れば、▲4五銀を狙ってうまくさばいたようでも、戦場はいつの間にか自玉周辺になっていて、玉の守備力の低下を代償にしてしまった反動で、藤井2冠の猛攻を浴びる結果となってしまった。
どこまで見通して▲4五銀を指したのか
 プロの目線で1番気になるのは、▲4五銀と打った局面で、その後の展開をどれだけ見通していたのかという点だ。単に藤井2冠と同じ手を指すだけなら、先のことが分からなくても、中央を厚くしておきたいという理由だけでも▲4五銀は指せる。だがずっと先まで進んだ時に良くなるという見通しを持った上で指していたとなると、これは相当に模倣は難しい。藤井2冠の高い勝率から推測すれば、難解で手の広い中盤の段階で、かなり先まで見通しているであろうと判断するのが妥当だろう。
 結局この一戦も、藤井将棋の勝つ時の典型的なパターンである、「難しい局面はあったかもしれないが、はっきり藤井不利といえる局面はない」という作りの中で、いつの間にかリードを奪い、リードを奪ったら決して手放さないという勝ち方となった。

 藤井王位、逆転勝利の背景は… 立会人の広瀬章人八段が見た王位戦第2局
 東京新聞Web───7/15(木) 10:52
 局面が動いたのは2日目の夕方。△7六歩(62手目)に対し、豊島竜王は▲6六銀(63手目)から▲5五銀(65手目)と突進した。いきなりの激しい変化に、控室では驚きの声が上がる。18世名人の資格を持つ森内俊之九段(50)は「一気に斬り合いで勝ちに行った手。踏み込みでは負けないという豊島さんの強い意思を感じる。先手有利だと思うが、正しく指せないとひっくり返る」と評した。
 広瀬八段も「もう安全勝ちはできない。先手玉が大丈夫かどうか」と熱心に検討するが、なかなか結論は出ない。「どちらの勝ちですか?」との記者の質問には「強い方が勝ちます。激戦です」と応じた。 藤井王位は駒損ながらも△8七飛成(72手目)と迫り、激しい攻め合いに突入した。ここで豊島竜王に痛恨の誤算があった。77手目で▲7五角と王手する予定だったが、その先の手順で、詰むと思っていた後手玉がギリギリ詰まないことが判明。代わりに▲5九玉と早逃げし、予定変更を余儀なくされた。「先手の攻めが決まりそうだったが、そうでないと見切ったのはさすが藤井王位」と、広瀬八段もうなる。
 それでもまだ難解な終盤戦が続いたが、藤井王位の指し手は正確だった。▲7五角(85手目)の王手に対する△5一玉(86手目)が絶妙のしのぎで、後手に1手の余裕ができた。広瀬八段は「やはりこういう手は逃しませんね。辛抱したかいがあったのでは」と、ついに藤井王位の逆転を示唆した。
 現地大盤解説を担当した副立会人の高見泰地七段(28)は、続く▲6四歩(87手目)に対しての△6四同歩(88手目)を「なかなか指せない手」と称賛した。▲6四同角右89手目)とされ自玉が危なくなるようでも、角が2八の地点から動いたことで、△7七桂(90手目)が「詰めろ」(次に相手玉が詰む状態)になるという算段だ。この手で「はっきり駄目になった」と豊島竜王。△6九竜(92手目)から先手玉は詰み。長手数だが、藤井王位は読み切っていた。豊島竜王は何が悪かったかを模索するように宙を見上げ、やがて駒を投じた。

 真田圭一八段解説! 藤井聡太2冠勝利の棋聖戦五番勝負第1局の勝敗の分かれ目はどこに?
 YAHOO!ニュース事───6/6(日) 20:48配信
 その中で、藤井2冠に決断の一手が出る。58手目、飛車取りを放置して△3四歩と角道を通した手だ。ここは飛車取りを防ぐ手を指せば、全く違う難解な展開となるところ。飛車を取らせても戦えるという判断は、敵玉と自玉、双方の危険度の判断と正確な距離感が求められるところだ。藤井2冠の強さを支える終盤力をベースとした強気な踏み込みと言えるだろう。
 ここから終盤戦となり、まだまだ一山も二山もあるかと思われる局面で、66手目△3三桂が妙手だった。この手は簡単に妙手と言ってしまうのがためらわれるぐらい、実に指しにくい一手だった。第一感で浮かぶ手というよりは、本線の、例えば△6九と▲同玉△7七角成といった、直線的に玉に迫る順をベースにした中で、より得を求めた手と言える。意味は自陣で働き場のない桂をさばきたいという手だが、指しにくい理由は角道を止めてしまい、角が働かなくなったまま局面が進むと悪手になってしまうリスクが高い点だ。
 事実、渡辺3冠はここから猛攻を掛けて△3三桂に悪手の烙印(らくいん)を押しにいく。だが、自玉に寄せがないことを藤井2冠は正確に読みきっていた。相手に無理気味に攻めさせて、その攻めをきっちり余す(防ぐ)勝ち方は、プロなら怖いようでも一番勝ちやすい勝ち方だが、強い相手にこの勝ち方をするためには、相当精度の高い読みと大局観が必要となる。
 結局、藤井2冠の快勝となったが、もし内容的にあっさり藤井勝ちと見えたとするならば、△3四歩と△3三桂、この二手で難解な展開を一気に切り開いた藤井2冠が素晴らしかったと言うしかない。
 まずはタイトル初防衛に向けて、圧倒的な内容で好発進した藤井2冠だが、渡辺3冠もこのまま引き下がるとは思えない。昨年に引き続き、目の離せない棋聖戦五番勝負となりそうだ。

【ひふみんEYE】藤井聡太棋聖の「手裏剣」鮮やか、肉を切らせて骨断った
 YAHOO!ニュース───6/6(日) 20:08配信
今局は両者が激突した、今年2月の朝日杯準決勝と途中まで同じ進行でした。先手の渡辺さんは相当、改良を加えて挑んだのでしょう。自信を持って投げた球がいとも簡単にはじき返された感じで、藤井さんの研究量の方が一枚上でした。
60手目後手8八歩の「手裏剣」は鮮やか。65手目先手4五桂に対する次の後手3三桂(66手目)は、気付きませんでした。角道をふさぎますが、相手に攻めを催促しておいて、70手目後手4二玉で早逃げという「押し引き」は見事でした。まさに「盲点」でした。藤井さんの「肉を切らせて骨を断つ」という棋風が出ていました。勢いのある挑戦者に対し、後手番で先勝して、次は先手番。藤井さんがシリーズはがぜん有利とみました。

(大志 藤井聡太のいる時代)黎明編:9 消費時間3時間半VS.30分からの逆転劇
 朝日新聞デジタル・会員記事───3/21(日) 5:00配信
(前略)稲葉は17年、第75期名人戦で挑戦者になった関西の実力者。両者得意の角換わり腰け銀という戦型になり、実は、稲葉が事前に将棋ソフトも活用して入念に調べ上げた変化に突入した。「稲葉さんの研究の深さを感じました」と後日に藤井。藤井は長考を余儀なくされ、持ち時間各4時間のうち、消費時間が藤井約3時間半に対し稲葉は約30分という場面も生じた。
 稲葉は後日、「藤井さんが長考してソフトと同じ手を選ぶので(皮肉にも)残り時間の差がつきつつ、こちらの想定内(の変化)に進むことになった」と明かした。「他の棋士(が相手)だとほぼ経験が無い」ことだ、とも。自分の頭で考え、好手を選び出す藤井のすごさが分かる、生々しい証言だ。
 だが、その後、残り時間が切迫し、「藤井さんにミスが出て、優勢に導けた」と稲葉。検討陣も「稲葉勝勢」と口をそろえたが、最終盤で藤井の勝負手に稲葉が対応を誤り、稲葉の逆転負け。「この持ち時間差と形勢で負けるのは情けないと思いました」と後日に稲葉。逆転勝ちした藤井は王位挑戦に向けて一歩前進し、3期連続での年度勝率8割以上も確定させた。
 あれから約1年。本局を藤井は「ずいぶん昔のことですよね」と振り返った。この間、藤井が濃密な時間を過ごしたからこその言葉と記者は感じた。

 藤井聡太二冠の2020年度振り返り 見る者に衝撃を与えた指し手5選
 マイナビニュース───3/30(火) 12:25配信
 2020年度も残すところあと数日。将棋界でもいろいろなことがありました。しかし後世にどのような年として伝わるかと言えば、それはやはり「藤井聡太が初タイトルを獲得した年」としてでしょう。
 2020年度、棋聖と王位の2タイトルを獲得した上に、朝日杯と銀河戦という2つの一般棋戦で優勝した藤井聡太二冠。2回に分けて、その活躍を振り返っていきます。今回フォーカスするのは「指し手」です。
 今年度も藤井二冠によって、観戦するファンはもちろん、対戦相手にも衝撃を与えるような絶妙手が放たれました。ここでは衝撃の一手5選と題し、特に筆者の印象に残った手をピックアップします。紹介する棋譜はすべて中継アプリの「将棋連盟Live」で見ることができます。是非当時を思い出しつつ、棋譜をご鑑賞ください。
第5位
逆転を引き寄せた冷静な一着「▲4四銀」
2021年2月11日 朝日杯将棋オープン戦決勝 対三浦弘行九段戦
 第12回以来、自身3度目の決勝に駒を進めた藤井二冠。準決勝の渡辺明名人戦は勝率1%からの大逆転勝利でしたが、本局も苦境に陥ります。
 玉を敵陣3三の地点にまでおびき出され、上からは玉・銀、下からは飛車に挟まれる形で絶体絶命の局面。ここで放たれた勝負手が「▲4四銀」です。この手は5四の飛車の横利きを遮るための一手ですが、それだけの一手とも言えます。相手に手番を渡してしまうため、怖すぎてなかなか指せません。実際対戦相手の三浦九段も「読んでない手を指された」と振り返っています。
 この手は相手に勝敗を委ねる手です。次の瞬間寄せ切られても文句は言えませんが、もし寄せに失敗しようものなら、だだじゃ済まないぞ、という手なのです。そしてその寄せは1分将棋で読み切れるような簡単なものではありませんでした。
 一時期は評価値98%まで追い詰めていた三浦九段は、ここで痛恨の失着。藤井玉は寄らなくなり、逆に三浦玉には即詰みが生じてしまいました。それを逃す藤井二冠ではなく、しっかりと詰まして勝利。3度目の朝日杯優勝を果たしたのでした。
第4位
二冠目を引き寄せた決断の一着「△8七同飛成」
2020年8月19・20日 第61期王位戦七番勝負第4局 対木村一基王位戦
 挑戦者の藤井棋聖が3連勝で迎えた本局。1日目が終わろうとするころ、木村王位は▲8七銀と上がって、8六の飛車取りをかけました。
 ▲8七銀に対して考えられる指し手は2つ。1つは飛車を逃がす手、もう1つが飛車を切り飛ばす手です。無難な選択は前者ですが、藤井棋聖なら……とファンの期待は高まります。1日目は藤井棋聖が封じ手を行い、答えは翌日明かされることになりました。
 そして2日目、立会人の中田功八段が読み上げた封じ手は、△8七同飛成でした。妥協する手を指すことがほとんどない、藤井棋聖らしい一手です。
 その数手後の木村王位の失着に乗じて、藤井棋聖の攻めは加速。そして16時59分、80手にて藤井棋聖が勝利を収めました。18歳1カ月での複数タイトル保持は、羽生善治九段が持つ21歳11カ月を大幅に更新。また八段にも最年少で昇段を決めました。
 藤井二冠の次のタイトル戦登場は、棋聖戦の防衛戦です。大舞台でどんな将棋を見せてくれるのか、今から楽しみでなりません。
第3位
タイトル奪取を予感させる圧倒的終盤力「▲1三角成」
2020年6月8日 第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局 対渡辺明棋聖戦
 史上最年少でタイトル挑戦を決めた藤井七段。その初タイトル戦の相手は充実著しい渡辺棋聖でした。渡辺棋聖は1月から始まった棋王戦と王将戦のダブルタイトル戦を共に防衛、さらにはA級順位戦で全勝し、名人挑戦を決めていました。
 難敵相手の初陣で藤井七段が選んだ戦型は予想外の相矢倉でした。当時の藤井七段が先手矢倉を指すのはとても珍しいことだったのです。
 本局は終盤、激しい寄せ合いとなります。飛車を打ち込み、王手をかけた渡辺棋聖。この王手が厳しく、藤井七段としては合駒をして受けるしかないように見えます。ですが、それではただでさえ細い攻めがより細くなってしまいます。
 これは渡辺棋聖が抜け出したか、と思われたそのとき、藤井七段の手は駒台を経由せずに盤上に伸びました。そして、金を引いて王手をしのぐ絶妙手が放たれたのです。この金には角1枚のひもしかついていません。危険極まりないように見えましたが、これでギリギリ耐えていました。
 そしてその数手後、さらに目を見張るような一手を藤井七段は着手しました。それが「▲1三角成」の王手でした。この角は先ほど引いた金の唯一の命綱。これを敵陣に突っ込んで危険にさらすというのは凄まじい踏み込みです。しかし、これが勝利を決定付ける一手だったのです。
 渡辺棋聖は馬を取り、香を金取りに設置して藤井玉に迫ります。藤井七段は渡辺玉に必死をかけ、あとは藤井玉が詰むかどうか。受けのない渡辺棋聖はもはや藤井玉を詰ますしかありません。ここからすさまじい王手ラッシュを繰り出します。
 逃げ切る順は1通りしかないという難解な局面。しかし、藤井七段は詰まないことを読み切っていました。渡辺棋聖の実に16手に及ぶ連続王手にもすべて的確に対応し、タイトル戦初勝利を挙げました。王手ラッシュが始まる前は8八にいた藤井玉が、最後には3四にまで逃げ込むという大逃走劇でした。
 絶好調の第一人者相手に凄まじい終盤力を見せつけて勝利した藤井七段。タイトル戦初勝利は初戴冠を予感させる内容でした。
第2位
「AI超え」と話題に! 意外すぎる妙防「△3一銀」
2020年6月28日 第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第2局
 前述の▲1三角成からの鋭い踏み込みで第1局を制した藤井七段。本局は攻めではなく、受けの手で見る者を魅了しました。
 先手の渡辺棋聖の矢倉急戦に対し、藤井七段は5筋の歩を突かない工夫の駒組み。5筋を争点にしないという狙いのほかに、さらに驚きの構想を秘めていました。
 5筋からは仕掛けられない渡辺棋聖は、4筋から開戦。それに対し、藤井七段は△5四金という新工夫を披露します。四段目に金銀3枚を並べるという、今まで見たことがないような形ですが、これが好着想でした。さらには飛車も4筋に転回し、全力で相手の攻めを受け止めにかかります。
 銀交換から角交換が行われ、渡辺棋聖が2二の金取りに▲6六角と打ちます。ここで△5四金に続く、絶妙手「△3一銀」が放たれました。この手は持ち駒の銀を打って金取りを受けただけの手。普通に考えれば先手好調です。しかし、ここで先手の攻めを食い止めてしまえば、後手からの反撃手段が多く、後手有望になるという深い読みに基づいた一着でした。事実、この手を境に渡辺棋聖の攻めは完全に止まってしまいました。
 渡辺棋聖はこの手を以下のように振り返っています。
「△31銀は全く浮かんでいませんでしたが、受け一方の手なので、他の手が上手くいかないから選んだ手なんだろうというのが第一感でした。50分、58分、29分、23分という時間の使い方と△31銀という手の感触からは先手がいいだろう、と。(中略)感想戦では△31銀の場面は控室でも先手の代案無しということでしたし、控室でも同じように意表を突かれたと聞いて、そりゃそうだよなと納得したんですが、いつ不利になったのか分からないまま、気が付いたら敗勢、という将棋でした。」(渡辺明ブログより)
 この手は「AI超え」として一躍話題になり、流行語大賞にノミネートされました。歴史を振り返っても「絶妙手」と呼ばれる手は攻めの手が多く、受けの手がこれだけクローズアップされるのは珍しいことです。
 ただ受けただけに見える△3一銀。この手を指せるのは、「とりあえず金取りだから受けなきゃ」という理由で着手する、あまり将棋の強くないアマチュア棋士か、藤井二冠級の達人かに二極化するのではないでしょうか。
第1位
棋史に残る絶妙手「▲4一銀」
2021年3月23日 第34期竜王戦2組ランキング戦 対松尾歩八段戦
 この手は1週間前に指されたばかりで記憶に鮮明に残っている方も多いでしょう。
 先手の藤井二冠が横歩取り青野流を採用した本局。松尾八段は以前自身が使われて、敗れた作戦を採ります。自身が敗れたこの作戦に可能性を見出し、大一番に向けて準備をしてきたのでしょう。
 持ち時間の使い方を見ると、途中までは松尾八段の敷いたレールの上で指し手が進行していたのは明らかでした。慎重に持ち時間を使いつつ指していく藤井二冠に対し、松尾八段はあまり使わずに指し進めていきます。持ち時間5時間の将棋で、一時は両者の消費時間には1時間半もの差がつきました。
 ところが藤井二冠は相手のレールに乗っかりつつも、その一歩先を行っていました。相手の狙い筋にあえて踏み込み、それを上回る妙手を繰り出したのです。後の▲4一銀の布石となる、▲3四飛という一手でした。
 この手は後手の8四飛に狙いをつけた手です。後手の4四角をはさんで、両者の飛車がにらみ合う格好となりました。4四の角が動けば、▲8四飛と飛車を取ってしまおうという狙いです。
 ここまでは快調に飛ばしてきた松尾八段でしたが、この手を見て突如長考に沈みました。夕食休憩をはさんで2時間17分の考慮の末、敵陣の金を剥がす手を着手。藤井玉の守りを薄くしてから、かねてからの狙い筋の△8八角成を決行しました。
 さあ先手は飛車が取れるようになりました。この飛車を取るために▲3四飛と浮いたのですから、当然藤井二冠はノータイムで▲8四飛を指すのだと誰しもが思ったでしょう。ところが藤井二冠の手はなかなか盤上に伸びません。
 そして約1時間後、ついに棋史に残る絶妙手が放たれました。取れる飛車を取らずに、相手に手持ちの銀を差し出す▲4一銀。あまりにも鮮やかな一手です。
 この手の意味は、「敵玉の退路を封じて、▲8四飛の威力をより強める」というもの。確かに指されてみればなるほどとなる一手ではありますが、非常にリスクの高い手です。
 銀を渡すということは、その銀を使って受けられたり、反撃に出られたりする選択肢を相手に与えるということです。ただでさえ複雑な局面なのに、さらに相手に戦力を渡す。すっぽ抜けたら急転直下で負けになりかねない手に踏み込んでいく姿勢が、多くの将棋ファンやプロ棋士に感動を与えたのでした。
 さらに言えば、そもそも▲4一銀の手前で立ち止まることが信じられません。△8八角成▲8四飛というのは当然ワンセットと思われていました。パッパッと素通りしても何ら不思議ではないのです。現代はAIが候補手を示してくれるので、この手の存在を我々観戦者は認識できました。しかし、もしAIがなく、対局者も素通りしていたとしたらどうだったでしょう。おそらくこの手は日の目を浴びることはありませんでした。
 何かあると腰を据えて考え▲4一銀を発見し、そしてリスクを承知の上でその手を着手する。二重の困難を乗り越えた果てに生まれた絶妙手でした。
 2020年度、ついにタイトルを獲得した藤井二冠。大活躍だった年度の最終局は、2021年度のさらなる飛躍を予感させる素晴らしい内容でした。

 藤井聡太二冠の棋史に残る絶妙手「▲4一銀」の凄さとは
 2021.03.24───将棋情報局
 第34期竜王戦2組ランキング戦(主催:読売新聞社)の準決勝、▲藤井聡太二冠−△松尾歩八段戦が3月23日に東京・将棋会館で行われました。結果は75手で藤井二冠が勝利。2組決勝に駒を進めると共に、決勝トーナメント進出を決めました。
 本局は長く、長く語り継がれる一局となりました。それは伝説となるであろう藤井二冠の「▲4一銀」という一手が飛び出したからというのはもちろんですが、両者が最強の手の応酬で戦い、とても美しい棋譜が残ったからです。
 ここでは▲4一銀を中心に、この歴史的一局を振り返ります。
 振り駒で先手番になったのは藤井二冠でした。戦型は横歩取りになり、藤井二冠が青野流を採用します。
 対する松尾八段は最先端の布陣で迎え撃ちます。実はこの作戦には前例がありました。昨年12月に指された対局で、先手を持って指していたのが他ならぬ松尾八段。その将棋は後手番の屋敷伸之九段が勝利を収めています。松尾八段は自身が敗れた作戦に可能性を見出し、本局に向けて研究を進めていたのでしょう。
 中盤、藤井二冠が金取りに歩を打ったのに対し、松尾八段はそれを無視して桂取りに歩を取り込みました。両者の読みと読みがぶつかる真っ向勝負。局面は一気に激しくなりました。
 松尾八段は藤井二冠の飛車に狙いをつけ、執拗に追いかけます。後手の狙いは△4四角という一手。次に△8八角成▲同金△同飛成と進めば、飛車を敵陣に成り込むことができて大成功となります。
 普通はこの角打ちを食らわないように進めるとしたもの。ところが、なんと藤井二冠はあえて△4四角を打たせる順に踏み込みます。そして△4四角を打たれた後の次の手が、「▲4一銀」につながる妙手でした。
 それが▲3四飛と飛車を一つ浮く手。後手の飛車は8四にいて、後手の角をはさんで両者の飛車がにらみ合う格好です。前述の後手の狙い筋である△8八角成には、▲8四飛と飛車を取ることができます。
 ここまで持ち時間をあまり使わずに指し進めてきた松尾八段ですが、この手を見て長考に沈みます。夕食休憩をはさんで2時間17分の考慮の末、敵陣の金を剥がす手を着手しました。ランキング戦の持ち時間は5時間ですから、約半分の時間をこの手に投入したことになります。
 長考から数手後、ついに松尾八段はかねてからの狙いである△8八角成を決行します。当然藤井二冠も狙いの▲8四飛をすぐに指すのかと思いきや、なかなか着手しません。その時、本局を中継していたABEMAの画面には謎の▲4一銀という手が最善手として表示されていました。まさかこの手を指すのか!? と観戦していたファンは盛り上がります。
 そして約1時間の考慮で、藤井二冠の手は駒台にのび、銀をつまみました。盤上に放たれたタダ捨ての▲4一銀。この手が本局の先手の勝利を決定づけるのみならず、将棋の歴史に燦然と輝くことになる絶妙手でした。
 取れる飛車を取らずに、その上銀を相手に差し出す▲4一銀。この手にはどういう意味があるのでしょうか。一言で言うと、「敵玉の退路を封じて、▲8四飛の威力をより強める」です。
 藤井二冠以外のほぼすべての人類が指すであろう、▲8四飛。▲4一銀を入れずに単にこの手を指すとどうなるのでしょうか。▲8四飛には、金を取られる△7八馬がワンセット。その局面の彼我の玉の安全度が問題となります。
 まず先手玉は将棋用語で言うところの「2手すき」です。「〜手すき」とは、何手後に玉が詰まされてしまうのかということを指しています。玉に詰みがあるときは「0手すき」、詰めろがかかっているときは「1手すき」です(実際には詰み・詰めろという別の便利な用語があるので、「0手すき」「1手すき」という言い方はしません。使うのは「2手すき」からです)。
 藤井二冠としては、2手の猶予があるうちに後手玉を寄せれば勝ちとなります。しかしながら、単に▲8四飛と指してしまうと、後手玉に詰めろ(1手すき)がかからないのです。相手と同じように敵玉に「2手すき」をかけてしまうと、手番の差で負けてしまいます。なので、もしその局面を迎えた場合は、受けに回る必要があります。そうなると先の長い戦いとなってしまいます。
 局後のインタビューで藤井二冠は「▲8四飛、△7八馬のときに詰めろをかけたいが、▲3四桂や▲7五桂は際どいが詰めろになっていない気がした」と語っています。その読みはもちろん正確でした。
 その問題を解決するのが、▲4一銀でした。後手はこの銀を玉か金のどちらかで取ることができます。しかし、玉で取ると▲3二金を打たれ、金で取ると4一の地点が自分の駒で埋まってしまい、玉の退路がなくなってしまいます。銀捨ての絶妙手によって、先手は後手玉の4筋方面への脱出を防ぐことができるのです。
 とはいえ、ただ速度を逆転させるだけの手というのはさほど珍しいものではありません。▲4一銀の局面は、取った銀を使って受けに回る手もあり、反撃に出る手もあるまだまだ複雑な局面です。その中で貴重な戦力である銀を捨てるのは、通常の感覚からするととても踏み込めない、というのが常識です。1時間の長考の末、藤井二冠はその常識を乗り越えました。そこに将棋ファンのみならずプロ棋士すら口々に感動の声を上げたのです。
 本譜、松尾八段は△4一同金を選択。そして▲8四飛、△7八馬と進むと、先ほど説明した局面とは様相が一変していました。先手玉は変わらず2手すきなのに対し、後手玉は▲7五桂と打たれて詰めろ。速度が逆転してしまいました。
 松尾八段は何とか詰めろを解除しようと粘りますが、藤井二冠の攻めの手が止まることはありませんでした。常に王手か詰めろで後手玉を追い詰め、最後は即詰みに打ち取って勝利を収めました。
 相手の入念に用意してきた作戦に真っ向からぶつかっていき、さらに相手の狙い筋にも果敢に踏み込み、最後はあまりにも鮮やかな一手で相手をマットに沈める。藤井二冠の退くことを一切しない指し回しに凄みを感じました。

 2020年7月16日:第91期棋聖戦五番勝負の第4局
 渡辺 明棋聖に勝利して初戴冠
ENCOUNT編集部のYAHOO!ニュース
『藤井新棋聖誕生! 現役棋士・真田圭一八段が考えるタイトル獲得決め手となった一手とは』より
 まずは藤井新棋聖、タイトル獲得おめでとうございます。第4局も期待に違わぬ大熱戦となりました。この対局も非常にハイレベルの戦いになりましたが、藤井将棋の特徴がよく出た一局だったと思います。

 彼の最大の長所は、悪い手を指さないこと。常にすごい手を指すわけではないですが、自らバランスを崩す手は決して指さない。簡単なようですが、タイトルホルダー相手でも先に崩れない。これはすごい手を一手指して勝つより実は相当に大変で、真の実力がないとできないことです。若さとか勢いとかの要素は極めて少なく、実力を発揮してのタイトル獲得と評していいと思います。

 難解な第4局でしたが、勝因となった手を挙げれば、終盤の82手目、△86桂と打った局面だと思います。飛車をタダで取られてしまうので指しにくい手ですが、好手でした。

 タイトル獲得がかかった一戦でしたが、一局を通してプレッシャーを感じさせない内容で素晴らしかったと思います。タイトル獲得最年少記録を更新して、将棋界に新たな歴史を刻む真の天才であることを証明しました。

 藤井新棋聖はインタビューで「実感がわかない」と話していましたが、おそらくタイトル戦を意識しないよう、考えないようにしていたのだと思います。対局日程が過密になっていたことが、余計なことを考えないという意味では良かったのかも知れません。

 2020年6月8日:第91期棋聖戦五番勝負の第1局
 藤井棋聖の振り返り発言
2020年7月22日 5時0分スポーツ報知の記事
《質問〈13〉》ならば、棋聖を獲得したシリーズにおける最高の一手とはどの一手だったのでしょう。
「自分の指し手で言いますと、第1局の▲1三角成(終盤戦で自玉も危険にさらされている中、果敢に敵陣へと飛び込んだ一着)がいちばん印象に残っています」

 2019年5月9日:第69期 王将戦一次予選4回戦
 北浜健介八段に勝利
松本博文氏執筆のYAHOO!ニュース『神童・藤井聡太、連続王手の千日手で逃れ勝つ』より
 1図は△2三玉まで(藤井76手目)
 ここから松本博文氏の記事を抜粋で掲げる。
 北浜はまず、△2一飛(2図←略)と王手をした。(千戸注:玉がかわすのはだめなので)(中略)藤井は5択の合駒の中から銀を選び、△2二銀と打った。(中略)
千戸注:78手 △2二銀 79手 ▲2五銀 79手 2四銀 80手 同玉 81手2二飛成 82手 2三飛
 先手は合駒の銀を取って、▲2二飛成(6図)と追撃してくる。
 6図で△3五玉と逃げるのは▲3六銀まで。△1五玉も▲2四銀までで、後手玉は詰みとなる。
 よってここでもまた、合駒をするしかない。玉と龍(成り飛車)の間に、持ち駒の中から何を打つべきか。再び飛角銀桂歩、合駒5択の局面である。(中略)
 4手前には不正解だった飛車を合駒にするのが、今度は正解である。藤井は△2三飛(7図)と打った。
 合駒で王手を防ぐのと同時に、2二龍取りになっているのがポイントである。今度、先手が▲2五銀と打つのは△同馬▲同桂に△2二飛と龍を取られていけない。(中略)
 では7図から▲2三同龍△同玉(参考8図)と進むとどうなるか?
 8手進み、その間に2回の合駒を含んでいながら、なんとまったく同じ局面(1図と)に戻っている。
 藤井はこの8手1組の「連続王手の千日手」で勝ちだと読んだ。「連続王手の千日手」は禁じ手である。この手順を繰り返し、4回の同一局面が現れた時点で、王手をかけている側は負けとなる。よって、先手の北浜が手を変えなければならない。
 北浜は7図から▲1一龍と香を取った。手番を得た藤井は△3八桂成から先手玉に迫っていく。藤井玉はさらに追われはするが、3五から中段に泳ぎだし、容易には捕まらない。(中略)
 ――おわかりいただけるだろうか。先ほどは仕方なく合駒に打たされたと思われた2三飛が、なんと先手の2八玉をにらんで、その詰みに役立っている。
 9図(←略)からは△2七馬(大事な成り角を捨てる)▲同銀△1六桂(投了図)までで、藤井七段の勝ち。(中略)
 以上、長々と書き連ねた。要するに藤井は「連続王手の千日手」で逃れるという超絶技巧を骨子とする構想を前から読み進め、実現させ、鮮やかに勝ちきった。
 (中略)
 筆者は記事(千戸注:前日2019年5月8日の名人戦第3局▲佐藤天彦名人−△豊島将之八段戦での、4手1組の「連続王手の千日手」についての記事)に、これは奇跡的な筋であり、ごくまれにしか現れないレアケースと書いた。
 明けて本日。藤井はさらに複雑な、合駒2回を含んでの8手1組の「連続王手の千日手」を見せた。これはいったい、どういうことだろうか――。狙ってこんなミラクルを起こせるわけが・・・。えっ。いや、あるいはもしかして・・・? いやいや、さすがにそれは・・・。そんなことまで考えさせられるような一局だった。
 かくして藤井の令和最初の対局では、このような美しい棋譜が残された。
 思い返せば、羽生善治現九段は、18歳五段当時、平成最初の対局で、加藤一二三九段を相手に、将棋史に残る妙手▲5二銀を指している。(中略)
 羽生善治と藤井聡太。将棋史を代表する両天才のキャリアには、いくつもの共通性が見られる。
 たとえば昭和最後の新人王が羽生ならば、平成最後の新人王が藤井である。(後略)

 2019年3月27日:第32期 竜王戦ランキング戦4組3回戦
 中田宏樹八段に勝利
勝又清和六段のツィッターより
問題 この文章は事実か創作か?
「敗勢しかも1分将棋で銀のただ捨ての鬼手が飛び出し竜の利きを反らしてから王手して角打で合い駒請求だ歩合いするもその歩を取って打って駒余らずの17手詰み勝率第1位になる。将棋世界のアンケート「2018年度ベストバウト3」を返信していた棋士は慌てて出し直す」
遠山雄亮六段のツィッターより
軽く調べた感じでは、△6二銀を▲同竜と取ったことで先手玉に詰みが生じたので、△6二銀を取らずに▲3四桂と竜筋をそらさずに攻めるしかなかったようです。
しかし非常に難解で1分将棋でそれを見切るのは難しすぎます。
この辺りの詰む詰まないの判断の良さが、藤井聡太七段の強さの一つですね。

 2019年2月16日:第12回 朝日杯将棋オープン戦本戦 決勝
 渡辺 明棋王に勝利
渡辺明棋王ブログより
決勝、藤井七段戦。
図の△34歩に対して▲75銀と打つのが唯一のチャンスでしたが、全く気が付きませんでした。なので藤井七段は「図の1手前の△34歩では△75銀だった」という二回り上(こっちは▲75銀に気が付いてないので△34歩が疑問手なんて夢にも思わない)の反省をしていて、大盤解説で佐藤名人と二人掛かりでも先手が良くならなかったですね。
先手番で角換わりを拒否してまで作戦を主張して、相手の対策が十分ではない状況なら少なくとも「指し易い〜やや有利」くらいにはなることが多いんですが(それが先手番の有利性でもある) それを互角で乗り切られて、図の▲75銀しかチャンスが無い、なおかつこっちは全く気が付かないのに相手は全部読んでるってことがあるのかな、と(笑)・・・
序盤も理解度が深いし、弱点が見当たらないんですが、たまには負けたり苦戦する将棋もあるはずなので、次回までにそれを研究したいと思います。

 2019年1月24日:第32期 竜王戦ランキング戦4組1回戦
 村田智弘六段に勝利
 将棋・チェス板──[IP有] 藤井聡太応援スレ part462
249 名前:名無し名人 (ワッチョイ bbda-4pQH 投稿日:2019/01/25(金) 02:13:09.30 ID:gGtdC4sO0 [2/2]
>>229 圧巻なのは5筋から7筋へ飛車を捻らせて藤井の飛車は後退させられ、8筋の飛先は歩で謝り先手は好調に見えるが
攻撃の銀が5五歩で押し戻され、攻めの戦力は飛角桂だけになった瞬間、角交換で浮いた香車の下9八へ角が打たれて痺れちゃった
この香浮きの位置に打ち込むスペース出来るのは、優勢と思ってると事前の読みからフッと抜けちゃうんだよね
257 名前:名無し名人 (ワッチョイ 0f2c-GJyd 投稿日:2019/01/25(金) 03:32:03.73 ID:jPcbB4/S0
村田強かった。
終盤まで悪手はなかった。
終盤も-100ぐらいの手が重なっただけで一手ばったりというわけでもなく
258 名前:名無し名人 (ワッチョイ 9fe0-cDLG 投稿日:2019/01/25(金) 03:44:44.69 ID:R4LyqLr70
まあなんだかんだ今まではあっという間にくずれるレベルの棋士も多かったけど
さすがに徐々につまらん悪手をそのうちやるだろって相手は減ってきたな
259 名前:名無し名人 (ワッチョイ cb01-uJAn 投稿日:2019/01/25(金) 03:54:39.47 ID:gUlYeCSO0 [1/2]
トップ棋士以外は、藤井戦が自分の棋士人生の最大の晴れ舞台だからな
最高の将棋を見せてやろうと思ってるんだろう
260 名前:名無し名人 (ワッチョイ 1f85-xdiO 投稿日:2019/01/25(金) 04:04:02.68 ID:u+W+pLTP0
師匠も師弟対決で、自分の対局が注目された訳だが、それは朝日オープンの番勝負以来と言ってた。
タイトル戦番勝負に無縁な棋士にとって、藤井戦は棋士人生唯一の晴れ舞台。
261 名前:名無し名人 (ワッチョイ 9f02-uJAn 投稿日:2019/01/25(金) 04:28:44.96 ID:LbKB+6L80
>>260
ロートルはみんな引退前に一度指しておきたいと思ってる感じだからな
昇段が早すぎて難しくなったのも多いが
262 名前:名無し名人 (ワッチョイ cb01-uJAn 投稿日:2019/01/25(金) 04:34:45.43 ID:gUlYeCSO0 [2/2]
何とか一度は藤井と対戦してから死にたいと思ってるだろうなw

 2019年1月20日:第12回 朝日杯将棋オープン戦本戦T1回戦
 稲葉 陽八段に勝利
片上大輔六段ブログより
 藤井君強すぎる。この将棋、昨年夏の棋聖戦第4局(▲羽生ー△豊島)の改良版をこないだの新人王戦記念対局(▲藤井ー△豊島)で示して勝ったばかりですよね。(特に角換わりは)こういうことが普通に起きるので、新手の本を書くのはなかなか大変でした。
 それにしてもこの「先後逆を持って勝つ手法」はどうしても羽生先生を連想してしまう。研究は「他の人よりちょっとだけ先」を行くことが大事なんですが、なかなかできることはないし、良くなったとしてもその後正確に指さないといけないので、簡単にできることはない。はずなのですが。
 Daisuke Katagami@shogidaichan

Yahoo!ニュース 遠山雄亮六段の記事より
 この手(千戸注:△60手9五歩)が深い研究を思わせる一着だ。当然の▲9五同歩に△7七歩成▲同金としてから△9八歩▲同香△9七歩▲同香△9六歩▲同香△7四角と攻め込んだ。最後の角打ちで9六の香を守る適切な手がない。
 この手順はその場で考えるには難易度が高く、藤井(聡)七段の研究で間違いない。△7四角の局面はすでに後手がリードしているように思う。タイミングのいい端攻めで主導権を握ったあとは、鋭い踏み込みで一気に攻め込んだ。稲葉八段はしぶとさに持ち味があるが、全く粘ることができず藤井(聡)七段の快勝となった。

 2018年5月18日:第31期 竜王戦ランキング戦5組4回戦
 船江恒平六段に勝利
遠山雄亮六段ブログより
 対する藤井七段の指しまわしが積極的で驚きました。
 普通であれば後手番でもあるので、まずは無難におさめたいところ。
 しかし、まず▲2六銀に対して△1四歩とせず。
 ▲1五銀と出させて△4五角と反撃の狼煙をあげます。(中略)(千戸注:20手△4五角、21手▲7八金の後)
 プロの本能として△7三銀と指したい局面です。
 この銀を上がれば
 ・飛車の横利きが通る
 ・▲5五角が飛車取りにならない
 しかし藤井七段の選択は△1四歩。
 あえて相手に攻めさせました。
 中継コメントではあまり言及されていませんでしたが、相当に強気な手で驚きました。
 結果的にこの積極的な姿勢が功を奏し、少しずつリードを奪い、最終的には完勝。
 強さを感じさせる内容でした。

片上大輔六段ブログより
 角換わり棒銀を相手に、△4五角と中空に放った一手は、初めて見ました。
 その後もまったくミスがなかったように思います。
 これまでの彼の棋譜を見ていて、特に角換わりの研究量はすごいと感じていますが、研究だけでなく初見での対応力も抜群で、30年以上将棋をやっていて子どもの頃から最近までずっと角換わりをよく指していた自分よりも、すでに経験値の面でも上という気がします。
 情報を際限なく得られる時代になったいま、そこから効率よく(単なる経験ではなく)しっかりした経験値を得る方法を、自然と身につけているように見えます。
 終盤で飛車の高美濃囲いができたのにも驚きました。
 △6三金(千戸注:58手目)という手はけっこう気がつきにくい手だったと思います。(中略)
 前にも書きましたが今回の連続昇級による昇段は、規定としては変な気がするので、個人的には改まってほしいと思っています。
 いっぽう朝日杯(全棋士参加棋戦)優勝の時点で七段でも良かった気はしますね。

 2018年6月5日:第31期 竜王戦ランキング戦5組決勝
 石田直裕五段に勝利
jcastニュースより
「歴史に残る一手になるかもしれません」――。将棋の藤井聡太七段(15)が、2018年6月5日の対局で見せた一手に、同業のプロ棋士から賞賛と驚きのコメントが相次いでいる。
 この日、藤井七段は竜王戦予選のランキング戦5組決勝で石田直裕五段と対局。96手で勝利し、決勝トーナメント進出を決めた。いま話題となっているのは、終盤の76手目で、藤井七段が飛車を切り捨てたことだ。
■「最善手であり、決め手でもある」
 この一手について、遠山雄亮六段は対局翌日の6日に更新したブログで、
「将棋では『見るからにすごい手』というのはなかなかありません。これはまさにそういう類の手。最善手であり、決め手でもあるところに、またすごさがあります」
と絶賛。同日のツイッターでも、「歴史に残る一手になるかもしれません」と絶賛しきりだった。
 さらには、片上大輔六段も6日のブログで、「藤井君はたびたび信じられないような将棋を見せてくれますが、昨日のはもう、なんと表現して良いのやら…」「もはや同じルールの将棋とは思えません」との衝撃をつづった。
 また、将棋をテーマにした映画「3月のライオン」の指導・監修を担当した藤森哲也四段は、藤井七段の対局中にリアルタイムで更新したツイッターで、
「マジか...。 どこからその予定だったの...?」
と衝撃を受けた様子で反応。勝又清和六段も、「人間が指せる手か?」との一言を伝えていた。

 2017年6月26日:第30期 竜王戦決勝トーナメント1回戦
 増田康宏四段に勝利
将棋世界平成30年11月1日『強者の視点─棋士たちの藤井将棋論─』より
★三枚堂達也六段
 ▲2二歩△同金▲7七桂△8二飛▲6五桂△6二銀▲7五角(略)。▲2二歩は後手陣を乱した手。△同金には▲3一角△3二金▲7五角成が自然に映りますが、(略)。▲6五桂は意表の一手。軽い感じですが、▲2二歩の効果(△6四歩には▲3一角がある)でこの桂はなかなか取れません。そして▲7五角に感動しました。ここに何取りでもない角を打つのは浮かばない手です。
 5三桂打もすごい手でした。角と桂が利いているところに桂を打ち込んでいる。しかも何取りでもない。斬新な組み立てです。

 2017年3月10日:第48期 新人王戦2回戦
 大橋貴洸四段に勝利
将棋世界平成30年11月1日『強者の視点─棋士たちの藤井将棋論─』より
★青嶋未来五段
 時間を使わず、次の△8四角を指します。▲同香なら△8四桂。6四に銀の質駒があり、一気に逆転です。
 誰しもが▲9三桂成〜▲9四歩をやりたくなる。それを誘った勝負術です。△8四角は盲点で、浮かぶ人はプロでもなかなかいません。
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(千戸拾倍 著)