ソープ道入門 1

 これは平成7年から3年ぐらいの間で私が当時の部下の1人と会話をしたことを元に書いたものです。会話を実際以上に膨らませた脚色はあっても、内容は全くのノンフィクションです。


 さあ、乾杯しよう。
 ああ、美味い! ビールは、最初のコップ一杯の三分の二程度までは、僕でも本当に美味いと思う。後はもう苦いだけで、ちっともおいしくないよ。これをジョッキ三杯も飲む奴の気がしれないねえ。
 そういえば、君、ソープへ行きたいんだって?……行ったことがないなら、一度ソープランドで遊んでみたらいいぜ。
 名古屋の住人は岐阜に金津園というとってもいいところがあるから、金津園に行ってみるべきだよ。僕はせっせと月最低二回(実際は、最低月6回、年間70回以上行っているが、それは伏せている)は金津園に行っている。恵里亜という店が行きつけの店だよ。
 君は結婚してから奥さん以外の女とエッチをしたことがないのかい?……そうなら、ソープは、若い女におちんちんをしゃぶってもらって、確実にセックスができて、いいもんだよ。奥さんは、おちんちんを咥えることなんかしてくれないだろう?……それに、ソープ嬢というのは皆、あきれるぐらいにへっちゃらな顔で、初対面の男とでも堂々とセックスするよ。考えてみれば不思議なもんだ。ほんとうに。
 ソープは、女にもよるし、また、男の態度にもよるけれど、大体はしっかり愛撫をしてくれる。ソープ嬢も人間だから、横柄な客には心を閉ざして義務的にサービスするだけだ。逆に、うち解ければ熱烈にサービスをしてくれるし、こちらも、女に淫らな格好をさせてねっとりとクンニリングスをして、互いに奔放にセックスを楽しむことができるぜ。
 ヘルスの狭いベッドで、男と女がペッティングしたりクンニリングスしたりして絡み合うのは、何とも窮屈で、せせこましい感じがするけれども、金津園の店は部屋が広くて、ベッドがまともなサイズだから、楽な格好でゆったりとフェラチオやクンニリングスが愉しめるよ。
 若い女から見れば、僕は四十八歳だから殆ど老人に近いに違いない。それでも結構楽しく遊んでいる。本番をしても後腐れはないし、病気を貰う確率も存外と低いのがいい。
 セックスできなくなったら人間の終わりだと思っているから、終わりでないことを毎月確認しているんだ。大体、おちんちんなんてものは使わなければ機能が低下してしまう。あれは使い込むのが良いよ。
 七十の爺さんが定期的に通って、嬉しそうにちょろちょろっと割れ目を舐め、必ず自力勃起で嵌め入れて、毎度きちんと射精するそうだよ。女がコンドームを目の前にかざして、中に溜まったザーメンの量が多いことを讃えると、その爺さんが悦んでいる、なんて話を聞くと、微笑ましいと思うねえ。
 その話をする女も、やはり男が歳をとっても精力が続くのは結構なことだ、と思って僕に話すんだ。
 旅先で女遊びをしたがる男がたくさんいるけれど、僕は、いくら風俗遊びが好きでも、明らかに一過性の遊興は絶対にしないねえ。二度と会うことのない一度きりの抱擁と判っておれば、女が客と心底親しくなることはなかなかないだろう? だから、嫌なんだ、そういうのは。女遊びは金津園と名古屋のヘルスだけにしているよ。地元中心主義だ。
 名古屋の駅西の店だって?……あそこは入浴時間が短いと聞いているから勧められないなぁ。金津園で、入浴時間が九十分から百分ぐらいの店に入り、会話らしい会話をして、女と親しくなってから、しっぽりと楽しむ方が絶対に正解だよ。
 太った女はいやだろう?……金津園でそれぐらいの入浴時間の店ならば、おデブさんに当たってがっかりすることはあんまりないよ。
 入浴時間が百十分以上の店になると、料金がぐーんと高くなるから、僕らの収入程度ならそういうところへは無理して行くことはないぜ。
 ヘルスの客層は広いけれど、ソープの方は客層がずーっと狭いから、新しいお客というのはスマートに遊んでいれば、なかなか歓待されるもんだ。
 ソープに行く男は、とにかく綺麗な、なるべく初々しい女を望むけれども、二年も五年もソープ嬢をしている女の方が間違いないよ。勃たせ方がわかっている。新人でピカピカに若くても、ちんぴら娘が風俗嬢をしているのは、会ってみるとがっかりする。銭をドブに捨てた気分になるよ。
 君も、ヘルスには行っているから、そういうことはわかるだろう?……
 ヘルスは時間が短くて会話が殆ど不要だけれど、ソープは、例えば百分の入浴時間の店に入って、そんなに長い時間ずーっとセックスし続けることはできない。だから、会話のできない女に当たると困ってしまうよ。性的意欲だってどこかへ行ってしまう。
 互いに親しく話をして、気分を昂めてセックスをするのが一番いい。ベテランの女はねえ、これは期待できる客だと思うと、気をそそる会話をして手抜きをせずにしっかり遊ばせてくれるから、間違いがない。一つの店に長く働いているベテランというのは、まず安心だよ。
 皆、美人に対面したいと思っているけれど、女は性格がいいのが一番大切だ。何回か遊べばつくづくそれがわかる。美人でも、愛想が悪くてまともにカリ首を愛撫しない女に当たったら、面白くないよ。男と女というのは相性が大切で、気が合う女を見つけると、他の女に眼をくれずに長年通い続ける常連客も多いようだぜ。
 うん、たこの唐揚げは存外柔らかくておいしいけれど、この鰺の開きはちょっと脂がのっていないねえ。パサパサだよ。だけど、最近は鰺の開きのようなものでもほんとうに高くなったなぁ。むろ鰺はだめだね、真鰺の小ぶりなのがいい。
 それでね、女と対面して、俺は滅多に金津園に来ることはないとか、同じ女に二回入ることはしないとか、わざわざ相手に宣言する奴がいるけれど、それは馬鹿な発言だ。そんな客に、ソープ嬢がまじめに仕事をする気になる筈がないだろう?……
 僕は、ソープでもヘルスでも、初めての女には、よくやってくる男だと相手に判るようにして、それから必ず相手を褒めちぎるよ。冗談も精一杯言って、相手がその気になるように努力する。世代も生活環境も教養も趣味も人生観も何もかも違いすぎて、普通の会話でフェイズを合わせるのは難しいけれど、エッチな話だったら歳の差は全く関係ないからねえ。
 女が僕とまるで歳が離れていても、十分、十五分と時間が経つうちに次第にうち解けてきて、初めて顔を合わせた時には愛想笑いをする程度だったのが、本物の笑顔を見せるようになる。それで、このお客さんはとっても面白くて親しめる人だと思わせて、その女に、普段はしたことがない破格のサービスをさせる。とっても淫らなことを、思わず知らずやらせてしまうのが、僕は趣味なんだ。
 女を気に入って二回三回と逢う度に、女も前に会った時以上に心安い態度をする。言葉遣いもよそ行きでなくなる。仲間や客の滑稽な出来事を話したり、身の上話のようなものも口に出す。「田倉さん」と僕の名前で呼びかければ、好感を抱いていることは間違いない。バーやスナックの女と違って、ソープやヘルスの女は客の名前を覚える努力をしないからねえ。
 とにかく親しくなるようにして、明確な親密感と互いの性的な亢奮という成果が出るのを歓んでおれば、ソープは費用対効果がバランスする、素晴らしい、男の道楽だと僕は思っているんだ。
 君はペッティングとかクンニリングスは好きかい?……好きなら、ヘルスよりソープの方がいいさ。
 僕はクンニリングスが大好きで、ソープとヘルスで会った女の八割はきっちりとイカせているぜ。延べ人数で計算すれば、九十九%の女は必ず昇天させている。完璧にエクスタシー状態に突入させている。
 自分で言うのもなんだけど、これはとても立派な成果だ。誇張はないよ。むしろ過小カウントかもしれない。
 バイブレーターやオナニーでエクスタシーになったことはあるけれど、男に愛撫されて気をやったのは、貴方が初めてだ、と言う女もたくさんいたよ。こんなに気持ちいい経験をしたことがない、と言われたことは数知れずあるぜ。
 どうしてそういうふうにできるか、だって?……初対面の若い女とすぐに親しくなる、そして、テクニックが上手い、この二点だと思うねえ。
 いろんな女の話を聞いて判ったんだけれど、ソープの客層は、半分近くは独身、離婚者も含めてね、それで、とうてい女にもてそうもない、結婚ができそうもない男が六割、よく女にもてそうで、素人だけでなく玄人の女も転ばせてやろうという心で来る男が一割、女はそんなふうに客を観察しているんだ。
 女心をくすぐり、プロの女が感心するようなスマートな遊び方をして、エッチが上手な男は、五十人に一人ぐらいだ、と僕の馴染みの女が言っていたよ。女をアクメにひたらせなければ遊びが愉しくないという男がとても少ないのが不思議でならないねえ。
 どれぐらい通っているのかだって?……その女はもう三年目になるかなぁ。女が気に入ったら、常連で通ってやるべきだよ。女と会うのだから、情というものが大切だ。僕は千人の女に会う遊びよりも、一人の女に千回会う遊び方を勧めるさ。
 今毎月逢っている女は二人いるけれど、もう三年ばかり滅多に他の女に入浴したことがないよ。
 これだ!と思う女に当たるまでは、結構いろんな女に会うけれど、惚れて通う気になれそうな女に出会ったら、僕はもう目移りはしないんだ。
 それで、相手の女をその気にさせ、ベッドではオーラルセックスで毎回必ず気をやらせ、こちらも女に猛烈なサービスをしてもらう、他の客には絶対にしないような淫らなことを女がする、これがソープの遊び方としては一番良いと僕は思うんだ。
 他の客には絶対にしないようなことって、何かだって?……それは、例えば熱烈なディープキスとか、アナル舐めとか、尻の穴に指を入れたり入れさせたりとか、目の前でおしっこをするとか、バックの体勢で交わって、ピストン棒のパコパコで空気を圧搾してから一旦抜いて、下腹を押して膣のおならを愉しむとかだよ。
 ソープの女はヘルスよりも、ディープキスやアナル関係のプレイを嫌がることが多い。不特定多数の男と本番をするという違法なことをするから、それで充分で、他のことはする必要がないと思うんだろうねえ。
 エロビデオには驚くほど過激なことをする女がよく登場するけれど、セックスシーンをビデオで撮影されてもどうってことのない、超淫乱で頭が少し変な女が出演するのだから、いわば特殊な世界だ。
 それに比べてソープは、セックスすることにそれほど抵抗感がない女が単にお金に困ってやってくるだけで、特に淫乱な女が就職するのではない。だから、性的な観点から見れば、要するに平均的な世界であって、オーガズムもしらず、客によっては、熱意のないフェラチオをして、義務的に股を開けるだけの女も結構多いよ。
 そういう女をエクスタシーで乱れさせ、様変わりの、普段とは違ったことをさせるのが、僕の趣味なんだ。
 今通っている二人は僕と逢うのを心から楽しみにしている。だから、他の客とは別格に扱って、僕専用のカットグラスをわざわざ買い置きし、そのグラスは他の男には絶対に使わせないよ。ブランデーも僕専用のもので、他の客には出していない。他の客がブランデーを所望すればフロントから安物を取り寄せる。
 女に大切なお客だと思われ、何かと相談をされるのは、男として愉しいもんだ。
 一人の女は、私は店で会う男の誰とでもエッチはするけれど、心まで許しているのは貴方だけよ、と言ってくれる。嘘かもしれないけれど、本心と信じて喜んでおれば、これは愉しい。もう一人の女も、僕が行けば歓待して、他の客には絶対にしないサービスを、店の男も驚くような別格の扱いを何かとしてくれるよ。
 要は、ソープ遊びといえども男と女の関係なんだから、互いに情がわくまで関係が進めば、本当に楽しいもんだぜ。ただ、情がわき、情を見せると言ったって、僕は女にプレゼントをしたことはないよ。
 馴染みのソープ嬢に何やかやとプレゼントをする男は多いけれどね。贈り物をしなくても、何度も通って、真心あるつき合い方をしておれば、女も情をうつすもんだよ。

 さあ、酒飲めよ。湯豆腐と目刺しでも頼もうか。ここの湯豆腐は味噌のたれに風味があって、なかなか乙だ。一体何を隠し味で入れてあるのかなぁ。
 単純な食べ物が存外に美味しい。女も同じかな?
 女との記憶に残る想い出があったら話せ、だって?……うん、とっておきのやつを話そうか。
 随分昔のことになるけれど、まだソープランドがトルコ風呂と呼ばれていた頃に、僕はトルコ遊びをしたことがなくて、何とかこれをしてみたいと思ってね、僕は何でも先に書物から情報を得ておくのが性分だから、参考になりそうな記事を読んで事前研究をしたんだ。
 それで、なかなかの遊び人が書いた風俗遊びの紹介記事で、どこか地方のトルコ風呂でとてもいい女に入浴して、ただ一度の出会いが何とも心和むもので、情緒があって、その感動が死ぬまで忘れられないという趣旨の叙情的な文章が目にとまった。
 冬の夜に寒い屋外から部屋に入ると、男は初対面の女から、「今日は、ほんとに、来て下さってありがとう。貴方、お仕事の帰りなんですか? お疲れでしょう? さあ、お洋服、お脱ぎになって。外は寒かったでしょう? ここで暖まってね。ほんとに今日はご苦労様でした」と、女房以上の優しい言葉をかけられた。
 女は、男の上着を丁寧に壁に掛け、コートの雪の湿りを拭うと、男の横にぴったりと寄り添って座った。そして、男にキスを求めて、熱い接吻をしながらシャツのボタンを外した。
 それからのひと時は、まるで旧知の間柄のように親しく会話が続き、女の優しさと甘い雰囲気にすっかり気持ちが高まった。ベッドプレイになると、女の思いがけない陶酔の応対に激情をそそられた。
 まるで恋人のように手を首に巻き付ける情熱的な仕草に心を昂ぶらせ、両足で男の尻を抱え込むような燃える反応に勇み立ち、首を思い切りのけぞらせる妖艶な乱れ方を見て、たまげる想いで腰を送った。
 宿に飛び込む前に旅のつれづれに何となく入った店で、とりわけ美人というのではなくても、情趣のある女に出会い、とにかく初対面とは思えない親密さと濃厚な情交に酔いしれ、心底感動した、と書いてあった。
 行きずりの遊びでそんなことが本当にあるんだろうか、誇張がかなりあるのではないか、と思ったけれど、同時に、そういうこともあるのかと深く心に刻んでいた。僕もソープでそんな抱擁をすることを妄想して、いい女に出会えることを期待していた。
 長年ソープ嬢を見ていると、つらい家庭環境に育った女がやはり多いよね。
 子供の時からもう両親がいない、片親がいない、いてもまっとうな仕事をしていない、そういう手合いが多いし、女も癖のある性格とか、あきらかに低知能の女、中学しか出ていない女、浪費癖の女、世間を斜めに見ている女、男にだまされている女、そんな女に会ったり、そういうソープ嬢の噂を聞くことがよくある。
 売春をする女というのは、テレビドラマになりそうな陰惨な人生や自堕落な少女時代を送ってきた女が少なくないんだね。
 どんな人生を送ってこようと、一期一会の逢瀬で僕を愉しませてくれればいいのだけれど、僕が意を決して金津園で遊ぶようになって、最初の五人の相方はちんぴら風の女が多くて、愛想も悪く、殆どが満足できる遊びにはならなかった。
 予想以上に若い女ばかりで、毎度勇み立ってセックスをした。でも、ペッティングをしても、相手が硬い態度で昂まらせることができなかったし、会話も心を許したものにはならなくて、ヘルスの方がソープよりもうち解けやすいと思った。
 所定の料金の支払いを前提に、女が無駄なことは言わず、予定したレベルのサービスをして、膣にペニ公を嵌めて、ただ射精しただけのことで、心が満たされる逢瀬はなかなか難しいような気がしたよ。
 当時僕は雑誌に写真を出している女はあんまり指名しなかった。それは、金津園が今と違って猛烈にはやっていて、店の会員にならずに女を指名することはしにくかったからでもあるけれども、売春という不法な商売で宣伝するという女の性格に僕は抵抗を感じた。どのソープ嬢がお奨めなのかという情報があったわけでもないし、結局店にフリーで入ることが多かった。
 やはり、馴染みでない客がフリーで入浴しても所詮指名の取れない女を充てられるのかと、毎度もの足りなく思ったよ。
 しかし、雑誌に写真を出していなくても、思いがけない美人で気だてのいい女に、いつかは当たるだろう、と僕は期待していた。何しろ当時はどの店もアルバムを客に見せて女を選ばせるサービスをしておらず、ソープ嬢についての情報が乏しかったから、掘り出し物の発掘の楽しみがあった。
 それで、金津園に通い初めて半年後、六人目の女、それもたった一度だけ会った女が僕には忘れられない体験になった。何というか、文字通り信じられない体験で、旅先で忘れられぬ甘い逢瀬をしたという風俗記事の通りのことになったんだ。
 金で女を買ってエッチをするというのは、一度目二度目は愉しいけれど、四度目五度目になるとその娯楽の限界のようなものが判ったような気がして、やっぱり費用対効果がそれほど満足できるものではないぞと思っていたところで、とにかく恍惚の体験をしたから、僕はこの遊びがやめられなくなってしまった。
 初めて入った女学院という店で相方になった慶子という女がとてもいい女だったんだ。
 挨拶が終わってソープ歴を聞くと、まだ二週間と言うから、フリーで入っては、やはり新参者の稼ぎの消化の相手にさせられるのか、と僕はそんなに期待できないような気がした。
 二週間と聞いたとたん、こりゃあ、ちんちんのさすり方も知らないぞ、とがっかりした。
 でも、愛想良く語りかける顔を眺めて、僕はたちまち慶子に惹きつけられてしまった。必ずしも万人が美人だと賞賛する顔立ちではないと思ったけれども、慶子は若くて、鼻筋が通っていて、僕の眼には実に個性的で魅力的に見えたよ。
 ストレートの髪が良く似合う野性的な顔立ちで、そういうのも僕の好みだった。バタくさいとでも言うのか、和装は絶対に似合わないと思った。
 それで、会話がこんなふうに続いたんだ。
「今日は、外は暑かったでしょう。お洋服をお取りになって」
「うん、ちょっと、汗をかいたなあ」
「ねえ、私のファスナーも下ろして下さらない?」
「うん。……わぁー、佳いスタイルだ! おやっ、この下着、どこでフォックを外すんだよぉ?」
「ここよ」
「ふーん、格好いいけれど脱がせるには戸惑うなぁ。ややっこしいの、着ているんだねえ。しかし、貴女は、似た顔を見たことがないような顔立ちだねえ。とても個性的な感じだよ。髪型も、その臙脂色のワンピースも、この肌着も、君の、何て言うか野性的な顔とぴったりだよ」
「ありがとう。貴方、お上手ね。……私って、活発な女に見えるらしいわ」
「肌の色は濃いんだねえ。だけど貴女のように、スリムな躯で、少し面長で、黒髪が長くて、眼がきりっとしているのは、僕は好みなんだよ」
「そう、嬉しいわぁ。貴方も、お顔がきりっとしているわよ。好いわ。……ねえ、芸能人で、私に似ている人っているかしら?」
「そうだねえ。随分昔、多分昭和四十年代の初めの頃だったと思うんだけれど、斉藤チヤ子という、あまり売れないポピュラー歌手がいてね、僕の親父は、テレビのプロレスも歌謡番組も現代劇のドラマなんかも全く興味がなくて、NHKニュースと時代劇だけを見るという、何ていうか全くの石部金吉なんだけれど、その子がテレビに出ていると、どういう訳か瞬きもしないでじっと見ていたんだよ。それで、親父はよっぽどその子が気に入っているんだなぁと判ったことがあって、その斉藤チヤ子が、目がはっきりしていて、口許の表情にもガーンとくる存在感があって、実に野性的で現代風で、何か、テレビの画面から飛び出してくるような感じがする女だった。顔は貴女に少し似ていて、雰囲気は全く同じだったなぁ。なべプロの斉藤チヤ子という歌手なんて、知らないでしょ?」
 そんなふうにお喋りしていて、しばらく話がはずんだよ。
 僕は大昔の会話をほんとによく憶えているだろう? 十三年前だぜ。……こんなことを君に想い出話していると恥ずかしくなるけれど、それほどまでに僕は慶子という女に惹きつけられたんだ。
 慶子は歳が二十五で、ちょっと前までは銀座のクラブで働いていたと説明してね、僕と初対面でも(貴方のような方をお待ちしていたの!)というような雰囲気でうっとり寄り添う、蕩かすような態度で迫ってくるんだ。
 その媚態に作ったような感じが全くなくて、しかも表情の動きが華やかで、僕の言葉に対する顔の応答がすっごくいいんだぜ。
 初対面の若い女というのは、何を話しかけても「うん」とか「そう」とか「えーっ、うそー!」とかで終わってしまうことがあるのに、慶子は会話らしい会話がちゃんと続いた。
(おいおい、この子は初めて会った俺に、こんなに親しみ深くして、一体どうなっているんだ!)
 と、信じられないという気持ちで、まるで、あのルポライターの書いた風俗記事の通りだと思ったよ。僕は談笑しているのをうち切って、マットプレイをするのがもったいないような気がした。
 それで、慶子のマットプレイもなかなか良かったよ。フェラチオにしても、躯を寄せて滑らせるスムースな動かし方にしても、彼女の本来の仕事からすれば、意外に上手だったんだ。
 ねっとりとまとわりつくような動きに充分満足した後、僕はまた慶子と裸のまま夢中で雑談をしていた。
「私、関西の友達に誘われて旅行をしていたんだけど、お金がすっかりなくなってしまって、しょうがないから、名古屋で新幹線を途中下車して、金津園に飛び込んだのよ。それが二週間前よ。この手の仕事はしたことがないから、私って、大胆でしょ!」
 そんなことを慶子は言っていたよ。十三年前の会話をほんとうに僕はよく憶えているだろう?……それぐらいに、僕は慶子のことが印象に残っているんだ。その時の会話を何度も思い出して、にやにやして反芻していたからね。印象に残ったことを反芻さえしておれば、そんな昔のことでも昨日のことのように明晰に憶えているものだよ。
 慶子は足が長くて、臑もすっきりしていて、脹ら脛は締まっていて、ベッドに腰かけて足を組んでいる姿が魅力的だった。二十五歳の若い肉体は、バストが角度のついたお椀型で、ウエストが細くて、お尻は大きからず小さからず、躯の線が美しかったし、面長の中性的な顔が浅黒い肌と合っていたねえ。
 とにかくあれこれお喋りしていたら、とことんうち解けるという感じで、慶子が、私は貴方と本当に肌が合うの、というムードで迫ってくるんだよ。
「貴方、素敵よ、好きなの。タイプなの。理知的なお顔で、シャイなところがいいわぁ」なんて囁いて、思いがけない濃厚な接吻を慶子の方から挑んできた。
 僕は慶子が一目惚れで迫ってきたように思えて、かーっと全身が熱くなったよ。金津園で六人目にして初めての濃厚なディープキッスで、舌を送り込み、また彼女の生温かい舌の感触を楽しみ、僕の心は炉心融解のように一気に発熱した。
 慶子は僕と並んでベッドに腰掛けていて、そのカラスの濡れ羽のようなストレートの髪を僕はいとおしむように撫でたんだ。そんなべとべとしたような行為はしたことがないのに、今でもあまりしないのに、自然に手が動いてしまった。
 慶子も僕に、浅黒い、女豹のように均整がとれてしなやかな肢体をぴったりと寄り添えていたよ。
 嬌声を交えて応答が派手なくらいな笑顔と、円錐形の、とにかく端正な形の乳房が横にあり、何か喋る度に手とか表情が表現豊かに動く様を見て、慶子の甘い息が顔にかかると、僕はますます気持ちが上気してしまった。
 普段は口にしたことのないような高揚した言葉が、どういうわけかどんどん湧き出たねえ。
「君は、何か喋る度に、西洋人のように綺麗なジェスチャーをして、表情が豊かで、いいなぁ。おっぱいがとても美しいよ。ウエストもすーっと括れている。素敵だなぁ」
 とか
「肌が十六ぐらいのように張りがあるよ。顔の表情がすっごく変化するから、お話していてとても楽しいよ。本当に、この指も綺麗なんだね。先細りのすっきりした指だ」
 そんなふうに慶子を褒めたたえる言葉を口にする度に胸の鼓動が激しくなるんだ。
 僕の感激の言葉に慶子は、照れたように謙遜したり、シャイの裏返しで無反応に見せたりせずに、僕の眼をじっと見つめ、手を背中に這わしていたよ。大人の女だと思って、ぞくぞくしたねえ。
 その掌が熱いので平熱を尋ねると、慶子が「いつも三十七度二分ぐらいで、私って高いのよ」と言って、両手で僕の右手をくるむんだよ。僕の手は何せ女のように小さいから気恥ずかしく思っていたら、その掌を引き寄せておっぱいにくっつけるから、僕の頭は、がーんと鳴ったぜ。
 僕は慶子の表情や仕草に何とも気をそそられ、それまでのトルコ風呂体験や、少し真面目に人生論めいたことを熱っぽく語った。
 慶子はそれを興味深そうに聞き入り、僕の問いかけにウイットに富んだ受け答えをしていたねえ。どんな映画に感動したか、などと訊かれたりもした。
「貴方、本は沢山お読みになるんでしょ。誰の作品がお好きなの?」なんて、意外な質問をしてね、「そうだねえ、日本では、谷崎潤一郎と山本周五郎と池波正太郎かな」と答えたら、「周五郎は何が良かったの」と訊くから、僕は、へーぇ!と思ったよ。
「長編はみんな良かったけど、短編では菊千代抄が良かったなぁ」と答えたら、慶子が、「私、赤ひげが好きだわ」と言った。女が周五郎の作品を挙げる時は赤ひげが本当に多いね。
 そんな、色事とはちょっと離れた話をしていて、それが途絶えたとき、ベッドに誘う慶子の突然の言葉が、また僕を刺し貫いたんだ。
「貴方、私を融かして下さらない」
 すごい言葉だろう?……僕の眼を見つめて、品を作って囁いた短いフレーズが、映画か小説でしかお目にかかったことがない言葉で、夢まぼろしかという想いがした。映画の二枚目に突然変身した気分だったねえ。
 僕に初対面でそんなに親しそうにする女がいるなんて信じられないと思ったよ。
 慶子は微笑みを崩さずにそのまま誘うようにベッドに斜めに倒れた。かなりスリムな体型なのに、肩胛骨以外は骨の形が浮き出ているところが一つもないんだ。仰向けになっても乳房は殆ど円錐形を保っていて、ウエストもキューンだよ。とてもきれいだった。
 僕はそれまでとにかく色白の女を抱きたいと思っていたけれど、ココア色の肌も捨てたものではないとつくづく思ったねえ。慶子は浅黒い肌を更に黒々と日焼けさせていたよ。
 そのプロポーションの美しさを讃えながら眼鏡を外すと、慶子は手を差し伸べて僕の顔が好みのタイプだと返した。
「貴方、すてきよ」と言って、何とも優美に手が伸び、僕を見つめるんだ。
 そんな言葉を聞いて、僕はまた信じられないような気持ちがした。
 ウエストの辺りでも肌の張りの良さを感じる慶子の、脇腹や締まった乳房の胸や項に優しく指を這わした。鼻筋の整った慶子の顔が揺れ、堅肉の肉体が波打っているんだ。アキレス腱のくぼみが頼りなげで、膝小僧に一点の濁りもなく、脹ら脛の流線型が美しいんだよ。
 僕は柄にもなく甘い睦言を囁き続けた。クリトリスに当てた指先の動きにいかに変化をつけて慶子の快感を呼び起こすかに集中しながら、僕の脳味噌は、愛の語りかけの言葉を模索した。
 慶子を横抱きにして、胸や腰や太股の熱い体温と身悶えを知覚することにひたすら努めていたねえ。
 慶子は、ベッドの上で若鮎のように跳ねた。スリムで長い脚が、股をすぼめたりゆるめたりして、何かを訴えていた。中指一本でクリトリスを揉みしだきながら口付けをすると、両手を僕の背に回して抱きついてきた。こね回し甲斐のあるおサネだったよ。
 あそこを舐めてもいいかと了解を求めると、慶子の同意する顔が悩ましかったなぁ。自分の方からクンニリングスをお願いしたかったけれど、なかなかそこまでしてくれる男はいないから……と訴えるから、僕は一段と気をそそられてしまってねえ。
 それで、おまんφにぐっと顔を近づけると、べらべらの形が、これもまたむちゃくゃよかった。しっかりと張り出して、稜線が鋭角的で、綺麗な形をしている。指の刺激で内側は既にうるんでいた。それに、割れ目の左右がそれほど毛もじゃでないから、これもいいと思った。
 僕は、羽毛のように柔らかな恥毛を掌で押さえて、舌先で肉の尖りを揺らした。唇で包皮を後退させてクリトリスを吸うにつれ、彼女は胸を反らし、右手は何かをこらえるかのように宙に浮かせ、左手で僕の腕を掴んだ。その陶酔の姿には本当に感動した。
 顔を引くと、ぽってりとしたラビアの割れ目から一筋愛液が流れるのが素晴らしいんだぜ。お尻の谷間に、あまり白みがかっていないラブジュースの小川がいつの間にかできていた。
 僕の指使いやクンニリングス、更に、腰のピストンの動きに応えて僕の躯にしがみつく様子、その優美な交接の姿態、乱れた髪、それが何とも言えないほど女らしく、すらーっとした脚が歓喜に耐えかねてぴくんぴくんと舞っていたんだ。
 クンニリングスで深くアクメに達し、啜り泣くような喘ぎ声も、それほど長くもないピストン運動で、快感を訴える慶子の仕草も、まだそんなに性体験の場数を踏んでない僕には、とんでもない衝撃だった。
 これが本当のセックスなんだ!と大声で叫びたい気持ちで、バカーンと射精したね。荒い息をしながら、全ての表現が何と優美な女なんだろう、と感嘆していたよ。
 ティッシュペーパーでちんぽこの後始末をする慶子の手つきと横顔とが、何とも情感の溢れるものでね、それで、はにかんだ顔で「貴方、とっても上手だわぁ」と囁いたよ。
 僕はそれまでに、気質も容姿も、慶子のようなタイプの女に出会ったことがなかった。すっかり感動して、セクシーな魅力を讃えていると、慶子はうっとりと僕にしなだれかかっていた。頬に当たる髪が心地良かったことを憶えている。
「貴方のって、とても固いわ。丁度いい大きさで固いの。躯に響いたわよ。凄く良かったわ」
「でも、もうちょっと保てば良かったのになあ」
「ううん、いいの。私、堅いのが、がんがんと激しく来るのがいいの」
「嬉しいこと言うねえ。だけど、君も本当に素晴らしいよ。僕も、今日はむちゃくちゃ亢奮してしまった。……それで君、これからどうするの。しばらく金津園にいるのかい? すぐ東京に帰ったら、店に悪いだろう?」
「この際ついでだから、ここで取り敢えず三、四十万円ぐらい作りたいわ」
 最後はそんな会話をしていたんだけれど、その言葉通り、次に予約をしようとしたら、慶子は店に四週間ほどいて、去ってしまった後だったよ。
 ソープ遊びはどんなに心の通った素敵な逢瀬ができたと思っても、全てが終わり、服を着て支払を済ませて部屋を出る段になると、何か醒めたムードが漂うことがあるものだけれど、後から思い出すと、最後まで彼女の物腰には全くそんな気配を感じなかったなぁ。
 僅か八十分の逢瀬で、そのように気持ちが昂まるとは思ってもみなかった。僅かな期間の稼ぎの間の、全く一瞬の出会に過ぎないのに、慶子があまりにも情緒ある応対をしたから、夢のような気がした。
 グアムで焼いてきたばかりと慶子が言っていたけれど、その褐色の肌を揺るがせて、表現が豊かで洗練された仕草の、日本人離れした情交のシーンは、その後幾年月が経っても記憶が薄らぐことがないんだ。銀座でも、さぞかし売れっ子だったと思うなぁ。
 まだ若いのに、あんなに大人の情感のあるいい女はいなかった、と今でも僕は慶子のことを懐かしく振り返るんだよ。どんな本が面白かったか、どんな映画に感動したか、という会話をソープ嬢と交わしたのは後にも先にもこの時だけだった。
 ソープ遊びを始めた最初の年に、二度と体験できそうもない甘美な想い出の、本当に衝撃の体験をしたねえ。娼婦であろうが、堅気の女であろうが、いい女はいい女だよ。
 今にして思えば、慶子のような女に、また巡り逢いたいと願って、僕は金津園に通い続けたんだよ。
 自慢話みたいで気恥ずかしいけれど、とにかくむちゃくちゃ感激したということを僕は言いたいんだ。

 ビール、冷酒、どっちにする?……僕は冷酒にするよ。
 カレイの唐揚げを頼もうか。骨まで食べられておいしいよ。
 カレイの唐揚げ一枚で、二千円も三千円も取る店があるけれど、さっきまで生きていたのと二日前に成仏したのと、唐揚げにして味の違いが判るほど僕の舌は鋭敏ではないから、ここの店の値段のものでいいよ。
 クリトリスがその気になっているかどうかは、僕の舌はよく判るけれどねえ。
 どう? ソープランドに行ってみようという気になった?……そうか、その気になったか。じゃあ、万円札をできるだけ残しておけよ。
 慶子の時のような感動体験をその後にまた経験することはなかったか、だって?……
 それが、三年前にあったんだ。慶子という女に会って感激してから、えーっと、九年目のことだけれどね。
 三年前というのは、金津園がコンドームを使うようになった平成四年で、その頃の金津園は、まだ十八、十九の女でも働くことができた。今は二十歳過ぎないとだめだけれどね。
 僕は四十五になって、初対面の女がまだ十九歳だった。その女とたった一度だけ情を交わしたのが、これもまた、甘く、快く、日常生活を忘却させる想い出になったんだ。
 恵里亜という店で会ったマイという名の、背の高い女の子でね、僕はマイの顔を見て若さに驚いたよ。
 十九歳で、店に出るようになってからまだほんの一ヶ月だと言うので、そのときまで僕は、そんなソープ経験の短い女にも、そんな若い女にも殆ど入ったことがないから、幼げな物腰に戸惑ったなぁ。若いだけでなく、ロングヘアーがお嬢さんぽいから、風俗遊びをするのが気恥ずかしいと思ったよ。
 色白のおとなしそうな女で、最初僕はマイの言葉が少なくて困った。笑顔がないので、ちんぴら少女かなと思っていた。
 その店は若い客が多いので、マイに、僕のような年輩の客を相手にしたことがあるかと訊くと、初めてと言うんだ。十九の女に気難しそうな顔つきの小父さんだと敬遠されたのか、しばらくはあまり話が弾まなかった。
 でも、言葉遣いの丁寧な言い方をしていたから情が強いのではなかろうと思い、なんとかマイを軟化させようとした。とっておきの、ソープ体験のエピソードを面白おかしくしていたら、彼女はおずおずした様子からだんだんうち解ける感じになってきたよ。
 マットプレイはやはり未熟な動きだったね。
 僕がマットプレイのテクニックをアドバイスすると、男の肉体の生理をあまり知らないマイは盛んに頷き、なかなか熱心に実行してねえ、新入社員が初めてパソコンの使い方を教わるような素直な応じ方と、カリ首を揉む頼りない指の使い方の初々しさに、その時僕は心惹かれたなぁ。
 最初は伏し目がちだったけれど、マットプレイが済むときちんと僕の顔を見て喋るようになって、その顔の輪郭がなかなか良かった。面長でね。
 マイは、それまでは若い客ばかりだったから、ベッドプレイに入るとき、彼女に先に横になるように頼んだらね、驚いた顔をしたよ。
 僕が優しいということは判るでしょう?と言ったら、マイは僕の顔を見てにっこりとした。
 それで、仰向けになっても形良く突き出ている乳房のピンク色の乳首を優しく吸い、瑞々しい肌の脇腹や腿に指を這わせて、マイの割れ目の愛撫をしたい気持ちを我慢していたんだ。
 マイが、頬しか見えぬぐらいに顔を向こうへ傾けているから、接吻も長々とペッティングされることも避けたいと思っているのではないかと心配していたけれども、くすぐったがったりせず、鬱陶しいようなそぶりも見せなかった。僕が熱心に丹念に、そして優しく乳首を刺激したから、マイは安心したのか身体がリラックスしてきた。
 マイのすっきりと伸びた脚は静脈が透けるぐらいに白かった。ソフトタッチを違和感なく受け入れているようで、表情が快感を追い求めている感じがしたから、もう良かろうとクリトリスに指を当てたのさ。彼女に気取られないようにペニスの先の透明な滴を中指の先につけてからね。
 僕より長身の肉体の白い肌を鑑賞しながら、馴染みの女にするのと比べたら格段に微妙な振動の愛撫で、愛らしい肉の尖りを刺激した。僕は、フィンガーテクニック、上手なんだよ。
 しばらく中指一本でお豆さんを愛撫して、十九歳だから感度はまだ未開発かな?と懸念した。でも、そのうちに、眼を閉じて顔を背けていたマイが、脚を伸ばしたまま緩やかに腰を揺するような仕草を見せたんだ。
 こりゃあ、いいぞ!と思っていたら、やがて顔の正面を向けたマイの表情が何とも可憐だったなぁ。
 クリトリスを揺らしながら顔に唇を寄せたら、マイは唇を閉じたおとなしい応じ方なんだけれどキスを拒まなかったよ。
 僕は、女の部分が濡れて光り、マイが時々深い息継ぎをするのを確認してから、おもむろに白い両脚の間に顔を埋めてね、片脚を持ち上げて淫らに股を広げさせ、優しくクリトリスを舌先でなぞってやると、可憐な口許から忍びやかな愉悦の声が洩れるんだ。
 その妙なる喘ぎ声を聞いて、僕は柄にもなくマイを讃える甘い言葉を幾つか囁いたよ。
「バストがほんとに綺麗だよ。乳首もぽってりとして色も形もいいよ」
「本当に君は素直で気立ての良い子だ。しかも別嬪さんだ」
「マイさんは胸もおなかも腿も本当に肌が綺麗だ。すべすべだよ。白いんだねえ」
「気持ちがいいときの君って、口許の表情なんかがとっても素敵だよ」
「お父さんのような歳の僕をこんなに痺れさせるのだから、君は凄いよ。本当に綺麗だね」
「君に会えて嬉しい。とても素敵だよ。脚も長くて本当に綺麗だ。あそこもピンク色だよ。とてもいい形だ。こんなに綺麗なピンクのあそこの娘は、ここではそんなにいないよ」
「本当に可愛い。マイちゃんは美しいよ」
 そんな賛美の言葉を出す度に、口技を指技に替えて忙しかったなぁ。愛撫のリズムが途切れて、マイには不満でなかろうかと気にもしていたよ。いつもは、必ず無口にオーラルセックスをしていたから、愛の囁きに努力する自分がおかしかったねえ。
 中年の僕がそんなことを言うのを聞いて、目を瞑って快感を楽しんでいるマイは、内心嗤っているかもしれないとマイナスの想像をしながらも、僕は自分の発する言葉に酔っていた。
 愛撫にふけっている最中に僕がそんなに饒舌になるのは、ずーっと何年も昔の慶子のとき以来だったね。
 僕は作業手順を脳みその中で組み立てながら、唇と舌の最大機能を遺憾なく発揮した。ベッドに腹這いのままマイの両足を持ち上げ、ピンクのクリトリスを、外形を確かめるように舐め、吸い付き、撫でて、押し、こすって、はたき、なぞって、揉み、またしゃぶった。ちょんちょんと突っつき、レロレロと揺さぶり、薄皮とひとまとめにしてブチュッと吸ってやったんだ。
 目の前の小高い丘には、可憐に毛が生えていて、その茂みを通して僕は上目遣いでマイの顔を見ていたよ。
 大陰唇の毛は、密毛とか剛毛の類ではなくて、土手まんじゅうも色が薄かったし、小陰唇もあんまり変色していなかった。若い性器だとつくづく思ったねえ。
 僕のべろは風速三十メーターの風にはためく旗のように翻った。動かし疲れて、クリトリスを吸う動作に切り替えようとして、小陰唇の合わせ目のところで、丸みを根元からすくい取るように吸いつき、顎が割れ目の内側に触れると、まるで僕の顎が、熱気のある粘った肉の壁に吸い寄せられるようだ。
 いつもは愛液が流れているのかどうか、必ず確かめるんだけれど、あの時だけは、甘い言葉をかけるのとクンニリングスすることに夢中だったから、お汁が出ているかどうかはさすがに確かめる余裕がなかったぜ。
 マイの色白の躯が紅潮して、かすかに震えていたなぁ。快楽にひたりきった、リフレインの多い滲み出るような声は、うっとりするような、澄み透った美声だったよ。
 その声の間隔が短くなり、躯のさざ波が明瞭になったとき、僕は舌を大きく突きだし、舌の面全体でクリトリスをこすり立てた。
 マイの終末の呼気が、僅かな音声を伴って切なく、長く伸びたね。
 金津園でコンドームの使用がすっかり定着した頃なんだけれども、ノーサックが可能か打診すると、マイが困った顔も見せずにあっさりと了解したので驚いたぜ。
 その恵里亜という店はコンドームの着用を厳しく守っていて、長年付き合っている馴染みのアズサでも純生の性交は許さなくなっていたから、マイがうなずくとは、僕は全く予想していなかった。
 僕は彼女の両脚の間に入り、正上位で交わった。精一杯吐精を堪えて腰を使っていると、若い肉体の顕著な反応に眼が眩んだね。
 僕は「マイちゃん、君のべろを頂戴!」と言って、またキスをねだったよ。
 若い女のディープキスがとても美味しかった。健康な呼気が甘く香っていたよ。「唾、溜めて!……それを頂戴!」と言ったりしてね。
 最初はそっぽを向いて愛撫を受けていた女が、昂揚した顔で唾液を渡すまでになるとほんとうに愉しいぜ。
「僕のも混ぜて返すよ。受け取って!」
 そんなことも言ったよ。
 僕はマイの舌を吸いながら、腰を激しく下方に叩きつけた。奥まで届けと、ペニスの根元を陰唇にこすりつけながら気をやったんだ。いつになく激しい放出感だった。
 マイはすぐに離れようとはせず、うっとりと抱きついていた。
「私、こんなになったのは初めてよ。躯が舞い上がったわ。良かったわぁ」って、恥じらった顔で呟いたよ。
 僕の胸に顔を埋めてぼんやりしていたなぁ。長い髪を撫でながらその言葉を聞いていると、彼女は初めてまともに燃え上がったらしかった。
 後髪を引かれる想いで部屋を出ることになったけれども、送りのエレベーターで、マイが行先ボタンのパネルの方を向いて、何もせずに俯いており、顔を覗くと思いつめたような様子だから不思議に思った。
 すると、マイは突然顔を上げて振り向き、両手を僕の背中に回して、口付けを求めてきた。マイの唇の位置が僕の唇の位置よりも随分高いところにあった。僕は三橋美智也の靴を二つ履いても足りないと思ったねえ。
 それで、口紅を引き直したばかりだから挨拶替わりの軽いキスかと思ったら、ヘビーなのを挑んできた。
 僕は、はっとして、マイの腰に手を回して引き寄せ、舌で応答した。背の高いマイがハイヒール履きで更に高くなって、僕の両手を抱え込んで抱きついたから、相撲のもろ差しの形になってしまったので、それではおかしいと思い、左手を抜いて彼女の右肩を抱えたんだ。
 マイの掌が強く押し当てられ背中を這っていてね、それに気がつき、僕も手を彼女の背中に這わせたよ。
 マイは唇を離してから、行先のボタンも押さずに僕を見つめていた。
「今日は素敵だったわ、貴方。……私、こんな気持ちになったの、初めて!」
 そう呟いたマイの目が潤み、涙がこぼれかかっていたので、胸にじんと来るものがあったなぁ。彼女がキスを迫ったのは、客に媚びを売るわざとらしいものでは決してなかった。
 ベッドの抱擁が済んだ後、僕が身繕いをして料金を払って部屋を出るまでの間、マイはもの静かに化粧直しや後片付けをしていたから、涙をにじませるほど気持ちが昂まっていたとは全く想像していなかった。
(風采も冴えない中年の、この俺が、こんなシーンを体験できるなんて信じられない。しかし、十九の小娘が演技でここまでするだろうか。俺もまんざらではないぞ)
 そう思いながらデレッとしていると、糞真面目な、コンプレックスの強い、もう一人の僕が冷ややかに見つめて罵ったよ。
(何だ、お前は! この女がハイヒールを履いて断然高いもんだから、キスするときに、爪先立って背伸びをしやがって)
(ほら、こういうときの男は、優雅に激しくもう一度キスのお返しをするんだ!)
 そう思うと、もう一人の僕が引き止めるんだ。
(馬鹿! そろそろエレベーターの扉が開くから、外で跪いて待っているボーイに見られてしまうぞ!)
 そのときマイに何を言ったのか僕は思い出せないんだ。エレベーターの狭い箱の中で、僕の胸の奥に炎の息吹が舞っていた。
 九年前の慶子のときと同じような衝撃だった。ただ、あの時慶子とは十幾つの年の差だったけれども、マイとは二十幾つの年齢差だから、何かうろたえめいた恥ずかしいような心持ちになったね。
 店を出て、帰り路の僕は、(あの子は、本当に涙を流していたぜ)と振り返りながら、バズーカ砲の玉で胸に穴を開けられたような気分になった。
 それからしばらくして、マイに裏を返す予約を取ろうとして、店の男からマイが仕事をやめたと聞いた時には、本当にがっかりしたよ。何故翌週にでも会いに行かなかったのだろうと悔やんだなぁ。
 同じ店のアズサからわけを聞いたんだけれど、どうも親にばれてやめさせられたらしいんだ。僕は、俯いて父親の説教を聞いているマイの泣き顔を想像したよ。
「たかがソープ、されどソープ……」と思わず呟いて、天を仰いだぜ。
 一度だけの逢瀬でも、僕にはマイが慶子と同様本当に忘れがたい女になったんだ。いい想い出だよ。

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(千戸拾倍 著)
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