ソープ道入門 6

 ソープで稼ぎの多い女には二種類あって、一つは、相当な美人で、スタイルがよくて、男の気を惹く会話をする上手くする女、もう一つは、情欲をそそる淫奔なプレイをして、凄まじいほどのサービスをする女だね、すごい美人もいれば不美人もいる。前者をAタイプ、後者をBタイプとすると、Aタイプの女はまず雑誌に写真を出しているよ。
 Aタイプの女は、雑誌に美人顔の写真を載せてP指名を相当稼ぐ。会話が上手だから本指名も多いけれど、通いつめる男は、性行為的には未熟な男ばかりだ。性的には、献身的なサービスをあまりしなくて、会話の楽しさとお愛想だけで男をその気にさせるという女が結構いる。
 僕はこの十年間を振り返っても、Aタイプの女にはそんなには入浴していないんだ。僕は、むしろ雑誌に顔を出していない掘り出し物を探りたいという気持ちが昔からあったからねえ。
 それでも何せ別嬪が多いから、僕は一応Aタイプの女に、まあ十人ぐらいは入浴しているけれど、三度会った女は一人もいないよ。
 取りにくい予約にイライラしてまで裏を返す気にならないし、どちらかというと、皆慎ましくて上品ぶって、受け身が嫌いな女が多いからねえ。おちんちんを完璧に亢奮させるようなねちっこい愛撫が下手で、受け身も上手にこなせないんじゃあ、僕は面白くない。
 それに、常連客がいっぱいいるから、女の心の中に飛び込みにくいんだ。少々通ったぐらいでは適当にあしらわれている感じがするんだよね。
 その点、Bタイプの女は親しくなりやすいんだ。過激なのが好きという趣味が一致しているからねえ。二十五を超えていても、常連客を捕らまえるように一生懸命サービスに努めるという心が好きだね。相当な美人で、おまんφを舐められるのが大好きなBタイプの女だったら、これはもう最高だ。
 このタイプの女でも、自分は猛烈なフェラチオとちんちんこすりをするけれど、自分が受け身になって客に愛撫されるのは苦手というのがいる。上手にクンニリングスをされても肉体が発火しないんじゃあ、気の毒とも言えるね。
 Bタイプの女は八人ぐらい知っているよ。皆最低三回は入浴しているし、二十回以上会った女が三人もいる。このタイプは売れっ子でもそれほど美しくない女がいるけれど、会話が上手ならば実に愉しめるよ。
 Aタイプの女で、まるでサービスをしなくても、完璧に男心を誘って、セックスをしなくても男を幸せにするソープ嬢がいるんだよ。話しているだけで男をぽーっとさせるんだ。
 昔マスターズにいた神崎愛がAタイプの女で、歳は三十ぐらいだけれど、たくさん稼いでいるよ。常連客が大勢いる。
 僕は七年前に神崎愛とマスターズで会ったことがあるけれど、まあ、喋る表情がなかなか妖艶だよ。おちんちんを全く触ってくれなかったし、クンニリングスをされるのも嫌々の感じだったから、僕はそんなのが売れっ子になるのが心外なんだよねえ。
 で、その神崎愛はねえ、会ってもエッチをしない常連客がいるし、入浴する度に十万単位の金をチップとして差し出す客もいるということだよ。入浴時間が百分の店なんだけれど、常連客で毎度、服を着たまま三十分ぐらい喋っただけで部屋から追い出されるという男がいると聞いたぜ。
 で、そのAタイプの女で非常に印象深いのが一人いて、そいつの話をしようか。
 神崎愛よりももっと前に会ったんだけれど、貴公子という店の優子という女で、雑誌に写真を出していなくてもなかなか評判だった。
 美人女優の浅野ゆう子に瓜二つで、本人よりも綺麗で、大層話が面白いらしい、とよその店の女から僕は聞いた。優子には多くのフアンがいて、どちらかと言えば若いのが多く、皆、優子に陶酔している賛美者で、部屋に入っても楽しくお話するだけで、セックスをしなくても満足して帰るそうなんだよ。
 決して少額とはいえないお金を払って抱擁もしない常連客が一人や二人ではないなんて、そんなソープ嬢がいるのだろうか、一体どういう女なのだろう、と僕は興味を抱いたよ。
 それで、会ってみたら、優子はたまげるような美人だ。眼も顔の輪郭も本当にその女優によく似ていて、本人よりも色白だからよほどいい。今振り返っても、僕が会ったソープ嬢の中では一番の美人だったね。
 こちらが呆然としてしまうほど顔が綺麗なだけでなく、とにかく話す風情がいかにも男の気を惹く女で、愛想がとても良く、合いの手とちょっとした質問が効果的だ。僕から話を引き出すのが上手かった。
 良家に育ったお嬢様のような上品な語り口も絶品の上に、会話の応対のセンスも抜群で、エッチ話をしてもすぐに何となく高尚な話に戻ってしまうんだ。
 優子の視線が僕の眼に向けられていないことがなくて、僕を見つめるその眼が眩しくてね、これは桁違いの女だと感心したよ。
 互いの趣味についての話を中心に長々とお喋りが続き、僕は残り時間が気になった。そろそろマットプレイを…と頼むと、優子はかなり不満そうな顔をした。
 強引にマットをさせたんだけれど、その時間はあっさりと短く、殆ど僕のペニスを弄わないお座なりのものだった。
 更に、マットが終わると、わざわざパンティを穿き、洒落た水色のキャミソールを身に着けたんだ。しかも、僕からかなり離れたところに座って、「もっと近寄ってよ」と言っても優子は側に来なくてね、僕は何か悪い予感がしたね。
 それからまたお喋りとなって、それが流れるように続き、口許は笑みを浮かべ続け、本当に男との会話になれている感じだったよ。僕も次々と話題が出てきて恍惚の気分になった。
 ネットの位置を特別に高くしたバトミントンのように、いつまでも会話のラリーが続き、互いに無言になることが全くないんだ。優子の眼は、視線を受けるのが辛くなるほど常に僕の眼を直射し、横座りして、上体を少しくねらせて微笑みかける姿が際立って艶麗だった。
 そんな優子の話の中で、「私は不感症なの」という言葉もあった。
 僕が、「僕は女の子には上手だとよく褒められるよ」と言うと、「まあ、じゃあ、私、期待しちゃうわ」などと品を作る。でも、それを潮にそろそろベッドへという気配も見せずに、すぐに色事とは無関係の趣味などの話題に移ってしまうんだ。
 優子から会話を終えようとは全くしなかった。僕の方も超美人と見事に楽しげに話ができ、甘美な気分になって、ベッドに上がろうとは切り出しにくかった。
 しかし、いくら何でも時間が気になりベッドインを促したら、優子は素知らぬ顔をしていてね、僕がめげずにしつこく要求すると、自分の常連客はセックスをしなくてもお話しているだけで満足してくれる、と嫌味めいたことを呟いたよ。
 僕が怒りを殺してもう一押ししたら、優子がパンティーも取らずにしぶしぶベッドに寝そべったから、僕はパンティーを剥ぎ取って観音様を拝んだ。
 色白の股間に突き出したラビアの色が薄く、綺麗な薄茶色をしていた。薄すぎず厚すぎてもいない左右対象のそれは先端に肥大が見られず、形良く先細りになっている。割れ目は短めで、中はきれいなピンク色をしていて、薄目の春毛が柔らかそうで、この美人は性器まで天女のように端麗だと感心したぜ。
 それまでいい加減優子の性根が判ってむかっとしていたけれど、(この尼、ヒィヒィ言わしてやるぞ)と思って攻めようとした。ところが、乳首を吸いながらクリトリスにさわろうとすると、「痛いから駄目」と言うんだ。
「じゃあ、舌なら良いだろう」と返して、本格的に愛撫を開始したよ。
 そんなことするのぉ!という顔つきだった。
 それで、感じやすそうな割れ目に見えるけれども、僕がいくら頑張って愛撫しても、優子は全く無言で、吐息も平静で、雪のように白くて優美な肉体が全然反応してくれない。もちろんマン汁は出ない。
 それどころか早く入れてとしきりに急かし、ペニスが勃ち上がっているかどうかなど確かめることもなくインサートを要求するんだ。
 挿入可能となるようさわって欲しいと頼んでも、素知らぬ顔をしているから、完全に頭に血が上って、いよいよ肝心なところが駄目になる。結局、僕は射精を果たせずに帰る羽目になったよ。
「今日は、貴方のお話がとても面白かったわ。また来て下さいね」
 ニコニコと先ほどまで何も問題はなかったような顔つきで送られたけれど、どうにも腹が立ってしょうがなかったぜ。
 夜も遅い帰りの列車の中で、精液が変な所に止まっているような感じがして、まわりに誰もいなかったので、ズボンのチャックを下ろして手淫をした。床にエキスを散らしたのが何とも虚しかったよ。
 名古屋の町を歩いていて美人に会う確率よりは、金津園で美人にお目にかかる確率の方がやっぱり大分高いけれど、本当に優子は壮烈な美人だったね。
 でも、Aタイプの女でも満足できるという男は幸せだよな。セックスをしなくても、お喋りしているだけでハッピーなんだから。
 素人ではなく玄人の女を抱くのだから、ソープランドではマットプレイやフェラチオが上手だったり、へんてこな体位でドッキングしてくれる、Bタイプの女と遊ぶのが楽しいと僕は思う。
 ソープ嬢に、素人の女がしないサービスをさせるのが面白いといっても、ベッドでしつこくフェラチオを要求する遊び方は、僕はどうかと思うねえ。
 そういうことは、マットプレイで愉しめばいいのであって、ベッドでは自分が女を愛撫することに努め、ぐっしょぐしょに濡れるまで亢奮させた後、ちんぽこを固くするのはあくまで自分の力で果たすべきだ。
 自力勃起して合体すると、一番力強いパコンパコンができ、ゴージャスな射精感が生まれるぜ。
 僕は君にソープ遊びの想い出話をしていて、ちんちんが自力で固くならなかった話を何度かしているけれど、それは例外的なことで、五十歳になっても、基本的にはフェラチオなんかされることなく、自力勃起して挿入しているよ。
 だから、最近の若い男は、エロビデオを見て間違ったセックス作法が身につくのではないかと心配になるねえ。やたら、女に尺八を要求したり、パイブレーターを使いたがったりしてねえ。本当に、ああいうビデオは良くない。
 しかし、射精というのは人によって様々なやり方があるものだとつくづく思う。ヘルスで聞いた話なんだけれど、いろいろな男がいる。
 女が初対面の男の身体を流して拭いてから、客を待たせて自分の身体を洗い、「お待たせ!」と言って客のいるベッドに向かった。すると、男がベッドに俯きになって寝そべっていたので、「起きて」と促すと、「このまま背中を舐めて欲しい」と頼まれた。妙な人だと思いながら言われた通り背中に舌を這わせていたら、そんなことで男はペニスをギンギンに張らせて悦び、そのうちにペニスの先をシーツにこすりつけただけでイッてしまった。
 同じ女から聞いたもう一人の変な男は、ヘルス嬢に「お姫様だっこをさせてほしい」と言った。マッスル系の筋肉質の身体でも愛嬌のある男だから注文に応じると、女を両手で抱き上げた。左手で背中を、右手で尻の辺りを支え、抱いたまま、狭い部屋でいつまでも降ろそうとしない。鏡に映ったその姿を見て愉しんで、女を抱いたまま器用に右手でオナニーをして、白い滴を弾丸のように壁に飛ばした。
 その男にそんな遊びをしたい気持ちについて聞いたら、「とにかく女を抱っこしているのが好きで、これが一番愉しい。でも、ガールフレンドにこんなことをしていたら変人だと思われるから、ヘルスのようなところで抱っこプレイをして楽しんでいるんだ」と答えた。
 いろんな趣味があるもんだろう。面白いねえ。

 ソープ情報誌の写真を見ていると、ヘアースタイルは長い髪に綺麗にパーマをかけているのが多いだろう。男は皆ロングヘアーがお気に入りだからそうなるんだよね。
 サクラの黒髪もなかなか良いね。
 髪の短い新人が入ると、店長に髪を長くしろと言われるんだよ。長い髪の女ばかりだから、時々逆を行って、ショートヘアーにしている女もいる。中加減の長さというのが、ソープ嬢にはいないね。
 僕は、茶髪にしている女はとにかく嫌いだけれど、手の爪を伸ばしてマニキュアをしているのが一番嫌だね。爪が伸びていて、上手にペニスマッサージをする女は絶対にいないよ。
 三年前に会った女で、爪を伸ばしているのがいたけれど、僕が爪を切ったほうがいいと忠告したら、女は、爪の先を軽く当ててカリ首を掻くように動かすのが得意の愛撫で、そうすると皆おちんちんを固くして悦ぶから、私の絶妙の得意技を楽しんでよ、と自慢げに言うんだ。
 そんなこそぐるようなもどかしい愛撫で亢奮する軟弱なカリ首ではないんだ、僕のちんちんは。掌でガッと握られて、グイグイとこすられるのが好きだからねえ。
 ネール美人を相手にして、やっぱり、僕のちんぽこは全くいきり立たなかったよ。女が僕のアドバイスを素直に聞かないことに性欲が沈んでしまったんだね。
 かなり昔に、別嬪で売れっ子の、ベテランのソープ嬢に入浴したことがあったんだけれど、その女が爪を伸ばしているから、そんなのは気に入らないと僕はケチをつけたんだ。
 そしたら、女が小生意気な顔で、「私は爪のマニキュアの色をあれこれ楽しむのが一番の趣味で、爪の手入れだったら、何時間でもあきずにしているの。女の人が爪を化粧しないというのは全く理解できないわ。私は、爪を伸ばしていても、絶対に男のあそこの先を傷つけるようなへまはしないし、爪が決して当たらないようにして男の人に気持ちよくなってもらうフィンガーテクニックに、私は自信があるのよ」と言った。
 経験年数のある女だから期待してやらせてみたら、彼女がマットプレイで熱心に手を動かしていると、やっぱり爪が時々当たってカリ首がシカッとして、それが気になって縮んでしまったぜ。
 僕は昔から、爪を伸ばしている女と髪を茶色に染めている女は、風俗の女であろうと自分の勤め先の社員であろうと、そういうのは嫌いなんだよ。
 そういえば、サクラは少し爪を伸ばしていたよね。まあ、君がサクラと毎度楽しく遊べればいいけれど。

 カマスの塩焼き、頼もうか。石鯛とイサキとカマスは、絶対に塩焼きがいいね。脂がのっているときは最高だよ。そういう魚は、フランス料理で、何やら手間をかけたソースをかけて仕上げたものよりも、塩焼きにしたのを三杯酢で食べる方が絶対にいい。
 常連客になって通った女にはどんな女がいたか、だって?……そうか、何年も同じ女に通う気持ちを教えて欲しいというのかい?
 惚れて二年以上も通った女は六七人いたけれど、皆いい奥さんになると思える、魅力的な女だったよ。
 その中で一番最初の女はニーナという名の女なんだ。
 三十八の頃、ラ・カルチェという店が、入浴時間が九十分で料金は手頃だから、何とはなしにフリーで入り、二、三人のソープ嬢と遊んだ。それがニーナとの初会になった。
 僕は、明瞭にアクメまで到達しない女や愛撫の下手くそな女には絶対に常連客にはならないんだけれども、ニーナだけは例外だったねえ。
 当時はぞっこんだったけれども、今から思えば欠点の多い女だった。ニーナは僕がいろんなテクニックを駆使して愛撫してもイッてくれないし、彼女の方は全くちんちんもみもみが下手糞なんだよ。
 ソープ遊びで、特上の女を何人も知った今、ニーナと初対面の入浴をしたら、一見で終わって二度会うことはないような気もするなぁ。
 それでも僕は、ニーナにおよそ四年ほど通ったんだ。それだけ会ったということは、毎度、逢う度に浮き浮きしたということなんだね。君のサクラに対する想いと同じなのかもしれない。
 ニーナの端正な顔と長身のスタイルとコケットリィな話ぶりに、とにかく僕は惚れ込んだ。
 それで、一方通行の恋慕の気持ちではいくら何でも四年は続かない。ニーナも僕と逢うのを心待ちにしていたんだよ。
 彼女は、吉永小百合のような狸系の美人顔ではなく、岸恵子のような狐系の顔だったね。僕よりはるかに背が高く、色白で、面長の切れ眼の美人とくれば、僕にとっては絵に書いたような理想形で、精神が高揚のあまり勃起の仕方を忘れてしまうぐらいだった。
 口を閉じていれば、男が到底声をかけにくい冷たい感じの貴婦人で、口を開けていれば、気取らずに僕の露骨なエッチ話にけらけら笑った。
 初めて会った時、ニーナは初対面の僕にくっついて座り、親しい雰囲気で話が弾んだことを、今でもはっきり憶えている。とっつきにくそうな見かけと違って、話の受け答えにのりが良いんだね。
 僕もつられて冗談を言うと、けらけら笑って、僕より十センチも背が高い大柄の躯をすり寄せてくるから、僕はもう楽しくて、我を忘れて駄洒落と下ネタ話ばかりをしていたんだ。
 今はもう僕は駄洒落や冗談のネタを仕込む努力を全くしていないけれど、若い時は、女を笑わせようとしっかり努力をしていたんだよ。若いといっても、もう四十直前になっていたけれどね。
 ニーナはなかなかノーブルな顔をしていたから、初対面から猥談のオンパレードの客には出会ったことがなかったんだ。それで、僕の剽軽な饒舌に盛んに驚いていた。
「どういうけったいな男、貴方のような人は、私、絶対に見たことない。貴方は、絶対、吉本新喜劇か加藤茶だわ。そうよ、そうだわ」
 二度目に会ったときに、ニーナがそう言って僕を冷やかしたよ。
「貴方のように第一印象とその次の印象が全然違う人は、会ったことがないわ」と呟いたことも何度かあった。
 ニーナに部屋へ案内されて、室内が薄暗いことに僕は驚いてねえ、そういう女にはサービスの良くないのが多いから、「こんなに暗くしている子は、他にはいないよ」と貶すと、「だって、絶対に恥ずかしいもん」と怒ったような顔で答えたよ。
 馴染みになってから、バスタオルを巻いて喋っているニーナに、邪魔な布切れを取ってよとか、裸のまま僕の目の前に立って、素晴らしいプロポーションを鑑賞させてよと頼んでも、「絶対に恥ずかしいから、いや!」と言ったねえ。
 部屋を明るくしてあそこを見せてと頼んでも、更に、マットに仰向けの僕の上で69の形になるように求めても、やっぱり「絶対に恥ずかしいから、いや!」と強い口調で言ったんだ。
 とにかく、ニーナの口からソープ嬢とは思えないほど恥ずかしいという言葉がよく出たよ。
 艶々とした長い黒髪にいつも綺麗にパーマがかかっていた。僕は昔から髪の美しい女が好きだから、ニーナのロングヘアーには悦んだよ。
 それで、すっきりした長い首筋、大柄な割に淑やかな肩の線と細いウエスト、存外と幼い形の女性器、これらすべてが気品のある顔と調和していたねえ。
 乳房は小さくても脚の長さがそれをカバーし、とにかく魅力的な体型だった。一度、ニーナを立たせて手で計ったら、七五等身は軽くあったよ。まるで垂直に近いようなニーナのハイヒールを僕が履くと、指二本分は優に余ったなぁ。
 ニーナは岐阜市に一人住まいし、家族には和食料理の木曽路のウエートレスをしていることにしていた。金津園で働いているのをごまかす苦労話を危急存亡の重大事件のように語っていたよ。
 僕に、性体験や相手をしたソープ嬢のことを聞きたがった。僕が眼一杯卑猥な表現でH話をすると、眼を輝かせて聞き入っていたんだ。
 自分についた客についても、巨根、短小、包茎、早漏、女装趣味、セックスをしないで会話だけして帰る男、来る度に何かプレゼントをくれる男、裏ビデオを渡して感想を聞く男など様々な客の有様を、こんなはしたないことを絶対に口にしたくないんだけれども、貴方がしつこく尋ねるものだからついつい……という顔をして喋っていたよ。
 客に貰った海外版無修正ビデオは、大部分僕に譲ってくれた。そういうものを見て女も亢奮するのかと尋ねたら、ニーナは、恥ずかしそうに、それを見てオナニーをしたことがあると言ってたね。
 ニーナも僕に興味を持ち、それが充分伝わるだけに、僕は首ったけになってしまった。セックス以前に、端麗な容姿とうち解けた雰囲気と屈託のないお喋りに、それだけで当時は充分満足していた。
 四、五度と通って、親しくなってからでも、ニーナは裸になるときに部屋をかなり暗くしたよ。そんなのは嫌いだから、明るくして欲しいと求めると、真剣な顔をして抵抗するんだ。
 ニーナはもともと不器用なようで、ソープ嬢としての性の技は決して上手くなく、上手にそれをしようという心も全くなかったから、結構イライラすることもあった。とにかく恥ずかしさが先に立っていたようで、おちんちんを手で弄うことは積極的ではなかったね。
 ただ、フェラチオだけは存外と積極的で、ニーナのような長身の美女に咥えさせると、僕は、何か悪いことをさせているような気がしたものだ。
 ニーナが上になる69は、僕が常連になっても厳しく拒否し、とにかく尻の穴をさらけだすのを嫌っていたねえ。僕が上になる69は、ニーナの方が断然背が高いだけに大変やり辛かった。下になったニーナは、いつも左手を尻の下から差し入れ、後ろから指先を尻の谷間に当ててアナルを隠していたよ。
 ストリップのご開帳ショーで、右手の人差し指と中指を逆さVの形にして隠し所を開くとき、左手は尻の後ろから股間に回し、尻の穴を掌で隠しておまんφを鑑賞させる女が時々いるけれども、ニーナの長い指がアナルに蓋をしているのを見ると、それと同じだと思った。
「邪魔だから手を外せよ」と求めると、「絶対にイヤ!」と言うから、最初は、疣痔かと思ったね。
 痩せているのに、彼女のクリトリスは舐めにくかったなぁ。クンニリングスのときに脚を開くことを嫌がったからだよ。
「股を拡げると、絶対に気持ち良くなれないわ」と言った。そんな性格の女だった。
 ニーナの両脚の間に入り込んで、正面からクンニリングスをしようとすると、ニーナはやはり、できるだけ股を閉じようとするから唇を使いにくいし、ならばと長い脚をたたませ、屈曲のスタイルにして愛撫しようとすると、「そんな格好をするのは、恥ずかしいから絶対にイヤ!」の、厳しい拒絶なんだ。
 アナルがもろ出しになるから嫌なのだろうなと僕は判断していたさ。
 大柄な割には短めのスリットだったかなぁ。小陰唇はそんなに突き出ていなくて、厚みもそんなになく、色が薄かった。
 当時のソープ嬢は割れ目の左右の毛を始末することはあまりしていなかったから、ニーナもラビアはまわりの毛を押さえないとよく見えなかった。それで、お豆さんも、包皮が深くて、中身が奥に隠れていた。
 こんな想い出話を聞いて、面白いかい?……ふーん、君が興味津々ならば、続けようか。
 僕はニーナに内股で両頬を挟まれ、愛撫しにくいのを我慢しながら、できるだけ舌を突き出して、クリトリスを撫でても、しばらくすると、「こそぐったい」と叫んで腰が逃げていったよ。もっと優しく舌を這わすと、「私、男の人にそうされても、イクことができない」と呟くんだ。
「じゃあ、自分ですればイケるのかい?」って尋ねると、ニーナは恥ずかしそうにうなずいた。
 僕はクンニリングスをして女によがり汁を流させないとセックスしたような気がしないので、どうしょうもないなぁ!と困っていた。
 だから、ニーナは気をやることが少なかったよ。僕が彼女のオーガズム到来を見たのは、ニーナがよほど求めていて、しっかりその気になったときに三回あっただけで、それも四年の付き合いの間でだよ。
 ニーナがアクメに達するのは、「私、今日は、イッてみようかな。私が『さわらないで』と言った後は、田倉さん、絶対に何もしないでよ!」と、その「絶対に」を強い口調で宣言した時なんだ。照れ笑いの笑みを浮かべ、部屋の照明を一段と落として、ベッドに寝た。
 初めて彼女がオナニーをしてみると言い出した時、羞恥心の強いニーナのことだから僕は驚いたなぁ。決して僕の方からオナニーをやってくれないかと持ち出したのではないんだ。
(馴染みになって気を許してくれたのだなぁ)とほくそ笑んだけれど、どうせ途中で「やっぱり駄目だわ」と言うのではないかと思って見ていた。
 しかし、ニーナは存外なことに、すらーっとした両脚をぴったりと閉じて、足首のところで交差させたまま長い中指でクリトリスを摩り続け、それほど時間もかけずに絶頂に至ってしまった。
 三回のオナニーショーは、僕はただ見ているだけで、ニーナがエクスタシーにひたる行為に参加しているのは、彼女がぴったり脚を閉じてオナニーを始めるまで、前戯としてクリトリスを弄る間だけなんだ。
 両脚を閉じていないとアクメに到達することができないのでは、器用に動く指先と唇を持っていても無用の長物で、参加感がまるで乏しかった。でも、若い長身の女がスマートな指で本気でオナニーに耽る姿は、視覚的にも精神的にもむちゃくちゃ猥褻で、本当に助平なシーンだったよ。
 ストリップ劇場のオナニーショーとは全く雲泥の差なんだよねえ。あれは一〇〇%演技だから。
 ストリッパーがインタビューを受け、「私、本気でオナニーをしているのよ」と言っているのがあるけれど、ファンのためにはそう言っておくのがエチケットだろう? 一日に四回のステージの度にオナニーで気をやり、それを十日間続けられるのならとんでもない身体だよ。
 オナニーショーは正味二曲程度の音楽を流している間にする。所要時間はせいぜい八分程度で、それも、ステージの上でスポットライトを当てられて、途中姿勢を何度も変え、腰を持ち上げてグラインドしたり俯せになったり、見せ方を工夫しながらしているから、アクメまでたどりつけるはずがない。
 男は手淫で三十秒以内に射精できるのがいくらでもいるけれど、女は、指でクリトリスを刺激して三十秒以内にイクことはまずできない。静かに集中してやっても、上りつめるのに十分以上かかることだって多いから、舞台の上で二曲以内にエクスタシーまでたどりつく筈がない。
 それで、暗闇の中で、眼を瞑って秘め事に耽るニーナが、色白の、ただでさえ僕よりうんと長い躯を、足先までぴんと伸ばし、左手は静かに掌をお腹の上に乗せて、右手はゆらゆらと包皮の上からクリトリスを揉み、ウェーブのかかった長い黒髪がいつの間にか枕の上に広がっているんだ。
 何故か僕はベッドの上で彼女の傍らに両手を膝に当てて端座し、ベッドの端から端まで届くように伸びたニーナの肉体を、何か厳粛な心持ちでじっと見つめながら、秘めやかな喘ぎ声のかすかな変化に耳を傾けていたね。
 ニーナは陰阜の下に潜り込んだクリトリスを、上から優しく中指で揉み続けてね、その指を膣に入れることは決してしないんだよ。いじりやすいように股を開けばいいのにと思っても、脚は閉じたままだ。
 少し躯の揺れが激しくなった頃、呻きながら胸を反らし、足首のところで交差させた両足を突っ張らせたままで達した。
 それまで何分かかったのか僕には全く見当がつかない。長かったのか短かったのか、後から振り返っても、まるで酔っぱらっていたかのようにさっぱり思い出せなかった。
 ニーナは上りつめると、僕に背を見せての字になって余韻にひたっていた。
 でも、それは僅かな時間で、すぐに跳ね起きて正座して屈み込み、強い吸引でフェラチオして直ちに隆起させると、「入れて、入れて、田倉さん、早く入れて!」と大声を上げた。急かしながら、彼女はバネが戻るように勢いよく仰向けになった。
 そんなとき、僕はすぐさまペニスを差し込んで、陰阜がクリトリスに当たるように勢い良く腰を送り、気をやるのも早かったなぁ。自分よりずーっと背の高い面長の女と交わるのがとにかく楽しくて、射精への起動をこらえることができなかった。
 だけど、僕がペッティングをしてもエクスタシーまで到達しないのに、ニーナが自分ですれば上手くいくことだけが、僕は面白くなかったよ。

 酒、追加しようか。
 僕は、ペッティングのやり方を知らないニーナに、ペニスを指でもてあそぶやり方を仕込もうとしたんだ。
 後込みしたように接触面積も狭く二本指で棹を摘んで、それを前後させる手淫しかできないから、掌の真ん中の柔肌をカリ首にこすりつけるように揉むやり方を教えた。でも、通っていた間、最後までニーナはカリ首の大胆なこねくり回しができなかったよ。
 しっかり握らせようとしても、恥ずかしい、恥ずかしい、とそればっかり呟いていた。
 フェラチオは亀頭さんをカッポリと口に含んで、唇の締め付け具合と首の振り立てがなかなかのものなのに、千ズリの方は、羞恥心が飽和状態になって指が縮こまるから不思議な女だった。
 ニーナには最初の流し場での洗浄作業の他では、睾丸を掴むようにさわられた記憶がないんだ。どうも彼女には玉袋の肌触りと色彩がもの凄く不気味なものに思えて、睾丸に触れるのを嫌っていたようだった。でも、アナルを舐めるのはしたことがあるから、この点でも奇妙な女だったね。
 ニーナと逢うのは、僕はセックスよりもむしろブランデーを飲みながらの会話が楽しみだったとも言えるぐらいだったけれど、ニーナとの情交にも記憶に残るものがあったよ。
 ある時、ベッドの端からニーナの尻が少し出るぐらいにし、膝を伸ばしたまま両脚を高く上げさせ、僕は床に下りて立ち位で挿入した。ニーナの太股の裏側が僕の脇腹につくんだ。
 ベッドが高ければ腰を使いやすいその体位は、昔学生時代に見たイタリア映画で、マルチェロ・マストロヤンニが演じた金持ちの男が、脚の長い女中に着衣のまま行っているのを見たんだ。
 黒いハイヒールを履いた足が男の肩の横から突き出て、濃紺のベルベットのスカートが腰まで捲れ、白いむっちりとしたお尻が揺れるのが、残像として残っていたよ。
 ラ・カルチェのベッドは床が高く、ニーナの脚が長いので、僕はふとそれを思い出して、やってみた。
 大柄なニーナの肉壷は、僕にはゆとりがあり過ぎた。だから、その体位は、腰を多角的に、或いは激しく使うことにより、挿入感と摩擦感を高めるのに丁度良かった。
 しかも、二人の躯が離れているから暑くならない。突き上げた長い脚が何とも魅力で、更に、結合部や、ニーナの姿態と顔が充分鑑賞できるという利点があるんだよね。ニーナの幅広の尻たぶに脇腹や腿が当たるのが良かった。
 ニーナは、この、ベッドの端で脚をVの字に跳ね上げる体位がすっかり気に入った。初めて経験する格好だったんだよ。ピストン運動でオーガズムに達したことはないけれど、そのやり方で突かれると、イク寸前のような、かなり気持ちの良い状態になると言って悦び、それから、僕にこの体位を誘うようになった。
「田倉さん、今日もいつものあれでしてね。激しく、激しくね。絶対によ」
 面長の美人のニーナが小首を傾げてこんなことを囁くと、僕はすっかりその気になって、僕の足よりかなりサイズの大きい足の裏や足の爪の真っ赤なマニキュアを横目で見ながら、懸命に腰を前後に振ったよ。
 亀頭が割れ目から飛び出るぐらいまで引いて、勢いよく恥骨のふくらみを当てる、大腰の抽送を繰り返していた。
 君は百八十センチに近いから、百七十センチの女を抱いてもどうってことはないだろうけれど、僕にはとっても大女だから、ニーナの立ち姿自体が現実離れしたような荘厳な魅力だったし、天井に突き上げているような長い脚を小脇に抱えて、柔らかい尻たぶの間に向かってパコパコと腰の運動をするのは何とも言えないほど爽快だった。
 判るだろう?……いや、大男にはその実感が絶対に想像できないだろうねえ。
 もう一つ記憶していることは、ニーナの胸を抱えて気をやった直後、ニーナが、「ねえ、田倉さん、いいことしてあげようか」と耳元で囁いて始まったんだ。
 射精してすぐ平常形となって肉壷から転げ落ちた僕のおちんちんに飛びつき、いきなり強烈なバキュームでエキスの残り汁を吸い出してね。縮んだカリ首が猛烈にこそばゆくて、僕は思わず腰が飛び上がったよ。
 逃げる腰を、彼女は力の限り「横四方固め」で押さえ込み、更に吸い取るんだな。舐めるのでもなくこするのでもなく、手加減もまるでなしに、ただ吸ってね、文字通り僕は絶叫したぜ。
「好かったでしょう。これくらいなら飲み込めるわね。田倉さん、やっぱり、あれを出した後は、あんなふうにされるときついでしょ。……絶対にそうでしょ?」
 何かにつけて恥ずかしがるニーナがそんな大胆なことをするのは本当に意外だったなぁ。
 エロビデオには、顔射の後ペニスを女に吸わせるというシーンが多いけれど、その当時僕はエロビデオを見ることが一度もなかったから、そういう絶妙の閨房の技があることを全く気づかなかった。もっとも、射精したペニスを舐めて尿道口から残り汁を吸い取るというような濃厚なフォロー動作は、当時のビデオではかなり少なかったと思うねえ。
 それから、ニーナはこれを時々してくれたよ。
「絶対に他の人にはこんなことはしないわよ。田倉さんだけ!」と言っていた。
 僕は彼女に、「一度、君がおしっこをするところを見せてよ」と頼んだことがあるんだ。
 そういうふざけたこともやってみたそうなのがニーナの顔に出ているのに、ニーナは「恥ずかしいわ」を繰り返した。
「でも、一度してみろよ。俺、見たいんだ」
 そう言ってしつこく迫ると、「恥ずかしいもん」を十回ぐらい口に出して、その日、僕は長い長い押し問答を楽しんだだけだった。
 その後も何度か、おしっこ見せて!と押し問答を繰り返していたけれど、結局、ある日あっさりと実行したから拍子抜けした。
 もっとも、ソープ嬢にしては奇妙なぐらいに恥ずかしがり屋のニーナのことだから、部屋は暗いし、股ぐらを覗き込むことも許してくれないから、何も見えないに等しかったねえ。
 ニーナは真っ赤な表紙の手帳に日々の指名数を「フリー」と「本指名」と色を変えてきちんとメモしていてね、逢うと必ず、その月のその日までの累計本数を僕に報告した。本指名の獲得数が少ないときには盛んにぼやき、多いときには喜色満面の笑みを浮かべてはしゃいでいたよ。
 僕は手帳の数字を見てニーナの喜怒哀楽につきあい、一人一人の客の振る舞い方やニーナの感想を聞いたりしていた。ペニスの形状や性交の有様、下手くそな求愛の会話なんかも、面白おかしく語っていてね、気品のある顔立ちの美人がそんなことを喋るのは本当に愉快だったなぁ。
 肩を寄せて喋っていると、ニーナは僕より座高があるから、よく生温かい息がふわっと漂い、決して臭くないけど人間の匂いというものを感じて、僕は鼻腔をふくらませていたね。
 ただ、ニーナは仕事や人間関係についての愚痴が多いのが玉に瑕だった。かなりくどかったよ。
 手帳の中に男の名前と電話番号が三つ載っていて、何かと尋ねたら、岐阜市に住んでいる常連の客のものだと言うんだ。
 店の外でその男達と会い、食事をつきあったりしているようなので、僕が羨ましがると、「貴方は奥さんがいるから、私に電話番号を教えることは絶対にできないでしょ。この人たちは、皆、独身なのよ」と返し、その三人がいかにしょうもない奴であるかを僕に語り始めた。
 ぼろ糞に言うから面白かったよ。
 こんなに魅力的なニーナが、ラ・カルチェから不意に姿を消してしまったんだ。
 割とつまらないことに拘る性格で、控え室で顔を合わす女にどうにも不愉快なのがいたようで、イヤだイヤだ絶対にイヤだ!といつも愚痴を言っていたから、店を替える可能性は考えられたけれども、ニーナは僕という客を大切にしていた筈だから、何も話さずに突然ラ・カルチェから消えたのが大変腹立たしかった。
 僕は随分長い間ニーナに通っていたけれど、その間に、彼女は、店で売れっ子の順に数えて上から何番目にいるのか見当がつけられるようなことを決して言わなかったよ。
 他の客のことは何でも教えるぐらいお喋りで、愚痴を言い放題で本名も打ち明けるほど心安くしていたのに、このことだけは僕に推量させなかった。
 僕はニーナが店のベストスリーには入っていないようだと思ったけれど、勿論そんなことはどうでもよく、逢う度に嬉しそうにしている面長の顔に惚れ込んでいたんだ。
 ニーナは、僕と逢うと、「貴方のような変な男の人、見たことがない。絶対に変よ」と言うのを口癖にしていた。しかし、ニーナも相当エキセントリックな女だったぜ。
 背がかなり高いから、服は何を着てもよく似合うし、色物のブラジャーとパンティのセミヌードの姿も凄く煽情的だった。
 ヘアースタイルと眼のメイクがいつも決まっていて、大きな足のその爪にも、常にマニキュアをしていてね、そのニーナの本名の名字が奇しくも僕と同じだったよ。
 そんなことを振り返ると、ニーナに逢えなくなったことが寂しかった。ニーナのような美人が、猥談好きで、下着もカラーの派手なものを身につけていて、その癖、あんな恥ずかしがり屋さんには会ったことがないと想いながら、絶対に行方を探そうと心に決めた。
 ラ・カルチェの女の何人かに入浴してニーナの行方を尋ねてみた。でも、誰も知らなかった。ソープの仕事から上がったと店の男が説明していたけれども、対人関係の愚痴をさんざん聞いていたから、僕は、ニーナが上手に店を替えたのだろうと想像したよ。
 ニーナは写真を出していないので、ソープ情報誌は彼女を探すにあたって何の役にも立たなかった。家族にばれるのを警戒していたし、写真では顔が随分きつく見える、とよく愚痴っていた。
 そのきつい顔がディープキスを受け入れて眼前に迫るのが、僕は何ともワクワクするひと時だったんだ。
 僕は沢山の店を探し回ったよ。毎度失望することになった。必死に探した当時の狂いぶりを十年以上経ってから振り返ると、ニーナは確かに魅力のある容姿だけれども、ソープ嬢にしてはセックスプレイが慎み深すぎて、それほど亢奮を誘うものではなかったから、どちらかと言えば淫奔な女が好きな僕の性癖を考えれば、不思議なことだった。
 それで、ある日金津園の奥まったところにある迎賓閣という店に初めて入った。遊びが終わってから、僕は上がり部屋と呼ばれる小部屋に入り、アイスコーヒーを飲みながら、店の女の写真集を眺めた。ニーナの写真が、もしかしてありはしないか確かめたかったんだね。
 それで、アルバムをめくっていて、十数枚のキャビネ版の写真がもうすぐ終わりというところで、僕は突然ソファーから転げ落ちてしまった。何とニーナのきつい顔がそこにあったんだよ。名前はシャネルになっていた。
 翌週、僕は迎賓閣に予約を取り、シャネルと再会した。一年以上経っていた。その再会が昭和六十三年、今から九年ぐらい前のことなんだ。
 会うと、シャネルも飛び上がらんばかりに歓んでくれた。
「私、ほんと、田倉さんには絶対に連絡したかったのよ。でも、最後に田倉さんに会ってから、すぐ、話が決まったんだもの。田倉さんが最後に私に入ってくれたの、確か、あの月の十五日だったでしょ。私、よく憶えているでしょ。私が迎賓閣に替わったのがカルチェにばれるのは絶対に困るから、カルチェの子達にも絶対に秘密にしていたしぃ。……田倉さんが私のところへ来てくれて嬉しいわ!」
 そういうふうに大声で喋る彼女の顔は今でもはっきり憶えている。
 僕はそれからシャネルにせっせと通った。でも、僕は次第にシャネルに通うペースが落ちるようになってしまってね、気をやることもなく、尺八以外の愛撫は、頼んでもろくにしないシャネルが、性的な遊びの相手として嫌になりかけていた。
 やたら恥ずかしがって割れ目をまじまじと観察されるのを嫌うから、僕は光のあるところで彼女の性器をまともに拝んだことがなかった。気品に満ちた大人の顔の割には性格が子供っぽいシャネルに以前のような意欲を感じなくなってしまったんだ。
 そんな時、決定的な出来事が起きた。
 シャネルがどういうわけか自宅の電話番号を教えたんだよ。僕の意欲が薄らいだことに気づいてカンフル注射をしたんだろうねえ。それを聞いたとき、僕は天にも昇るように嬉しかった。夜、仕事休みのシャネルと電話口で喋り合うのが楽しかったなぁ。
 しかし、何ヶ月か後にシャネルが、電話番号を教えた客が僕の他に二人いると語った時、僕の心は瞬時に冷えてしまったよ。
 その頃、シャネルはいつものようにくどくどと店の仲間について不満を洩らした。
 以前は、そんなことも愛嬌と聞いていたけれど、仲間と協調できなくて、ほんのちょっとしたことで、「ほんとに、あいつは腹が立つ。絶対に生意気だ!」と、会う度に何かを愚痴る性格も疎ましく思うようになってしまった。
 シャネルが迎賓閣を辞めることにして、次に出る店の名前を告げ、「絶対に来てよね」ととろけるような媚態を振りまいたけれど、それを境に僕はもうシャネルに会おうとはしなかった。
 仕事で、海外へ出張した時、遠いところから、妻にも電話せず、わくわくしながらシャネルに電話をかけたことを楽しい想い出にしたままでね。
 本当に、何か喋るとその中に「絶対に」が何度も入る女だったよ。

 あぁ、酔ったねえ。
 僕は若い頃は、女に飽きるほど女とやりたいと空想していたけれど、何度やっても、性交というものは飽きないねえ。この遊びは、機械を相手にしたゲームではないし、自然を相手にした娯楽でもなく、感情のある人間が相手の趣味だから、絶対に飽きが来ない。
 初対面の女の左右の大陰唇に両手を当てて、割れ目を開きながら人差し指でクリトリスの包皮を押し上げてお豆さんを舐めようとする瞬間と、左手で割れ目を開いて、右手でばんばんに張ったちんちんをぐっと押し下げて嵌め込む瞬間の、眼前の女のクレバスというのは人体の神秘と造形美がそのまま出現して、何度見ても本当にいいもんだよ。
 僕は女上位の性交は絶対にしないから、女の指でペニスを摘まれて導かれる嵌め方をしたことが殆どないぜ。
 それで、熱意を込めてエッチをして、粘膜と粘膜がこすれ合い、女が奔放に燃えて、相互に熱情溢れる抱擁だったと後で振り返ってにんまりするようなセックスは、いいなぁ。
 僕はねえ、最近、自分は性の求道者ではないかと思うようになった。
 女を気持ちよくし、自分ももぎ取られるように射精する。風俗嬢に仕事を忘れて発情させる。とにかく、これが、たまらない悦びなんだねえ。
 もともと徹底的に洗ってアンモニア臭のようなにおいの全くないおまんφが、ぐっしょり濡れて、欲情の匂い、メスの香りを発散するようになると、本当に幸せを感じるぜ。
 それで、女が「私、もう今日は、お客、いらない!」と呟くと、心のエクスタシーがもう一度やってくる。ビバ、おまんφちゃん、濡れマンに万歳、観音開きを拝め、放尿視姦、充血のクリトリスに栄光あれ、アナルに指を、女のイソギンチャクの蠕動運動に乾杯!、だ。
 さあ、帰ろうか。明日の土曜日、僕は由美に予約が入れてあるんだよ。 (了)

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(千戸拾倍 著)
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