桂木 1

 頻繁に利用した恵里亜が平成六年一月に営業停止になった。同時期熱心に通っていたマスターズの夏木ルイが平成五年十月に金津園を去った。落胆が言葉にならないものだった。
 私は馴染みのマスターズを利用するのをやめる気はなく、沙也加という嬢(ゴム着で初めての通いに登場)に入浴していた。ただ、NS不可がどうにも面白くないし、気立て的にもう少し楽しい女がいないものかと思っていた。
 平成六年春、私はマスターズで桂木という女が部屋持ちだと聞いた。
 桂木は昭和の頃からソープ情報誌に顔出しで載って、マスターズには二年ぐらいの在籍と知っていた。
 マスターズで容姿が標準以上の女には殆ど入浴していたのに、それまで桂木には会う気がなかった。写真の顔は目鼻立ちが良くても、それほど若々しくはなかった。それに、店の女やスタッフの口から、桂木の名が出たことがないので、売れている女とは思えなかった。
 部屋持ちの基準を指名四十本としているマスターズで、桂木がそれに達しているのが全く意外だった。私は早速予約した。
 入浴料を払って待合室で案内を待っていると、スタッフが妙なことを言った。桂木が急に体調を悪くしたので、他の女で我慢して貰えないかということだ。
 私は上得意の客だから、嬢が躯の具合を悪くして応対不能になったなら、店に来る一時間前に予約を確認する電話をした時にそれを申し出る筈だ。もし、電話の後で、私の直前の客を相手にしている時に浴室で滑って転ぶなどして怪我でもしたなら、応対ができない理由をもう少し具体的に説明するだろう。
 スタッフが曖昧な言い方で桂木の躯の具合の悪いことだけを訴え、更に、表情がどぎまぎしていて明らかに嘘をついているような気配だから、私は実に怪訝だった。
 怒って追求するのは控え、その日は店が勧めた樹里という女に入った。
 しばらくしてから、桂木にもう一度予約を入れた。受付の男が電話口で「桂木でございますね」と言う口調が何やら重かった。ん?と思いながら「大丈夫だね」と念を押した。
 桂木と対面すると、存外と小柄で、接客慣れした気さくさがあった。しっかりした黒髪を長く伸ばし、肌の色が濃く、歳は二十七ぐらいの感じだった。予想通りというか、予想以上というか、なかなか男慣れしたソープ嬢の風格があった。
 私は最初の予約が潰れたわけを尋ねたかったが、本当のことを言わないだろうと思って何も訊かなかった。
 桂木はマスターズでは二年ばかりだけれども、通算では六年を超えるソープ経験ということで、年数はともかくそれまでに勤めていた店を聞くと店の名前をずらずら出したから数の多いことに少し抵抗を感じた。私の経験では、店を次々に移っている女にろくなのはいなかった。
 その中で、宝石という店の名が挙がり、桂木は四年前に店が警察に検挙された時までそこで働いていた。宝石は、マスターズに通うようになる前によく入った店だから、私は懐かしいその頃のことを尋ねた。
 私は宝石でラピスという女にぞっこん惚れ込んで通った。しかし、店が手入れを受けて、ラピスの行方が判らなくなっていた。そのラピスの名を口すると、桂木がラピスをよく知っていると言うから驚いた。電話をかけ合う仲なのだ。
 私は勢い込んでラピスのことを聞きたかった。しかし、桂木のことを放って、昔の馴染みの女のことを探索がましく話題にするのは妥当ではないし、もう少しうち解けてからじっくり聞いたほうがいい、とその気持ちを抑えた。それで、当時の宝石のはやりぶりと桂木が知っている売れっ子嬢の想い出話をした。
 部屋に入った当初は表情が何か固く見え、世間話も上滑りしていた感があった。でも、ラピスの名前が出てくると会話が心安くなったような気がした。
 桂木が妙なことを口に出した。
 客は殆ど指名ばかりで、予約が入って、店から自宅へ電話連絡を受けると出勤し、いつも店では客待ちをしないのだそうだ。
 ソープ嬢は控え室で出番を待つのがどの店でもルールだから、そんな横着な働き方を私は耳にしたことがなかった。それで、予約が入っても、家にいないときはどうなるのかと訊くと、どこに行くにも携帯電話を持っているから問題はないと説明した。
 随分わがままを許されていることにあきれるとともに、確実に指名が取れるということは、一体どこに特徴があるのだろうと思っていた。同時に、尋ねもしないのにそのような自慢げなことを私に説明し、それを話す表情に何か引っかかるものがあった。
 最初の予約をすっぽかされたことと合わせ、何か裏があると思ったが、しばらく様子を見ることにした。
 私が下着まで脱ぐと、桂木も裸になり、側に寄り添って、既に勃ちあがっている如意棒に手を伸ばした。股間を洗う前に愛技を始め、しかも、幹の部分ではなくてカリ首の膨らみの部分だけを三本指でもてあそぶという巧妙な指さばきをした。
 先走り汁で鈴口が濡れているのをいやがるどころか、その粘液を人差し指でゆっくり穂先に塗り広げた。初会だからこそその動作が極めて猥褻で、塗りつけるときのペニスを見つめる眼が堂々としている。カリ首全体が濡れると、人差し指でエラの反りをなぞっている。
 そんな淫奔な動作は金津園の初対面ではやはり珍しい。桂木が快活に話しかけて愛想も良いことに加え、愛撫が大胆で指使いが巧いから、本指名が月に四十本を超える筈だと納得した。
 浴槽に漬かると桂木もやって来て、すぐにフェラチオを始めた。
 長めの睫毛に、少し面長の女らしい優しい顔を俯き加減にして、口を開き、舌を突き出しているのが、それほど下品に見えず、妖艶な感じがあった。
 唇をすぼめて口に含む普通のフェラチオもしたが、ペニスが怒張すると、口を大きく開いて舌面全体をカリ首の裏に強く押しつけ、そのまま顔を揺すって棹の裏筋から鈴口の辺りを集中してこすり立てるという卑猥な動きをした。
 それは経験したことのない、変わったテクニックだ。絶妙の快感にペニスが限度まで張り続けた。
 浴槽プレイを終え、タイル張りの床にしゃがんでローションを仕込んでいる姿を眺めていると、乳房は小ぶりで鎖骨が浮いて、細目で華奢な上半身をしている。その割には腰から尻がぐわーんと広がり、太腿がやけに豊かで、少しアンバランスな体型だ。
 桂木が、マットではなく椅子洗いの支度を始めたので、湯船の中から桂木に声をかけた。
「椅子はしなくていいよ。マットだけでいいから」
「あら、どうしてー? 椅子もしてみたらー」
「僕はマットが好きだからマットが長いほうがいい」
「でも、私、椅子は得意なのよ。時間だって充分あるから、椅子もマットも両方すればいいじゃない」
「九十分の店で、椅子、マット、ベッドのフルコースは、僕はいつもしていないから」
「九十分あればちゃんとできるわよ。私、上手いんだから」
「僕は、椅子洗いはどうも好きになれないよ」
「どうしてー? 私のを試してみたら」
 普通は一言断ると(あら、そう、じゃあよすわ。私も楽だし)とばかりにあっさりと引き下がるものだ。でも桂木はしつこく粘るから、この子はなかなかだぞ!と思っていた。
 私は、ソープ独特の妙な形の椅子に男が腰かけ、その椅子の下に女が仰向けになって潜り込んで、ペニスを刺激しながら玉袋からアナルまで舐める、あの椅子洗いのハイライトの技は、何か不自然で横暴な感じがしてどうも馴染めなかった。また、背もたれがなく、しかも、アナル愛撫のために腰掛ける真ん中のところが素通しの、尻が落ち着かない椅子に長く座っているのが嫌だった。
 そのことを説明したら桂木はようやく納得したが、「じゃあ、お得意の椅子洗いは今度来た時にして貰おうかな」と言わざるを得ないほど熱意があった。
 マットプレイもなかなか大したもので、肝心要の部分をしっかり愛撫した。俯せの私の背に唇を押し当て、強く皮膚を吸い上げる、いかにも後で唇の感覚が麻痺しそうな技が特長だった。
 ただ、桂木も大概のソープ嬢と同様に、背中や臀部などの、さして性感帯と言えぬ部分に丹念に唇を這わせているとき、両手は自分の躯を支えているだけで、私のペニスに触れなかった。
 それでは物足りないから、私は、初対面ではちょっと強引かな?と思いながら、マットについているだけの遊んでいる右手の手首を掴んでペニスに導き、「ここも」と、ペニスの同時愛撫を要求した。
 私の露骨な要望に実に協力的で、その後は見事にカリ首をさすり続けた。客から自分のやり慣れたマットプレイの技とは違う動作を求められると、むっとする女もいるけれども、桂木は気安く求めに応え、ペニスとその周辺の愛撫を濃厚に続けた。
 仰向けになってからのアナルや金的への攻めが大層心得たものだ。舌を長く突き出して熱烈に舐めまくり、舌先に力がこもっている。女らしい顔の眼が優しくて、ペニスを咥える横顔がとてもエロチックに見えた。
 ビンビンと快感が走って、具合の良いことを訴えると、手も口もフルに使ってますます厳しく責め立てた。とにかく口の吸い込みが良いし、愛撫を愉しんでしているという表情が嬉しい。
 私が初対面の女のマットプレイを褒める場合は、もっと上手にやって貰うためのおだてのことが多いけれど、桂木には心から賛辞を進呈した。
(久し振りに、裏を返せる女に出会ったのかな)
 と嬉しがり、ベッドの抱擁を心待ちにした。
 話が途切れると、桂木が、「知らないお客は、どういうふうに相手をしたらよいか判らなくて、私、とっても気疲れする質なのよ」と言った。
 部屋に入って間もなく桂木が、「客は殆ど指名の男ばかり」と言った。それを桂木の自慢と聞いて、随分向こう意気の強い女だと鼻白んでいたが、それは、自分の人見知りする性格を訴えていたのだと判った。
 私は、桂木が宝石で仲良しだったラピスのことをそろそろ聞き出そうと思った。
 ラピスの近況について早く知りたいのは後回しにして、宝石の閉店の時のことを二人で回顧した。警察の検挙で閉店したのは早春だった。
「私、確か雪の激しく降っている日に裁判所に行ったわ。あの時の情けない気持ちは到底忘れることができない。あれは御大葬の翌年だったかしら」
 桂木がしんみりと呟いた。
 御大葬という言葉をソープ嬢から聞けるとは思わなかった。
 ラピスは宝石が閉鎖されてから二年ばかりソープを休み、その後金津園に復帰して、今もなお働き、現在は黒騎士という店に出ている、と桂木が語った。
 桂木に、黒騎士での源氏名をラピスから訊きだすように頼んだ。平成六年の春だから、最後に会ってから四年以上経ち、三十歳も近い筈で、ラピスのようにおとなしい性格の女がまだ現役をしていることが意外だっただけでなく、心に引っかかることが一つあった。
 私はその黒騎士に、閉店になった恵里亜の女の行方を捜すべく二ヶ月前にたまたまフリーで入っていた。そのときの女のことが気になった。
 雑談も充分したので、桂木とベッドプレイを始めた。
 マットプレイでは、初会でもあり、私は受け身に徹し、桂木の肉体を全く愛撫してなかった。だから、桂木が客の男からの愛撫を喜んで受け入れるのかどうか、また、性の感度が良いのかどうかわからなかった。
 ペニスも金的もアナルも、指や唇で熱烈に愛撫するソープ嬢には受け身も上手で、淫奔に快感にひたって男を狂おしくさせる女もいるけれど、手のひらを返すように男の愛撫を全く許さない女や、まるで性的に無反応の女もいるからだ。
 私が閨のテクニックに自信があることを言うと、桂木はベッドプレイを期待する甘い言葉を投げた。その顔から期待の言葉は額面通り受け取って良さそうだと判断して、私はいつものようにいきなり桂木の股ぐらに顔を突っ込んだ。
 桂木は驚いたけれど、委細かまわずクリトリスの包皮を捲りあげて、丹念なクンニリングスを始めた。
 桂木の反応は望外なほど濃厚だった。両脚を目一杯たたんで陰部を突きだし、快感を貪った。浅黒い太腿の間に、陰裂もアナルも全てを露出する淫らな屈曲の格好で愛撫に身をふるわせた。
 早々と躯をのけぞるようにして、「あっ、あっ、あっ」と続けざまのよがり声をあげ、明確な快感反応を見せるから、私は脳天から煽りたてられた。
 私はしばらく集中してクリトリスを揉み立てた後、一息ついて、なかなか鋭敏な性器を観察した。
 大陰唇の春草はそれほど密生していないが、その下部から会陰にかけて黒い飾りが顕著だ。一本一本が黒々としていて長かった。妖しく花開いたラビアが薄くて、指で広げると見事に伸び、まるで雛人形の扇子を二枚広げたようだ。その双片の外側も内側も着色が濃く、内側の粘膜の光沢がいやらしい。
 膣口から愛液が大量に溢れ出している。顔を下げて汁が伝った跡を追うと、アナルは襞の肉が数ヶ所僅かにふくらんでいる。にごった滴が皺の内と外に散在していた。顔を引いて視野を広げると、全景は、見事に丸い尻に太々とした太腿だ。
 これは亢奮させてくれるぜ、とにんまりして、また小突起にしゃぶりついた。よがる声が何とも明瞭だから、聞き惚れて口唇愛撫をした。
 たたんだ両足の間に覗く胸許もふっくらした下腹も、喘ぎの声とともに波打っている。閉じた眼と半ば開いた口が微妙にそよぎ、寄せては返すうねりの悦楽を滲ませていた。
 これならすっきりと気をやるだろうと期待したら、桂木はそれほど時間をかける間もなく「イキそう!」と予告した。クリトリスに当てていた唇を、一層気合いを入れて動かすと、桂木は腰をふるわせて気をやった。
 私は満足して股間から顔を離した。
 ラブジュースは水っぽいようで、尻の下のシーツが広く湿っていた。それを見て私は更に情欲を募らせた。声をうわずらせて「入れるよ」と叫んだ。
 それでもゴムのことを思い出し、目立たぬところに隠してあるはずのものを取り出すのを一瞬待った。丁度二年前に金津園の店はコンドーム着用を必須にした。私は恵里亜では殆どゴムを被せることなく遊んでいたけれど、マスターズでは純生を許したのが二人しかいなかった。
 ゴム着が絶対に苦手な私には嬉しいことに、桂木は膝を立てて股を開いたまま動こうしなかった。漆黒の茂みの中で、ラビアが開いて爛れたような内側を見せていた。
 生はありがたい!と思って、充分に猛り狂っていたものを差し込んだ。
 肉壺はとても熱く、狭くて、ペニスを包み込まれる感触がした。仰向けの桂木は両足をたたんで目一杯膝を引きつけていた。私は折った膝を桂木の腰の脇に進め、両膝で大きな尻を挾むようにして腰を送った。
 腰を突き出すと、下腹が桂木の内腿に触れて心地良く、引くと、ヒジキのように黒い恥毛の間で、薄目のラビアがカリ首を迎え入れるように囲んでいるのが見えた。幅のある骨盤に脂肪が漲った尻の丸みも、ウエストが細いだけに眺めがよい。
 ペニスは桂木のラブジュースに濡れて赤黒く光り、一万馬力の動力を生むシャフトのようだ。カリのエラがラブジュースを掻き出している。
 勢い良くペニスを送り込むと、圧迫とこすれる感触は実に具合がいい。それでも、膣道をすべる様は、潤滑油のおかげで素麺が喉を通るように滑らかだった。
 桂木は便意をこらえるような顔で私の抽送を受けていた。平静時とは顕著に違う昂揚しきった表情だ。
 何故こんなに挿入感がいいのだろうと思ってペニスの感触を確かめると、恥骨の張り出しが邪魔になるぐらいに位置しているから、ペニスの根元の部分を特に押さえ込まれて張りが増すようだ。
 そのことを納得すると、私は更にペニスをしごかれる感覚が生まれる。腰を送るたびに太い腿に下腹部が当たる感触がいい。温かくてフワフワしている。
 膣の中はまるでよがり汁の水脈が破裂したようで、ゴボゴボヌチャヌチャの卑猥な音が腰の深奥まで深い快感を送る。抜き差しする度に爆発の期待が高まった。
 とうとう激しい噴出に全身を揺らした。
「すごかったぜ!」
 思わず出たその一言を十五乗して桂木に捧げたい気分だった。

 桂木はセックスプレイが群を抜いていた。ペニスを勃たせる工夫がしっかりあって、愛撫の応答も奔放で気をそそった。
 更に桂木は、風呂上がりに私の躯を拭く動き一つを取っても、丁寧で優しさに満ちていた。ソープ嬢と感じさせない雰囲気があった。常連の客が沢山いるのが癪だけれども、本指名を月に四十本も取るのであれば、それもしょうがない。
 次に桂木に会っても、私は初会同様の充実感を得ることができた。桂木が私の好みに合わせようとしているのがわかった。コンドームを使わなかったのは、誰にでもそうしているのではなく、私の熱烈な愛撫にうたれて別格の扱いをしたらしかった。
 初対面で桂木が「知らないお客は、どういうふうに相手をしたらよいか判らなくて、私、とっても気疲れする質なのよ」と呟いた。
 二度目の逢瀬で、それを更に具体的に説明した。
「私ね、フリーの客を入れることは滅多にないのよ。本指名が入って店から携帯電話にかかってくると、どこかのお店で買い物をしている最中でもさっと切り上げてお店に出勤するの。店に、フリーの客を取るように頼まれても、手の空いている女の子がいるなら、私、断っちゃうの。だから、私のお客さんは指名の人ばっかりなの。それで、今までは月に四十本は楽にいっていたのだけれど、最近は月末近くなって四十本になることが多くなって、とっても困るの。不景気よねえ。四十が難しそうなときには、私、お客さんに電話して店に来て貰ったりするのよ。絶対に四十は欲しいわ。四十本を取っていれば、今みたいに、店では客待ちをせずに、予約が入ってから出てくればいいでしょ。でも、なかなか本数が安心できないし、悩んでいると、店に『フリーの客をもう少し入れて、常連さんを増やしなさいよ』と言われるの。だけど、初めてのお客さんは何だか怖いわ。私、自信ないから。もし、四十本を取れなくなったら、私、この仕事を辞めるわ。四十本が上級クラスの証明なのよねえ。でも、四十本とるのはほんとうに大変だわ」
 本指名が絶対に四十本欲しいというのは、桂木のコンプレックスの裏返しで、呼び出し出勤という横着な勤め方を通しているのは、控え室で皆と顔を合わせているのが鬱陶しいからと私は理解した。
 桂木は自分のことを何やかや話すから、逢っていて心がなごむと私は思った。
 桂木は物覚えの良いことを自慢した。確かに、それまで私がやってきた日付を諳んじたり、私が前に言ったことをよく憶えていたし、私のマスターズの会員番号が大層古いということを即座に認識し、一度でその数字を憶えてしまった。
 桂木と六度目の対面をすると、私は桂木と充分うち解けることができたと思ったので、前々から尋ねたかったことを訊いた。
「ねえ、君は新しい客は取りたがらないのに、しぶしぶ僕を入れて、いい客をつかまえた!と思っているんだろう?」
「うふっ」
「ちゃんと通ってくれそうだし、テクニックが巧くてしっかりイカせて貰えるし、横柄な男じゃないから気分が悪いということもないし、本当にいい常連さんができたんだよねえ」
「そうねえ」
「ねえ、君に初めて会ったその前に、一度君の予約を取り、直前の電話の確認もオーケーの返事で、なのに店に来たら、急に君の都合が悪くなったと断られ、代わりの女でどうかと写真を出されて、しょうがなく樹里に入った。樹里は愛想良く喋って、即尺なんかもしてくれたりして、とても気立てがよかったけれど、盛んに咳をしていたし、要するに君の代替品だったせいか、おちんちんが全然元気になってくれなかったんだよ。あのときはボーイが僕に、君が急に具合が悪くなったことだけを言って、少し様子が変だった。そんなことがあったことを知っている?」
 桂木は即答せずに私を見つめた。
「××さん、何を言っても怒らない?」
「うん。一体何があったのか教えてよ」
 桂木は迷った顔をした。
 私は返事を促した。あのとき桂木が店にいたのかどうか知りたかった。
「私ね、初めての人は後込みするのに、最初貴方の予約が入って、店に訊いたら沙也加さんゴム着で初めての通いに登場)にずーっと通っているお客さんだと言うじゃない。私、わぁー、沙也加ちゃんのお客なら、絶対にイヤだー!と思って断ったの。『私、自信ない。絶対に自信ない! イヤ!、イヤ!』って。店の人が、『頼むよ。もう、店に来ているんだからさー』と、とっても困った顔をしていたんだけど」
「やっぱり、そうか。ボーイの、断る顔つきが妙だったものなぁ」
 沙也加というのは極端に派手な装身具をつけたがるヤンキーで、鼻っ柱のとても強い女だ。桂木とは全く相容れないのはよく理解できる。
「怒っていない?」
「そんなことで怒らないよ」
「本当?」
「うん」
「それで、また貴方の予約が入ったでしょ。『この間断ったお客さんからまた予約が入ったんだよ。また、電話をかけてくれるなんてとってもありがたいことなんだから、桂木ちゃん、受けてくれよ。俺、あの人に二度も断れないよ。頼むからわがままを言わないでくれよ』って、真剣な顔で言われて、『いいわ』となったの」
「やっぱりそうか。そんなことだろうと思っていたよ。予約を受けた女が初めから店に出ないと判っていて、それでも、とにかく客を店に来させようと嘘をつく店員がよくいるけれど、そんな場合は、もっと上手にもっともらしく女の子が都合悪くなったことを説明するものだよ。口では恐縮していて、眼は恐縮していない。あのときの説明の顔つきは絶対に様子が変だった。ボーイの眼が動揺していた」
「……」
「それで、君に初めて会ったときも、最初は表情が固くって、君が何か無理をしているように見えたから、おかしいなと思ったよ。器量もいいし、マットプレイも上手なんだから、もっと自信を持ったら。嫌々引き受けて僕に会って、気持ちよくセックスができて、とっても面白い常連さんができたと喜んでいるのだろう?」
「うん」
「でも、会いもせずに、僕のような純真な男をシャットアウトするなんて悪い女だ。第一、勝手にお客を選り好みをしているなら、段々と歳が三十に近づくのだから、四十本取るのも苦労するようになるよ。大体が、皆、安いヘルスの店に行くようになって、ソープは不景気なんだから」
「そうねえ。でも嫌だなぁ。フリーの客はどういう人か判らないし、フリーを取っても、本指名の数には入らないし。私ね、会ってすぐに貴方が昔宝石に行っていたと話してくれて、ラピスちゃんの名が挙がって、それで、ラピスちゃんに入っていた人なら安心だわ!と、何故だか急にほっとしたの」
「へー、そういうもんかね」
「ねえ、ほんとうに怒っていない?」
「怒っていないよー。よくある話だ」
「よかった。わたし、正直に言ったら、二度と来てもらえなくなるんじゃないかと思っていたー」
 私は、最初の予約をすっぽかされたのは、急にやくざの親分の予約でも入ったのかと想像していたけれど、フリーの客をとりたくないとは意外な話だ。
 平成六年の頃の金津園は警察の凄まじい手入れの嵐が吹き荒れた後で、客が激減していたから、誰でも喉から手が出るほど客が欲しい時期だった。
 桂木は接客のトークも愛技もなかなか素晴らしいのに、引っ込み思案というか、気弱なところがあるのが随分好ましく思えた。

 桂木は「僕は」とか「おいらは」とか「合点だ!」などと、若い女が使わないような言葉を剽軽に発し、どこか個性的なところがあった。頻繁に逢うとますます親密な雰囲気を見せるようになった。
 逢う度に、ベッドの上の桂木が一層女ぽくなっていくのが判った。
 愛しい女との情交のシーンを、バイオリンの演奏に譬えて表現する文章を、昔高校生の頃何かの小説で眼にしたことがあって、「女性を奏でる」とは一体どんな触感なのだろう?と思っていたが、桂木の喘いで乱れる様と流れるラブジュースを見ていると、そんな昔の記憶が蘇ったりした。
 感度の良さについて言えば、桂木はマットで私の中指の振動により到達し、ベッドでハーモニカ演奏によって到達し、更にペニスの抽送でもう一度気をやった。毎度「イキイキ女」になって、女の匂いを発散した。
 私が気をやってから割れ目を覗き込むと、膣口からだらーっと精液を流し、陰裂のまわりを囲む濃い恥毛に僅かに濁りのある粘液をまとわりつかせ、その粘液が毛先で滴になって数本の毛をくわえ込んでいるのが素晴らしい眺めだった。
「君はほんとに上手にイケるんだねえ。実にセックス好きの助平な女だよ。エクスタシーがよく判らない子から見れば本当に羨ましいだろうなぁ」
「うふふ。気持ち良くして貰って、それでお金を戴いて、本当にいい仕事よねえ。私、結婚できなくてもいいと思っているの。ワンちゃんと暮らしているわ」
「嫌な客さえ来なかったら、こんないい商売はないもんなぁ。しかし、君は珍しい躯だよね。イッてしまってから、続けてあそこをさわられると、皆とってもくすぐったがるのに、それほどこそばゆくならないし、それどころか、また達しちゃうんだから」
「だって、貴方が上手だからぁ」
「一度のセックスで何度もイクことができるのを、マルチオルガニズムと言うんだよ。そういう体質の女はそんなに多くはいないぜ。何人かに会ったことがあるけれど、共通点は、皆、おまんφ汁が多くて、よがり声が明瞭なことだよ」
「私、心を開けて、止めているのをやめると、すぐにイクことができるの、上手にさえしてくれれば。でも、いつもは完全に止めているのよ。こんなの、貴方だけ」
「うわー、嬉しいこと、言ってくれるんだねえ」
「感じの悪い奴がどんなに上手にしてくれたって、イキたくないわよ。指を入れられて、私が『痛い!』と叫んで、『ごめん、ごめん』と謝っても、やっぱり痛いことをそのまま続ける奴が一杯いるのよ」
「本当に、そういう奴が多いんだねえ。気の毒に。……ねえ、昔、ある店で女の子に聞いたんだけれど、その店にとっても助平な子がいてね、とにかくイキまくって、そのときの声が長々と続き、廊下にまで響いてやかましくて、隣の部屋のお客も下の階のお客も、『何だ。あの声は!』と驚くぐらいだって。あんまり助平なもんだから、その子、エルザっていう名前なんだけれど、仲間がエロザと呼んでいたそうだよ。そのエロザが声を小さくすれば、丁度君なんじゃないのかな」
「うふっ。気持ち良いんだもの。セックスして気持ち良くなれない女の人は気の毒よねえ」
「ほんとだ。君は、僕のお尻の穴を強く舐め続けたり、お尻の穴に指を差し込んで上手にいじったりしてくれるし、僕にも、君のお尻の穴に指を入れさせてくれるし、本当に助平で、サービスたっぷりで楽しいよ」
「お尻の穴を舐めたり、玉ちゃんを口に含むのは、他の常連さんでもしてあげる人はいるけれど、私が、お尻に指を入れさせたり、おしっこをするところを見せるなんていうのは、本当に貴方だけよ。普通は絶対に厳しく断るのだからぁ。貴方の予約が入っているのが判ると、私、浮き浮きしているのよ」
「そうかー。嬉しいねえ。しかし、君のようにサービス精神が旺盛な子には会ったことがないよ。おしっこをするところを見せてくれと頼めば、すんなり応じてくれるし、まるで聖母様だよ。あそこのびらびらは、色が赤黒くて、ぐちょぐちょと変形していて、大人のおまんφだし、それで、本気のお汁も多くて、とっても猥褻だよ。いいぜー」
「何故みんな、あそこを見たいときは『あそこを見せて!』、おしっこをするところを見たいときは『おしっこをするところを見せて!』、さわりたいときは『あそこをさわらせて!』と、素直に言わないのかしら。何もしない人、言えない人も多いのよ」
「本当にそうだねえ」
「ねえ。私、宝石にもいたのに、貴方、ラピスちゃんに入って、何故そのときに私にも入ってくれなかったのよー?」
「しょうがないよ。僕は一店一人主義だったから、宝石ではラピスに入れば充分だったの。大体、男が同じ店の女の子、二人三人に常連で通っていれば、『何だ、こいつ!』と思うだろう?」
「そうよねえ」
 桂木は、左官屋をしている父親がどうにもならない借金を作り、その返済を手伝うため、二十二歳のとき自ら進んでソープに来たのだった。
 親にお金を渡したとき、ソープで働いて作ったとは言わなかった。未だに父親は桂木の本当の仕事を知らないけれど、母親のほうは、女の感で判っているかもしれない、と私に説明した。嫁に行っている二人の妹は姉の稼ぎを知っていた。
 桂木が二人の妹から小遣いをせびられる話をしたので、私は、桂木が躯を張って生きているのに、普通の生活をしている二人の妹に、亭主に内緒でちょっと贅沢をさせるため万円札を渡すなんていうのは、よしたほうがいいと諭した。

 桂木は呼び出されて店にやってくるから、女の控え室に殆ど入らなかった。だから、新人で三ヶ月以上店に出ていても顔を見たことのない女がいるし、控え室にある指名数のグラフも見たことがなかった。客を待つ間は、自分の持ち部屋にいるか、フロントで店の男と雑談をしていた。
 私が店に到着する時刻には、必ずフロントの横の、飲み物を用意する小部屋に入って、ブランデーのロックを用意した。
 私はどこの店でも個室に入れば必ずブランデーを飲んでいた。でも、案内待ちで出される一服はどこでもお茶だった。桂木を待つ間は、頼みもしないのに、案内待ちしている客の中で私だけが、お茶ではなくて別格の飲み物だったから、気分が良かった。
 しかも、桂木は、私がそのブランデーグラスを空けた頃にエレベーターにスタンバイするから、少し時間をおいて案内するように、とマネージャーに注文した。待合室での一服にそのように気を使った女は、桂木が初めてだった。その心配りが嬉しかった。
 私を部屋に案内すると桂木はすぐに裸になる。その間、私の来訪に間が空いていると必ず何か拗ねた言い方をした。
 私は、年の割に可愛い奴よ、と思いながら、服を脱ぎ、その日私が桂木の何人目の客なのかとか、当月の累計指名数を訊くのが常だった。
 しばらくは素っ裸で酒を飲みながら雑談をした。桂木がすぐにペニスに手を伸ばすから、私も、右手はグラスを持ち、左手で桂木の割れ目をいじくりながら談笑した。
 桂木のサービス精神旺盛なところが何とも気に入った。だから、下腹部が汗ばんでいないときには即尺を頼むこともあった。前日の夜に風呂に入って洗っただけのペニスを頬ばらせるのがとても愉しかった。
 浴槽に湯を張る間、最近桂木が体験したけったいな客の報告を受け、それから浴槽プレイに入るのがいつものパターンだった。
 俯せのマットプレイは、いつも桂木がマットに尻をぺたりと下ろし、両脚を私の太腿の下に潜らせるスタイルで始まった。その体勢の相互ヘビーペッティングは前屈が楽にできないと難しいから、なかなかこれができる女はいなかった。
 俯せの私が腰を少し浮かせているから、桂木はペニスから玉袋、菊座まで性感帯全体が弄いやすい。躯が柔らかいので、マットに尻を下ろして脚を投げ出した格好でも、両手でペニスを刺激しながら上体を倒して舌を菊座や蟻の戸渡りに這わせる愛撫が楽にできた。
 桂木は私の尻の後ろから金的を口に含んで揉んだりして、唇で陰嚢やアナルを弄うのが実に絶妙だった。同時に掌でカリ首を包んで絞る、その強さ加減が何とも心地良かった。
 私は右手でローション液をすくって、自分の股間から桂木の秘貝へ伸ばす。右手首がアナルに届くまで精一杯腕を突き出すと、中指が陰裂にぎりぎりに届く。クリトリスを探り当て、ゆらゆらと揺らした。
 桂木は喘ぎよがりながら、ペニスに猛烈な手淫を続ける。私もヒィヒィ喘ぎながら、ヌルヌルの割れ目を更に刺激した。
 その執拗な指の振動に殆ど到達しかかると、桂木はまだイクのは早いとばかりに秘所を私の指から遠ざける。
 上体を後ろにそらし、後ろ手で支え、膝を立てて、そのまま私の股間に腰を入れ込む。ペニスを掴んで引き寄せると、腰を浮かせて嵌め込んだ。
 私は俯せのまま、膝立ちして尻を上げ、下の桂木は頭が向こうの、向きが逆の格好だから、その体位で嵌め込むと、肉壺にくるまれた剛直のものは、全く尋常ではない方向へ突き進んでいた。
 奇妙な体位でも、桂木が膣でペニスを咥え込んで上へ突き上げるから、私は腰を殆ど動かせなくても抽送が愉しめた。
 俯せのマットの最後は、また最初のスタイルに戻り、再び、桂木からローションと掌を駆使した様々な愛撫を受けた。私も、待ってましたとばかりにまた陰裂に掌を当てると、その部分は何とも温かかった。
 私は指先をクリトリスに当てて振動させ、一方桂木は喘ぎ声を出しながらカリ首と睾丸を三本指と掌でこねくり回した。
 間隔の短い、ハ行かア行の声を上げてよがり汁を流す桂木は、もう気をやるのを抑える心はない。私がクリトリスを揉み立てるのに応えて腰をふるわせ、温かい下腹を私の尻にぶっつけるようになると、微妙に痙攣して気をやった。
「くーっ、イクー!」
 奥歯を噛みしめて、そんな卑猥な声を上げてアクメを迎えた。
 そして、休む間もなく今度は私をマットの上で仰向けにさせ、厳しい愛撫を続けた。ペニスにねちっこい指の演舞を続けながら、同時に唇を乳首に這わせた。
 私は長時間のペニスマッサージで、悦楽が昂進しすぎて悲鳴を上げているから、桂木が女上跨位になってペニスを嵌め込むと、むしろ刺激が弱くなってホッとした。
 その体位は、桂木が私に背を向けて上体をかがみ込ませ、私の伸ばした足先に向けて拝礼するような格好で、脚を折りたたんで丸みを増した大きな尻と太腿、粘液まみれの挿入部が私からもろに見えた。
 本来なら下腹に傾くはずのペニスが、肉孔に咥え込まれて下半身のほうにねじり倒されている。そのペニスで睾丸が押しわけられている。
 正面に見える、くすんだ色のアナルと、その下の如意棒が突入している赤黒い箇所が、ローションまみれの黒い髭に飾られてゆるやかに上下に揺れている。アナルから陰唇にかけての溝の地肌が、白熱球のぼんやりした明かりの下では、やけに黒々としているのが愉しい。
 桂木のマットプレイは、自分も快楽に耽り、また、私を悦ばせるのが愉しいというのが表情に表れた。私はいつも吐精を堪えに堪えて長いマットプレイを終えていた。
 マットの後の歓談はいつも大層長かった。
 桂木は、常連客の入浴を所定の九十分では終えなかった。
「ゆっくり、のんびりとしていたいから、予定の時刻にまともに終わったことがないの」
 でも、遅延も五分程度の時間ではなくて、必ず二十分、三十分と超過するから、店も困ることがあった。
「それで、『延長の料金は貰ったの?』と店から小言を言われると、『そんなの貰う訳がないじゃない!』と言い返してやるのよ。私のやり方が気に入らなければ、首にすればいいのに、一応、指名はしっかり取っているから、店も私を追っ払えないわよねえ」
 桂木はマスターズでは古参で実力があるから、店も小言を言うのはいつの間にか諦めたし、客のほうも、案内の時間が遅れてもお互いさまだと納得している、と説明した後、流し目で呟いた。
「でも、貴方には待たせない」
 桂木はそれほど活発に喋らなくても、ブランデーグラスの水滴の除去、たばこの着火からタオルで私の額の汗を拭う仕草まで、何事にも繊細に気を使うから、私はとても気に入っていた。
 マットでの、桂木の激烈な局部攻略のお返しに、ベッドではいつも丹念な愛撫をした。クンニリングスをする度に私は桂木の性器を熱い好奇心で凝視した。
 会陰も大陰唇も黒ずんでおり、陰裂の中がやけに赤黒かった。ラビアは奇妙なほど肉厚が薄く、その割によく飛び出していて、観音開きして大陰唇にくっつけると、形が大相撲の行司の軍配のようだ。ツルツルの赤っぽい肉面がとてもいやらしい。
 そのラビアはクリトリスから二筋出ていて、肉芽の下のところでつながっているのがよく判る。クリトリスに被る包皮が丁度頭巾のようになっていて、平静時には芽キャベツのように折り重なって皺になっていても、亢奮時には頭巾全体がふくらみ、クリトリスと包皮の間にぐるりと楕円形の隙間ができる。
 頭巾の縁が刃物のように尖って開いているから、しばしば見とれた。
 私は、いつも桂木に両脚をたたんだ格好をさせてクンニリングスをする。膣口やアナルが見えるように横から吸茎していると、色素の沈着した一帯を愛液が次から次へと続けて流れるのがよく見えた。
 桂木の喘ぎ声が明瞭なのと、華奢な胸を反らせてよがっているのが、ひたすらクリトリスを愛撫している私の気持ちを何とも昂揚させた。
 その愛撫で、桂木は一つの例外もなく躯をひくひくさせて到達し、そのとき私の如意棒は、桂木が触れていなくても、いつも挿入可能の状態になっていた。
 私は床に立ち、両手で桂木の腰を抱えて尻がベッドの端から飛び出るほどの位置まで引き寄せる。仰向けで深く膝を引いて尻が突き出しているのを見る度に、尻たぶの大きさと、その中央で毛に囲まれて、ぬめった湿地がパカッと露出しているのに目を瞠った。
 にんまりして、小陰唇を巻き込まないように押さえ、ペニスを割れ目の下端に突き入れた。マスターズのベッドでは、少し中腰の形であまり腰を低くせずに抽送できた。床上床下男上前位という私の一番の気に入りの体位だ。あらためて店のベッドがそんなに低いものでないと気づいた。
 その体位は女の全身と結合部がよく眺められ、激しく腰をスラストすることができて、カリ首が最大に張ってくれるので結構なのだが、ベッドが低いとどうにも腰がつらかった。
 桂木は恥骨が少し邪魔なくらいに下方へ張り出しているので、腰を落として菊座の側からへそのほうに向かうような感じで突き入れるのが、私にも桂木にも具合が良かった。
 マスターズのベッドの高さは、私がちょっと中腰を我慢すると一番効き目が発揮できる挿入角度になった。
 桂木の股の付け根に手をかけて、腰を引き寄せるようにして突き立てると、桂木はクリトリスを愛撫されているときと同様に、盛んに喘ぐ。身を反らして身悶えするから、私はますます我を忘れて昂揚した。ペニスは粘液にまみれたまま目一杯張りを増して、それが持続した。
 赤黒く漲った逸物を最大限の移動距離で動かしていると、やがて桂木はびくっと身震いして「イクー!」の一声で到達する。
 その絶頂が四度になることもしばしばだった。
 気をやるときの顔をなんとか見ようと思っていたが、いつも桂木が思い切り躯を反らしているので、顎と鼻孔しか見えなかった。
 私のほうも、まだしばらくは持ちこたえられそうだ、と思っていても、桂木の、顔も肩も揺すりながらの妙なる一声を聞くと、何故かいつも腰の中心のどこかにむず痒いような感覚が走って、あっという間にマグマを噴出していた。いつも射精への圧力が限界まで昂まって、備蓄されるべきザーメンまですべて放出したような虚脱感だった。
 その時桂木の膣は、萎縮して抜け落ちようとするペニスを離すまいとくわえ込みを続けるから、私は桂木に全身を預けてしばし余韻を愉しんだ。
 交わる度に、この膣は最高だ、と感嘆した。
 息が治まると、キスをしてから躯を離し、割れ目から垂れるザーメンを確認して、感想を卑猥に述べた。
 桂木は卑猥な表現で返すことはなく、いつも「あー、気持ちよかった!」程度の表現だ。でも、燃え尽きた顔をしているし、乱れたシーツに目をやると、毎度染みが見事だから、とても愉しくなる。
 萎れたペニスをティッシュで始末すると、すぐにたばこを一本取り上げて私に差し出した。それまで多くの女と馴染みになったが、桂木だけは、あれやこれやと言わずに黙って男に尽くす女だった。

 桂木に初めて会った時、私はラピスがまだソープで働いていると聞いて驚いた。
 ラピスは宝石で見つけ、熱心に通いかけていた女だった。通いかけていたというのは、半年ほど会っていたら店が警察の手入れを受けて、ラピスが行方不明になってしまったからだ。
 四年前初対面の時、私はラピスに一目惚れした。切れ長の眼の細面の美人で、黒髪も美しく、話す雰囲気が女らしかった。ラピスの顔と話し方に、知的で楚々としたものを感じた。それに、すらっとしたしなやかな躯をして、好みの柳腰の女だった。
 ラピスは金津園歴が短くて風俗嬢ぽくないから、そのことに私は惹かれた。しかも、雑誌に顔出しをしていないから、常連客が少なくて、まさしく掘り出し物に思えた。
 そして、ラピスはエクスタシーの経験も少ないようで、私の情熱の愛撫に素朴に感動した。
 私は何故かラピスには卑猥なことが言いにくく、あまり冗談も言わなかった。短大でも出ているのかと想像し、珍しく下ネタ話を控えていた。勿論、後年のように、性技指導なんかをすることはなかった。
 服装がセンス良く、物腰が丁寧で、それがその仕事のために無理に自分を作っている感じが全くせず、何でこの仕事を?と心底怪訝な気持ちにさせる女だった。くだらない男が来ると、心を閉ざして無理に商売はしないと見受けられた。
 愛撫をあまりしなくても、ラピスにはそれを気にせずに通った。真面目そうな性格で、熱烈なフェラチオを期待するのは無理のような気がしたし、喋るのにも私は少し気疲れを感じたりした。
 話が高尚というか真面目で、純情そうで、猥褻な気分とは遠く、また、ラピスがする愛撫はおとなしいものしか期待できないから、ペニスが雄々しくなってくれるかしら、といつも心配した。
 ラビアもクリトリスもそれほど飛びでてなくて、幼い形をしていたし、感度が鈍かった。ラピスを到達させるのにかなり時間がかかるから、私は困ったが、女らしい仕草が魅力で、いつも抱擁はとろける想いがした。
 他の店よりもかなり大きいベッドの広い面を充分に使い、ラピスの両脚の間で腹這いになって無心に吸っていると、ラピスの喘ぎ声が長い階段をじっくり登るが如く徐々に高揚していく。次第に乱れが深まり、広いシーツの上で、いつも腰を中心にして上半身を時計の針のように進めていった。
 ラピスが上りつめた頃には、私は結局ペニスを怒張させ、Vの字に立てたスリムな脚を小脇に抱えて腰を動かしていた。
 一戦が終わると、私の肩にその細面の頬を当てたりしながら、必ず何か感激の言葉を囁いた。金銭が対価の情交とは思えぬ情緒があった。私が訪れると、いつも、ラピスは嬉しさを噛み殺しているのではないかと思ったりした。
 ラピスの、フレアースカートを床に拡げて横座りし、楽しそうにブランデーのロックを作るロングヘヤーの姿を、毎度楽しく眺めた。裸姿よりもその姿のほうを鮮明に憶えていた。
 初会のとき、金津園に来て半年だと言っていた。
 私は自分がラピスにエクスタシーを与えた最初の男なのでは…、と想像していた。それを尋ねてもはにかむだけだった。
 私は、久し振りの上玉だとわくわくもしたし、通い続けていても、最初の清純な雰囲気を失うことのないように願っていた。なかなか情趣のある女だった。
 しかし、そのうちに宝石が覚醒剤か何かの問題で営業停止になって、残念ながらラピスの行方が全く判らなくなってしまった。初会から半年後のことだった。当時私は随分気落ちしていた。
 ソープで働こうとする女は、すぐにやめてしまうのを除けば、二、三年で上がる女と、随分長く働く女と、この二つにはっきり分かれる。私は、ラピスが前者のタイプだと思っていた。
 桂木の話では、しばらく前にラピスからたまたま電話がかかって、黒騎士の客の入りが悪いことや、手取りが少ないことをぼやいた。
 桂木はラピスに、マスターズと黒騎士は同じ九十分の店なのに、手取りは三千円以上も開いており、マスターズのほうが客の入りが断然いいことを指摘し、黒騎士から出ることを勧めた。
 一日客が全くつかない日や、ついても一人だけの日がしょっちゅうあるならば、嫌にもなるだろう。優しい感じのラピスが、器量もいいのに指名が取れないのを、私は意外に思った。
 ラピスはもの静かな女だった。だから会話がつまらなくて、存外と客が定着しないのかとも想像した。
 黒騎士は昔から女の品揃えが下手で冴えなかった。柱となる人気の女がいなかったから、店の立地は角地で良いところだけれども、客が少なかった。店の男も、横着な態度の奴か、間の抜けた感じの奴が目立った。いいところと言えば、金津園の中でベッドが一番高いことぐらいだった。
 そんな店にいて、歳も三十が近い筈だから、ラピスは固定客が少ないのかと私は想像しながら、桂木がラピスと宝石にいた頃の、金津園のどの店も絶好調だった時期の昔話を、初会の桂木としていたのだ。
 私は桂木に、ラピスの黒騎士での源氏名を聞き出すように頼んだ。
 回答が待ち遠しかったが、一ヶ月後にその答を聞いて、私はまた仰天した。

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