夏美 2

 私は助平心を躍らせて翌週再び夏美に会った。
 夏美は早速私に常用の煙草の銘柄を尋ねてメモをしたが、即座の再訪を嬉しがるようなあまい表情を見せなかった。
(澄ましているな。畜生、愛想悪いぜ。この前は、あんなに股を開いてヒィヒィよがって、ベトベトに濡れていたくせに、何にも存じませんという顔をしてやがる。拍子抜けするぜ。よし、この間よりもっと淫乱にさせてやるぞ。今日はこいつにフェラチオさせてやる。ベッドで強烈な69の、おフェラとクンニリングスの競演だ!)
「今日も助平になるんだよ、少なくとも僕が来たときは」
「うん、助平になる!」
 意外にも間髪を入れず高らかに返した言葉が可愛い。垂らした前髪を揺らし、眼を見開いて叫んだ顔が、それまでのすました表情を一変させて、何やら近しい人懐っこさがあった。
 マットは、前回教えなかったことを中心に、上級マットテクニックの幾つかをさせた。
 メインテーマは、私が俯せの形では、腿の下に夏美が両脚を差し込んで、私の腰を浮かせてするペニス揉みと金的の舐め吸いだ。そして、私が仰向けになったときには、添臥して右の掌でカリ首を包むようにしてさすりながら、左手は私の首筋に捲いての情熱的なディープキスだ。
 夏美がそのように淫奔で激しい愛撫も、恋人にするようなサービス度満点の抱擁も、したことがなかろうと思って意欲を燃やした。
 素直に夏美は努力していた。マットにお尻を下ろして、太腿を私の腰の下に差し込み、足先を肩口のほうに伸ばした姿勢で、両手でカリ首や睾丸を弄るのが、私が細かく指示の声を出す度に、愛技と呼べるものに変わってきた。
 カリ首を揉みこすりされる度に男が鋭敏に反応を返すのが面白い、と思っているに違いなかった。
 両脚を差し込んだまま、上体を屈ませて金的の舐め吸いをするのは、夏美の躯が固過ぎて唇を届かせることができないので、私は、夏美に両脚の間に腹這いになってするようにアドバイスした。
「マットの上で向こう側に脚を伸ばしてやってみたらぁ。ローザも由美もあまり深く前屈ができないから、いつも腹這いになって攻めているよ。二人ともおちんちんを手前に引っ張り出して、上手くフェラチオするんだぜ。玉々さんだってパックリ咥えて、口の中で転がすんだよ」
 私は、怒張した逸物を後ろに押し倒されて、張りが増した穂先を弄われるのが好きだった。
 夏美がペニスを握っても、手を深く股ぐらに入れ込んで、自然な角度のままでこすっているから、私は再度「引っ張り出して!」と求めた。
 夏美は言われるままにペニスを深く握っておずおずと引き寄せた。
「こんなふうにして痛くないの?」
「ちっとも痛くないよ」
 後ろに向いた肉棒の先を唇で包まれるのがわかった。
 初めは接触感がある程度のおずおずとしたフェラチオだった。でも、私が煽り立てると徐々に大胆になって、手頃な吸い立てに近づいた。
 夏美の気持ちの変化が唇の陰圧と手の仕草で伝わると、私の心は昂まった。ペニスの先走り汁が口の中に入るのを金輪際忌避していたと思われる女が、唆されて長々と吸引の強いフェラチオをするのはとても愉快だ。
 私がマットに仰向けに寝ると、そこに夏美が寄り添い、ペニスを順手やら逆手やらで握ったり、二本の指で挟んだりして、カリ首を手揉みするマットプレイの基本動作を教えた。
 夏美は掌を充分に穂先に絡ませ、接触も深く執拗に揉み込むようになった。
「こんなに強くしても、痛くないのねえ。私、知らなかった!」
「女と男は違うよ。男だってちんちんの皮膚が敏感な奴もいるけれど、日頃ちゃんと剥けているペニスならば、こすられることには強いものだぜ。……ちんちんをこすりまくるのは愉しいだろう?」
「うん」
「おーっ、いい揉み方だ。きくー!」
「ふふっ」
「おちんちんはね、とにかく工夫して、いろんなやり方でこするんだ。滑りが悪くなったらローションを塗るんだよ。……片手でカリ首を握りながら、貴女は口が暇なんだから、ここでディープキスをするんだよ、嫌な奴でなかったら。……僕は嫌な奴ではないだろう? ちんちんをこすられながらキスすると、とっても男は気持ちいいんだ」
 夏美が笑顔でうなずいた。
 しかし、そのキスは唇もあまり開けず、私の舌も受け入れない慎み深いものだった。かなり気安い態度になって、調子よく進行しているのに、それでも軽い接吻にとどめているのが、私は不満だった。
 マットプレイでは、キスについて何も注文はつけないことにした。ベッドで、口をしっかり開けた、全てを吸い込むような、互いの舌と唇が戦い合うような、親密なキスをさせてやろうと考えた。
「君はマットプレイでは頬にローションがべっとりとついたことは多分ないんだろう。今度僕が来たときには、頬にローションがべっとりとつくような攻め方をしてよね」
 ローションを流している夏美の頬を撫でながら冷やかすと、夏美がにっこりした。

 休憩のひと時になった。
 夏美は全裸のまま私の横に腰を下ろした。
 先日の入浴の時に乳房に触れていると夏美が言った。
「私、いつもはここをさわられると嫌な感じがして冷たく拒むのよ。でも、今日は違うの、感じるの」
 私はそれを思い出して、その日は乳首を弄いながらお喋りしようと考えた。が、夏美が私の横にぴたりとくっついて座って寄りかかるとすっかり嬉しくなって、そんなことは忘れて話をしていた。
「君はお尻の穴のまわりに黒い太い毛が生えているのがいいなぁ。あの毛に、うんこの滓がつくと思うと堪らなく猥褻だよ」
「嫌だぁ、そんなもんつけないわよ。だけど、みんなに見せて貰うと、あそこが綺麗な女の子って多いのねえ。私、鏡で覗いて嫌になっちゃった。色は黒いし、下のほうまで毛が生えているから」
「その程度の生え方なら、かえって卑猥でいいんだよ」
 ソープ嬢は陰裂下部の毛を処理していることが多いから、夏美の髭を生やした割れ目は何とも猥褻だ。
 夏美の眼は少し垂れ眼だが大きい。鼻も顔の割に大きくて丸い。でも、鼻の背はまっすぐで形がいい。顔の輪郭はただ丸いだけで、頬が目立ちすぎ、口と顎は小さくて口許は突き出し気味で、どう見ても美人ではない。
 でも、好意的に言えば個性的な顔立ちをしている。眼を大きく開けると素っ頓狂な顔になる。黒髪が長いのは私の好みだ。
 背丈は少し低めで、肌は色白というほどではないけれど張りがある。躯の曲線が女らしくはっきりしていて、肉がつくべきところにはちゃんとついており、器量が冴えなくても結構肉感的だ。
 四捨五入して三十の歳だろうとは思うけれども、顔立ちが幼げに見える時もあるので、由美と同じぐらいの歳の可能性も考えられた。
 私は一応第一感よりも若く見立てて、「由美と同年齢ぐらいなのかな?」と尋ねると、夏美が困った顔で一瞬間を空けてから、聞き返した。
「梓ちゃんは貴方にいくつと言っていた?」
「確か二十八だろう」
「私、梓ちゃんより一つ上」
「二十九歳のソープ嬢にしては、君は正しいセックスを知らなさ過ぎるよ。そりゃー、問題だよ」
 驚いた顔をして夏美を冷やかした。

 私は夏美を煽って、とにかく梓や由美やローザのように能動的に愛撫をさせたいと思った。
 由美とローザがいかに上手に玉吸いを行い、いかに熱情込めて菊座を舐めるかを、卑猥な言葉を並べて具体的に説明した。次に逢うときには、夏美が尻の穴を舐めるぐらいに一大変身をさせようと考えた。
「由美ちゃんもローザちゃんも、僕の玉々は毛が少なくて変な臭いもなくて、だらしなく垂れ下がってもいないから、とっても舐めやすいし、お口でマッサージしてあげるととっても悦んでくれるから楽しいわ、と言って、上手に僕の玉々を口の中で転がすんだよ。お尻の穴もぺろぺろ舐めるんだぜ。僕が頼まなくても、君のこの可愛いお口の中に僕の皺だらけの汚い色をした玉々さんを入れるんだよ」
 夏美が目を丸くして私の顔を見つめた。
 この人、何という助平!と夏美が思っているのではないかと想像した。
「さあ、しようか」
 夏美がベッドに上がって、四つん這い歩きで中央に進んだ。
 床に腰を下ろしていた私は眼よりも高い位置で夏美の尻の谷間を見ると、むらむらっとした。
「待った!」と声をかけ、背後から夏美の尻を両手で押さえた。
 掌で丸みと肉の弾力を確かめるように撫で回しながら、尻のくぼみに唇を押し当てた。それまで座っていた尻だから、狭い尻たぶの間はムワッとするような温かみがあった。
 私は先程の会話を思い出し、尻の谷間に顎を挟み入れたまま卑猥な動作を実演した。
「由美もローザもこうして、このくらいの圧力でお尻の穴を舐めるんだよ」
 夏美は無言で舌の当たる感触を確かめていた。
「どぉ?……お尻の穴、舐められるの、気持ちいい?」
「ううん」
「なんだぁ!」
 室内の明かりが最高にしてある中で、夏美が仰向けに寝た。そのまま夏美に両脚をたたませて、またクリトリスを攻めた。
「助平になるぅ!」
 夏美が股ぐらを大きく開いたまま呟いた。クリトリスを刺激される心地よさに痺れ、思わず口走った言葉が何と可愛いことか、と嬉しくなる。
 夏美は完全に性器を私に預け、次第に喘ぎ声を高めた。割れ目が潤ったところで、少し強引か?とも思ったが、夏美の胸を跨いで顔にペニスを近づけた。
 見た目凌辱的なフェラチオの強要だ。でも、右手を伸ばして、中指で優しくクリトリスをタッピングしているから、夏美が相互愛撫の一つとして気持ちよく肉棒を咥えることを期待した。
 先走りの淫水でべとついたペニスを口に含むのを嫌がって、先にティッシュで拭く女もいるが、夏美はどうするのかな?と私は一瞬考えた。
「吸って、ちんちんを!」
 夏美は何ら怯むことなくカリ首に飛びつき、そのまま激しい相舐めになった。ペニスが見事に勃っていた。
「玉々も吸って」
 温かい口の中で金的が転がっている。棹も舐め、睾丸も含み、同時に夏美は淫らに股を開き、唇と舌で執拗にクリトリスを攻められている。
 私は漲ったペニスの先が終始気持ちよいし、夏美も目くるめく快感に時折腰を震わせている。
(普段は客にNGばかり出しているようだから、夏美はこんな強烈な交歓プレイをしたことがないだろう。きっと初めてに違いない)
 そう思うと、夏美の「女」に感激した。女に初めてさせる相互オーラルセックスほど心地よいものはないとつくづく思う。
 ためらいながらも、夏美は情熱的なプレイをすることの愉しさが充分わかったようだ、と私は思い、セックスプレイの仕上げをどのようなエロチックな行為にしたらいいのか考えた。
 顔を離して、べとべとになった割れ目から滴る愛液を中指の先にすくい、その指で、充血したクリトリスをゆらゆらと揉んだ。
 夏美が顔を眺められながら指で弄われることに全く抵抗感がないのを確かめると、中指一本を震わせたまま起き上がり、夏美を左手で抱き起こした。
 夏美は全てをまかせるように脚を大きく開いて、私の指の演舞に喘いだ。
 私は夏美の右脇に寄り添って両足を投げ出した。左足を膝立てて夏美の背中にあてがい、右足は夏美の右足の下を潜らせ、臑で夏美の左足を押しやり、膝頭で右足を引きつけて、夏美に大股開脚を続けさせた。
 そして、左手で夏美の項を支えて顔を引き寄せ、右手は休むことなく、クリトリスを優しく弄った。
 夏美は大股開きの淫らな格好のまま、上体をひねって左手を私の右肩に伸ばし、右手は意外にも、ねっとりとカリ首に這わせた。
 上体が少し屈んでいるから、下腹がぽっこりと丸くなって可愛い。
 夏美の眼を閉じた顔が完全に上気しているのを認めると、愛液で濡れた唇を夏美の唇に寄せた。
(マットのときと同じの淑やかなキスしか応じないか、情熱に満ちた激しいのを許すか、それとも自分のお汁で濡れた私の唇を嫌がるかどちらかな?)
「もっと口を大きく開いて!」
 意外にも夏美はしっかりと唇を押し当て、舌を私の唇の中に突き入れた。
 互いの舌を絡ませ合い、口内の息も唾も吸い合い、同時に女芯を揉み、揉まれる女芯からの快感にひたりながら、相手の全てを受け入れる、男と女の陶酔の情交を繰り広げることができた。
 私の背中に当てた夏美の掌は熱く、二人の忍びやかな呼吸音が部屋の中に満ちていた。その日も夏美はシーツに湿った模様を作ってアクメに到達した。
 私はペニスが充分張っていても、すぐには嵌めず、気をやった夏美にまたフェラチオを求めた。ペニスの吸引と唇のこすり立ての強さを観察し、夏美がカリ首のエラにしっかりと唇を引っかけて熱烈な奉仕をすることに満足した。
 ここまで来るのに、おだてたり言い聞かせたりして、だいぶ手数がかかったぜ、と感慨を覚えた。
 挿入の潮時かと手を伸ばし、内股に触れて、合体の合図をした。
 脚をたたませた屈曲位は、女体の丸みが強調され、いい眺めだ。リズミカルに腰を送り込むと、夏美のよがる表情が丸顔の割には実に妖艶で、どうにもたまらないほど欲情した。
 腰を使いながら口づけすると、情熱的なディープキスの返礼だ。亢奮が夏美の唾液を粘らせ、その口も肉壷も共に温かくてヌラヌラしている。コンドームなしでペニスを嵌め入れているから、ヌラヌラがよく感覚できる。
 眼を瞑ってむさぼるようにキスをする夏美の上気した顔を見て、私は狂おしい気分になった。夏美の昂揚ぶりを観察する冷静な心が飛んだ。
 夏美の膣はゆるくて、濡れていると抽送にどうにも抵抗感がなくなる。しかし、それは亢奮が最高潮であればさほど問題ではない。鼓動も激しく抽送すると深い射精の予感がした。
 打ちのめされるような放出感があった。その時夏美は両腿で私の腰を強く挾んだ。
 夏美の股の間にしゃがみ込んで、膣口から精液が垂れるのをぼーっと眺めていると、「すごいわ」と夏美が呟いた。
 普段と全然違うセックスをした夏美に、私は真心と「女」を感じ取った。
 夏美は、私が店の皆にマットの講習をしたらどの女も人気が出る、と言った。でも、テクニックは教えられても、ぐっと来るムードは天性のもので、他人が教えて何とかなるものではない、とつくづく納得した。
 三度四度と逢う回数を重ねる度に、夏美のカリ首攻めが上手になった。厳しいフェラチオをして、激しく勃起させるのを愉しく思うようになったに違いない。それに、ベッドのムードが何とも味があって、私は毎度相互オーラルプレイに没頭するようになった。
 梓と由美とローザの三人は、自分が気持ちよくなるときには攻められることに専念したいと言うから、その三人と相互のオーラルプレイを殆どしたことがなかった。だから、夏美とは濃厚な69が愉しめることで大層気をそそられた。
 しかも、それまで夏美は客に全くサービスらしいサービスをしていなかったのに、別人のように熱烈な愛撫をする女に変身させた。無上の痛快な気分だった。
「しかし、貴方、この小さな躯のどこにあんな力があるの?」
「ははぁ。僕は君の隠れた魅力を発見できて嬉しいよ」
 店は必ずコンドームを使うように厳しく指導しているのに、由美とローザは私に純生性交を許していた。それに続いて夏美までがゴムを使わなかったことが、私は不思議だった。夏美は梓と仲が良い。生を許さない梓に仕返しできた気分だった。
 夏美ははっきりとは言わないが、初めてアクメを体験し、感謝の気持ちで特別待遇をしたようだ。
「私、貴方に開発されたのよ」
 そんなふうに媚びられると、私も、助平な夏美を思い切り猥褻に攻めてやろうと思った。
 ローザにもしたことがあるのだが、夏美を立たせたままその脚の間に座り込み、陰阜を吊り上げてクリトリスを吸った。
 夏美は片足を上げ、割れ目を突きだして協力した。
 どんな客もさせたことのない猥褻なプレイで、夏美は淫らな気分になったに違いない。しかし、上を向いて攻めるのは、結構首の根っこがつらいものだ。
 私の誘導に応じて、オーラルセックスの愛技を次第にエスカレートさせ、全く意外なほど素直に淫らな女を演ずる夏美に、私は胸が締めつけられるような愛らしさを覚えた。
(夏美の「女」はまだまだ開発できるぞ。しかし、由美にローザに、また、魅力的な女が増えて困ったな)
 夏美がラブジュースを流して燃焼し、陶酔の女体の様を見せつけ、いやが上にも心を揺さぶるから、私は夏美にのめり込みそうな予感がした。

 十一月に三度、十二月に三度、一月に二度夏美に会った。
 梓や由美やローザにも毎月入浴していたけれど、夏美に会った時の亢奮ぶりは一段と激しかった。
 それは、夏美が並々でない好感を抱いていると思えたからだった。とにかく、夏美が私に会って変わったのが愉しい。だから、狂ったように短い周期で予約した。
 ところが愉しい遊びは長くは続かなかった。
 恵里亜が一月の下旬に警察の手入れを受けた。それは、私が夏美に入った翌日のことだった。
 梓も夏美も由美もローザも売春容疑で警察の取り調べを受けるのは初めてのはずだ。夏美は気落ちして、それを潮に仕事を辞めてしまうかもしれない。
 ソープ以外の仕事はできないと開き直って金津園のどこかの店に出ても、夏美は雑誌に写真を出さないから再会するのがとても難しい。夏美に会えなくなるのではないかと心配でたまらなかった。
 最後に会った日、ベッドで抱き合う前に、夏美が言った。
「店がフリーの客を当ててくれなくなったような気がするわ。店長、私を首にしたがっているのかもしれない。そう思うの。……もし、私がここからいなくなったら、私のこと、ローザちゃんに聞いてね。ローザちゃんには絶対に教えておくわ。さっきのは私の思い過ごしかもしれないけど」
 夏美はローザと歳が随分違っても親しいようで、ローザの名前を出して思いがけないことを言った。何故かそれが半ば現実の話になってしまった。
 私は、夏美より先に通っていたローザも由美も失いたくなかった。ローザは六ヶ月前から通っていて、とても人気のある可愛らしい女だ。由美は一年前から通っていて、これまたぞっこん惚れ込んで通っていた。
 この二人に会えなくなるのは大変悲しいけれど、親愛の気持ちをまともにうち明ける夏美の顔が見えなくなるのが一番とんでもないことだ、と感傷に溺れた。
 私のように、いつも背広にネクタイ姿でソープへやって来る客がそれほど大勢いる訳ではない。
 由美も夏美も、父親がネクタイをつけることはあまりないのであろうか、私がネクタイをつけるのをじっと見つめている視線に気がつくと、結婚して、朝、夫にネクタイを差し出す姿でも空想しているのであろうかと想像し、微笑ましく思った。
 金津園で働く通常の年齢には少し遠い二十九歳の夏美は仕事を辞めてしまう可能性が高い。由美、ローザ、夏美と全部逢うことができなくなったら、一体どうしたらいいのだろうと途方に暮れた。掌中の玉をもぎ取られたような厳しすぎる痛手だった。
 もし、手入れの時に店に出ていて売春の現行で挙げられたなら、どんな気持ちだったのだろう。
 売春防止法は、それをする人間というよりは、それをさせた者を処罰するのが狙いだ。だから、現行の行為をしていた女は、「店にその行為をさせられた」と申し立てをすることになる。
 街角の「立ちん坊」は自分で客を勧誘するので、売春防止法による取締りは「立ちん坊」には厳しいが、自分で客を勧誘するのではないソープ嬢にはゆるいようだった。
 午後の三時か四時に護送車に乗せられた女達は、調書の作成が終われば、十時には放免される筈だ。それまでしっかり絞られて応えるだろう。
 一回目、二回目の検挙なら取り調べだけで終わり、警察に「売春組織から保護された」形になるだけだが、三回目ならば常習犯として刑事罰を受けるのだ。三人の女は常習犯扱いされることはなくても、初めてならば気落ちも深かろうと思った。
 でもやはり、その三人が、高所得のソープ嬢をやめて堅気の仕事に代わるとは思えない。しかし、由美も夏美も雑誌に写真を出さないから、探索するすべがないと思うとすっかり途方にくれた。
 一月に逢ったとき、夏美は「貴方のように頭のいい子を生んで育てるにはどうしたらいいの」と言った。その眼には母親願望があった。
 クンニリングスで夏美が相当昇りつめると、私の肩に手を差し伸べて、絞り出すような喘ぎ声で言った。
「私、貴方が来るのを待ってたの、もう来てくれるかと。本当に待っていたのよ」
「今日(の客)は貴方だけだけれど、貴方が来てくれれば、私はもう充分よ。嬉しいの」
「貴方が私にさせたすごいポーズを家で思い出して熱くなるのよ。あんなに股を開いて、と思い出すの」
 夏美がこんな心を揺さぶるベッドの睦言を、普段の声とは全く違うか細い声で囁いた。私はその時照れくさくなった。
 長年金津園に通って、馴染みの女が指名来訪を待ちわびるような交遊が何度かできたけれど、夏美ほどに好意を示した女は初めてだった。
 私は、夏美がどこの出身なのか、親兄弟がどうしているか、どんな学校を出たのか、独りでマンションに住んでいるのかどうか、そのような個人的なことはまだ一切尋ねていなかった。僅かに、恵里亜に出る前は弁当屋で働いたことを聞いたぐらいだった。
 私が手編みのセーターを着ていると、夏美はしげしげと編み目を観察した。
 ソープの女で私のセーターを見て「わー、これ手編みでしょ」と声を出したり、編み目を確かめるのが、十人のうち一人二人はいた。いつも手編みのセーターを着て大勢の女に逢った訳ではないが、そう思った。
 部屋に迎え入れるなり、セーター姿で立たせたままで盛んに編み方を研究する夏美を見ると「僕は助平をしに来たんだぜ」と言いたくなるようなふんわりとした女だった。
 二度と逢えぬかもしれないと思い悩んだ。

 私はしばらく絶望の底に沈んだけれど、ローザがヴィーナスにすぐ出て雑誌に写真が載ったので、三月の初めにローザに会うことができた。
 ローザに会って、由美がルネッサンスに出たこともわかった。全く食欲がなくなるほど心配したわりには、すんなりと由美やローザと再会することができた。悶々とした期間は二ヶ月足らずだった。
 しかし、夏美とは会うことができなかった。夏美を失ったのが痛手ではあったけれど、夏美よりつき合いが長くて、それだけに親しさも深い由美とローザが金津園に残ったことで、どうにもならない未練の気持ちを絶つことにした。
 当時金津園には警察の手入れが頻繁に行われ、金津園に見切りをつけて吉原や福原や雄琴などに行く女が多かった。この騒ぎで客も激減した。
 恵里亜の女では、梓の他何人かの売れっ子が吉原へ行き、ローザの話によれば、夏美も梓を頼って吉原へ行ったようだ。更に、一旦は金津園の店に再就職した由美までが、三月末には夏美の後を追うように吉原へ行ってしまった。
 私は心底がっかりした。結局ローザ一人に通い続けることになった。
 金津園はどの店も検挙を受ける虞があったし、会ったことのある嬢で金津園から吉原に行ったのが、梓、夏美、由美を含めて八人ぐらい確認できた。その女達は吉原では料金が六万円程度の高級店に入ったのが多かった。吉原は金津園とはまるで客の入りが違い、収入が倍増すると言っていいぐらいだと噂を聞いた。
 ローザから、吉原で働く女の、風の便りに届くうわさ話を聞く度に、夏美も由美も、さぞや稼ぎまくって東京の生活を楽しんでいることだろうと想像した。
 しかし、私は、二人が岐阜市近辺の育ちだけに、金津園が落ち着けばいずれ戻るだろうと期待していた。親には内緒の仕事のはずだから、吉原で働くのは長くならないだろうと想像した。
 ローザが前年の夏恵里亜に入店したときに、五つ以上年上の、夏美や梓のような貫禄のある姐さんぶりに驚いたと想い出話をした。
 入店した日ローザが控え室に一人でいた夏美にトイレがどこかを尋ねたら、「そっち!」と突っ慳貪に答えられて、おー怖い、と思った。
 それでもローザはめげずに、夏美に仕事のことをいろいろと質問したら、見かけはぶっきらぼうでもなかなか親切な人だとわかった。それでローザは同じ班の夏美を何かと頼るようになった。
 だから、夏美が吉原に行ってしまったのはローザにとっても寂しいことだった。
 私はローザとよく夏美や由美の想い出話をした。
 一月に営業を停止した恵里亜は秋頃営業を再開できるはずだった。私はローザと毎月会うたびに、夏美や由美が恵里亜に戻るだろうかと話題にしていた。新装開店が待ち遠しかった。

 平成六年十二月に、私は営業を再開した恵里亜に入った。それで、期待通り店に戻った由美と再会できて大層喜んだ。由美も復帰後の最初の客が私ということで、嬉し涙を流した。
 由美は私の得たい情報を知っていた。
 夏美が既に吉原から金津園に戻って重役室にいると言った。重役室での源氏名がみさきであることも知っていた。由美だけでなく夏美まで居所がわかって、私は大喜びした。待ちこがれた十一ヶ月は長かった。
 早速重役室の夏美に会いに行った。
 夏美は私が常連で通った女の中では全く平凡なタイプだった。容姿は十人並みで、格別にお喋りが面白いということでもなく、また、性の技は何もしないに等しかった。ペニスの弄い方は私が教えたようなものだ。
 それでも、前年の十一月から一月までの恵里亜での短い期間で、私は度々夏美を指名し、充分に恋愛気分にひたった。夏美の閨の囁きは私の心を激しく揺すった。夏美も、私に並々ならぬ関心を寄せているのではないかと思った。だから、夏美にとにかく会いたかった。
 夏美が出ている重役室は、昔は金津園の中で最も料金の高い店だった。部屋が広くて、言葉遣いのしっかりした立ち居振る舞いの洗練された女を集め、ハイグレードを誇っていた。
 警察の検挙騒ぎがすっかり収まったその頃は、重役室よりも料金の高い六万円の店がいくつか出てきて、料金の高さでは金津園の中で四、五番目ぐらいになった。
 引っ込み思案の夏美がそのような高級店に出たのが不可解だった。
 由美の話では、夏美は吉原で、恵里亜の他の仲間と同様に六万円の高級店にいた。そこで高所得の年輩の客を相手にしっかりと勤めることができたから、自信もつき、金津園に復帰するに当たって、恵里亜より少しでも手取りの良い店を選んだのだろう、と想像した。
 由美と違って、夏美は恵里亜へ戻ることを必ずしも望んでいない可能性があった。恵里亜が手入れされる直前に逢った時、夏美は、店長が首にしたがっているようだと疑っていた。
(あいつが、由美やローザよりも格上の店を選ぶなんて、冗談じゃないぜ)
 夏美が料金のはる店に出たのが癪だけれど、私の顔を見て夏美がどう反応をするか、それが楽しみだった。
 重役室の待合室の深々としたソファーに座り、胸をはずませて案内の呼びかけを待った。
 ボーイに呼ばれてエレベーターの前に向かうと、懐かしい夏美が静かな顔で立っていた。
 扉が閉まってボーイの目が届かなくなっても、夏美は再会を喜ぶ言葉も出さず、相変わらず接客下手というか、感動的なポーズが全くなくてがっかりした。
 あら、貴方また現れたのぉ、というような軽い表情だった。
 吉原から戻った由美は、昔の常連客で、一通りでない印象の男が突然現れると眼を潤ませた。その濡れた眼が私はとても嬉しかった。
 それがローザならば、「わぁー、××さん、来てくれたのね。どうしてここがわかったの。嬉しい!」と小躍りして、こぼれるような笑顔で叫ぶに違いない。
 年増で平凡な器量で、男にうち解けることがまるで下手な夏美に、私のようにいかにも恋い焦がれたと思えるような、集中的に指名入浴をした男はいないだろう。その私が、夏美が金津園へ復帰するとすぐにやってきても、夏美は全く表情を変えずに落ち着き澄ましているから、何という女だといささか拍子抜けした。
 私は、非難めいたことを言ってやろうと思って、由美が再会の時に見せた動揺のシーンを説明した。
 夏美が返した言葉は、「由美ちゃんって、ああ見えても本当に純情な子よ。すぐに涙を出すんだからぁ。もっと強くならなきゃ駄目よ。でも、いい子よねえ」で、夏美を咎める真意をさらりとかわされた。
 金津園に復帰するまでのことをしばらく語り合い、夏美が裸になってからの行動に驚いた。
 恵里亜の時は誘っても応じなかったのに、夏美が一緒に風呂に入った。湯船の中で膝を使って私の腰を持ち上げ、湯面に突き出たペニスに丹念にフェラチオした。かなりの陰圧で吸い込み、唇の裏側までべったりとカリ首に絡めて、誠心誠意の前後運動だ。
 石鹸で洗う前にそんなことを夏美がするとは想像できなかった。
 私は、潜望鏡と呼ばれるプレイがそれほど猥褻で亢奮を呼ぶものだとは思わないけれど、今までしなかった女が突然するようになったというのは何とも気をそそられる。
 更にマットでは、もともと夏美はかける時間も短く、ペニスにねっとりと指を使ったり、ねちっこく玉舐めやアナル舐めをすることがなかったのに、久し振りに会うと、こういった愛撫を一通りこなし、私を感嘆させるほど巧くなっていた。
 俯せで膝をついて尻を突き上げた私の股ぐらに、おちょぼ口から舌を突き出し、アナルや金的を長々と愛撫した。時には激しく舐め揉みをしたりして、口が疲れるほどの愛技をしながら、指をしなやかに動かし、絶妙の密着と圧迫でカリ首をさすった。
 ペニスの幹全体に手を上下させるのではなく、私が教えた通りテラついている亀頭だけいじくりまわして、指がふやけてしまうぐらいに継続的で過激で重厚なペッティングだ。
 夏美からそんなサービスを受けたのは初めてだ。口と両手を同時に動かすのも初めてと言っていい。
 恵里亜で夏美に通ったのは僅か三ヶ月だけれども、その間集中的に通って、夏美が返る客を増やしたいと思うなら、あまいことも言い、カリ首を徹底して攻撃するぐらいにサービスして、男を悦ばせなければいけないと教えた。
(梓のような超美人なら放っといても男は来るけれど、あんたの顔と年齢ならばもっと努力しなければ駄目だ)
 そう思っても口には出さずに、私の好みのヘビーな愛撫を教え込んで、それまで夏美がしたことのないような淫らな振る舞いをさせた。
 玉舐めやアナル舐めまでするようになった変わりように夏美自身が驚いたが、一年ぶりに再会すると、そういった愛撫が格段に濃厚になって、しかも、全体に動作の流れがよく、梓のような一級のソープ嬢のレベルまで達していた。
 吉原の高級店に出た経験が、夏美の技をすっかり変えていた。あまりの熟達ぶりに、私は唸り続けるだけで褒め言葉を忘れた。夏美に、喘ぎ声の連続にさせられるとは思ってもいなかった。
 仰向けになって夏美の熱烈な愛撫を受けていて、夏美の乳房に触れたくなった。
 そろりと手を伸ばしたら、夏美は「駄目よ」と、手首を掴んでマットの上に戻した。愛撫は見違えるほど上手になっても、こういうところは相変わらず硬かった。

 夏美は満面の笑みで迎えなくても、また、雑談の間、再会を心底喜ぶ気持ちを表情や言葉では見せなくても、時間が経つにつれて嬉しがっているのが見てとれた。
 何が話のきっかけだったのか、夏美は問わず語りに、ソープに入った訳を喋り始めた。
 夏美が弁当屋さんで働いたことを聞いていたが、ソープ嬢になった理由までは知らなかった。
 夏美の説明では、たかだか三十万円ほどの借金を作って、それを返済するためにソープに入ったのだ。弁当屋で働いて安月給なのに、次々と洋服を買い込んだから、借金が溜まってしまった。
 この子らしい話だと思いながら秘所を弄っていて、どちらからともなくベッドインを誘った。夏美の腰をベッドの端において、私は床に座り、股ぐらに唇を寄せた。
 夏美は待ち受けるように両足を上げ、股を開いた。
 陰阜を引き上げてクンニリングスをすると、両足を抱える姿も、女らしいふっくらとした下腹のスロープも、たたんだ両脚の間に覗く会陰から陰唇の辺りの密生も、全く去年から変わっていなかった。
 恥毛は特に処理していないと説明するから、自然のままの生え具合をしげしげと観察した。肌に這うように生える黒々とした太い恥毛だ。
 クンニリングスをしている最中だから、陰唇下部の毛が濡れて光っている。
 私は陰唇上部の、専らクリトリスを舐めて吸い続けるのだから、決して唾液で濡れているのではない。夏美のラブジュースは、単に膣口から溢れるだけではなく、陰裂の内側全体から滲み出ているようだ。
 毛が覆っている部分は由美やローザと比べるとふっくらとして、クリトリスも奥まって、クンニリングスがやりにくい形をしている。
 そのぽってりとした部分を指で引き上げて小さめのクリトリスを愛撫すると、下腹を波打たせるのも、すっかり濡れそぼって会陰がぴかぴかになるのも、秘めやかに喘ぐ声も、昂揚時は膣口が潰れずに円形の形で、まるで鯉の口が酸素を求めるように開口しっ放しになっているのも以前の通りだった。
 夏美が昇りつめて身をよじると、私はすっかり満ち足りた気分になった。
 夏美が誘うように股を開いた時、ペニスは用意ができていた。重役室はコンドームの使用を守っていたけれど、夏美は従来通り純生の挿入を許した。
 先に極楽往生を遂げた夏美の粘液が絡まってペニスが鈍く光った。ペニスを受け入れる陰門がぱっくり開き、囲む毛が濡れている。私はにんまりと見とれた。
 肉壺に激しく腰を前後させながら、夏美の恍惚の顔を盗み見ていた。

 翌月の一月に夏美に逢うと、十二月の再会のときよりも夏美は嬉しそうな顔で迎えた。
 再会後にパンティを見るのは二度目だけれど、どちらも派手な色で、尻のもっこり具合を強調するカットの深い、まるでふんどしのようなショーツだった。夏美は下着の選び方まで変わった。
 二人とも裸になりソファーに並んで座ったところで、夏美が既に気分を出しているのだろうかと確かめたくなった。夏美はプレイの前にしっかり洗いたがるから、私は部屋に入ってすぐにそんな品性の落ちる痴戯を始めたことはないけれど、卑猥なことを囁いて夏美に股を開かせたら、夏美が恥ずかしがらずに応じた。
 中指で女陰をまさぐると、期待通り溝に潤沢な湿りがあって、何やらネトーッとしているから悦んだ。
「うわぁ、ここ、もう潤っちゃっているぜ。本当に助平だなぁ。この前は、僕が久し振りに現れてもちっとも甘いことを言ってくれないのに、今日は君の躯がちゃんと正直に反応しているよ」
「うふっ。貴方、期待させてくれるんだものー」
「由美もローザも会った途端にあそこが湿っているということはないのに、君は特別だよ。君は、僕がちん汁をすぐに出すと言うけれど、君も先走り汁をもう流しているぜ。ヌルヌルになっている。毛が生えて、粘り汁でヌルッとするおまんφは無茶苦茶猥褻だぜ。……これっ、この指!……これだけ躯が僕を待ち望んでいたのなら、もう少し言葉でも僕をほんわかとさせることを言ったらぁ!」
 先月由美から夏美の居所を聞いた時、由美は私に、「夏美さん、何だかとっても明るくなったわよ。元気で張り切ってやっているみたいだわ」と言った。
 由美が、五つ以上年上の夏美に対してそのような観察をしたから、私は、おやっ!と思った。
 話をすればするほど、確かに、夏美は稼ぐ心構えから変わっていた。
 夏美はもともと、恥ずかしくない程度に適当に客が取れればいいというような考えだったが、吉原の高級店に出て自信もついたのか、マットでの指や唇の使い方は見違えるほど巧くなった。
 ペッティングをされているときの表情も、男をその気にさせる熟女の媚態が決まっていた。
 更に私が驚いたことには、重役室では月四十本の本指名を取れるように頑張りたいと語った。
 ソープランドが全盛の頃と違って、月四十本の本指名を取る女が、一つの店にせいぜい三人ぐらいしかいなかったし、一人もいない店だってたくさんあった。そんなソープ嬢は特別に魅力のある女だった。
 夏美は店のNo.1嬢と諍いめいたことがあって、それで、四十本取って見返してやりたいと気合いを入れたようだ。動機はともかく、やる気がなかった昔と比べれば実に意欲的だ。
 若くもないし、美人でもないから、容姿で指名を取れるとは思えない。要するに、P指名の数は問題外だ。技が恵里亜の頃と違って本指名を呼ぶ腕前になっているけれど、接客姿勢がもう一皮剥けないと三十本が限度じゃないか。それにしても、目標が四十と言うからには三十は取っているのだろう。この器量と年齢で三十本取るなら、恵里亜と比べると、値段が四万円を超える重役室は客層が少し違う。こういう店では、嬢は勃たせる技術なんだな。ひょっとしたらNSを活用しているかもしれない。こんなふうに私は思った。
 夏美の決意の実現はなかなか難しいと思い、次のように語った。
「月四十本指名を取るためには、ちょっと工夫がいると思うよ。今までいろんな売れっ子に会って、その共通点はねえ、皆、客を部屋に入れるとすぐに客を裸にさせて、自分も素っ裸になるよ。その点、君はいつもパンティを下ろすのが遅いぜ。なかなかすっぽんぽんにならない。その他にはね、愛想が良くて外交辞令のようなものの言い方を、さらっと違和感なくしてみたり、とにかく男をその気にさせるのが上手いんだなぁ。男に親密さを感じさせるのが巧妙なんだよ。超売れっ子は、とっても美人であるか、テクニックが抜群か、必ずどちらかなんだけれど、その他には今言ったような特色があるもんだ。後はね、我慢できないことをお客がしても、ぴしゃりとやっつけずに、にこっと笑ってたしなめる、そんなところかな。大変だねえ」
「ほんと、その通りだと思うわ。わかっていても、なかなかそれが難しいのよねえ」
「女は愛嬌だよ。可愛らしさが必要なんだ。久し振りに指名で来たら、『長い間来てくれなかったのねえ。どうしたのかしらと、私、貴方のことを想っていたわよ。でも、来てくれて嬉しいわ、本当に』の一言と、そのときのすねたような表情の作り方で、男を完全にその気にさせることができるんだ。男なんて女から見れば単細胞動物だよ。簡単なもんだ」

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