夏美 3

 その日の夏美は前回の逢瀬よりも更に悩ましかった。
 私がベッドに向かって床にあぐらで座ると、夏美はベッドの端で仰向けになって、嬉しそうに両膝を引き寄せた。口淫を期待しているのが態度に表れていた。
 恵里亜で逢っていた時、私がちょっと強めにクリトリスを吸うと、夏美は「それ、きつい!」と制止した。快感の感受に集中せず、愛撫をおっかなびっくり受けている感があった。だから夏美にはいつも手加減して、由美やローザにするよりも優しくクンニリングスした。
 しかし、その時は私が割れ目の上端に顔を寄せて少し舐めただけで、夏美はすーっと淫汁を流し、会陰に滴を溜めた。それで、きついクンニリングスをしてやろうと思い、夏美の腰を抱えて、一気に唇と舌の動きに拍車をかけた。
 夏美は濃厚なおしゃぶりの刺激に、「あぁ、それ、それ、そうよ!」と調子のいい声を出し、ラブジュースをジュワーと垂らして腿を震わせた。
「あーっ、イキそう!」
 息をつめるや、夏美はあっけなくアクメに達した。
 私は夏美のエクスタシーに上りつめた早さに感動した。
 ベッドに上がって夏美と逆向きに寄り添い、腰を夏美の顔に近づけ、顔は夏美の内股に寄せた。
「うぉー、いい匂いだ。ぐっしょぐしょ!」
 夏美は陰毛を全く処理していないから、陰唇下部から菊座にかけて毛が濡れた肌にぴったり這っていた。
 もともとフェラチオなんてイヤだと言っていた夏美が、私の腿を抱え込み、吸入音を発するほど熱烈にカリ首をしゃぶり続けた。陰嚢に優しく手を添えて、ペニスを咥えた首を振り立る。それだけでなく、片足を上げて陰部を私の口に寄せた。
 互いに横寝のままで69をするのは、一年前に私が夏美を調教してなかったなら、たとえプライベートセックスでも絶対にしていない筈の過激な行為だ。
(こういう、淫らそのものがいいんだぜ)
 私は夏美の華奢な腰を抱え込み、白っぽくなくて粘り気が多い、禁断のお汁をたっぷり賞味した。黒々とした恥毛が濡れて肌に貼りついているのが、何ともいやらしい眺めだ。
 夏美は気をやった後だから、こそばゆがって腰が逃げても、口はひたすら私のペニスを吸っていた。
 毛もじゃの割れ目が愛液を湛えてパックリ開いている。私は鼻先にある陰裂の卑猥な赤らみを眺めながら、クリトリスの根元を引いて小突起に舌を這わせた。夏美が快感にふるえて腰を揺するから、なかなか狙いがつけにくい。
 夏美が時折よがり声を上げ、見事なまでに淫乱に相互愛撫を続けたことに満足すると、頬についた夏美のラブジュースを手の甲でぬぐって、夏美の熱い躯と合体した。
 肉棒はととろ汁の中で動かしているような感触だった。そのままでは刺激が薄くて起立が弱まりかねないので、私は夏美の腰を抱えて抽送のピッチを上げた。
 バタンバタンと腰をぶつけられて、夏美が「ああっ」と声を洩らした。
 夏美の唇に顔を寄せると、予想した通り夏美は深いディープキスに応じた。昂揚の呼気を吸い込んで、私はなおも熱い舌を求め続けた。
「おまんφくさい匂いがするだろ?」
「うん」
「でも、自分のおまんφの匂いをキスでたっぷりと嗅がせられるのも、とっても助平な気分になって、愉しいもんだろう?」
「うん」
 ヌラヌラの膣道が抽送とともにネチョネチョと音を発した。
(今日も、いいエッチができるぜ! しかし、こいつは「うん」ばっかりだなぁ。表現力が乏しいぜ)
 私はにんまりして、上体を立て、夏美の内腿を手で押さえてうねるように腰を送った。
 腰の疲労感と戦いながら、男上位の体位を僅かずつ変化させた。最後は初めの体勢に戻り、胸を夏美の胸と合わせた。腰を真下に向けて大きく振って、夏美の鼻息を顔に受けながら快感の爆発を待った。

 夏美に続けて入浴した後、ローザに久方振りに会った。
「久し振りね。私、心待ちにしていたのよ。とっても間が空いたので、××さん、一体どうしたのかしら、今までこんなに来なかったことがなかったのに、と思っていたの。私、××さんがひょっとして病気しているんじゃないか、交通事故にでも遭ったのじゃないか、と本当に心配していたのよ」
 交通事故とはオーバーだけれど、それにしてもこの言い方は、この間夏美に話した、客をその気にさせる、売れっ子の典型的な語りかけのパターンだ。
 ローザは夏美が金津園に戻ったことを知っていた。
 もう夏美に再会したと教えるとローザが言った。
「えーっ、なーんだ、もう知っているか。私、××さんを驚かせてやろうと思っていたのに。つまんないな。私、このことを××さんに教えて嬉しそうな顔をされるのを、ずーっと楽しみにしていたのよ」
「ふーん、それは残念だったねえ。君は夏美のことをどうして知ったの?」
「夏美さんと犬屋さんでばったり会ったの。二人ともお店に出るときはワンちゃんをそこに預けているのよ」
(月四十本指名を取る女は、男を飼わずに犬と暮らしているのが多いから、夏美もひょっとしたら四十本を取れるかな?)
「夏美がすっかり変わったぜ。僕が技を教えたときよりも、玉舐めとお尻の穴舐めが素晴らしく上手になったからびっくりした。もう、君や由美よりもマットが上手かもしれない。それで、じゃんじゃん指名を取りたいと言って、彼女、とっても意欲的なんだ。考えられないだろう。とにかく元気が良くて、高級店の重役室で助平なことをやりまくって頑張っている。変わっていないのは、透明でよく粘るあいつの秘密のお汁だけだよ。しかし、弟子が成長すると、先生は嬉しい反面少し寂しいなぁ」
「うふっ。じゃあ、××さん、楽しいわねえ。どうして夏美さんが重役室にいることがわかったの?」
「由美だよ。由美が恵里亜に戻ったんだよ。そろそろ由美と夏美のどちらかが戻っているのじゃないかと思って恵里亜を覗いたら、彼女が戻っていた。それで、この前由美に会って、彼女からなっちゃんのことを聞いたんだ」
「まあ、由美さんが吉原から帰ったの。由美さんも夏美さんも戻ってきて、それで××さん、私のところに来てくれなかったのね。わかったわ」
「いやいや、その二人がいない間、君が僕をたっぷりと浮き浮きさせてくれたのだから、この感謝の気持ちは忘れないよ。疎かにはしない」
「本当? 嬉しい!」
 ローザが飛び跳ねて喜んだ。
 由美と夏美が金津園に戻ったのが嬉しくても、三人の女に通うのは経済的につらかった。
 ローザは由美と夏美が吉原に行っている間親密な対応でたっぷりと愉しませてくれたから、一番尊重したかった。そして私はもともと由美には惚れ込んでいた。
 だから、最も料金の高い店にいる夏美に会うのは月一回が限度だと思っていた。

 夏美が愉快な話をした。
 重役室に出ることにしたら、講習を受けることになって驚いた。
 疑問に思いながらも従ったら、社長が出てきたので夏美はまた驚いた。
「店の子が『うちの社長って、とっても助平よ』と言うから、どんなふうに助平なのかと思ったんだけど、私、全く驚いたわ。講習するというので、(えっ、素人じゃないのに、講習、受けなきゃならないの!)とびっくりして、店長が相手だろうと思っていたら、社長が自分で出てきたので、また、えっ!となって、それでマットを始めたら驚いたわ。社長、私のあそこを舐めるのよ。講習でよぉ。そんなのないわよねぇ。もう何年もこの仕事をしているんだし、大体、私、生理中だったのよ。だから、講習を断ろうかと迷ったけれど、しつこく要求するんで、まあ、終わりかけだから大丈夫かな、と思って講習を受けることにしたのよ。まさか、講習であそこを舐められるなんて思っていないじゃない」
「ははーぁ、講習で女の股ぐらを舐めるなんて、大したもんだぜ」
「それでね、マットを始めたら、おっぱいなんかに唇を這わせるので、えーっ、こんなのあり?と思っていたら、下のほうに来て、まだ少し流れているようだったけど、それでも口をつけてくるの。『お前、生理だな』と社長が言うので、『ごめんなさい。まだ生理中で』と思わず謝ったのだけど、私、何故謝らなければいけないのかなぁと思ったわ。社長は、まだ四十代の前半のようで若いのよ。だけど独身で、月に四、五回はどこかの店に行っているようなの。私は講習をさせられたけど、皆に聞いてみると講習をしなかった子もいるのよ。社長の好みで選んでいるみたいだけど、そんなの、不公平よねえ」
「選ばれたお前が不愉快になることはないだろう。大体、おまんφ、舐められるのが大好きなんだから」
「いやよ、気持ち悪いだけだったわ」
「ははーぁ」
「うちの子で、この店に来る前の店で、社長が客で入った女の子がいて、そのときの話を聞いて驚いたわ。九十分の時間のうち、それこそ七十分ぐらい延々と躯を舐められていたんだって。発射は一回だけで、マットはせずに、とにかくベットで舐められ続けたそうよ。本当にとんでもない助平でしょ。金津園でも有名なのよ。それで、四十過ぎて独身だなんて変わっているわよねえ」
「それで、お前、濡れたんかよ。社長の長い舐めで」
「そんなので、濡れるわけないじゃないの」
 女がそれだけ長時間舐め続けられることができたということは、きっと肝心のポイントは上手に攻められなかったということだろう、と私は夏美に講釈した。
 夏美は、吉原の店を除けば金津園では重役室が三つ目の店で、最初の店は二ヶ月ぐらいしかいなくて、恵里亜は三年ほどの在籍だった。
 最初の店の講習はNo.1のかなりの歳のベテラン嬢がして、ものすごいプレイを実演した。
 その姐さんは風呂の幅の狭い縁に立ち、思いっきり腰を曲げて頭を下げるアクロバチックな格好になり、そのまま腰を下げて男にクンニリングスさせながら、更に頭を下げて、湯に浸かった男にフェラチオをするという体勢を夏美に示した。
 顔を湯の中に潜らせるぐらいは厭いもせずに尺八をして、「首から上をびしょ濡れにすることはしょっちゅうだわ」と自慢げに言った。
 夏美は、会ってすぐエレベーターの中でズボンのチャックを下ろしてフェラチオする女がいるという話を聞いたことがあった。それに匹敵するような、潜り尺八の猛烈なサービスぶりを小母さんが説明して、これぐらいの大胆なプレイを心掛けるようにと言うから、夏美は驚き、あきれ果てた。
 浴槽の縁に立つのは危なっかしいし、化粧は崩れるし、髪はびしょびしょになるし、そんなこっ恥ずかしくてあほらしい、奴隷みたいなことは到底できない、と働くのが怖くなった。
 二つ目の恵里亜では店長に指導を受けた。新人講習で店長にペニスを挿入された女は大勢いるのに夏美は交合には至らなかった。店長は平凡な容姿の夏美が好みではなかったようだ。
 講習の内容を聞くと、それは「滑って転んでつるりんこ」の、全身を男の躯にすりつける、普通のおとなしいマットプレイのやり方だった。

 以前夏美に、客を部屋に入れたら、勿体ぶらずにさっさと裸になったほうがいい、とアドバイスしたことがあった。
 ある日夏美がめずらしくすぐに裸体になり、素裸でソファーに座った私の隣に腰掛けた。そして、ペニスが欲情を現していると認めると、「もう、ちん汁、いっぱい出しているー!」と声をかけて、先走り汁を人差し指の先でカリ首に塗り広げた。
 カリ首全体がヌラヌラになると掌で包み、ニタッと笑って揉み始めたから、それに煽られて私は夏美に何か猥褻なことをさせようと思った。
 ソファーの置いてあるところが部屋の中央の照明器の真下に近かった。そこで夏美のクリトリスの平静時のサイズや付け根がどうなっているのかを確かめたくなった。
 店に出る前にシャワーで洗っただけのおまんφが見たい、と求めたら、夏美が嬉しそうな顔をしてソファーに寝ころび、両脚を高く上げた。昔の慎ましやかな姿勢を知る限り、二、三年前なら考えられない行為だ。
 あっけらかんと猥褻な開脚ポーズを取ると、二枚の花弁がぱっくり割れて、膣がしっかり開口していた。充血時の陰核のサイズは、梓、由美、ローザ、の三人と比べると夏美が一番小さく、平静時でも、やはり一番小ぶりだと思った。
 私はそんな比較をして、夏美の変貌を愉快に感じながら、花園の匂いを探った。
 夏美が指で拡げているから、小便の穴までパックリと開いているのが見える。漂う香りは、洗浄してからある程度時間が経過していると想像できる確かさがあり、私は我慢ができなくなって蕾に吸いついた。
 裸になったばかりでベットの抱擁を本格的にするつもりがなくても、ついでに、反り返ったものを嵌め込み、気をやらない程度に抽送した。
 由美やローザと比べれば、夏美の膣ははっきり広いから、濡れていないときに嵌め込むのはなかなか具合が良かった。
 二人が肩を寄せて腰を下ろしてから、私は質問した。
「君はソープも長くなったし、吉原にも行ったのだから、親はもう君の仕事を知っているのだろう?」
「ううん、知らなーい」
「ええっ、随分上手く誤魔化しているのだねえ」
「一度ばれそうになったことがあったのよ。ソープにいるのじゃないかって訊かれたの。私、一生懸命にとぼけたわ」
「どうして疑問を持たれたの?」
「恵里亜でフリーの客がついて、それが叔父さんの息子の友達だったのよ。私、たまたまその人を知っていて、やばいと思って、すぐにちょっとした用事を作ってその人から離れたの。それで隣の部屋からフロントへ連絡して、フロントに、案内する女の子を手違いで間違えたと私の部屋に電話して貰って、それでそのことをその男に伝えて、女の子を替わって貰ったの」
「ははっ。叔父さんの息子の友達だってえ。ややっこしい関係だねえ。そんなのが君の知り合いだったの?」
「うん、そうなの」
「苦労するなぁ。でも、よく聞く話だ」
「その人も私のことをわかったようだけれど、私は初対面だととぼけていた。私、その男の名前を知っていて、伝票の名前を確かめたら本名で入っていたのよ。何故、最初に伝票を見た時に気がつかなかったのかと、後で悔やんだわ。でも、フリーの客の名前なんか、その気になって見ていないわ。伝票を見て気がつけと言ったって、無理だわよねえ」
「そりゃあ、無理だわな」
「で、その人、若いのに恵里亜のメンバーになっていたの。だから、上がり部屋でそれまで私の写真を見ているだろうし、それからも、いくらでも私のことを写真で確認できるでしょ。もう、終わりだと思ったわ。それで店長に、私、青ざめた顔して相談したのよ、どうしようって。『しばらく店を休ませてください』とか、『すぐに写真を外して!』とか、『うちにばれたらどうしよう!』とか言っておろおろしていたの。店長は『お前、今更隠したって、ばれちまうものはばれちまうんだ。しょうがないだろう』だって。人のことだと思って。それで、案の定、お前は一体どういう仕事をしているのかと親に尋ねられたのよ。私、徹底的にとぼけたけど」
「そりゃあ、大変だったね。冷や汗ものだ」
 マットプレイの後の中休みで、夏美に、重役室に来てから変わった客についたことがあるかと訊くと、夏美が一つ語った。
 夏美にフリーの客が入り、裸になったら背中に立派な彫り物があったから、やくざだと気がついた。
 普通の格好で普通の喋り方をしていたので、店もその筋の男だと思わなくて一時間以上案内を待たせたのだ。夏美は、取り敢えず待ち時間が長かったことを丁寧に詫びたが、男は気にはしていないようだった。
 それで、マットプレイを始めたら、男は夏美のカリ首への指さばきと丹念な唇の愛撫に大感激した。
「今まで何度もソープに来ているけれど、こんな上手にサービスをされたことがないって喜んでいたわよ。その人『すごい、すごい。むちゃくちゃ気持ち良い!』と叫んで、最後は指で落ちたわ」
「やくざなら、セックスする女がいくらでもいるだろうに」
「でも、そういう女は皆素人でしょ。何もしてくれないのじゃないの?」
「そりゃ、そうだなぁ。寝て股を開くことしか知らない素人の女にあそこまで仕込むのは大変だ。やくざは一般の人よりはセックスが上手だと思うけど、ベットで、そいつはしっかりと舐めたの?」
「それが、ベットをしなかったから上手かどうかわからないのよ。マットで一回抜いたら、もうそれでいい、満足したと言うんだもん」
「へーぇ、若いやくざが一回だけで、しかも、本番をせずに指で落とされて悦んだなんて珍しいね。しかし、やくざの男にプレイを感心されるなんて、ほんと、夏美は腕が上がったなぁ。なかなかいい指マンができるようになったぜ」
「貴方のお蔭よー」
「君のマットの技で、しっかり突き出した舌を玉々の裏側全体に広く押し当てて、じっくり舐めるのがあったけれども、あの感触は他ではお目にかかったことがないよ。玉々の裏側って結構敏感なんだよなぁ。君は吉原で相当工夫したんだね」
 私は夏美の話を聞きながら飲むブランデーがうまいと思った。
 その日、夏美はどことなく猥褻感が漂っていた。
 もともと夏美は、セックスなんてしりません、というような顔をして客の相手をしていたから、私は夏美の変貌がおかしかった。
 時間も残り少なくなり、いつものように前戯で夏美に気をやらせてから、夏美をベットの端に寝かせ、私は床に立って交合する体位で挑もうとした。
 夏美は両脚を天井に向かって突き上げ、Vの字の猥褻な受入れポーズになった。
 その膝の辺りを掴んで夏美の割れ目にペニスを滑らせて抽送すると、あまりの洪水に接触感が足りない。
 それでも夏美が「ああーっ、いい!」と声を出した。
 私にこすれ感がないからには、膣にもこすれ感がない筈で、夏美は明らかに演技でよがり声を上げている。
 だが、肯定的に考えれば、そんな声を出すことによって私の亢奮を高めようと努力しているのだから、協力姿勢をとるのは良いことだ、とあらためて夏美の変化を褒めたくなった。
 濡れすぎてこすれ感がまるでないだけでなく、立ち位でとりかかっている私は、床に敷いたバスタオルがつるつるの床にいざって拭き掃除をして、足下が極めて不安定な状態だった。
 更に、その日腰がやけに重かった。リズミカルに腰を振りたくても、持病の腰痛が邪魔をしてまるでできなく、腰にどーんとした感覚が渦巻いていた。足の裏が滑って安定しないのと、腰が重いのを気にしていると、カリ首にこすれ感が出てこない。
 萎えかけたペニスの根元を押さえつけて無理矢理勃起を維持させたり、抜いて亀頭を指で揉んで血液を呼び込もうとしたりして、悪戦苦闘の抽送だった。
「ああーっ、いいわぁ!」
 そんな調子のいい声を気にしているうちに、ペニスに勢いがなくなって膣から外れてしまった。
(あーっ、とうとううな垂れてしまったぜ。だめだなぁ)
 焦っていると、抽送していた時と同様の夏美の声が耳に届いた。
「ああーっ、いいわぁ、そうよ、もっと頂戴、ついて! いーぃ」
 ペニスが縮こまって外れているのに、「もっと頂戴、ついて! いーぃ」と言うから、私は立腹した。
(こいつー、吉原で、とんでもない演技を覚えやがって! この俺に、そんなわざとらしい演技をすることはないだろう! とんでもない女だ。俺に、そういう付き合い方をするのかよ)
「ねえ、縮んで外れちゃったよ。大きくしてよ」
 ふくれっ面で言って、ニセのよがり声を出していた夏美がどうやってペニスを起立させるかを観察することにした。
(簡単には勃ってやらねえぞ)
 私は、フェラチオしようとして上体を持ち上げた夏美の表情が真顔に戻ったように見えた。
(演技なんかすると、こういうときにお前だってばつが悪いだろう)
 夏美が飛びつくように屈み込んでカリ首を口に含んだ。
 陰毛を押さえる掌のどこかが睾丸に当たって温かい。夏美が二人の粘液でべとべとのそれを委細かまわず吸い立てると、私は冷ややかに観察する心も吹き飛んで、安心するような気分ですぐに回復した。
 中指一本膣に入れて愛液を一掻きし、その指をシーツに拭って、またインサートした。
(孔がべとべとで、接触感がない時は、指で粘り汁を掻き出すに限る!)
 床のバスタオルを蹴散らすことを思いついて、板張りの床にじかに立つと、足の踏ん張りが効き、腰も動かしやすくなった。
 カリの鰓が肉壁を掻く感覚も出てきて、怒張の兆しが現れた。
 ペニスの勃ちを気にしていた夏美も、安心して腰の構えが落ち着いた。私の腰の動きがスムースになると、肉壺から発する快感をじっくり味わっているような顔つきになった。
 深い抽送が灼熱の感触を呼び起こした。まとわりつく膣道に微妙なざわめきが感じられ、ピストンにつれて揺れる肉体が時折かすかに波打った。
 私は急ピッチで腰をたたきつけ、勢いよく射精して身震いした。荒い息をしながら腰を離し、そのまま夏美に股を開いたままにさせた。
 互いの液体が混ざり半透明になったものが赤黒い膣口からトローっと垂れた。それを眺めると、まるで突然人生の素晴らしさがわかったかのように満足感が満ちた。
 後始末の洗浄を終えた夏美が、鏡に向かって化粧を直しながら声をかけた。
「ゆっくりしていたいわねえ」
「うん」
 鏡の中の姿を見つめる眼がやけにまん丸い。いつの間にか着けたカットの深いパンティと、ブラジャーの紐の深紅の色が目にしみた。
 夏美は鏡に向かう時間が長いから、終了後でも私はいつもゆっくり煙草を吹かしてプランデーを飲んだ。

 夏美は、仲間に誘われるままに吉原で恐る恐る超高級店に出た。
 それで、客に存外の期待をされて戸惑った。
「君、金津園から来たの。じゃあ、すごいサービスをしてくれるんだろう?」
 吉原育ちの女よりは金津園出身の女のほうが、情がこもってサービスがいいと思っている男が多かった。
 かなり値段の張る遊びをさせて、そんな期待をされることがプレッシャーだった。しかし、私に性感帯の愛撫の仕方を教わったので、気合いを入れてできるだけの愛撫をしたら、皆なかなか悦んでいるようだった。
 何せ六万円の店だから同じ男が何度も来ることが少なく、恵里亜である程度の常連客があった夏美には、客との関係が味気ないものに思われた。それに、客の殆どが初対面では緊張を解くことができない。
 夏美が吉原で働いて一番の想い出は、一人でベットにも上がれない、車椅子の重度の身体障害者が客になったことだった。
「躯が不自由な、特別なお客さんだけれど、君、見てびっくりしないように。よく来てくれるお客さんだから、よろしく頼みます。お金は先に貰っているから、中では頂かなくていいですよ」
 事前に言われて、怪訝に思いながら客を迎えた。
 すると、表情からして健常な躰らしくない、身動きもままならない車椅子の男で、夏美はすっかり仰天した。
 まず車椅子から出て、ベットに座るまでが難儀だった。言葉が全く意味不明で、「わーわーわー」と言っているようにしか聞こえず、ズボンを脱がせても腰のあたりからふわーっと臭ってくるし、風呂に入れたくてもそれもできず、一体どうしたらいいものかと考え込んでしまった。
 じたばたするなと言い聞かせて、一生懸命濡れタオルで股間を拭いてからサックを被せ、目を瞑り息をできるだけ止めて尺八をした。
 隆起したところで、そのまま上にのっかって発射させて、その後が時間の過ごしようがなくて困った。
 話ができないからどうにもすることがない。
 口に出したくなかったけれど「もう一回する?」と訊くと、こくんと頷いた。また、くさいのを我慢して尺八をし、どうやら二回目も無事にフィニッシュとなった。
 男は付き添いの手助けを受けて、その六万円の店によくやってきた。
 夏美は不本意なことにその男に気に入られてしまって、その後も何度か相手をした。
 夏美がフロントに、「どうしてあんな客を私につけるの!」と怒鳴り込むような態度を取らなかったので、私は何かほっとしたような気分になり、福祉が発達している北欧の国では、重度の身障者のための性の処理をする婦人の職業が公認されていると、以前何かで読んだことを思い出した。
 その男も相手をした夏美も気の毒で、私は好奇心の質問はせず、詳しい話は聞かなかったが、夏美にしてみれば一生忘れることのできない苦痛であったに違いない。
 夏美は吉原で、金持ちの客を相手に性の悦びを大胆に演技することを覚えた。超高級店ではそんなサービスも必要だったのだろう。
「男の人って、皆、単純ね。『あっ、そこそこ』とか、『いい、いい、貴方、すごいわ!』なんて言って、躯に爪を立ててやると、すっかりその気になっているのだからぁ。腰を動かしたり、指でちょっとこすったりしただけで、女がそんなに昇りつめる筈がないのにねえ。皆、結構だまされるのよ。そういうふうに格好をつけていると、喜んで貰えるし、早くイッてくれるわ。……××さんはだませない。でも、××さんには演技する必要がないもん。私達、どの男にも、早くイッてくれよと心の中では思っているのよ。まだイカずに、もっと頑張って!と思うのは××さんだけよ」
 夏美は随分とまともに私をこそぐる話をした。外交辞令が何割入っているのかと気になった。
「常連のお客さんが面白いことを言っていたわ。女は、本当に気持ち良いときには、皆、だらしない顔の間抜け面になるって。演技でよがっているときには、皆、普通の顔だそうよ。確かにその通りだと思うわ。でも、気持ち良いときの顔が間抜け面だなんてひどいわねえ。……私、本当にいいときには、全てがどうかなっちゃうもの。頭の中がずーっと真っ白になっているのよ」
「女が本当に気持ち良いときは普段の顔とは全く違うよ。普通のときにはちょっと真似のできない顔だなぁ。間抜け面と表現するならば、確かにそうかもしれない。でも、僕は、エクスタシーの顔が女の顔の中で一番美しい表情だと思うよ。でも、貴女方は男に長々と腰を使われるのが一番嫌なんだねえ。皆がそう言うよ。早く発射して貰うために、皆、工夫をしているんだね。演技でよがるふりをしたり、殆ど発射しそうになるまでしっかりこすり上げてから嵌めたりして」
「そうよ、それでね、くだらない客に、『ああ、いぃ、素敵!』なんて言っていると、私、今何を馬鹿なことしているのだろう? 何も気持ち良くないのに、こんなことを言ったりしてえ!と思っちゃうのよ」
 そんな会話の後のその日のベットは、最前に夏美が見事なマットプレイをして、甘美な感覚でのたうち回らせたお返しに、私は夏美を目一杯の愛撫で快感にひたらせることに専念した。
 夏美はまた見事な開脚で愛撫を受け入れた。
 夏美の恥ずかしい部分が広く愛液の上薬で光沢を放って濡れ輝き、秘めやかな喘ぎが歓喜を伝えていた。
 夏美の肉壺に指二本を挿入して動かすと、由美、ローザ、夏美の中で、夏美が一番楽に動作できた。
 私はぬめぬめした柔らかい壁を探りながら、その理由が、肉壺が広いからなのか、愛液が粘っこいからなのかと、由美とローザにそのようにしたときの感触を思い出そうとしていた。
 夏美は、恵里亜ではあまり売れてなくても、吉原から金津園に戻ってからは接客姿勢を全く変えた。
 十ヶ月目にはとうとう本指名が四十本を超えて、念願の部屋持ちに昇格するまでになった。部屋持ちからはすぐに落ちたが、意欲的なのは変わらず、由美と同様その仕事から上がる気配はなかった。
 でも、吉原でしていた即尺は、次第に生理的嫌悪を感じるようになった。
 かなりの料金の高級店で働いているのだから、即尺のサービスをしてやるべきだと思っても、男の臭いがどうにも気になり、それができなくなった。
 私が悪戯っ気を出して即尺を頼んでもなかなか応じなかった。
 他の客には、ベットでもローションを使って肉棒を揉みたて、射精が近くなってからサックを被せて嵌めさせている、と私に説明した。
 私以外の客はまるで小馬鹿にしているというような態度を見せられると、私は嬉しくなった。
 夏美に恥毛が拡がりすぎているから手入れをしたほうがいいと指摘したら、糸切り鋏を差し出した。
 私は夏美にベットの端で「おしめ取り替え」の格好をさせて、アナルから陰唇下部にかけての密毛をカットすると、狭間のところで高山の這い松のようにぴっちりと倒れた毛だから大層切りにくかった。
「切り口がとてもちくちくするから、カットは生理前にするのがいいわ」
 夏美が呟いた。

 夏美には通い出すのが遅かっただけに、交合の数は由美やローザと比べれば少ないけれど、それでもなかなかの数になった。
 その二人より容姿が見劣りしても、夏美は存外と剽軽なところがあるから、逢う度に愛撫の仕方や交合の入り方に多少の変化をつけて愉しむようにしていた。
 ある日私は、もう一つ何か別のパターンの抱擁はないかと考えた。
 金津園に通い始めたばかりの三十代の頃、指だけ使って女の躯を愛撫していた。その指責めが、どの女も驚くほど丹念で時間も長かった。オーラルの行為をしたくても、商売女の性器に唇を這わすことにはかなり抵抗があった。
 しかし、五、六人の女に入浴して、皆陰部の洗浄が極めてしっかりしていて、恥垢なんかに滅多にお目にかからず、性病にしたって、客が怖がる以上に女達が警戒しているとわかると、それからは指でクリトリスを攻め続けることはあまりしなくなった。
 口唇愛撫をしてみると、そのほうが指よりもはるかに強力であると実感した。
 女は、初対面の男に巧みなクンニリングスをされると存外心を許しても、指の振動ではガードを固める傾向にあると私は悟った。
 舌と唇でオーガズムを呼ぶのは、腕や肩に伝わる女の腿の震え、頬に感じる熱い腰の悶え、鼻腔で感じる津液の変化、そんなものを感覚して慰楽の眩暈(くるめき)だ。でも、女の顔が正面から見えないし、キスができないことに不満が残る。
 口を使わず指でしておれば女の表情がよく見えるので、淫猥の趣も情愛も高じて面白いだろうから、一度夏美に徹底的に指責めをやってみよう、と私は思った。
 私はいつものようにクリトリスを吸いしゃぶって陰裂を潤させてから、夏美にその気持ちを伝えると、ローションを使うならペッティングしてもいいと言った。
 早速ローションのペットボトルに手を伸ばして滴を指先に落とした。
 両膝を立てて開脚したままで待っていた夏美を抱き寄せ、「俺のフィンガーテクニックを楽しめよ」と囁いて股間に手を伸ばした。
 恥毛の柔らかさを掌で楽しみながら、緩やかに継続的に熱情込めて小突起を振動させていると、やがて一段と粘った愛液が流れ、呼吸も深くなった。
 ベットが接する壁と真上の天井は一面の鏡張りになっていた。私は夏美の上体を支えて起こし、壁一面の鏡に向かって夏美の股を拡げさせて、夏美の背後に回った。
 左手を夏美の左脇から伸ばして陰阜の辺りを引き上げ、右手は右脇から回してクリトリスをそよそよと揺らした。
 夏美の肩口から顔を覗かせて鏡を見ると、ローションと愛液で指先の可動の良いのがよく眺められる。鏡の中の夏美は眼を瞑り、私に背でもたれ、両脚を広げたまま突っ張るように伸ばし、足先が鏡に触れていた。
(若い女は脚が長い! 夏美の脚は存外長いぞ)
 そう思って眺めていると、夏美の本物の白い脚と鏡の虚像の浅黒い脚が、菱形の枠組みを作っていた。
「ほら、見てごらん」
 その菱形の上にもう三十になって括れがぼけてきたウエストがあり、中華饅頭のような愛くるしい乳房があり、僅かに唇を開いて快感にひたりきる表情で、鏡に映る私の姿を盗み見する夏美の顔があり、その隣に夏美を後ろ抱きした、中年の助平親父の顔がある。
 菱形の頂点の、指の狼藉に揺れる黒い茂みと、下の赤い肉が濡れて光る辺りをそーっと見つめるような顔がとても可愛い。抱えた胴は存外華奢で、躯が熱い。吐息が胸を打つ。
 思わず指先に力が入り過ぎることのないよう私は気を使った。
 抱擁が済んでからブランデーを傾け、鏡像と対の肉体の造形を思い出しながら言葉の造形を考えた。

   右手(めて)で揉み左手(ゆんて)で伸ばす肉割れの
       光るさまを鏡にうつす

     富登(ほと)弄うわが手に伝う昂ぶりは
         熱きふともも震うがあかし

       股開く淫らのさまの鏡像は
           そよぐおさねを眺める瞳

 夏美と再会してから二年が経った。
 私は相変わらず夏美と由美とローザの三人にせっせと毎月会っていた。誰と会っても、他の二人のことが共通の話題だった。
 由美がこんなことを言った。
「夏美さんが××さんのことを本当に感謝していたわよ。それで、夏美さんがね『私、吉原の高級店に出て、ちゃんと仕事ができるかしら、お客に来て貰えるかしらと、とっても心配だったけれど、恵里亜で××さんに教えて貰ったことを一生懸命思い出して、その通りにやったわ。それで、ちゃんと勤められたの。私、あの経験がなかったら絶対に吉原で働けなかった。あんなに思い切って、お仕事ができなかったと思うの。××さんには、ほんと、感謝している。××さんは恩人だわ。それで、私がまた金津園に戻っても、××さん、ちゃんと忘れずに私のところにも来てくれるんだもん。重役室は料金が高いぞって、ぶつぶつ文句を言いながら、私を指名してくれるから嬉しいわ』って言ってたわよ」
 私は夏美がそんなふうに言っていたのかと嬉しかった。でも、逢っているときに、そういうあまいことを全く言わないのがどうも面白くなかった。
 由美とローザは、よく通って何かとアドバイスをする私に心から感謝の言葉を出した。私は面映ゆくなることがあった。そして、私には隔てなく個人的なこともよく話した。
 しかし、夏美は由美やローザと違って、私生活や家族のことや若いときの想い出話などを心やすく話すことが全くなかった。平成七年、八年と毎月会って、抱擁の回数はなかなか多くなっているのに、それが私は面白くなかった。
 夏美は慰安旅行や忘年会などではすっかり剽軽になって活躍し、仲間に宴会部長と呼ばれている、と由美やローザから聞いた。そんな性格だから、店での出来事についてはいろんなことを面白おかしく語った。
 それだけに、夏美が個人的なことについてなかなか話さないことに私はこだわるようになった。夏美が完全に心を許しているのではないと不満だった。
 夏美は自宅で編み物を熱心にしている様子で、しかも、これだけ親しく遊んでも私生活のことを殆ど洩らさないので、ひょっとすると夏美は男がいるかもしれないと思うことがあった。
 三十を超えた女盛りの夏美につき合う男がいないとは思えないから、由美に逢った時そのことを尋ねた。
 すると、由美は、夏美に旦那がいることを匂わせた。以前に夏美が、由美はつき合っている男がいる、と私に言ったことがあるから、その仕返しをしたのかと思った。
 夏美に正面から男とのセックスの回数を聞いてみた。
 夏美はどう答えるべきか、どきっとした顔になった。返事を促すと、この一年間で五回程度しかしていないと答えた。
 そのセックスでいつも気をやらせて貰っているかと、単刀直入に訊くと、そうだと言う。いつもと言うのは嘘があると思っても、からかって全くの作り話をしているようには見えない。
 夏美は男とは同居しておらず、お金を貢いでいる気配はなかった。一時期精神的に落ち込んでいたことがあって、その時私は夏美が男と仲違いしたのではないかと想像した。
 一人暮らしで不特定の男を相手に嫌悪感を抑えなければならないことも多い、つらい仕事をしている女は、どうしても頼るよすがを求めるものだが、仕事から足を洗わずに本当に頼れる男とくっつくことができるのか?と私は心配した。
 平成八年の秋ローザがソープからあがった。二十四歳のうちに堅気になると以前から言っていた通りいさぎよくソープの高所得を捨てた。
 私は夏美に逢ったとき、ローザが引退したことを寂しがって話題にした。
 夏美は思いがけないことを言った。
「××さん、どうしてローザちゃんに付き合いを頼まなかったのー。××さんなら、ローザちゃん、仕事をやめても、きっと付き合ってくれたわよ。月二十五万ぐらい出せばオーケーしてくれたわよ、××さんなら。どうして言わなかったのよ」
 その品性のないそそのかしの言葉で、私は夏美という女がすっかりいやになった。
 私は、夏美と並々でないつきあいをしているつもりなのに、夏美に嘘の多いことが腹に据えかねていた。
 いつぞや交合の最中にペニスが縮こまって外れているのに、それでも夏美が派手なよがり声を上げたから演技候ぶりに不愉快になったことがあった。
 恵里亜が手入れを受ける前に夏美に本名を尋ねたことがあった。重役室で再会してしばらくしてから、それは全くいい加減な名前を言ったのだとわかった。
 年齢についても梓や由美から聞いて大体の見当はつけていた。しかし、夏美はずーっとごまかしていた。
 ソープの経歴にしても、私は、五年前に夏美に初めて会ったのは、夏美がこの業界に入ってそれほど年数が経っていない頃のことだ、と夏美の口ぶりから想像した。
 しかし、実際は既に何年も勤めていたらしい。
 ソープ歴にしても年齢にしても本名にしても、これだけ親しく通っているのだから、私にうち明けて差し障りのあることでは全くなかろう、と思うのに夏美は嘘で通した。
 また、夏美は吉原の店では一生懸命働いたと朗らかに思い出語りしたけれど、実際は仲間があきれるぐらいに八ヶ月間で店を転々とした。
 ソープに来たのは、洋服屋に三十万円ぐらいの借金ができて、どうしようもなくなって決断したと聞いていたけれど、半年ぐらい後になって私がそのことを話題にすると、夏美がとぼけた。
 そういううち明け話をしたことを忘れたにしても、でまかせの嘘を言って何のことやらわからなくなったにしても、夏美の心に誠意がないと許せなかった。
 とにかく夏美は個人的なことをあまり話さなかった。そういう態度では私は白ける。
 夏美が、由美に旦那がいると言ったことがあった。このことも許せない。それは親しい仲間の由美の手前、双方の客である私に絶対に言ってはならないことだ。仁義というものだろう。
 真実味、誠実さ、思いやり、礼儀、教養、容姿、どれをとっても夏美は由美やローザより劣っていて、上回っているのは、エロチシズムに溢れた閨(ねや)の仕草、雰囲気ぐらいだった。
 私はその長所を愛でて、夏美を熱い心で愛撫してよがるさまを見て愉しみ、享楽に溺れた。
 夏美は親しい仲間にも自分の過去を全く話さなかった。年齢を隠したいということもあるかもしれないが、みすぼらしい人生に相当コンプレックスを持っていたのだろう。
 一つだけ真実があって、それは夏美が女の深い悦びを初めてわかったのは私の熱い愛撫によってだということだ。
 夏美はそのことを店の仲間にも私にも匂わせたし、夏美がネクタイピンや財布などの小物をプレゼントしたことがあるから、間違いないと私は思っていた。夏美はそういうことを客にする性格ではない。
 私は夏美の真心のようなものを感じることもあったから、人間の出来が悪くても、オーガズムの時の女らしい乱れように亢奮して、正味二年四ヶ月も付き合った。
 だが、ローザに援助交際を求めればよかったのにと言う夏美の顔を見て、まっとうな人生設計をしようとするローザに対して、それを激励し見守りたい私に対して、何という侮辱だ、と瞬間煮沸状態になった。
 私は金津園で遊びすぎて金銭的に余裕がなくなっていた。
 放蕩を縮小するには通う女を整理する必要があった。だから、夏美に通うのをきっぱり止めることにした。
 長年遊んだローザがいなくなって寂しいのに、夏美をやめることもなかろう、と未練の気持ちもあったけれど、まだ由美は当分あがりそうもない。金津園に心の宿は一つ残っていた。
 夏美は充分心をわくわくさせてくれたという想いが残っている今がさよならの潮時だろうと考えた。 (了)

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