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藤田徳人氏の『Hのかがく』を論評する

 ハウツーセックス物はネットでも書物でも随分出ています。作者は、医学者かそれとは無縁ながらもセックスの経験が豊富らしき人のいずれかです。
 後者の人と比べると、医学者の述べるハウツーセックス物は、女医さんが書いたものでない限り、意外にへんてこなものが多いと感じます。
 ハウツーセックス物は実用書なのだから、性感の学術的解明や生理的メカニズムなんてものは二の次でいいです。如何にしたら昂揚できるかが主題となるべきです。ところがなかなかそうなってはいないですね。
 だからといって、セックスの経験が豊富な人の書いたものがたとえ良作であろうと、すべての人にとって大いに参考になるとは限りません。
 何故なら、実技面の解説がしっかり書いてあったとしても、加藤鷹氏が書くものは彼が実現しやすいやり方だし、杉本彩嬢?が主張するものは彼女の美貌とセックス好き?が背景にあって出てくる考えが多分にあるだろうし、セックスなんていうのはとにかく個人的プレイ、かつ、密室のプレイ、そして、人間の性感もその性感の最も適切な導き方もとにかく千差万別なんです。
 だから、その人たちが書いていることの殆どが真実をついていても、読み手とその相手とのカップルにおいて肝心の所に対応する助言・導きがその二人に対しては最善解にはなっていないことが起こり得ます。
 それだけエッチは、ある意味難しい。ピストンして射精することだけを考えれば比較的容易なことなんですがね。
 04/07/27発刊のハウツーセックス物があります。講談社という大手から出ているHのかがく(恋愛科学研究所所長・医師 藤田徳人(ふじた・なるひと))という本です。
 藤田氏は1966年生まれの整形外科医ということです。(大手の出版だから内容のあるもののはずと期待して)この人の主張を要約します。
 褐色の字……原文をそのまま引用したもの、( )の数字はその文章が登場したページ。
       青字の注記は私が著者の文から想定して挿入したものです。
 赤色の字……藤田氏の主張のポイントと想われるものを私が要約して記載。
 黒色の字……私が感じたことを記載。
(015)  つまり「セックスの快感」は、肉体的に性的刺激を与えるテクニックなどより、このフィルターの仕組みを上手に利用し、刺激を受けている相手が好ましい感情を持ってセックスに望めるように工夫すれば、簡単に操作することができてしまうというわけです。
(016) 「セックス・テクニックが低いから、パートナーに快感を与えられない」
 なんて悩む必要はありません。大切なのは、体内から分泌される物質(ドパーミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、性ホルモン)を、いかに多く引き出すことができるかにかかっているのです。
 ※ 上の文と矛盾あり。
(036)  気持ちよくなければセックスじゃない。その気持ちよさは脳内の化学物質の分泌による。
(039)  セックスで快楽を得るためには、脳を興奮(ときめき)→化学物質の分泌を促す が必要。
(044)  人にも性ホルモンがある。セックス前は入浴厳禁。
(049)  性欲に関して言えば嗅覚などより視覚と聴覚による関心度の上昇が大切。
 ∫  会わない日数が長いこと、嫉妬、喧嘩、不倫→→快感やオーガズムを呼びやすい。
 ∫  クリトリスの形(包皮有り)と小ささ、奥まり具合がオーガズムを迎えにくくしている。
(073)  これは優秀な精子を厳選するため仕組まれたもの。
(022)  一説では世界中の女性の45〜75%の人がオーガズムに達した経験がない、ともいわれています。
(073)  オーガズムを阻むもの→→ストレス、体調の悪さ、生理が始まる1週間前頃に分泌のピークがくる黄体ホルモン。
 ∫  オーガズムを阻むもの→→肥満、アルコール、激しいピストン運動。
 ∫  オーガズムを阻むもの→→30秒以上同じ動きを続けると知覚が麻痺。
     ※ ペニスのイキに対して、女性のイキは違うのかな?
 ∫  フェラチオには両手も使うように。喘ぎ声には効果あり。
 ∫  フェイクしている女性の相方の男性は、その半数が相手のフェイクを悟っていない。
(120)  (セックス時の禁句、リップサービスの言及が12ページ続く)
   ※ 心を重視しているのはよく伝わる。
(126)  ペニス挿入後に体位を変えること自体は、私は「必要な行為」だと考えます。でも、それには「ピストン運動の停止を極力抑える」という絶対条件をクリアしてこそ、必要といえる行為ということになります。

 私は、私の考えと藤田氏の考えとを対比形式で掲げようと思って、その事前準備に本を読みながらここまでまとめて、大変馬鹿馬鹿しくなりました。
 藤田氏は、セックスにおいて心理の大切さを強調している点について大いに頷けるけれど、化学物質とやらにやけに着目していることには違和感を感じます。
 性や性感に関与する化学物質というものは、性科学の学術書には好きなだけ書いていいけれど、我々の目には見えないものであるだけに、一般人向けのエッチの教本にあーだこーだと書くものではないでしょう。
 女性がエッチ行為を心底歓迎するなら、相手の男性が、女性の気持ちを高めつつ上手に愛撫すれば、女性がよほど異常な状態でない限り大概はイカせられると言って過言ではありません。
 そうやってイッたときには必要な分泌がなされているのであって、化学物質なんてどうでもいいです。
 藤田氏は、上手に愛撫したって、必要な化学物質が出ないことがある、などと説明して、うまいテクニックすら嗤っています。
 そして、持続するピストン運動が女性のアクメには必要だと考えているようです。
 女性にオーガズムをもたらすセックスが大切だと考えるのなら、氏が性の解明を自負する医学者であるからには、概ね何分ぐらいの抽送が必要と考えているのかを、学術書でないので推定で良いから定量的に書いて貰いたいものです。
(その値が示せないのなら、せっかくの初心者向けの教本なのだから、ピストンによる女性の中イキに自信がありそうなご自身の、抽送持続時間の大体のところを示してもらいたかった)
 このことに限らず、化学物質とやら以外は具体的なことを全然書いていません。
 更に、全172ページのうち158ページまで、いわゆる『クリイキ』について全く言及しません。終始ペニスのピストン運動によるエクスタシーを念頭に置いて筆を進めています。まるで現実から乖離しています。
 本論が終わって、末尾にQAの章があります。そこで女性からの
「私はペニスの挿入でオーガズムに達したことがありません。でもクリトリスへの刺激だったら、オーガズムに達せられるんです。クリトリスでのオーガズムだけで満足していてはダメなのでしょうか。クリトリスとペニス挿入のオーガズムは何が違うんですか」
という質問とそれに対する回答を掲げたとき、藤田氏はようやく『クリイキ』について語ります。
 それが次です。
 性欲を、食欲に例えて考えてみましょう。クリトリスは性感を直接刺激する場所ですから、食事をするときに使う(舌)にあたります。舌は食物をダイレクトに受け止め、甘みや辛味、酸味などの刺激が直接伝わって「おいしい!」という快感が速やかに実感できる場所、お腹が空いているとき、ひとかけらのチョコレートを食べても「おいしい!」と感じ、それなりに空腹感も癒えますよね。この「おいしい!」という速効の満足感が、クリトリスへの刺激で得られる快感と考えられます。つまり、「即効性があり刺激がダイレクトで強烈なもの」がクリトリスでの快感ということです。
 しかし、「即効性があり刺激がダイレクトで強烈」という感覚だけでは、人間の食欲は完全には満たされません。食事は味覚だけではなく、視覚や嗅覚などさまざまな五感を用いてゆっくり味わい、初めて満足感を得るものです。
 例えば、チョコレートに比べるとカロリーも低く、舌に与える刺激も少ない高級懐石料理はどうでしょう。ひと口食べただけでは「おいしい!」とは思っても、満たされた気持ちにはなりません。懐石料理は美しく盛られたたくさんの品を目で見て楽しみ、ひと品ずつ味の違いを楽しみ、バランスよく配合された栄養分を摂取し、じっくり味わってから「満足した!」と思えるもの。この満足感は、即効性も強烈な刺激もなくジワジワと得られるものではありますが、満腹中枢も食欲中枢も十分に満たされる、かなり質の高いものといえます。この高級懐石料理が、ペニス挿入で得られる快感と同じと考えられるのです。
 五感を刺激し、じっくり時間をかけて快感を得る。このことは、舌で感じる即効性のある強烈な刺激より強い満足感を得られ、すぐにお腹が空いてしまったり、とりあえず空腹感は満たされたものの、なにか物足りないといった欠乏感を呼びません。それがペニス挿入でのオーガズムです。
 でも、懐石料理も料理人の腕によっておいしくもなればまずくもなるもの。セックスでも同じことで、クリトリスは触れば直接的な刺激を受け、確実に快感につながりますが、腕の悪い料理人によるペニス挿入は快感にはつながりにくい。満足感を得られるほどの快感には達しないわけです。だから多くの女性は、「クリトリスではオーガズムに達するが、ペニス挿入では達しない」ことになる。ペニス挿入でのオーガズムは、多分にパートナーの男性=料理人の力量に大きく左右されてしまうからです。
 クリトリスの刺激で得られるオーガズムだけでも満足できる。そう断言する女性もたくさんいます。女性誌などでは「クリトリス・オーガズムだけで十分! ペニス挿入なんていらない」といった記事があちらこちらで取り沙汰されていた時代もありました。ですが、パートナーとのコミュニケーション性が高い、真のオーガズム、心の底から満足できるオーガズムに達するためには、やはりペニス挿入がもっとも効果的だと私は考えます。
 パートナーの男性が、ペニス挿入でもオーガズムに導いてくれるような、腕のよい料理人になれるよう、きちんとセックスについて話し合っていただきたいものです。
 まことにひどい論旨です。ひどい所以をまとめます。
(1) クリイキで満足していてはダメ。中イキは男性の腕にかかる。中イキのために努力しなさい──が結論
 中イキを達成したとき、男性は強烈に「俺は男だ!」という気分になります。対戦した女性の何人かを中イキさせられた男性は、中イキを到来させられなかったエッチをまるで失敗作視して、中イキのできない女性をなにか不完全作品のように思うことがあります。
 そういう男性の見方に対して、女性向け雑誌は女性から取材して、中イキ至上主義に異を唱えます
 藤田氏はそんな風潮が、虫が好かないようです。藤田氏はさかんに思いやりを説いています。しかし、質問者の女性の悩みに対しては些か思いやりが足りないと思います。何やらたとえ話ばかりしていますが、質問者の本当に知りたいことに答えているのかという気がします。
 クリイキで満足していてはダメ、中イキが最高快感、というのは藤田氏の思い入れです。そもそもクリイキさえ難しい女性すらいます。中イキができる女性というのもかなり少ないです。
 その辺の言及があってもいいのでは。
 中イキは男性の腕にかかる、というのは救いのない話です。確かに、男性によるところが多大で、中イキのためにはかなりのペニスの往復が必要です。
 しかし、実際にはそこまで往復できずに撃沈してしまう男性が殆どです。一方では、強烈に長い時間往復できる男性がいて、その男性に惚れ込んでいても、ピストン運動が始まれば、快感は最初だけで、しまいには痛くてたまらなくなるという女性も多いらしいです。
 要は、女性の体質もいろいろということです。
 腕のよい料理人が必要というなら、腕の悪い料理人に惚れてしまった女性は一体どうなるのか。
 腕が悪ければ、要するに早漏であれば、或いはデカマラでありすぎれば、その男性を切り捨てろというつもりなのでしょうか。およそ腕というのは、本人の資質によるところが多く、本人がどんだけ頑張っても、平均的に15往復で発射してしまう人が15分ピストンを続けることはできません。
 話し合って解決できるものではないでしょう。
(2) 中イキとクリイキは異質のものという見方だが、男性の藤田氏に女性の体の感覚が実感できるのか。
 藤田氏が中イキさせた女性が、感無量の顔で「やっぱり中イキはクリイキよりいい」と皆言ったとして、それは、本当にクリイキなんてもう要らないというような意味なのでしょうか。
 中イキのほうが階段の登り方がゆっくりで、楽しみが長そうだとは理解できます。ただ、それは同時に、ペニスの突き込みを長い時間受けることによる疲労感の相乗効果という現象であるのかもしれません。疲労という負の部分があるから、快味が大きく錯覚できるということです。
 まあ、中イキが至高の快楽の可能性があることは認めますが、ペニスの抽送で中イキができる女性が現実にあまりにも少ないだけに、また、中イキは性交経験回数の増とか出産経験とかがあって可能になるという現実があるだけに、中イキなければ良いセックスではないという考え方には怒りを感じます。(現実に、女房が中イキが可能になった頃には、亭主はその古女房に性欲をかき立てることが難しくなっています)
 たとえば、潮吹き。体の奥が思いっ切り収縮して、凄まじい勢いで液体が噴出します。私が持っている映像は、クリトリスをローターで弄うものでした。
 イキはイキだと思いますが。
 なお、奈良林祥氏はHOW TO SEXの中で次のように書いています。
 男の射精を受けなければ女はオーガズムに達しない、などというオーガズム理解はもう古い。脳波、その他の検査手段を使って調べると、オナニーによって達するオーガズムも、性交によるオーガズムも、生理的な面での同価値ということがわかっている。だから、女性が“男の射精を膣に受けなくても、オーガズムはオーガズム”と割り切って考えることができていれば、射精を受けないと絶対満足しない、というような偏りは生まれないはずである。
(3) 性欲 ←→ 食欲、クリトリス ←→ 舌、という対比はご都合主義ではないか。
 性欲──性的に気持ち良くなりたい欲望
 食欲──飲食に関する欲望
 性感に対するは 食感+満腹感、いずれも感ずるところは脳、そして脳にシグナルを送る部位は、
 満腹感─食道、胃、腸
 食感──目、手(箸で摘んだ時など)、唇、口腔、舌、ノド、食道、胃、鼻、歯ごたえ
 性感──目、肌、膣、クリトリス、アナル、クリトリス以外の性器構造すべて
 舌は味覚と舌触りで関与しています。著者の書く「おいしい!」と思うのが味覚のことを言うのなら、それに関与しているのは舌だけです。これに対して、「気持ちいい!」と感じるのは、触感から来るものでは、乳房・乳首・脇腹などを含めてたくさんあります。
 クリトリスによるイキは性欲を満たすけれど、舌でうまいと思ったって、(食欲を満たす量を胃袋に入れなければ)食欲は満たされません。
 これでは、舌とクリトリスとを対比すること自体がおかしいでしょう。
 私の記憶によれば、舌には直接味覚を感ずる細胞があるはずです。クリトリスには快感を直接感じる細胞があるのでしょうか。
 女性にも海綿体のようなものがあって、氷山が、洋上に10%、海面下に90%を残しているように、10%突き出ているのがクリトリスだといわれています。その海綿体に刺激が加えられると、その組織の奥に快感の元となる何らかの細胞の亢奮がおこり、それが脳に伝わって快感と解釈されるらしいです。その海綿体を奥のほうで刺激すれば「中イキ」、洋上で刺激すれば「クリイキ」になるのです。
 所詮同じものに、方法によって価値の違いをここまで強調するのはおかしいです。
 とにかく、クリトリスと舌とを対比するのがナンセンスだと思います。

 さらに、藤田氏の暴論は、中イキが高級懐石料理を食べた時の満足感とし、クリイキは、たとえて言うなら、何日も山の中を放浪した山岳遭難人が救助されて、差し出されたチョコレートを口にして「おいしい!」というような、微笑ましいけれど、高級懐石料理に舌鼓を打つよりはかなりみじめな食の喜びに比していると言えます。
 そもそも、山岳遭難はともかくも、人が3時にチョコレートを食べるのと、夕方7時にフルコースの料理を食べるのとでは、食べる目的が全く違います。目的が違えば、食べた時の感動は全く内容が違うのが当たり前です。
 一方、女性がクリトリス攻めを受ける時と、ペニスのピストンを受ける時とでは、女性側の目的は全く同じです。要するに、「私は気持ちよくなりたい!」です。ただ、後者のほうは、「パートナーも同時に気持ち良くなるその行為で、私も気持ちよくなりたい!」ということです。
 いずれにしても、女性の自分に関する目的は同じだから、達成感・満足感はクリイキも中イキも同じです。チョコと懐石のほうは食べる目的が違うから、達成感・満足感は異質のものです。(クンニリングスを受ける時に女性が男性にも気持ち良くなってもらいたいと思うと、69をやります)
 このようにはっきり違うものを対比させて類推するなんて詭弁もいいところです。
 藤田氏はクリイキと中イキの感動の大小を語っているだけだという見方も可能です。仮にそうだとしたら、『答』の文章の70%は、「中イキのほうがクリイキよりも断然良いものだよ」という説明文ということになります。
 それは、果たして質問の真意に対応しているのでしょうか。問の上っ面だけを見て答えているのではないでしょうか。そもそも良さに大小がある理由の説明をしていないです。あるのは比喩だけ。
 それにしても、こともあろうに、腕の悪い料理人=ペニスの抽送力が弱い亭主を持ったら、高級懐石料理がまるで食べられない妻に比すなんて、もうこれは暴論の極みでしょう。女性の性感というものは人によってもともと大きく差があるものだ(それは主に開発速度の差であるのかもしれません)という本質的なことにも全く触れていません。

 講談社のような大手がよくこんなひどい本を出しましたねえ。
 中イキできるかなり女性なんてかなり少ない、そして、中イキできるかなり女性にピストンしても中イキまで持ち込めない男性がとても多いのに、それを忘れて、中イキ以外はオーガズムではないと打ち上げている。ひどいです。
 質問者の悩みにきちんと対応する気持ちがあれば、私なら次のことを書きます。
(1) もし、相手の愛撫でクリイキして、それからピストン運動を受けているのなら、
  クリイキも与えられないパートナーが多いだけに、貴女は幸せです。
(2) クリイキができるなら、それを何度も味わうよう工夫してみてはどうでしょうか。
(3) クリイキの寸前のところで挿入に変えて、それで中イキができるか試してみましょう。
  どうしても挿入時にイキたいなら、挿入されたままローターを使う等の補助手段もあります。
(4) 中イキもクリイキも刺激を受ける箇所が違うだけで、イクのは同じ。
  愛する人のペニスを入れたままイキたい気持ちはわかります。
  出産経験とか時とかが解決する可能性もあります。
  正上位で、男性のペニスの付け根が貴女の秘部を押し、揉むようにするとよいかもしれません。
(5) 中イキは、女性が中イキしやすい構造をしていることと、男性の抽送力が必要です。
 条件が合わないことが大変よくあるからこそ、中イキしたと自信を持って言える女性は多くないです。
 むしろ、女性が自分の中イキできないことを嗤うとか、恥辱に思うような傾向さえあり、その結果中イキしてもいないのに中イキしたとポーズをとり、一旦嘘をついたら、女性の友人にも「私は中イキできるわ」とウソを言うことまであります。
 ここまで思い込ませる風潮が哀しいです。中イキできるほうが女として肉体の成熟度が高いと見るなんてねえ。
 それと、“イキ”とはフィニッシュ感を伴った感触であるはずですが、人によっては、フィニッシュ感がないまま気持ちよい状態が続くこともあります。すると、本人にはイッた感覚があんまりないけれど、これもアクメであることは間違いありません。
 感じ方は人それぞれです。つまらないことを気にかけず、気を長く楽しいファックをしてください。
 インサートは後戯で、その前の、クリイキを目差した愛撫が本戯だ、と言う人もいます。
 藤田氏は──だから多くの女性は、「クリトリスではオーガズムに達するが、ペニス挿入では達しない」ことになる。ペニス挿入でのオーガズムは、多分にパートナーの男性=料理人の力量に大きく左右されてしまうからです──と書いています。
 ところが「 」書きに該当する女性は多いし、それが何故いけないのだ、ということです。女性はそれでエッチが楽しいと思えば、それでいいのです。
 更に、別の質問として、女性から不感症の解決策を問うものがあります。
 藤田氏は、精神低迷の問題(意欲的な生活態度)、体質の問題(ホルモン異常、肥満、骨盤底筋の虚弱化)、愛情不足の問題(かって好きだった人への思慕など)、セックス恐怖症、相手の技量不足、などを持ちだし、病理的心理学的観点からのみ対応策を提案し、最後に相手の技量不足を持ちだしています。
 これもおかしいです。ペニスインサート時の不感症にだけ焦点を当て、その女性が性器を愛撫されて気持ちが良いのかどうかの検討すらしていません。
 藤田氏は次の記述をしています。
──(1) クリトリスの形(包皮有り)と小ささ、奥まり具合がオーガズムを迎えにくくしている。
──(2) 一説では世界中の女性の45〜75%の人がオーガズムに達した経験がない、ともいわれています。
 (1) は、私にはどう見てもクリイキを念頭に置いた話に思われます。(2) は、55〜25%の女性がオーガズムの経験有りとしているから、当然クリイキも含んだ上でのオーガズム経験率なのでしょう。
 私は、陰核茎部が大陰唇の間にめり込んだような形をしている何人かの女性(ソープ嬢)から、「(こういう形をしているから)私はクリイキができなくて、中イキなのよ」と聞いています。
 真実を語らせてもらえば、その考えは間違っています。
 陰核茎部が大陰唇の間にめり込んでいようがボコーンと見事に飛び出していようが、40歳にもなっていず、子どもを産んだこともない女性なら、どれだけたくさんの性交をしようと、ペニスの往復でイケれる人はそんなにたくさんはいません。
 陰核茎部がボコーンの女性のほうがオナニーを覚えやすいし、常習的になりやすい、という違いがあるだけなのかもしれません。
 沈み型の場合、明らかに女性はオナニーを常習する傾向には向かいません。きつい快感が得られにくいことが多くなるし、もし(洗浄の仕方もわかっていない頃に)オナニーすれば、指に強いにおいがつきます。
 孤独な慰めへの罪悪感・惨め感がとても強く襲って、マスターベーションの忌避感が強くなります。
 しかし、藤田氏はハウツーセックスの本でありながら、(1)と(2)の奇妙な記述以外では、質問コーナーに至るまで本論では、一切クリイキを内包したような文章を書いていません。クリイキを単独でとらえたような文章もありません。
 要するに、藤田氏はクリイキをオーガズムと認めず、ペニスピストンによるアクメだけをイキとしているのです。
 それは確たる主張で立派ですが、ならば、このクリイキを包含した(1)と(2)の文章が何らの説明も加えずに書かれていることが全くおかしいです。
 いいですか、(1)に該当する形状のクリトリスについて考えます。
 クリトリスの形は個々の女性では様々であり、その中で、平均よりも包茎の形状で、平均よりも突起部分が小さくて、平均よりも位置が奥まっていて、それが大陰唇の中めり込んでいるような、クンニリングスをしにくいものの場合は、相対的に中イキが達成しやすいおまんこ(というか、中イキのほうに活路を見いだしたくなるおまんこ)です。
 なかなかクリイキしにくいおまんこなのかもしれません。
 海綿体が沈んでいるのだから、(外からの指攻めが有効でないとは限らないが)中からの刺激が良いのです。
 藤田氏が考えるように中イキだけがアクメで、クリイキは真のアクメではないのなら、(1)の文章は不要です。むしろ「クリトリスは位置が奥まっているから、腕のよい男性にかかると、ペニスのピストンでオーガズムが迎えやすい」と書かねばなりません。
 藤田氏は実に典型的な『ピストン至上主義者』『ペニス崇拝主義者』です。クリイキを認めていません。
 ご自分の娘がクリいじりのオナニーをしているのを見つけたら、蹴倒すかもしれません。一方、ペニス型の張り型を使用しているのを見つけたら、「うーん、永久持続には勝てんわい。でも、さすが我が娘だ!」と唸るのかもしれません。
 性愛アドバイザーがこんな人ばかりだったら、女性がかわいそうです。この人は、男性がいなくても女性が感じることができる“クリトリス”というものの不要論者・邪悪視者に精神が近いです。陰核切除の風習がある部族がありましたが、そこの族長に就任されたらいいと思います。
 Hのかがくは女性から見たらとんでもないハウツーセックス書です。男性から見ても不幸にも、デカマラ、曲がりチンコ、胡瓜型先細りチンコ、短小、早漏、強度の包茎等の人には、自己のセックスを劣等視しなければならない似非啓蒙書といえます。
 そもそもハウツーセックス書は、チンボをマンコに突っ込まれただけでもう気持ちよくってしょうがない女性、及び、そういう女性とセックスしている男性には必要がないものなんです。そういうことがわかっているのかと言いたいです。
 これは悪書の最たる出版物です。早々に絶版処置をすべきです。

 以上を書き終えてしばらくしてから、恋愛科学研究所所長・医師と称する藤田徳人氏が恋愛科学研究所というウェブサイトを持っておられることに気づきました。
 私は藤田氏のこともHのかがくのことも知らない時に、旧良性記でそのサイトの一ページにリンクを貼っていました。
 で、同氏のサイトを眺めると、性の悩み相談如きで有料コンテンツまで設け、その有料コーナーの項目紹介を見ても大した話が載っていないように思えます。大変いかがわしいサイトです。
 一方、無料のコンテンツでは『性に関する辞書』のページにセックスに関する主張が一番明確に出ていて、それはHのかがくとはかなり視点と意見が違っているように感じました。どうもそのサイトは同氏が一人で制作しているのではないようで(藤田徳人監修となっています)、だから、本とは主張の位相が少し違っています。
 要するに、藤田氏はかなりいかがわしいオッさんです。この人のおかしな主張を、PHP研究所や講談社のような大手出版社が出版するのが不思議でなりません。
 結局、出版社の出版採否の決定をする権限者も、セックスの本筋を知らないピストン至上主義の男性ということなんですねえ。

 あまりにもひどいハウツーセックス本を見たから、口直しに良作決定本を眺めてみました。
 丁度奈良林祥氏のHOW TO SEXがベスト新書から2004年12月に発刊されました。この本は70年代のベストセラーで、私が結婚するちょっと前に出版されました。私も含め、その当時結婚しようとする男性の多くがこれを読んだと思います。それが新装版で出たから懐かしいです。
 で、HOW TO SEXを読むと、男性の処女膜に対する誤解とかペニスサイズへのこだわりの撃破とか愛撫の必要性とか、大変わかりやすく、また、ごもっともな説明が続きます。少し読んだだけで、もうHのかがくとかよりも雲泥の差で価値のある著作だとわかります。
 その一部を掲げます。
 愛撫とは、”キスしました、乳もみました、お次はいずれをいじりましょ”なんていう、よそよそしく、秩序立ったものなんかでは決してない。無秩序で、衝動的で、突発的で、荒々しくて、かと思うと、いきなりそれに続いてやさしい静かさがあったりというような、それが愛撫というものであろう。
 性の交わりの中でもっとも人間臭い部分、それが愛撫の交流である。なぜならば、人間とは言葉を持ち、手を自由に使いこなせるがゆえに万物の霊長であり得ているのであり、従って言葉と手をフルに活用する愛撫という行為こそ、まさしく人間だけに許された性の行為といえるからである。だから、愛撫を軽んずることは自ら人間らしい性行為を放棄しているということであり、そんなセックスしかしないひとは、犬や猫だってやっている程度のことをセックスだと思い込んでいる、ということでもある。
 愛撫こそが、実は性交の中心であり、愛撫の充実が真の性の交えるよろこびを生むのであって、性器の結合と、射精と、それに伴うオーガズムという部分は、いうならば性交のしめくくり、ピリオッドという意味しかない。
 適確な説明です。30年後の現在でも「お次はいずれをいじりましょ」とマニュアルおたく的にエッチを進める男性がとっても多いようです。
 しかし、何分にも70年代の著作だから、手の愛撫が前面に出て、オーラル愛撫が語られていませんね。
 奈良林祥氏はその4ページ後に少しだけオーラル愛撫に触れますが、それはペッティングの前技の位置づけです。
 つまり、抱擁は、それ自体愛する者への激しい、あるいはやさしい想いの表現方法として自在に使いまくれると同時に、他の接吻あるいは指による刺激といったような愛撫の手段と併用されることにより、それらをより有効な愛撫の手段に盛り上げる役目も果たす、ということである。
 接吻も、ごく軽く唇を当てるグッドナイト・キッスや、深々と吸い合うディープ・キッス、舌をからませるフレンチ・キッスというふうに、自由に使いまくればよろしいし、こうした唇と唇の接吻だけではなく、さらに、身体接吻、性器接吻というふうに、範囲を拡げてゆかねばならない。
 ただし、これはなにも男の仕事に限ったことではないのであって、女も負けずに接吻の激しいアタックを男に浴びせるべきであり、その女の男の性器に対するフェラチオに負けまいと、男がいささか抵抗を見せるかもしれない女性の性器に吸引接吻を加えれば、自ら、MGK(相互性器接吻──ミューチュアル・ジェニタル・キッシング)が展開される。この時、女の舌の先端が男の尿道の出口にデリケートな刺激を加え、男の舌の先端がクリトリスに触れられるということが同時に交換されれば、愛撫としては、まさしく最高に華麗なよろこびをもたらすにちがいない。が、このよろこびに負けてはならない。
 ここで、男はベッドの上に座って、女を左腕で横抱きにし、ディープ・キッス、フレンチ・キッスを与えながら、右の指は女の外陰へとすすんでゆく。ここで、愚かな男と賢い男の分岐点が一つ現われる。愚かな男の指は、まさに馬鹿の一つ覚えよろしく、女のクリトリスへと向けられてゆくが、賢い男はそうしない。まず、左右の小陰唇の外側を人差し指と薬指で軽くはさみ、中指の腹は左右の小陰唇の上端に当てるようにして、ブラッシングを試みるであろう。
 そして、時々、指を撫で上げた終点に当たるクリトリスの先端を中指の腹で軽くタッピング(叩く)を加えたり、人差し指と薬指でクリトリスを左右から押える運動をまじえながら、指先は女性の外陰部の濡れ具合いから、小陰唇の開き加減を、敏感に感じとってゆくのである。
 小陰唇がはっきりと左右に開き、膣の入口にあたる膣前庭の粘膜が、指先の腹で容易に触れることができるようになれば、指が膣内に移動され、膣粘膜を愛撫することに、女はなんら抵抗を感じないはずであるし、相当性興奮に対する抵抗性の強い彼女も、もうここまで来ればオーガズム一歩手前。あとは、結合があるだけである。
 奈良林祥氏は人差し指と薬指と中指に随分複雑な動きを求めていますね。トランプ手品ができるような人だけがこれを実行できることでしょう。
 一部引用を略しましたが、著者は、抱きしめ→乳房の愛撫→接吻→オーラル愛撫→性器へのペッティング→合体 と手順を説明しています。こういうやり方もあります。
 私なら、別のやり方を勧めますよ。もっとオーラル行為を前面に出すべきです。著者が書いているように、この頃はまだ「相当性興奮に対する抵抗性の強い彼女」が多かった。でも、今は男に肉体を愛撫されることを憧れている女が多いのです。
 女性器をグッショグショのネチョネチョにできる一番良きやり方とは、ペッティングではなくて、オーラル行為です。
 著者は「もうここまで来ればオーガズム一歩手前」と書いているけれど、クンニリングスでオーガズムを呼び込めばいいのです。大抵の女性は何度でもオーガズムを迎えられます。(奈良林祥氏も別のところで──女は、一性交中に数度のオーガズムに達することができるのである──と書いています。ならば、インサート前にイカせたってよろしいでしょう)
 クンニリングスで一度イッたら、次はグッショグショのネチョネチョになった外陰部に指で攻撃を加え、その濡れを活用して凄まじい快感を更に生み出させ、2度目のイキを味わって頂く。このほうが素晴らしいです。
 私はさして親密さをまだ生み出させてはいない風俗嬢とエッチ行為をする場合でも、クンニリングスで一度イカせたら、次はグッショグショのネチョネチョになった外陰部に指で攻撃を加え、その濡れを活用して凄まじい快感を更に生み出させ、2度目のイキを味わって頂くというようなことをよく実現させています。
「どうしてそんなに器用に指が動かせるの?」と昔からよく言われます。
 金銭を対価とする交情でもこんなことが可能なら、もともと互いが惚れ合って、しかも、性的好奇心が充ち満ちている男女間ならば、このようなことを実現するのはもっと簡単なことであるはずなんです。
 なお、奈良林祥氏は人差し指と薬指と中指の随分複雑な動きを書いていたけれど、上手なペッティングは中指1本でクリトリスに向けてするものです。
 AV映像を見ていると、指2本を陰核茎部に当てるのが多いようですが、1本使いのほうがしなやかで持続的で速くて、しかも、やさしい軽妙な攻めが出せます。(もうそろそろイキそうだと思うと、指を3本揃えて、これで陰核茎部を揉みます。3本揃えの攻めを始めたら、30秒以内でアクメっていただきます)
 私の中指1本の指使いの巧みさといったら、自分でも感心するような動きです。「こんなすごいの、私初めて」とよく言われます。ペッティングをされなれている風俗嬢にです。
 さて、主張のポイントのところを引用しまくってもしょうがないからこのくらいにしておきますが、あらためてこのHOW TO SEXを読むと、奈良林祥氏も、女性のオーガズムについてはどうもペニスピストン至上主義のような気配です。
 合体した上でのオーガズムだけを念頭に置いている感じです。ペニスの抽送でオーガズムにまで至れる女性がかなり少ないという現実、ペッティングやオーラル愛撫でならじゃんじゃんアクメられる女性がたくさんいるという実態から遊離しています。
 結局、男性が著述するハウツーセックス物は男性の視点なんですね。
 HOW TO SEXも性交体位の説明に力点を置いているけれど、体位というものは男性がリードして形を作っていくものだから、男性のための説明なんです。
 女性には体位なんていうものはそんなに重要なことではありません。抱かれている事実だけが重要なんです。ソープ店に新人の女が入店して、その女の子が店のスタッフなり先輩ソープ嬢なりに、「どうやってベッドでセックスをしたらいいのでしょうか?」と質問をすれば、「お客さんに任せておけばいいのよ」と言われます。
 ファックは男性が好きなようにやればいい、そういうことです。ある意味、ペニスのピストンを(ひたすら耐え忍んで?)受け、射精させることに意義があるだけなんです。
 ひたすら耐え忍んで?──の表現は、売買春でのファックだからそうなるというものでもありません。
 もちろんその面があることは否定しませんが、もともとバギナへのペニスの受け入れにはそういった傾向があるということなんです。すべての女性が気持ち良くってたまんないということではないのです。
 売買春行為でのファックはともかくも、通常の相思相愛のもとでのファックにおいて、重要なのは前戯、愛撫、オーラル行為、これによって女性を性愛行為に余念なく浸らせ、女性に「この人に抱かれたい」、「この人に気持ち良くならせてあげたい」、「私ももっと気持ち良くなりたい」という心を煮えたぎらせることなんです。
 そして、前戯で女性が昂揚を実現して、ペニスのピストンを受けるにおいても昂揚を持続し、更に、少数の女性においては、ペニスのピストンでもってもオーガズムを得られることがある──それは要するに女性の性感感受が多面的だということです。耳たぶを口に含まれてアクメることができる女性だっています。
 ファックそのものでの女性のイキというものは、男性の奥深い願望であり、期待です。
 これまで3人のハウツーセックス物の著作者を挙げましたが、その御三方よりも私のほうが───女性をアクメらせた数、接した女性の数、多数回ファックしたその女性の数、総被フェラチオ時間、総クンニ時間──などのうちいくつかは多分上回っているだろうと思います。(御三方とは、加藤鷹氏、藤田徳人氏、アダム徳永氏)
 また、女性の、セックスに関する本音をヒアリングした回数も私のほうが多いだろうと思います。対象の殆どはいわゆる風俗嬢だけれど、女性であることは間違いないし、その人たちは全くセックスに関することに遠慮的発言や羞恥の下の無発言・曲がった発言をすることはありません。本音です。
 男性が書けば男性の視点が多く入るのは当たり前で、そこでいかに女性サイドの受け取り方を織り込むかが、ハウツーセックス物を著述する時に大切なことだと思います。(私は性交体位についてで、性の大家・高橋鐵氏に対してもそのことを指摘しました)
 それとね、汗みどろになって30分間腰を振れることは、ちっとも自慢できることではありません。多くの女性に対しては、受け入れの疲労感が肥大して、単に遅漏だということだけです。
 仮に、パートナーがその鬼のような抽送力を大層喜び、見事中イキに乱れ狂ったとしたって、男性のほうは、アクメ供与の自己満足の裏側には、強烈に疲労する負の部分があることを忘れてはなりません。
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(千戸拾倍 著)