ルイ 3

 久し振りにルイに会うと、部屋に入るなりルイが言った。
「××さん、今日は是非とも聞いて頂きたいお願いがあるの」
 その切羽詰まった顔からルイがとんでもないことを言い出すのではないかと懸念した。
「何なんだよ?」
「私、絶対に今日は激しくイカせて欲しいの」
 拍子抜けしたが、いつもそのようにしているのにわざわざ言うのが訝しい。
 訳を訊くと、長期の休みから復帰して励んでいるのに、このところP指名の若い客が多く、自分が数多くイクことばかり熱心で、愛撫してくれる男が全くいなくて欲求不満で悶えていた、と言う。
 軟弱なおちんちんばかり相手していたから、自慢のマットプレイでは得意技をちっとも発揮できず、ベッドではどの客も皆女上位でさせ、自分だけが腰を使って疲労困憊で、「まるで生ける射精マシーンよ。私、ひたすら抜かさせられていたわ。ずーっとつまらなくてたまらなかった」と怒る顔がおかしかった。
 マットプレイを始めると、ルイが「早くベッドに行きたいわ」と呟いた。
 ルイに気をやらせるのはいつもベッドだから、可愛いことを言うぜ、と思いながらも、かまわず得意の艶技をさせた。すると、俯せの私の両脚の間に腹這いになってする指技も、唇の吸い立ても、いつもよりきつい。
 掌でカリ首をひねりつぶすように揉みながら、いきなり睾丸の片一方を吸い出して引っ張る。ローションを活用し、穂先をしっかりと掌でくるんで、ぐいぐいひねりながら、同時に棹の軸に沿ってねっとり動かす。いつもよりも強引で、鋭い快感がビンビン走る。それはともかく、口で揉まれる睾丸のほうは痛いぐらいだ。
 矛先を変えさせるべく「尺八も!」と声をかけると、やはり、わっせ、わっせ、という感じの急ピッチの激しいフェラチオを繰り出した。
 この上もなくペニスが充血して、私がひいひい呻っているうちに、ルイは仰向きになるように求めた。
 私の腹に跨ると、左手で陰嚢をたくし上げ、睾丸を唇で揉みながら、右手はカリ首を揉みしだく。普段よりは、強さも鼻息も吸引音も激しい。まるで性本能がお仕置きを受けているようだ。
 私は、ルイの注文通りここで気をやらせてやろうと思った。それで、マットプレイでは割れ目がローションまみれになるので、いつもは指でいじるぐらいだけれど、強烈な愛撫に煽られて、クンニすることにした。
 ルイとは背丈の差があるので、それまであまり69をしたことがなかった。
「舐めてやるから、お尻をこっちに」
 しっかり吸ってやろうと思って声をかけた。
 ルイの尻が眼前に迫るとローション荒れで吹出物が出ていた。股ぐらはローションでベットリしている。一瞬口をつけるのを怯んだが、ルイがいつもローションまみれのペニスを頬ばることを思って意を決した。
 放射状の皺の線にあまり崩れのない菊座を眺めながら、首を持ち上げて谷間の蕾を吸った。いつもよりも割れ目が熱い。
 首を持ち上げた状態を続けるのがつらくても、ルイが気をやるまでクンニリングスを頑張ろう、とばかりに気合いを入れて唇を押し当てた。ルイが相変わらず激しくフェラチオを続けているので、私も会陰から菊座の辺りを指で弄いながら、赤ちゃんが乳首を吸うように、少し厳しくクリトリスを吸った。
 愛液が割れ目から陰阜のほうへ伝って流れる様を見たくても、私の鼻が邪魔して見えない。でも、口を離さずに舐め続けてやるべきだと思った。
 持ち上げた首がつらくなるまでもなく、すぐに私の腰のほうから切ない声が聞こえてきた。
「すぐイキそう。ここでイッてもいい?」
「いいぜ」
 返事を聞くや否やルイは呷き声を上げ、私の伸ばした舌にクリトリスを押し当てた。そのまま私の口唇の動きを受け入れ、私の毛臑を掴む手に力が入るや昇りつめた。僅かに腰が震え、押し殺した声が聞こえた。
 力尽きたように私の膝に顔を突っ伏し、陰阜のふくらみを顎にぺたっと預けたままじっとしていた。白い尻の間のアナルの蕾がとても可愛い。ルイはアクメまでに時間がかかるほうだけれど、この時は早かった。
 ルイは気をやる時に腰を上下に揺らした。恥骨のふくらみが顎を叩き、何とも気をそそる不随意の動きだった。私はその感触を振り返りながら、顎に陰毛を押し当てているルイの、ローションと淫汁でテカテカした股間で、淡い焦げ茶の割れ目が幾分か閉じていくのを眺めていた。
 マットが終わって休息の一時となった。
「あー、すーっとした。本当に、イッたの久し振りだわ。もう、ベッドでイカなくてもいいわ」
「駄目! もう一回、もっと激しくイカなきゃ。さっきのはあっさり過ぎるよ。あっという間にイッてしまったぜ。しかし、それにしても君はよっぽど欲求不満だったんだなあ」
 私は、今日は徹底的によがらせるぞ!と意気込んでルイをベッドに上がらせ、たっぷりとクリトリスを吸い上げ、舐めつくし、揉み込んだ。
 ルイはいつものようにシーツに大きな染みを作って、派手に開脚したまま「いー、いー」を連発しながら再び昇りつめた。
 フィナーレの交合は、仰向けのルイの腰をベッドの端まで引き寄せ、脚は垂直に立てさせて、私は床に下りて、ルイの両足首を掴みながら立ち位で激しく腰を送った。
 ルイは胸を押さえ隠すように両腕を組んで、それぞれの掌で自分の肩を掴み、口を半開きにして、いやいやをするように首を振っている。それほど大きくはない乳房が揺れ、表情は恍惚としていた。
 陰門に陽根が猛り狂って出入りしているのを躯を開いて眺めると、挾む両肉片がそよいでいる。肉棒が愛液で光り、カリ首のこすれる感触が、トンネルの中で大音響を聞いたように躯全体に放散している。思わず足首を握る手に力がこもった。
 しばし抜き差しをスローで愉しんだ後、スラストのピッチを上げた。カリ首が一際はち切れんばかりになった。
「おい、イクぞぉ! イク、イク、イクーっ! うっ、うっ、うーっ!」
 大声で吠え、苦悶するように唸りながら極上の放出を果たした。

 私はルイに自分の好みのマットプレイを教えた。ペニスの先をねちっこくこすりたてることが基本だ。そうすれば男が歓ぶと理解したから、ペニスの愛撫の仕方がとても強烈になっていた。
 ルイが、この人はカリ首が強くなさそうだから、手加減してさわらなきゃ、と思っていても、これがもの凄く刺激の強いものらしくて、一日の客の全てが、最初の洗い場でのお清めやマットプレイのときに、指のいたずらだけであえなく発射してしまうことがあった。
「出そうなら出そうとちゃんと言ってくれればいいのに、誰も教えてくれないんだものー。おちんちんがよく張ってきたなと思ったら、もう手の中に出しちゃっているんだから、本当に参るわぁ。男の人って、我慢できるか我慢できないのか、自分で判らないの?」
「そりゃー、絶対に判るよ、自分のちんちんだもの。だけど、自分からそれが言い出せないのだろうね。もうちょっと堪えないとみっともないと思ったりしてね。ちゃんと先に、『イキそうなら、合図してよ』って言っているの?」
「イキそうになったらすぐ嵌めてあげようと思って、××さんに教えられた通り、ちゃんと前もって言っているわよ。言っていてもそうなのよ。大体、洗っているときに出しちゃうのは、どうすることもできないわ。私、ただ普通に、滓がちゃんと落ちるように洗っているだけなのよ」
「自分の耐久力を過信している奴はどうしようもないなぁ。しかし、そういう男は、貴女のテクニックなら、おまんφの中で出すよりも、手のほうが絶対に気持ちがいいよ。それでも、男はみじめな気がするから、貴女のほうから『ごめんね』なんて謝っては駄目だよ。よけいに気分が落ち込む。ザーメンが出始めたと気づいたときも、しまったと思って手を止めるんじゃなくて、最後の一滴まで絞り出すように、これでもかとばかり、カリ首を更にぐりぐりと揉んでやればいいのだよ。それで、後で、『私の指って最高でしょ』ってフォローすれば、耐久力がなくて小馬鹿にされるんじゃないかと思う心が薄らぐもんだ」
「ふふっ。しかし、××さんのようにさわり甲斐のある人って、なかなかいないなぁ。昨日なんか、全員が勝手に私の指でイッてるのよ。フルタイムでお客さんがついたけれど、若いのから中年の人まで本当に全部よ。あらっ!の連続なの。ちょっと先っぽを揉んで、次の動きに移ろうかと思ったら、掌に白いものがあるの。イクときに声も出さないんだからぁ。ほんと、嫌になっちゃう」
「でも、簡単に出しちゃう男は、後でまたすぐ勃つんだろう。そういうのは羨ましいなぁ」
「そうでもないのよ。ベッドで皆、ちゃんと固くなるんだけれど、嵌めて腰を動かすと、昨日の人は全員柔らかくなるの。参ったわ、疲れたわ。ほんと、うんざりだった。みんな、私の騎乗位よー。それで、皆一回だけになっちゃうんだもの」
「君が上だから萎びるんだよ。途中で、『替わって』と言わなきゃ。男が自分で腰を使えば、一旦固くなったものは、ルイが欠伸したりおならをしたりしない限り小さくならないよ」
「ところが××さん、ちゃんと私は『上にならない?』と訊いているのよ。勧めても、『このほうがいい』と言うのよ。それで、ふにゃふにゃになっちゃうのだからぁ。何とかもう一回出さしてあげないと可哀相だと思って、手でしてあげても駄目なの。難しいわねえ」
「男は駄目になると、ますます焦って、よけい駄目になるからねえ。苦労するなぁ」
「皆、××さんのように一回と決めればいいのにねえ。マットが好きな人はそういう人が多いわ」
 ルイは時折ふくれっ面をしながら話した。
 互いに素裸のままで、滑らかに喋るルイの、何とも言えぬ愛くるしさが胸を締めつける。その華奢な指がカリ首を弄っているから、私は満悦の気分だった。
(ルイの女上位で嵌めたことは一度もないなぁ)
 と振り返りながら、私はルイの多彩な表情をうっとりと見ていた。
 こんなこともあった。
 ルイが、最初の椅子洗いでフェラチオしていると、唇に引っかかりを感じて、カリ首の溝にコンジロームが発生していることに気づいた。
「あらーっ、××さん、大変よ。コンジが出てるわ。これは多分コンジだと思う。すぐ治さなきゃあ。これ、液体窒素で処理するのよ。完全に消えるのには結構時間がかかることもあるのよ」
 ルイが指先で示す小さな疣を見て、私はすっかり憂鬱になった。そんな忌まわしいものが出ているとは知らなかった。
 ウィルス感染には思い当たる女があった。二ヶ月ぐらい前に、ルイの予約が潰れて、仕方なしに遊んだ女だった。予約してあったのに店に出てこなかったルイを恨んだ。
 ルイは気の紛れることを言って、私の気持ちの落ち込みをはらそうとした。でも、私は白けたままで、マットプレイでは完全勃起を果たすことができなかった。
 ベッドプレイでは、疣のことを考えず、ルイをエクスタシーに酔わせることに集中した。いつものようにルイは乱れた。
 充分快感を愉しんだ後、起き上がるとルイが言った。
「今日だけは、手でするか袋をつけて入れるかどちらかにしてね、移されたら困るもん」
「手でいいよ。こんなの初めてでショックだから、ゴムをつけたら萎びちゃうよ」
 自棄糞で答えて、ベッドに寝た。
 ルイがどうするのか見ていたら、唾を垂らして湿らせ、指で揉み始めた。
 私は、情けないこった!と、医者や看護婦にペニスを見せる恥辱を思い悩み、ルイの淫らな指の動きに浸りきることができなかった。
 そのうち勃起するだろうと思っていたけれど、なかなか充血しなかった。ルイの表情にも戸惑いが見えた。私は眼を閉じてペニスの感覚に集中した。ルイが、何とか元気になるようにと指の絡ませ方に工夫を凝らしているのがよくわかった。
 突然カリ首が何やら温かいものにくるまれるのを感じた。見ると、ルイがペニスを口に含んで、強く吸いながら顔を上下させている。
 ペニスが長さを増した。それでもルイは唇の往復を続けた。気をやりそうになったのでそれを告げたら、ルイがカリを含んでくぐもった声のまま、「いいの」と言った。
 そのまま口内発射してしまった。思いがけない動作に私の快感はとても深かった。
 ルイはティッシュにエキスを吐き出してから、「わぁー、サービスしちゃったぁ!」と大きな声を出した。
 訊くと、意図して口で男の噴出液を受けたのは初めてだ。
 口の中で精液を受けるというのは、ヘルスやピンクキャバレーの女がすることだから、そういう店に勤めたことがないソープ嬢は口内射精をとても嫌う。私はソープで口内射精をしたことがないので感激した。
 ルイは疣を発見した時、何とも汚らわしいものに出会った顔で盛んにいやがって、マットプレイでフェラチオをしなかった。なのに、ベッドプレイになると、口にコンジロームが感染する危険を冒してサービスしたから、私は嬉しかった。
 後日それを話題にしたとき、ルイは、「吐き気がしてもう大変。二度としないわ」とこぼした。
 私はルイとの逢瀬を楽しむ度に、昔の遊郭の、相方と共に一夜を過ごせるシステムを羨ましく思った。陶酔の情交が終わると、けだるい快楽の残照にひたりながら、いつも同じような会話をしていた。
「あーぁ、このまましばらくじーっとしていたいわ」
「俺も眠りたいよ。このまま君の側で」
「ほんとねえ、私も眠りたい。貴方は、さっさっと服を着て電車に乗るんだもんねえ。気の毒だわ」
「そうだろー。……ほんと、眠たいよ」
「一日貸し切りはあっても、泊まりはないもんねえ。ゆっくりしていけるといいのにねえ」
「時間九十分なんて指定されると、セックスも即物的だよなぁ」
「そうねえ。かといって、ダブルの時間はもったいないしーぃ」
「ダブルの時間で来るなら、俺、二回来たほうがいい」
「私も、貴方なら、そのほうがいい」
「でも、ゆっくりしたいなぁ。本当に、泊まりのシステムがあるといいのに」
「そうよねえ」
 ソープに通い過ぎたせいか、充分に抽送すると実に腰がつらかったから、吐精後長々と寝そべったまま余韻を楽しむ時間が欲しくて、後はいつも同じような語らいをしていた。
 ルイはこんなことも言った。
「お客さんを見送るとき××さんだと『ありがとうねぇ、また来てね』と、短くにこにこして言うでしょ。他の人だと、デパートの放送みたいに、『本日のご来店、誠にありがとうございます。またのご来店をお待ちしております』と、目一杯気取って真面目に言うのよ。お店の人も何だか妙だなと思うでしょうね。××さんが帰った後でも、私、躯に力が入らずにしばらくボーっとしているの。すると、お店の人がにやにやしながら、『ルイさん、今、とても疲れることをしたんでしょう』と、冷やかすのよ」
 これを聞いて、ルイが初対面のとき随分と慇懃だったことを思い出した。
 私はルイの言葉を聞く度に、ルイとの距離が近くなったのか、それとも近くなったと思うのは錯覚に過ぎないのかを、一喜一憂して推し量っていた。
 ルイは「××さんは特別のお客さんなの。絶対に他の人と違うのよ」と、よく言った。男をその気にさせるのが上手なだけに、何がどう違うのか疑う気持ちもあった。でも、それを言うルイは真摯な眼差しだった。
 そんな付き合いをしていたルイだが、私は悲しい想いをしたこともあった。
 いつものように悦楽の一時を過ごした後、料金の支払となった。二万六千円出すべきところ、私が財布から取り出し、渡したお金は二万五千円だった。
 一瞬ルイの顔つきが変わったように見え、丁重に腰を屈めて、受け取ったお札を両手で示した。
「誠に恐れ入ります、××様。中の料金は二万六千円でございますが」
(××様だってぇ!)
 瞬間、私は後頭部から首筋、背中にかけて、チカッと熱いものが走ったように感じた。先ほどまであんなに燃えていたのに、うって変わった平静な表情と声の調子だった。違和感を覚える慇懃な言葉を返されて、襟を捕らえて現実を示されたような気がした。
 ルイは気持ちも躯も熱くなり、逢うことが楽しいと思うのは貴方が来た時だけだし、お尻の指責めや睾丸をかっぽりと口に含むなどの大胆な愛撫も貴方にだけしている、と言ったことがあった。
 だからこそ、ルイにとって自分は別格の客だと思うのに、その時は、数多く現れてもいない客のようによそよそしく扱われた気分だった。
 何か、二人の間には所詮無限大の距離があるのだ、せめて、「ねえ、××さん、どこのお店と間違えているのよ。千円足りないわよぅ」とでも軽く言ってくれたなら……と馬鹿丁寧な言い方に寂しく思った。
 もともと丁寧に振る舞うことに努めていたから、「仕事」のスタイルに戻って、ふと普段の姿を出したのであって、悲しみなさるな、と自分に言い聞かせもした。
 しばらく私は、空漠とした寂寥感に毎日悩まされた。食欲不振が二週間続いた。

 ルイに二年通った頃に、ルイはマスターズを辞め、行方も判らなくなってしまった。ルイが店に出ておれば毎月のように逢っていたから、ルイを抱くことができないのが残念でたまらなかった。
 ルイへの恋い焦がれようから、絶望に沈むと思っていたが、辞めるまでにルイが殆ど店に出ない日が何ヶ月も続いてがっかりしていたから、ある意味では耐性がつき、諦めの気持ちが失望感をカバーした。
 自宅の電話番号を尋ねたことはないけれど、本名は聞いているし、住まいのおおよその見当もあったから本気で探そうかとも思った。でも、「誠に恐れ入ります、××様……」の言葉がそれを抑制させる理性的な心を呼び起こした。
 私が予約をしてもルイが店に来ないことが実に多かったから、最後の一年は僅かな回数しか会えなかった。
 ルイは、客が横柄な態度をしない限り、いつも乙女らしいチャーミングな仕草をするから、年寄の客にもなかなか人気があった。そんな性格なのに欠勤常習犯であるのが不思議だった。
 ルイが長い間店に出ないのは通っていた間に四度あった。三つ目の欠勤が、沙也加のノーサックに関するあのいざこざで、四つ目のが、店外交際を要求した若い男にソープで働いていることを親へ投書されて起きた家庭争乱が原因だった。
 出勤予定日が毎度予約で全て埋まって、店に出て来ない日がしばしば続いた。ルイは店に出るような口ぶりをしていても、結局気鬱になって休むのがいつものことだから、マスターズのスタッフもこれには困った。
「東京方面から来た客なんかに怒鳴られたりして、本当に困るんです」
 マネージャーが愚痴った。
 ソープ店で働いていることを実家に投書されたのが多分直接の退店原因だろう、と私は想像した。
(父親に張り倒されたからには、きっとこの業界から足を洗ったに違いない。ルイのことはもう忘れよう)
 そう自分に言い聞かせた。
 言い聞かせたが、とても大切なものを失った気分だった。
 ルイには本当に妙なところがあった。中国人の団体に通訳として付き添い、名古屋城や大須観音に案内することができて、更に、昔アメリカに住んでいたことがあり、英語が少し話せると言った。
 ルイに通い始めた頃、風俗の記事を売り物にしている有名週刊誌にルイの紹介記事が載って、米国の在住経験と、フランス語や中国語など数ヵ国語が話せることが書いてあった。
 私は、そのことについて何も尋ねなかったし、記事を見たことも教えなかった。秘密の仕事をしている女に私生活のことなど訊くものではないと思っていたし、そのような週刊誌の記事は、本人が全く知らない出鱈目が多いということも判っていた。
 ソープ嬢として取材を受けて、ルイがそんなことを自慢げにべらべらと話したなら、そういう性格は気に入らない。だから出鱈目であってほしいと思うし、また、出鱈目でないなら、親が各国に住んだことがあるような家庭の娘がソープ嬢をすることは、かなり複雑な事情があるに違いない。
 何度か逢って、ルイが私に本当にうち解ければ、自然に判るだろうと考えていた。
 確かにその記事を裏付けるような話がルイの口から出た。しかし、何かの拍子に、ルイが英語の日常会話の言葉を口にすると、その発音は、英語が少し話せると言えるほどにスマートなものではなかった。
 ある時、私は次のジョークを飛ばしてみた。
「僕はど助平なことばっかり言っているけれど、本当は、デリケートで、センシティブで、ナイーブで、シャイで、センチメンタルで、デリカシィが一杯なんだよ」
「デリケートで、センシティブで、ナイーブで、シャイで、センチメンタルで、後、何だったっけ?」
 そうルイに返されて、英語が堪能なら、綺麗な発音でもっと別の受け方をするのではないかと思った。
 ルイの体質にも妙なところがあった。
 愛撫していると、時々子宮口が膣の中程まで下りてくることがあった。そうなると、挿入しようとする指やペニスがまるで行き止まりに会ったようになり、押し戻されてしまった。
 初会で亢奮の極みの前戯を長々とした後、ルイの躯がそうなったとき、私は驚いた。
(亀頭しか入らないぞ、一体これはどういうことなんだろう。私の愛撫で肉体の亢奮だけが昂進して、心のほうは、初対面だからこれについていくことができなくて、アンバランスの状態になってしまい、生殖器官が反乱を起こしているのだろうか?……)
 女体の異常な状況に遭遇し、期待の合体ができぬことを危惧しながら、ルイの股の間にしゃがみ込んだままペニスを握って戸惑っていた点でも忘れ得ぬ初会だった。
 ルイが店を辞めた後、私はふとそれを思い出して医学書を調べ、子宮降下症の症状らしいと判った。分娩経験のある女がなりやすいということだから、ルイにそれが出るのは不思議だった。
 私はルイに私生活のことを殆ど訊かなかったけれども、それでも長く付き合うと、ルイが私に話したことが以前に聞いたことと整合しないと思うことが時々あった。
 大体、ソープに入ったきっかけとして聞いた話、恋人がアメリカに行ってしまったので、後を追うための資金稼ぎというのが、あまりにもできた話だ。
 そもそも、私はルイの両親が九州にいるとばかり思っていたけれど、例の実家への投書事件の騒ぎを聞いて、実際は名古屋に住んでいると判った。
 その事件よりかなり以前に、ルイは、祖父か誰かの葬儀で九州にしばらく帰って、親に大層喜ばれたような話をしていた筈だ。だから、両親が以前から名古屋にいると聞いたとき、私が怪訝な顔をしたら、それが理解できない様子だった。
 ルイが長期間店を休んでいたのを反省して、次のように語ったことがあった。
「私、これからは心を入れ替えて真面目に働くわ。店長に約束したもの。××さん、あのね、今度出るM誌(東海地方で発行されていたソープ情報誌)を見てぇ。もうすぐ発売だからぁ。この間ね、新しい写真をいっぱい撮って貰ったの。私ね、土曜と日曜は特別に十一時半からお客さんを案内することにしたの。早めに案内して、店長にもお客さんにも喜んで貰いたいの。M誌にその宣伝が載るのよ。今度のは二ページまるまる私に使っちゃって、写真も大きいし、キャッチフレーズも載るのよ。こんなポーズで写したの。見てぇ」
 ルイは以前に、マスターズは雑誌へ写真を出すのがケチで、写真が小さ過ぎる、撮影の事前の連絡がないから、美容院へ行ってしっかりした髪型を用意するということもできずに撮影される、店長が派手に宣伝しようとするとオーナーがお金を出し渋る、本当に店は女の気持ちを判っていない、と不満を言った。
 そのときは、充分に化粧をした上で撮影できたことを喜び、にこにこして私の前で明るい顔つきで写真撮影の時のポーズを再現して、はしゃいでいた。
 そのように、店長にも客にも喜んで貰いたいと意気揚々と話していたのに、その後肝心の土日は結局出勤すら殆どしなかった。
 ルイと会えなくなってから、ルイが嫌っていた沙也加に入浴して判ったことも、ルイから聞いた話とは少し違っていた。
 沙也加はアナルを使うこともSMの気配も見せなかった。衛生面には気を使っていて、防具なしを認めそうにないし、打算的に純生のセックスで客を惹こうとする性格でもないと判定した。
 沙也加が店の男の一人と肉体関係があるという話も、その性格から疑問を感じた。沙也加のような、派手で我の強い気質からすれば、ソープ店に安月給で勤める男は問題外のはずだ。
 ルイよりも四歳ほど若い沙也加の、指名の取れ具合について、ルイはけなして話した。
「沙也加も最近は、一度彼女に通い出したお客が、結局は、以前に通っていた女の子に戻っているみたいよ。そんなのはすぐ飽きられるのよねーぇ」
 などと、名前を呼び捨てにし、あまり褒められない顔つきで私に同意を求めた。
 店に来て間もない沙也加に、ルイは妙な対抗心を燃やしていた。魅力は、ルイのほうが勝っていたのに。
 女房を離縁して、自宅まで押し掛けられて困った、東京からやってくる客というのは、実際はルイのほうから男を狂わせたのかもしれないし、かなりオーバーに仕立て直した可能性もあるように思った。
 その男の熱意にほだされて店外デートの際に、「好きよ」とか「結婚も考えてもいい」と言ったかもしれないが、戯れの言葉であって、まさか本気にするとは思わなかった、とルイは不誠実なことを言った。
 男はルイの車を尾行して住居がわかると、何度もやって来た。困り果てて女友達を呼び、その女に、ルイは外出して不在で自分は留守番をしている、と言わせた。その友達が「いい加減に諦めなさいよ」と、充分年上の男を必死に説得しているのを、物陰に隠れて聞き、はらはらしていた。
 そんな情景を早口に描写していたのは、本当にリアルに聞こえた。
 一日の六人の客を、その気もなかったのに全て手で気をやらせてしまった話も、私を面白がらせるために脚色しているのではないか、と疑ったりした。
 ルイが前日より前に予約が埋まってしまう人気には驚いた。昔ならともかくも、金津園がサックの着用を決めてからは、二日前までに予約で埋まってしまうような人気のソープ嬢はなかなかいなかった。
 でも、ルイはそのように予約を集めても、頻繁に店を休み、予約した客や店に申し訳がないというそぶりを見せなかった。私には盛んに謝っていたが、それにしても誠意がないな、と内心憤っていた。
 ルイは店や店の仲間や客についてよく不満を洩らした。
 ついた客がとても不愉快になると、次の予約の客の相手をすることまでいやになり、店の男に「次のお客さんは、もう断って下さい。私、とっても仕事をする気にはならないわ」と申し出たことも何度かあった。
 気分次第で予約の客でも仕事をサボるわがまま振りは、ルイの退店後に他の女から聞いた話だが、そう言えばルイからもそのようなことを教えられたことがあった。
 ルイがとても不愉快な客の相手をしてすっかり気分が悪くなって、次の客を断るようにと店の男に頼んだらそれが私の予約で、「××さんの予約なんだけれど……」と翻意を迫るので、「××さんならいいわ。案内して。だけど、××さんの後の人は、なしにしてよ」と注文したと言った。
 ルイは大人になりきっていないところがあったが、私は充分恋愛気分もセックスも愉しめた。
 とにかく男をその気にさせる手管が長けているから、ルイの親しげな会話が皮相なものかどうか、その裏に何があるのか、努めて考えないようにして享楽に耽っていた。

 その頃ロイヤルヴィトンという店に多少の関心を持っていた。それで、私は、ロイヤルヴィトンがそれほどの上玉を揃えることもできず、有名な割にはまるで流行らないという印象を得ていた。
 そのうちにロイヤルヴィトンは経営者が替わり、内装を手直しして女も入れ替えた。名前もルネッサンスに変わった。
 でも、目立つ女を集められなかった。従来の一〇〇分の入浴時間を九〇分に縮め、料金を四万円以下に下げて集客に努めても、新装のルネッサンスはあまり客がこなかった。
 ある時ソープ情報誌を見ていて驚いた。
 マスターズのルイが、麗子の名前でルネッサンスに出ていた。
 ルイは、ソープで働いているのが親にばれて、それで金津園から去ったのだろうと想像していた。また、マスターズで最後に会ってから既に一年半が経ち、もう金津園に現れることはなかろうと思っていたので、心底から仰天した。

 私は、ルイの臈たけた容姿とコケティッシュな仕草に完全に魅了されていた。
 芙蓉の瞼に黒水晶の瞳、小さくてふっくらとした紅玉の唇、その唇から頤、頬にかけて見事に神々しく優麗な瓜実顔の輪郭、淡雪の艶やかな肌、稚気なまでの奔放さ、秘めやかな喘ぎ、白い肌に浮かぶ薄茶の菊座と花弁、全てが私を捉えて離さなかった。
 ルイは女神さまに等しかった。
 ルイはいつぞや、以前に私が入った後に相手をした、ある常連客の客に、シーツの端が半円形に濡れているのを咎められて、それを言い繕うのに苦労したことを思い出し、それを愉快そうに語ったことがあった。
 店のベッドのシーツは二枚あり、一つは、紺か焦げ茶か緋色などの濃い色の無地のもので、その日の終了まで敷きっ放しで使った。もう一つは白色で、濃い色のシーツの上に重ねて敷き、客を送り出す度に新しいものと取り替えていた。
 私は女と性的交渉をすれば殆ど例外なく愛液を流させた。ルイにもその日、裏側の藍色のシーツにまで、愛液の大きな染みを作らせて去った。ただ、その箇所がベッドの端だから、上にかけた白いシーツが少し捲れればすぐ気づくことができた。
 その客は濡れた部分を見つけて怒った。
「おい、俺がこれだけ真面目に通っているのに、あんたは他の客にはサックなしでやらせるのか!」
 ルイは、事実で説明すれば、俺以外の男だとお前はそんなに濡れるのか、と僻むだろうし、かといって男の体液がコンドームからこぼれたと説明するのも苦しいし、サック抜きでしたけれども精液を膣からこぼしたのでもないし、「その人に、言い繕うのに一瞬悩んだわ」と、おかしがっていた。
 よがりの本気汁の跡とは全く想像せず、ノーサックのサービスをしたと疑う、そのむっとしている男との会話を披露し、言い繕う苦労を愉快そうに語った。
「そういう男は、女は気持ち良ければ、愛液をたらたらと流すものだということを一生理解できないんだろうなぁ」
 私が言うと、ルイはニッコリ頷いた。
 その時の秋波を送るような妖しい表情が、忘れられない。
 ルイが店に出なくなったのは、どうにも残念でたまらなかった。もしルイが名古屋のバーやクラブなどで働いているのなら、何とか居所を知りたいものだと思っていた。
 ルイの写真を見つけて仰天した日の翌日、私はその次の日の予約を入れた。
 ルイに会うまでに、多くの疑問と心配を思い浮かべていた。
(あれだけ客の予約をすっぽかして、店に迷惑をかけた実績があるのに、予約しても本当にルネッサンスでルイに逢えるのだろうか?/もう足を洗ったと想像していたのに、また出てくるなんて、一体ルイは今まで何をしていたのだろう?/雑誌にまた写真を出してしまって、親にソープ嬢をしているのがばれた様子だったのは、一体どう始末したのだろう?)
 私はマスターズの女から次のように聞いたことがあった。
「ルイちゃんがちっとも店に出なくなったあの頃、金津園は警察の取締りが激しくなったでしょ。それで、一旦警察に手入れを受けると、たとえ殆ど店に出ていなくても店に籍を置いているだけで、その女の子は警察に呼び出されることになるの。だから、彼女がちっとも店に出てこない以上、店長が、とりあえず本人の安全のために除籍処理をしたみたいよ」
(マスターズは売れっ子のルイが戻ることをやはり期待していたのかもしれない。そうだとすると、何故ルイはマスターズに復帰しなかったのだろう?/ルイは金津園には詳しい筈なのに、何故ルネッサンスのような全く冴えない店に出ることにしたのだろうか?/ルイは以前と変わりがないだろうか?)
 こんな懸念が私の脳裏を駆け巡った。
 ルイとは相当親密になっていたのに、例えば、会ってすぐエレベーターの中で抱きついて来るとか、ズボンの上から男の膨らみにタッチするとかの、奔放で悩ましい態度を演ずることがないので、それを私が指摘したことがあった。
「××さん、実は、私もそのことを考えていたの。他のお客さんには、そういった淫らなことをすることもあるのよ。大勢そんな人がいるわけじゃないけどね。だから、私、××さんにもしなきゃと思ったの。今日は、してあげようと思ったこともあるのよ。だけど、それは何というか一種の無理をした演技なの。貴方には、それができないの。何故だか、私、恥ずかしいの。その気持ちが不思議なの。どうしてそう思うのか判らない。貴方が来たときは、何か自分がいつもと違うの。……××さんは特別のお客さんなの。絶対に他の人と違うのよ」
(あいつがそう言ったのは、最後に逢った日のことだろうか、それともその前に逢った時だろうか)
 ルイは、男の相手の仕方を心得ていて甘い言葉を口にするのが上手だと思うだけに、他の男と比べて何がどう違うのか疑う気持ちもあったが、それを言うルイは真摯な表情だったことを思い出した。

 予約した当日、店に入れた確認の電話で、私は最初に確認の旨を告げずに、ルイの出勤の有無をまず尋ねた。出勤していなくてもその事実を隠し、店に入ってから不在と説明して、相方の変更を迫るのを警戒したからだ。
tdl  ルイは確かに店に出ていた。
 当日の確認の電話で、「申し訳ありませんが、ルイは出てきておりません」と言われることが頻繁にあったから、私は対面できるかどうか半ば疑っていた。ルイに再会できる嬉しさが胸の奥からこみ上げてきた。
 金津園への道すがら、ルイは自分に一体どんな反応をするのだろうかと考え、満面の笑みで飛び上がらんばかりに歓ぶ笑顔を空想していた。
 私はルネッサンスに入り、じれったい思いで案内を待つ間、ルイが私を見て少々嬉しそうな顔をするだけでは絶対に許せないと思っていた。
 エレベーターで見知った顔を迎え入れるルイの表情は、喜色満面のこぼれるような笑顔だった。駕籠が上昇を始めると、ルイは照れくさそうな顔で「どうも、本当にごめんなさい」と詫び、深々と頭を下げた。それは、少し私の予想に反していた。
 ルイは、私が立腹しているのを充分に想像していたのだ。
 ルイが折った躯を元に戻したとき、私より充分に背が高いので驚いた。
(あれっ、こいつ、こんなに背が高かったかな?)
 部屋に入って、テーブルを眼にして感動した。
「ねえねえ、これ見てえ。××さんが来るのを昨日フロントで聞いて、ちゃんとバージニアスリムもブランデーも氷もここに並べて置いてあるんだからぁ。私、本当に申し訳なかったと思っているのよ」
「馬鹿野郎。一年半も姿を隠して、イヤというほど予約をすっぽかされ、こんな程度のことで許せるかい」
「何度も電話をかけて貰って、お店に出なくてごめんなさい」
「俺は、君はもう金津園には出ないと思っていたぜ。一体今まで何をしていたんだよう?」
 ルイは、何と吉原に行っていた。それは全く予想外だった。
 親にソープで働いていることがばれ、監視されて困っていた筈なのに吉原に行き、また金津園に戻って雑誌に堂々と写真を出し、一体どうなっているのかと尋ねると、何とか親は誤魔化しているのだ。
 水木金と三日間だけ東京へ行くことにして、その間、親が自宅にかけた電話は留守番電話が受けることになるから、何をしているのか怪しまれる。二日間も連続してルイが電話に出られずに不審がられたときには、中国へ旅行の案内をしていることにしていた。
 それでも、夜中の不在が何度もあれば親が疑念を抱くので、それを払拭させるため、名古屋市内から電話をしているように装って東京から親元に電話をすると、その電話の声が遠くて、一体どこから電話しているのかとかえって疑われたりした。
 が、ルイは相変わらずの気鬱症が出て、吉原の店にはなかなか出勤しなかった。結構名古屋に在宅の日も多くなり、親の信用をどうにか繋ぎとめたようだ。
 吉原でどんな店に出ていたのか訊くと、総額八万円の超高級店だった。
「そんな高級店なら、サックは使わなかったのだろう?」
「ちゃんと使ったのよ。その店は、コンドームを使うことをちゃんと守っているから、それで私、その店を選んだのよ。即尺、即ベッドはしなければならなかったけれどね」
 客は六十歳を超える男ばかりで、マットプレイはしなくてもいいという客が多かった。
 どうしてルイがルネッサンスのような冴えない店を選んだのかを尋ね、答を聞いて納得した。
 ルイは、最初は人気店のZ店に入り、三日間店に出ると、Z店の責任者が、「姉妹店のルネッサンスがあんまり売上不振だから、君にルネッサンスへ行って貰って売上挽回を手伝って欲しい」と頼んだのだ。
 ルイがZ店に出ても客は僅かだった。
 雑誌にまだルイの写真は載ってないので、指名の客がいないのは当然として、自分につけられるフリーの客までが数えるほどだから、マスターズにいた頃と比べれば金津園は客足が遠のいたと実感した。
 ルイが店をやめた頃金津園の多くの店が警察の手入れを受けた。その検挙騒動が落ち着いてから一年以上経っても金津園は昔の繁盛まで回復していなかった。
 ルイは、ルネッサンス行きを要請されたとき、その店が平日には一日の客が店に二、三人という寂しいこともしばしばあるほど不入りだと聞いて驚いていた。
 ルイがルネッサンスの女として初めて登場するM誌が発売されて、名古屋の書店に並べられた日が、ルネッサンスに出た初日だった。私がルネッサンスに来たその日が三日目だ。
 その日まで二日間の客の数を訊くと、本指名の客はさすがにいないけれど、M誌を見てやってきたP指名の客で二日間がすべて埋まったということだ。
 ルイは、M誌に写真が出るや客がどっと来る宣伝の威力に驚いたが、それにしても、ルネッサンスはルイの人気に目を瞠ったことだろう。二日間で十四本のP指名のフル稼働だった。
 ルイは二十六歳で、売れっ子ソープ嬢としては少し歳を取っているれども、強烈な魅惑の笑みを男達に投げかける麗人だ。超売れっ子が店に一人いると波及効果が極めて大きい。沢山の男が引き寄せられて店にやってくる。そんな別嬪がいるのなら、まだ他にも好い女がいるのではないかと期待する。
 ルネッサンスのスタッフは生き返った気持ちになることだろう。
 ルイがZ店に出ることになった訳は、マスターズの、店長よりも上の立場にいる男から、Z店に出るよう勧められたからだ。その男はルイが使えることをよく判っていたし、マスターズのスタッフ陣がルイの「さぼり病」をかなり気分悪く思っていることも理解して、そのように図った。
 客の取れる女と取れない女とでは店への貢献度に雲泥の差があり、しかも、両者の女の数は一対十ほど開いていた。ソープ店への入店志願者はヘルスほどにはいない。だから、高い人気が期待できる気立てのいい超美人を採用できる確率は、かなり低い。ルネッサンスにとってはありがたいことだった。
 ルネッサンスに出て三日目にして、私が本指名の第一号ということだった。ルイはしきりにそのことを嬉しがった。
 私が質問する度に、ルイは早口で詳しく答えた。ルイが再会を心から喜んでいるのが伝わって、私は浮き浮きした。
 ルイが両親の懸念を誤魔化しながら、一年半の間何をしていたのかということ、冴えないルネッサンスに出ることになった訳、吉原に行っても「さぼり病」が出てその間殆ど貯金を増やせなかった愚痴、そんなことを声に抑揚をつけてはしゃいで語った。
 私は全ての関心事が一挙に満たされて、何だか朦朧とした気分に包まれた。
 ルイは、見覚えのある、金糸の刺繍の入った、高価そうな黒のワンピースを着ていた。その下のブラジャーもパンティも、見覚えのある、黒が基調で水色の模様が鮮やかな懐かしいものだった。
(商売に使う下着というのは結構長持ちするんだなぁ!)
 そのブラジャーを外すとき、ルイは「驚かないでね」と照れた顔をした。体重が増えたのを恥ずかしがったのだ。確かに、以前は目立つ乳房ではなかったが、その日のルイは胸元がふっくらして、ウエストの括れもぼやけ、下腹も膨らんでいた。
 自分の傍らにルイが一段と豊満になって座っているのが、なんだか夢のようだった。何故こんなに幸せな気分になるのだろうかと笑みが浮かぶのを止める意識が必要だった。
 あらゆる疑問が解明できた後、マットプレイを始めると、ルイの技はマスターズのときよりはおとなしくなっていた。吉原の高級店で徹底的なマットプレイをしていなかったようだと想像した。
 マットが終わると、ルイは、「昔、教えて貰った技を、また教えてね」と微笑んだ。
 マットの技は以前と比べると少しもの足りなくても、ルイは悩ましい眼差しで何度もキスを求めるので、それが何とも私の心をかき立て、それで充分だった。
 躯を拭き終えると、ルイはバスタオルを捲いて私の横に腰を下ろした。
 私が、おやっ!と思って胸のところで布の端を摘むと、ルイは、そうだった、という顔でタオルを取り払った。私が自分も女も素裸でいるのを好んだからだ。
 しばらくマスターズの女の想い出話をしたり、ルイから吉原の様子を聞いたりした。
「私がいた吉原のお店、あんな高い店でも、部屋はここよりうんと狭かったわ。ここはベッドも大きいし、いいわね」
 その言葉を聞き、ルイと途切れることなく喋りながら、私は昔この店で遊んだ光景を懐かしんでいた。
 ルイの頬は以前ほど「白塗り仮面」ではなかった。素肌の頬は、二十六になってそばかすも目立ち、肌が下降線に入りだしたことを示していた。品のいいヘアースタイルと愛らしい笑顔は以前と変わりなくても、前歯の間隙が目立つようになって、荒れた生活をしていたのではないかしらと私は想像した。
「この指が君を憶えていたよ」
「もーぅ!」
「あんた、軟便だろぅ? うんちが固くないんだ。この指をお尻の穴に入れて、抜いて臭いを嗅ぐとうんちの匂いがした。全然匂わない子もいるんだぜ」
「イヤだぁ!」
 ルイは私に、今度こそしっかり働くと盛んに強調し、ルネッサンスではかなりの日数を連続で働く予定だと決意を述べた。
 ルイから「今度こそ真面目にやるわ」という宣言を聞くのは五回目だった。それまでルイのそのような決意を聞いても、結局私は再三再四肩透かしを喰らっていた。
 マスターズのとき、ルイを予約して度々すっぽかされた客は大勢いて、そんな男がマスターズだけでなくよその店の女にも愚痴っていたから、金津園の女の間でルイのさぼり病は有名だった。
 本当にできるのかな?……と思って、私は愛らしい横顔を見つめた。
 ルイが、そろそろベッドへという顔つきなので、ルネッサンスに来てから二日間でエクスタシーに舞うことができたかと尋ねた。
「もうフルに客がついて、くたくたで、それどころではなかったわよ」
「そうかぁ。もう、期待して、あそこが濡れているんじゃないかい?」
「うふっ。たっぷり愉しませてよぉ」
「もちろん!」
 以前に、ルイの恍惚の表情を愉しんだ後で、クリトリスを吸われるのは一体どんな感覚なのか尋ねたことがあった。
「もう、頭の中が真っ白、この世にいない感じ。むちゃくちゃ気持ち良いの。それが長く続くから、女の人っていいのよねえ。男の人には判らないでしょうねえ、我を忘れるあの感覚は」
 久し振りにあの陶酔の顔が見られるのかと私は胸が高まった。
 マスターズで私が前戯すると、ルイはいつも枕の上に頭を置いていた。つまり、ベッドの中央で仰向けになってルイは快感にひたった。いつも極く普通で、つつましい体勢での愛撫のされ方だった。
 ルイをどのような淫らな体位で楽しませようかと考え、結局、ベッドの端でルイを口唇愛撫することにした。私がベッドに向かって床に座り、ルイの腰をベッドの端に置く体勢を選んだ。
 そのように横たわると、馴染みの女は私が求めなくても、皆膝を引きつけておしめを取り替えるような超淫らな体位になった。膝を引きつければ自然に二枚貝は突出するし、時には女が二本の指で自らクリトリスの根元を吊って、私が吸いやすくなるように協力する。
 しかし、ルイはソープ嬢にしては淑やかな女だから、自分から進んでそんな体勢にはならなかった。
 ルイの左足を私が持ち上げると、ルイは右足を床に下ろしている。その左足も、私が押さえつけない限り、膝小僧が自分の顔に向き、太腿が腹にくっつくほどの大胆な曲げ方をしない。
 ベッドの端でなく中央で愛撫するときでも、私が掌で支えていないと、両脚をベッドの上に伸ばしたままで、脚を少し拡げて愛撫を受け入れる姿勢が多かった。
 特大のベッドの横で膝立ちして、両手でルイの膝の裏側を支えて思い切り屈曲の姿勢にさせてクンニリングスをすると、クリトリスを指先で剥き出せないから、そこだけを集中して攻めることはできない。どうしても小陰唇の上部とクリトリスと包皮を全部一緒に揉み上げることになる。
 そのやり方では刺激が鈍いはずと思うけれど、それでもルイはすぐに喘いで訴えた。
「イキそう!」
「我慢しろよ!」
 私が叫ぶと、何とも悩ましい声が返る。
「いつもと舐め方が違うぅ。前より、すごくなったぁ」
 正面から吸っているので愛液の流れる様は見えない。でも、指で探るとシーツがべっとりするほど吐水していた。
 女が仰臥していると、大きな尻が下になるから、立っているときより陰阜が突き出る。ルイのもっこりしているところが優しい毛に覆われてとても愛らしい。久し振りに見るルイの陰裂はやはりなかなか長いし、二つの扉も、何となく以前よりも肥えて突き出ていて長さがあるように思った。
 ベロベロが随分ポッテリしているし、下腹のたおやかな膨らみも少し目立ってきたかな、と昂揚に揺れる腹を上目遣いで確認した。愛液を指に絡めて菊座も刺激しながらハーモニカ演奏をすると、含んだ肉塊の質感と舌触りと味が懐かしい。
 濡れそぼった肉壺に指を差し込んでピストンさせたり、アナルに挿入したりした後、一段と強烈なクンニリングスをしてルイの昇天を待った。
「ああーっ! イキそう!」
 聞き慣れた懐かしい叫びだった。
 その直後にルイは僅かに腰をよじり、私の顔を押しやって両脚を突っ張った。
 私はルイの股間を開き、濡れ具合を確かめた。陰裂から漂う匂いを探りながら、ラビアのまわりに一つあったふすべが以前より濃くなっているだろうかと眺めていた。
 一息ついたところで私はベッドに腰掛け、先走り汁でべとべとになった我が分身を、ぷっくりとした紅玉の唇で吸わせると、ルイは飽きる気配もなしにそれをしゃぶった。
 頃良いところで漲ったものを肉壺に嵌め込んだ。いつも私にはそうしていたように、ルイがノーサックを許した。
 ルイは肉付きが良くなって胸のふくらみも一段と女らしくなった。優しい顔に似合わず割れ目が長く、小陰唇も発達している。抽送しながら股間を眺めると、クリトリスがはっきり飛び出し、いかにも大人の性器という印象だ。
 あまりにも予期せぬ再会、願ってもない交合だから、私は激情のあまり、早くもペニスの先に射精の前兆であるむずがゆさを感じた。
「ヌルヌルだから、掃除するよ」
 そう言ってペニスを抜き、射精起動感覚を外すことにした。
 代わりに指を二本差し入れ、ぐるっと回して膣道のぬめりをすくった。
 ルイは陰裂が長いだけに膣も少し広い。昂揚して肉壺が濡れていると、カリ首のこすれる感触が乏しいと思うことがよくあった。
 再度嵌め込むと、二十ヶ月ぶりのルイの膣孔は何となく広がりが増して、特に入り口のところで余裕があるような気がする。二三度肉筒の中を指ですくったぐらいではぬめりが取れておらず、奥のほうまで洪水状態だから、叩くように腰を振らないとこすれ具合がよろしくなかった。
 それでもホカホカに温かく、柔らかくペニスを包んでくれる。私は上体を反らせて、摩擦感がでるようにペニスを斜め下に送り込んで激しく出し入れした。時には、肉襞の感触を味わうようにゆっくりと滑らせ、純生挿入の感触を味わった。
 眼を瞑って抽送を愉しむルイの顔が眼に映ると、急にフィニッシュの感覚が迫ってきた。
 互いの恥骨をすり合わせるように腰を押しつけて、体液を注ぎ込んだ。
 ティッシュで割れ目を拭きながら、ルイの言った言葉が面白かった。
「××さんの技はやっぱりすごいわぁ。今日のは、前のやり方とは違っていたわよ。吸って、舐めて、口の中でくちゅくちゅして、それが、全部一緒にできるんだもん。どう考えてもこの動きは同時だと思っていたわ。やっぱり、前より上手くなったぁ。……ほんとに××さん、誰にそんなことをして、上手になったのよ、私がいない間に。これは『吸い舐めくちゅくちゅ』よ。絶対に『吸い舐めくちゅくちゅ』よぉ!」
 私の目の前でルイが股を開いてティッシュを使ったのは初めてだった。視界に収めてしばらくしてからそのことに気づいた。
 ルイと一緒に部屋を出てエレベーターに向かうとき、私は、ルイが超人気の女であることを腹立たしく思っていた。

 私は次にルイに会ったら、ルイが自分で両脚をたたんで秘所をもろにさらけ出し、華奢な指で自らクリトリスを剥き上げ私の唇に差し出して妙なる揉み込みを求めるようにさせたいと考えていた。
 しかし、何度ルネッサンスに電話を入れてもルイに逢うことができなかった。やはりルイはいい加減な勤めだった。
 不思議な女だが、情熱的なディープキスが忘れられない全く申し分のない佳い女だった、でも、逢えないのならどうしょうもない、もう充分愉しませて貰った、そう思って、あきらめることにした。
 その後私は、どこかのソープ嬢から、その常連客で、かってはルイに通っていた男が、ルイの過激なセックスプレイを感心して話した、などと耳にすることがあった。
 思いがけないところでルイのことを聞くと、ルイのセックス好きは天性のものでも、性の技の凄さは私が教えたものだと内心で納得し、ルイとの逢瀬を懐かしんだ。 (了)

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