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梓 1

 恵里亜は平成元年から五年頃にかけて金津園で流行っていた店の代表格で、私は予約して行っても、部屋が空かず、恵里亜が提携するティファニーで予約した恵里亜の嬢と遊んだことが何度かあるぐらいだ。
 恵里亜では梓という女に惚れて通った。熱の入れようは、ソープ嬢には惚れるものではないと心に決めた私でも気持ちの抑えようがないほどで、通った期間も長かった。
 梓がいたから、私は二月に三回の入浴が、月に三回と金津園遊びが一気に拡大した。とにかく想い出深い女だ。浅茅陽子に似ていた。
 私は金津園で梓のようにユニークな個性の女には会ったことがなかった。その個性に魅了され、惚れ込み方はそれまでの通い女を超えた。実のなる恋ではないだけに私は梓にはたっぷり振り回された。あの惑乱が今となると懐かしい。
 平成四年のある日の梓との会話だ。
「俺、ユカリにまた間違えて入っちゃったよ。俺って本当にそそっかしいんだから嫌になっちゃう。全くドジをしたぜ」
 勤め帰りの私は背広を脱ぎながら梓にぼやいた。
「あらーっ、××さん、ユカリちゃんにまた入ったの。前に間違えて入って『しまった!』と言っていたのに。でも、ユカリちゃんならいいじゃない。あの子、なかなかの売れっ子なのよ」
「確かにユカリは美人で、若くて背も高くて売れっ子だろうけど、性格が僕には合わないよ。つっけんどんというほどではないけれど、要するに、ものの言い方を知らないちんぴら姉ちゃんがこの仕事をしている感じだぜ。潤いがない。君のようにおちんちんを揉んで揉んで揉みまくる、すごいテクニックもないし」
「ふふっ、××さん、また間違えて入ったって、それ、どういうことなのよ」
「君が僕にユカリを勧めて、それで入ったのが一年以上も前だろう。あの時ベッドを始めるまでは、ユカリは個性的な顔立ちで、スタイルも良く、性格も面白そうなところがあるとは思ったけれど、僕がユカリをなんぼ一生懸命に愛撫してもイッてくれないんだもん。で、君には、ユカリにもう一度会う気はないって言っただろう?」
「そう言っていたわねえ。××さんは女がイカないと亢奮しないんだから。ジャングルのようなあそこの毛をかき分けて、目一杯舐め抜いて、ユカリちゃんは濡れたけれどイカなかった、とぼやいていたのよねえ」
「ほんとにあいつの下の毛は太くて長くて、それが見事に密生していた。あれほどの毛だわしはなかなかお目にかかれないよ。とにかく割れ目の左右は勿論お尻の穴のまわりまでびっしり剛毛で、舐めにくいったらありゃしない。それだけは猥褻で良かったなぁ」
「うふっ、ユカリちゃんの毛はすごいのよ、ほんとに。……それでその次、間違えてユカリちゃんに予約して、失敗したー!と言っていたのに、また最近間違えてあの子に入ったの? 本当に間違えて入ったの、××さん」
「うん、最初に間違えて入ったのは、君にリリーとかヒカルとか由美とか夏美とかの、一度入ってみたらと言われた名前を手帳にメモして、その中にユカリの名も書いてあって、ユカリには裏を返すつもりはなかったのに、最初に会ってから四ヶ月ぐらいして、それを忘れてまたうっかり予約しちゃったんだよなぁ。エレベーターで、濃い眉毛が一直線のユカリの顔を見て、しまった!と思ったよ」
「でも、明るくて性格のいい子じゃなーい!」
「うん、悪くはないよ。でも、そんなに活発に彼女から話しかけてはくれなかったよなぁ。あいつ、俺より断然背が高いから、タイプの客ではなかったかもしれないね。それに、二回目に会っても、やっぱりあいつはあんまりおちんちんをさわってくれなかったぜ。勃つのに苦労した」
「ユカリちゃん、とても人気があるのよ。でも、若い客が多いのよねえ」
「それで、その手帳の名前に線を引いて消しておけばいいのに、それをしていなかったんだよ。それが失敗のもとで、そのメモの名前を見て、馬鹿なことにまたあいつを予約しちゃったんだ。大体店に電話して、お前が休んでいたからいけないんだ。休みだと言われて慌ててメモを見たもんだから、勘違いしちゃった。全くお金がもったいなかったよ」
「でも、ユカリちゃんはとってもスタイルがいいじゃないの。ほんとに足が長いのよねえ。眼も綺麗だし。お尻の穴のまわりの毛を見て亢奮すればいいじゃない、××さん。貴方、贅沢よ」
「だけどあいつねえ、俺と喋っている最中にバックグラウンドミュージックに自分の好きな曲がかかると、『私、この曲、大好き!』と言って立ち上がって、独りで踊っているんだぜ、壁を見ながらリズミカルに。僕が全く知らない、やかましいだけの曲だ。俺はしばらく放ったらかしだったよ。そんな浮かれた女はタイプじゃない。参ったよ。なんせ、踊りなんぞはできなくてディスコなんかには無縁なんだから。でも、素っ裸で、手を振って腰もくねくねさせて、眺めていたらなかなかセクシーな光景だった。あいつに合う話題は俺には思いつかない。大体、この店も男と女がセックスする部屋にはムーディな映画音楽でも流せばいいのに、とんでもない有線を使いよって!」
「あははっ、ユカリちゃんらしいわねえ。で、××ちゃん、今度もイカせられなかったの?」
「うん、俺が三度も会って一度もイカないなんて、あいつ、不感症だぜ。今度こそと思って一生懸命クンニして、ユカリは結構ぐしょぐしょに濡らしていたんだけどなぁ。疲れたぜ。……僕には、この店で一番綺麗に見えるのは、やっぱり梓だな」
「ほんとに貴方は好みがうるさくて、本当に難しい人よねえ。××ちゃんは、顔の悪いのは駄目、スタイルの悪いのは駄目、優しくなくちゃ駄目、馬鹿で話ができないのは駄目、おちんちんを上手にさわれないと駄目、そして、イカない女は駄目なんだから! そんだけ揃えるのは容易ではないわよねえ」
 私がその頃熱心に通っていたのは梓だった。
 昭和六十三年に梓に初会をしてからもう四年経っていた。私は梓に逢わない月というのは考えられなかった。できれば毎週逢いたくても、そこまで狂わぬよう自制の心を呼び起こしていた。
 梓も、私が一ヶ月現れないと何かあったのではないかと心配になる、と言った。
 金銭を対価とする性交渉の、月一回入浴時間百分の逢瀬のつき合いに過ぎなくて、売れっ子の梓にはそんな客が大勢いたにせよ、とりわけ私には心を許していたし、私は梓に惚れ込み、互いの気心はわかり尽くしていた。
 梓は二十七歳で、二十代前半の女が揃っている恵里亜ではもうベテランに入っている。少しおでこが目立つ丸みを帯びた顔は、彫りが深く、男の心を射抜くような深い瞳が濃いめの眉毛の下で映えていた。
 頬骨が少し邪魔な感じで張り出し、顎の横から見た形が良い。正面から見るより横顔のほうが引き立つ。その横顔を少し下のほうから眺めると、頬がふっくらして、何とも言えないほど美少女の幼顔に見えた。
 アーリヤ系と東南アジア系を混ぜたような感じの、どこかエキゾチックな顔立ちをしていた。鼻の細目の小骨が丁度いい具合に高いから、物想いに耽った顔をしているとなかなかの麗人になった。
 笑うと口許が唐突に大きく割れ、顔面が派手に変化する。声もか細いとは言いにくい質なので、澄ましていたときの気品はどこかへ去ってしまう。姉御肌で陽性、剛毅な気質だから、親しくなって梓の地に接すると、あまりお色気が感じられない。
 それでも、なかなか剽軽なところがあるから、いつもコケティッシュな魅力が漂っていた。色白とは言えないのと乳房が垂れているのがほっとするような減点箇所だった。
 梓の背丈は一六〇センチを少し上回り、腰から臀部にかけてがやけに長く見えた。胸に続いて短いウエストの括れがあり、すぐ腰になるという体型をしていた。垂れ尻気味で妙に尻が縦に長かった。
 スカートを穿くと脚が長く見えるという、あまり見かけない体つきだけれども、肥えてなくても豊満に見えて結構だ。
 何故そんなに尻が縦長なのかと怪訝に思って腰をさわると、骨盤が随分と縦に長い。裸の梓が四つん這いの格好になると、太ってもいないのに臀部の質感がやけに豪快で、なかなか扇情的だ。充分に着色した秘園を間に挟んだ大きな尻を正面から見ると、私は眼が点になる想いがした。
 梓は別れた男に見つからぬようソープ情報誌に写真を出さなかった。でも、朗らかで、話しぶりに男の気を惹くところが大いにあり、性の技のテクニックもあることから、指名する客が多かった。
 客が横着なことをするとはっきりものを言う性格もあってか、部屋持ちになるかならないかのところをうろうろしていた。それが存外なことだった。裏表がなく何でもずけずけ言うところが、私は好きだったが。

 梓と出会ったのは、恵里亜の前にいた迎賓閣という店で、初めてそこに入った時に梓がついた。源氏名はキャロルだったが、後の名前の梓を使うことにする。
 迎賓閣は金津園の中で岐阜駅から最も離れた奥のほうにあった。場所は人目を惹かぬ立地でも、雑誌の宣伝がスマートに高級感を訴求し、女の写真を決して載せないという他の店とは違ったやり方をしていた。それで、私はその店に興味を持った。
 いつもはもう少し料金の安い店で遊んでいたので、どんなにか上玉の女に出会えるかもしれないと期待して店に入った。迎賓閣は雑誌に女の写真を出していないし、料金は四万円を超えている高級店で、スタッフの服装と言葉遣いがしっかりしているから、アルバムで女を選ばせるだろうと思っていた。
 ところが写真は見せず、女についての好みさえも聞かなかった。「いい子を出しますから」の、何の説明もない口上で一方的に相方を決められた。
 私は不安だった。またいつものように費用対効果の乏しい、空しい遊びになるのではないか、いやいや、高級店だからまるで外れの可能性はないだろうさ……、そう不安と期待の交錯の中でしばらく待った。
 先に待っていた二人の男が呼ばれた後、ようやく案内の声がかかった。相方が待機しているエレベーターまで足を運んで、乏しい明かりの中で女を見た。
 背もそこそこに高く、意外に若い美人のようだ。店におまかせで入って女の顔も知らずに対面し、器量に合格点をつけられるケースがそれまで二割以下の経験だ。思わず、今日はラッキーだ!とほくそ笑んだ。
 部屋に入り、明るいところで容姿を確認した。美人女優級の器量よしだ。
 コバルトブルー一色の鮮やかなツーピース姿をして、襟が大きめで、丈が短めの上着に、尻のふくらみを強調するきっちりしたタイトスカートを穿いていた。華やかで若々しい全く好みの服装をして、にっこりと微笑んだから、私は眼を奪われた。
 金津園で遊ぶようになって、相手をした女の数はもう数えきれないほどだが、これほど整った顔は初めてだ。しかも、冷たそうな取っつきにくい顔ではなく、庶民的な感じがする美貌だ。
 その美女が、スカートに腿と腰の線を浮き彫りに正座して、床に指を揃えて挨拶した。高級店ならではのしつけにわざとらしさを感ずるものの、梓と名乗った女は私の上着とネクタイを受け取ってロッカーにしまうと、にこやかに話しかけてきた。
 器量が並の女が初対面の自分に愛想が良いと、頑張っているなあ!という気がする。超美人の場合は貴人の前に進み出たような気分になる。私は尊いものの前にぬかずく気持ちと、二十ぐらい年下の人間を冷静に観察する気持ちと、両方の心で梓としばし談笑した。
 原色で無地のものを選ぶ梓の個性に惹かれ、眼が輝いて直截的な語り口に、昔から知り合っているような親しみを感じた。私の冗談にけらけらと反応する、こぼれるような笑顔が何とも魅惑だった。
 私は女の容姿の良さで昂然とするのは一瞬だ。性的遊興をする以上、眺めるだけで満足するのではなく、女がどういう交歓プレイをするのかをソープ遊びで重視した。
 要は、気だてが良いことを重要視した。性風俗の仕事をしていて気だてが良いとは、気をそらさぬ会話をするだけでなく、じらさずに早めに裸体になり、愛撫をするの梓がそういう女かどうかが私の関心事だ。
 梓は私が予想したよりも早く、服を脱ぐように促した。私が下着姿になると、梓はワイシャツやズボンを棚にしまってからブルーの服を脱ぎ始めた。
 私は梓が裸になるのを舐めるように眺めはせず、下着を脱いでからベッドに腰を下ろし、煙草を吸った。ソープ嬢が服を脱ぐのを数限りなく見ているから、カットの深い薄地のパンティと括れたウエストを目に収めただけで充分だ。
 梓に裸になるのを恥ずかしがる気配は全くなかった。美人だからこそ場慣れした仕草がなにやら味気ないし、妬ましく思う。さほど色白ではないのが不満だけれど、狭まったウエストからヒップが角度をつけて張り出しているのが素晴らしい。
 私はペニスの勃起が気になっていた。四十一の年齢の男が早くも欲情あらわに突っ張らしていると、みっともないのだろうかと考えた。
 梓が私のパンツや靴下をかたづけてから、バスタオルを巻いて風呂の湯を張りに行くと、私はペニスの先走り汁が垂れかかっているのに気がついた。指で滴をすくってシーツに拭いつけた。
 湯が満ちるまでの間、梓の歳が二十一で、ソープ経験が約一年、迎賓閣が初めての店であることなどを聞き出した。ただ、歳については、かなり後になってから二十三歳になったばかりぐらいだと知った。
 フリーで入ると、新米に当たることが多いから、梓のソープ経験が短くないことに安心した。ペニスをおずおずと触るような初々しい女に当たって嬉しがる気持ちはあまりなかった。
 梓は私にマットプレイをするのかどうか確認し、更に、日頃のソープ遊びのしかたを質問した。私はできるだけくだけた言い方でソープ遊びの経験と好みとを語った。そして、梓から質問されてはいないけれど、イクのを一回にしていることを告げた。
 そんな談笑の間、梓の受け答える言葉と表情が実に手慣れて、二十三歳と若い割に、成熟した女のなまめかしさを放散していた。
 梓は私の肉体の亢奮を認め、指さして冷やかした。
「もう、あせっているわよ」
「うん、このちんちんは、こすられればこすられるほど歓んでくれるから、しっかり弄ってよ」
 そう返すと梓はにっこり笑い、「じゃあ、マット、しましょうか」と声をかけて立ち上がった。
 それまで梓が見せた多彩な表情は、いずれも美しい顔によく映え、私は痺れる気分だ。初対面なのに梓に物怖じしたところがまるでなく、コケティッシュな魅力を縦横に発散しているから、相当男遊びの経験があるのだろうと想像した。
 マットプレイで梓がした愛撫が予想以上に淫奔だった。ローション液を塗りつけた躯を私に密着させ、しなやかに揺り動かしながら、カリ首の括れにねっとり指を絡ませた。膨張した穂先の柔肌全体を掌で包んで揉む私が好むやり方のペッティングだ。
 梓は運動神経が良くて不安定なマットの上でとてもこなれた動きをし、全くベテランのマットプレイをした。それだけでなく、よがらせるのを楽しんでいるような悪戯っぽい目つきが何とも妖しい魅力だ。美人のソープ嬢がそんなふうにマルチ愛撫に努めるのはなかなかお目にかからない。
 私は梓がキャリア一年と言うのをまともに取り、驚くばかりだった。
 終始受け身の姿勢で梓の愛撫を愉しんだ。梓が指の動かし方に工夫を凝らし、まったけの笠にしっかりと指を絡みつけるから、久し振りに特上の女に会えた、とにんまりした。
 美人女医に診察を受けるような気分で、マットの上で梓に存分にもてあそばれたお返しに、私はベッドプレイで勇んで梓を愛撫した。
 男に完全に身を任せる受け身プレイを嫌がる女がいる。特に、容姿と男への愛撫の技に自信があって、仕事慣れしたソープ嬢は男に手荒に愛撫される危険を忍ぶ必要がない、とはっきり思っているから、ベッドでも攻撃的に愛撫して、射精しそうなまでに亢奮を昂めたところで合体に持ち込む。ただ寝そべって大切なところを客に委ねることについては硬い態度のことが多い。
 だから、梓が股を開いて愛撫を受け入れたことに大いに安堵した。女を愛撫できないならセックスではないと思っていた。ベッドの上で、湿り気のない膣道にいきなりペニスを入れ込んだことはなかった。
 仰向けの梓に寄り添い、しばらく中指で優しくクリトリスを刺激した。梓はそんなことは慣れきった様子で、乳首を唇に含みながらペッティングしても、当然のことながらどこか白々しいような気配があり、恋人同士でしているような情緒がなかった。
 しかし、私の指先がこするような動きをさらさらせず、優しいノックか、軽い振動で終始したから、梓は何ら抵抗感がなく、身体の緊張を解いて心が開いたのが見て取れた。
 私は頃よしと思い、梓の股の間に腹這いになってクンニリングスにかかった。
 ソープ嬢にしてもヘルス嬢にしても、初対面の客にクンニリングスをされることは存外少ない、と認識していた。だから梓に、割れ目を口で愛撫して良いかなぁ?と聞くと、梓が軽く肯定の言葉を返しただけで恥ずかしがるそぶりも見せず、さっと膝を立てて開いたのが、華やかな美女に似つかわしくない気がした。
 私は梓の股の間に腹這いになって、恥毛を押さえ、クリトリスを剥き出してクンニした。
 持続する軽いタッチの舐め技に梓は規則的に喘ぎ、時折深いよがり声で応えた。その割には、悶えるように躯を揺らすことはないけれど、シーツに置いた手の僅かな動きには快感を追い求めている気配があった。
 梓の陰裂が濡れてきたので、私は一層亢奮を昂ぶらせた。一方では、梓がクンニリングスされるのをためらったり恥ずかしがったりしないから、男に陰部を吸われた経験が豊富なようだ、と妬ましく思った。
 クリトリスのまわりを両手で開き続けるのがつらくなった頃、梓は浅黒い躯を淫靡にふるわせて、明確に快感の反応を示すようになった。股間から上目遣いで梓の表情を探ると、快感がじわりと呼び起こされたのか、唇が半開きになり、顔を右に背けていた。
 私は何とか梓に気をやらせようと熱心にクンニリングスをした。でも、梓の昂揚ぶりが終始同じような調子で続いていた。シーツまで愛液をこぼしても、表情と声に波打つような起伏のある官能が現れなかった。エクスタシーの八合目辺りの感触で、イクのをこらえているような気配もあった。
 私は残り時間が気になりだしたところで、梓のアクメを諦めて交った。正上位で合体し、初対面だから梓にあまり体重をかけないように配慮して抽送した。
 私は馴染みの女からよく批判を聞いていた。全体重を女に預けたまま息苦しいセックスをする男が多く、そういう連中は腰の動きもリズミカルではないから、イクのが遅いし、受ける方も疲れるだけで気持ちよくならない、という愚痴だった。
 だから、正上位で交わるにしても、初会では女と胸を合わせて密着するのをなるべく避けて、裏を返して心の距離感がなくなってからそうするようにしていた。五十キロ程度の軽量でも、腹から胸まで合わせて抽送するときは、肘や膝に体重を分散させるよう気配りした。
 膝を立てて合体を迎える梓は、若くてもやはり売春性交になれきった雰囲気があった。どうぞ好きなように嵌めて動いてくださいよ、私は貴方がイクまで静かに我慢していますから、と勘ぐりたくなるほど、梓の表情に無感動と白々しいまでの落ち着きを感じた。
 初会ではそういう味気なさを気にとめないようにするのが私の遊び方だけれども、梓の美貌とベッドインまでの会話の愛想の良さ、それに、長いクンニリングスを嫌がらずに受け入れ、インサートを促さなかったことを考えると残念に思った。
 しかし、梓は股間をさらけ出したまま乱れたのが恥ずかしくてそんな面相になっていたのではないか、と私は気にとめぬよう振り払った。
 梓の思いの他の美貌に気持ちが充分昂まってもペニスの怒張が今一つだった。初対面で心に余裕がなかったこともあるし、あまりの美しさにたじろぐような気持ちもあったのだろう。それに、梓が気をそそるような迎え方をしなかったことや、自慢のクンニリングスで気をやらせられなかったことが心のどこかに引っかかっていたのかもしれない。
 だから、期待のわりにはいささか早漏気味に吐精してしまった。梓の膣の中に男のしるしを飛ばしても、まだ躯の中に備蓄が充分残っているような感じがした。
 シャワーで洗浄が済んだ後、頂上はまだ遠かったのかと尋ねると、梓が微笑んで答えた。
「貴方のねばり強いことに驚いたわ。もう一歩のところだったのよ」
(これは外交辞令ではない。次はきっと昇りつめるだろう)と私は期待し、翌月の再来を約した。

 翌月待ちこがれたようにまた会った。梓は実に嬉しそうな笑顔で迎えた。
 裏を返したのだから、いつもソープ遊びでしているように部屋に入るなり早々と裸になった。梓もそれに応えてすぐに裸になった。
 初会で梓はマットプレイが終わった後バスタオルを躯に巻いた。すぐさま梓に素っ裸でいるように求めると、戸惑いの顔を見せずにタオルを放って雑談に付き合った。二度目の入浴では梓がそれを憶えていて、初めからタオルを巻こうとはしなかった。そのことが大層気に入った。
 梓は初会に私から離れたところに座って雑談した。二度目は自然なそぶりで肩を寄せて座った。私がセクシャルな話題を続けると、美麗な顔に似合わず猥褻な言葉で応答して私を嬉しがらせた。
 私は、横座りをして太さが増した梓の太腿やその間で漆黒に輝く恥毛を眺める気持ちの余裕があった。猥談の持ちネタを披露し、梓がけらけらと笑うと、下腹がよじれるのを盗み見て欲情した。
 梓は私がどんなふうに愛撫するのかわかっていた。ヘアーバンドを外してベッドの真ん中に寝ようとする顔には、さあ、しましょうか、という歓待の気配があった。梓の脚の間に腹這いになって入ると、にこっと微笑んで膝を引いた。
 私がイカせたがっているのを理解して身をゆだね、心の留め金を外していた。
 前回同様徹底してクリトリスを舐められて、梓が次第に快感を昂めるのが見て取れた。首を持ち上げたり、上体をよじったりして乱れに乱れた。
 股間の濡れ具合は初対面の時と同じでも、躯のくねらせ方と喘ぎ声が一段と顕著になった。二十三の若い女が長い髪をシーツに広げてよがると、私は気持ちが昂ぶった。クンニリングスの時間が長くなっていることを気にせず、執拗にクリトリスを弄い続けた。
 恥毛を手のひらで押さえ、夢中になってクリトリスをしゃぶり、梓の、前月よりも奔放な反応を歓んだ。
 期待した通り梓は洪水状態になってシーツを濡らした。「イキそう!」という訴えが飛び出ると私は勇んだ。クリトリスをたくし上げるように舌でこねまわした。
 梓はアクメを告げる悩ましい叫びとともに腰を浮かせ、太腿を震った。なおもクリトリスをねぶり続けると、こそばゆがってかかとでシーツを蹴り、肩で後ずさりした。
 私は梓が腰をよじって横向きになった姿を見てほくそ笑み、声をかけた。
「随分時間がかかったけれど、気持ちよさそうにイッたね」
「うん。ものすごく気持ちよかったわ。こんなに濡れたの初めて!」
 私は、あらぬ方向を見たまま呟く梓に寄り添い、キスを求めた。
 梓は唇を堅く閉ざし、眼を瞑ったままお休みキスで応じた。
(イカせてやったのに、存外固いな!)
 ねじ込もうとした舌を引っ込め、ちょっぴりがっかりしても、梓が上気した顔でオーガズムを訴えたのを振り返ってにんまりし、閉じた脚を割った。
 二度目の性交だから今度は上体を起こして愉しもうと思った。梓のVの字に立てた両脚を両脇につけ、上体を反らせて、嵌入部分を眺めながら抽送した。
 出入りにつれてラビアがグニュグニュと動いている。引いたペニスはよがり汁で濡れている。それを見ると、私は情欲が一気に沸騰してすぐに暴発しそうになった。
 射精を遅らせようとして一旦外し、鈴口のところをクリトリスに当ててなすりつけてみた。梓に気をやらせた満足感もあって、初対面の時よりあきらかに気持ちに余裕があった。
 梓はそんな弄い遊びを頭を持ち上げて覗き、ニヤニヤと笑みを浮かべた。
 私は亢奮しきった肉棒をまた嵌め入れ、突いて突いて突きまくった。
 梓の豊かな髪が枕のまわりに広がって、仰向けの顔が童顔に見える。腰を突き出す度に梓の躯が枕のほうに動き、その度に首が立ち上がり、顎が僅かに沈んだ。梓の顎が振り子のように規則的に揺れるのを見て、私は満ち足りた気分になった。
 上体を倒して梓と腹を合わせ、腕を梓の腋に回して体温を探った。梓が手を差し伸べて迎えずに、シーツに両手を置いたままにしているのも、ディープキスに応じないのも、畢竟かりそめの情交と感じさせる。でも、これだけの美女を相手にして贅沢な注文だとも思う。
 とにかく、若い女の肌の温もりが素晴らしいし、長いクンニリングスの甲斐あって、梓が腰を浮かせ、淫汁の匂いを漂わせてのけぞるようにエクスタシーにふるえたのが、嬉しくてたまらない。
 腰の水平の送りを上下の振り下ろしに変え、梓の腋を腕で抱えて、パタンパタンと腰を落とした。互いの恥毛が快いクッションになり、ペニスが肉孔に吸い込まれるようだ。濡れて滑りが良いのにがっちりとくるみ込まれた感触があった。カリ首に快感が響きわたって、何とも具合が良かった。
 いつも、私はよほど気持ちが昂まらないと、中途半端な勃起のまま早漏気味に射精し、絶妙の射精感を得られない癖があった。
 その日は充分持続して、初会の時とは雲泥の差のピストン感覚があった。眼を瞑った梓の顔を見ながら、よがり汁をたたえた肉壺に息も荒く腰を送ると、やがて、躯の中心がこむら返りを起こすような噴出快感を覚えた。
 私は腕を震わせ、うなって果てた。
「イクぞ。イク。イク。イクーっ! うぉー」
 突然の絶叫と死なんばかりの苦悶の表情を見て、梓はあきれ、笑いをこらえていた。
 私は後日その笑い顔を思い出す度に梓への想いをアドバルーンのように膨らませ、たちまち常連客になった。それまで迎賓閣のような四万円を超える店に何度も入ってなかったので、とても迷いながらも、梓の魅惑に抗することができなかった。

 梓は親しく私に接し、歳の差を感じさせる謙譲の態度をあまり見せなかった。それが私には嬉しかった。
 梓の話は何でも周辺部をうろうろすることがなく、すぐ核心に入った。耳新しいものや、意外なもの、淫らな表現で満ちていた。風俗店に通う男の実態を若い女が訳知り顔をしてウイットに富んだ表現で語るのが何よりも愉快だった。
 私は妹がいても姉はいないので、姐さんタイプに憧れるようなところがあった。十八歳年下の梓の話す言葉に歳の割に人生は何でもわかっているかのような切り込みを感じると、それが姐さんぽくって、梓よりも若い歳まで還った気持ちになって逢瀬を楽しんだ。
 梓がしばしば見せるあどけない笑顔が、澄ましている顔の大人っぽさと何とも対照的で、私は魅了され、梓への関心を強く抱くようになった。
 梓はその世界にもう慣れきっていた。裸になるときも、ベッドに寝るときも、私が梓の陰毛を押さえて唇を寄せるときも、まるで、食事をしたり洗濯物を取り込む時のように自然な表情だった。
 性器をじっくり見せるように頼むと、梓は恥じらう様子もなく膝を引きつけて、両手の人差し指で二つの扉を開き、股間を覗き込む私の顔を悪戯っぽい眼差しで見つめた。
 梓は服を脱ぐのを私に手伝わせる演出をしなかった。実利優先で衣装ケースのそばで手早く脱いだ。私が脱ぐのを愛人かしもべのようにかしずいて支援することもないが、私の下着はいつもきちんとたたんだ。飲み物を用意する気遣いもいい加減なところがなかった。それでも、自分は世話女房になるタイプではないと言った。
 客の話をよくして、ある時には、千代の冨士が引退した後大相撲を支えた某人気力士が、幕下に上がる前の頃に梓の客になったという思い出話も聞いた。
 その力士は角界に入らなければまだ高校生の歳で、おとなしい男だった。贔屓筋が連れて来て、入浴料に加えて中の料金も支払が済んでいると聞いていたが、二度目の射精が終わった後、受領済だと伝えても、受け取って下さいと言うので、そのお金を貰ったということだ。
 迎賓閣の頃の梓は恵里亜の時よりも乙女らしい純情なところがあって、私に心安く、田舎の親兄弟に内緒の仕事であることや、ソープに来るまでの性体験や、仲間との愉快な遊びの数々を、時にはしんみりと、またある時には剽軽な口調で語った。
 十代のとき男がいて子供までできたが、相手の親が結婚を認めず、男と子供は遠い遠い親許へ行ってしまい、その後、子供に会わせて貰えず母とも認めて貰えないということも打ち明けたりして、随分と心を許したように思えた。
 梓と逢う度にどんな話題となるのか楽しみだった。当時まだ四十一、二歳で、遊びに使えるお金が決して多くはない頃だから、逢うのは月一度にするようにできるだけ我慢し、その日を心待ちにした。
 逢う前から充分に亢奮しきって、パンツを性の生理現象で濡らしたから、円形に湿ったパンツを梓に渡す時は恥ずかしかった。
 湯を張る間、私は嬉しくて楽しくて、すぐにペニスを半勃起させ、あぐらをかいた足首やすねの辺りに毎度だらしなく透明な先走り汁をたらりと垂らした。
 釣り竿から糸を垂れている形そのままの、二十代の男でもなかなか見ることがない浅ましい姿と、すね毛の間に粘り汁の巨大な滴が光るのを見て、梓はいつもニタリと笑った。
「あっ、すけべい汁、たれている!」
 と叫んで、タオルに手を伸ばした。
 私は梓が相手をした男の中では比類のない濡れ男らしいのだ。
「ほんとにいやーねえ。もう、ベトベトになって、大きくしちゃってぇ」
 そう言いながらペニスの先をタオルで拭った。
 梓はフェラチオをして大量の助平汁が口内に流れ込むと、じだんだを踏むような仕草をし、腕はランナーのように忙しげにふり、口に吐瀉物を溜めたような顔をしてティッシュを取りに走った。
「うぇー」
「そんなの、飲んじゃえよ」
「いやー」
「他でもない、俺のちん汁だぜ」
「でも、いやー」
「僕のちん汁はくさくないだろう?」
「とにかく、いやー」
 そんなシーンが何度かあった。
 大抵のソープ嬢と同様に梓も、深夜、仲間と高級店を飲み歩いたり、ホストクラブへ行ったり、結構慎みのない遊びをしていた。
 連れの仲間がホストと踊っている間、ホストクラブのソファーの上で男にフェラチオして、誰にも悟られなかったとか、ヒモになりたそうなホストを靡くようなそぶりをしてからかってやったなどと、高らかな嬌声で梓が放談すると、私のほうも梓に惚れてやって来るのだから、淫らがましい放逸な遊びに、自分のソープ通いを棚に上げて憤慨した。
 梓はこんなことも言った。
「××さん、素人の女には絶対に手を出さないほうがいいわよ。お金も、プレゼントや二人分のホテル代やら食事代やらで、数えていくと結局大層な金額になっちゃう。落とすまでに時間も手間もかかる。そういうふうに頑張って励んでも、ものにできるかどうかわからない。その子をものにしても、子供ができたら困っちゃう。その点ソープは決まったお金で確実にやれて安心、悩みなしよ。ソープに来る人は本当に良い男。ソープで働く男は最低、寄生虫みたいなもの。人間の屑! あいつらのボーナス、私達が臨徴されて出すのよ」

 梓の肌の色は濃かった。髪の毛は茶色ぽいけれど、その他は色素が沈着する質で、乳輪の色も濃く、小陰唇から会陰、菊座にかけて見事に着色していた。しかし、着色粘膜の周辺も濃い色なので、色の変化がそれほど目立たない。
 扉の間の尿道口、膣前庭、膣口辺りの秘肉もピンクというよりは茶色っぽく、膣の入口のところで赤茶色の肉片が三角形の形で飛び出していた。更に、ラビアの片方が妙に発達していて、とぐろを巻いているのは見ていて飽きない。何とも卑猥な形状だ。
 膣壁は指で探ると襞が発達しており、複雑な感触だった。梓がちょっと膣をせばめると、亀頭の粘膜に襞が絡みつく感じで、私はこれ以上もない怒張を呼び起こされ、大層具合が良かった。
 風俗の女は恥毛を控えめに処理していることが多いけれども、梓はそれほど除去してなかった。だから、クリトリスを唇で集中攻撃していると、陰核茎部のまわりの毛が邪魔になることもあった。
 大陰唇の下のほうは毛切れ防止で除毛していたから、土手の着色と左右非対称の小陰唇の張り出しがやけに目についた。
 柔らかな毛に覆われた恥丘はそれほど突き出てはいない。大陰唇がそれほど盛り上がっておらず、たるんだ感じがあるので、女芯の包皮の先から陰阜に向かう先細りの稜線がはっきりと浮き出て見える。その肉の畝はどちらかと言えば長いほうだ。
 その肉の稜線も、長さと体積がある割に、大陰唇と同じでみょうにぶよぶよしていた。中指一本でそよそよとペッティングをするとそれがよくわかった。
 包皮を剥くことは容易にできるけれども、その薄皮が深く被っていてクリトリスを覆う原形に復帰しようとする復元力が強かった。ぶよぶよと感じるほど柔らかいのに、皮を被ろうとする点ではやけに力強いのが不思議でならない。長い時間剥き出し続けたまま愛撫するのには、なかなか根気がいった。
 私は唇と舌でクリトリスを執拗なまでに攻め続けるのがとにかく好きだ。
 クンニリングスをするときは、その小肉塊がしっかり露出し、巧妙な愛の刺激が終始享受できるように、あてがう指の位置や両腕の構えを時々変える。それは同時に、与える刺激に変化をつけることになり、その度に梓に新たな快感の波が押し寄せることにもなる。
 できるだけ多彩な攻撃をして、梓が深く乱れる愛撫が何であるかを確かめることに心を集中する。梓の浅黒い内股が汗ばむのを肘で感じとりながら、クリトリスを吸うにしろ舐めるにしろはたくにしろ、その一つの愛撫から生じる快感が慣れて鈍らぬ程度の最適な継続時間を探った。
 優しくクリトリスを吸えば程なく少し白っぽい愛液が一筋二筋と垂れてきた。正面からではなく梓の腰の横から股ぐらに顔を突っ込み、恥毛で頬を撫でながらクンニリングスすると、愛液が流れるのを横目で観察できる。
 快楽の滴が尻の間を伝ってシーツに落ちる速度は、私が相手をした女の中では梓が一番速かった。粘り気が全くなくてしたたりやすい分泌液は、最初のうちは匂いがないが、そのうちに女の本物の匂いを淡く漂わせた。
 川柳に、「裾野より仰ぎ見いたるお冨士さん、甲斐で見る(嗅いでみる)より駿河(するが)一番」というのがある。
 私は、梓の秘苑から禁じられた香りが漂ってくると、するよりは芳醇な匂いを嗅ぐほうが猥褻さではまさると思った。
 梓は愛液が流れ始めてからアクメに到達するまでがなかなか時間を要した。クリトリスを吸い立て、舌の付け根と唇が疲れ切るほど舐めておれば、次第によがり声の間隔がせばまり、腰が微妙に揺れ動く。腹筋にまで力が入るようになり、足を瞬間的に突っ張る仕草をするようになると、そのうちに獣のように一声絶叫し、躯をよじって気をやった。
 私は、女がアクメに至るまでの、声の響き、肌の震え、躯のほてり、よがり汁の流し方、股間への力のこもり方、呼吸の深さ、瞼の動き、唇のゆがみ、そんな全身の変化を感知することが何よりも楽しかった。じわじわと昂揚して忘我の状態になっていくのがわかると、クンニに一段と熱が入った。
 何かの拍子に梓のよがりぶりに鎮静の気配が見られれば、隣の部屋の物音で気が散ったのか、クリトリスの吸い込みが強すぎたのか、それとも歯がどこかに当たったのか、と私は何が原因なのか懸命に探った。
 茫然自失、宙を舞う恍惚感、極限の絶頂、知性も理性も生活もなんにも関係のない、唯一無比の快楽に至る道のり、その過程を観察し、思うがままに導きたい、ブスでも愉しいが美人ならなお愉しい。
 梓はそんな私の欲望を完璧に満たした。
「もう、だめー!」
 梓はそう叫んで気をやると仰向けの躯を必ず右に横向きにする。膝を脇腹に引きつけ、股を強く閉じて、私の唇や指先の動きを封じた。
 梓が脚をたたんで閉じるから、私は顔が股間から押し出される。名残惜しそうに裏側から股ぐらを覗くと、閉じた陰裂に続く会陰が濡れて光っている。懐かしいような香りがいつも馥郁と漂った。
 梓はよがってもそれほど腰をよじらないし、愛液に粘り気が少ないから、シーツにできるラブジュースの染みがいつも丸い形になった。
 横向きに寝そべった梓が髪を乱してシーツに顔を伏せている。その虚脱した横顔を見ると、私は激闘の果てに敵の大将の首級をとった気分になる。
 顔を十五分も二十分も梓の股ぐらに突っ込み放しで、顔面は火照り、舌は感覚が消え、頬には梓の淫汁の匂いが生臭く漂っている。そらし続けた首もおかしくなっている。射精していないのに、性の営みが終了したような気分になることもあった。
「入れようか」
 促すと、梓は仰向けに戻る。妖しげな笑みを浮かべて、あらぬ方向を見ながら、私が好む体位にするために躯の向きを九十度変え、ベッドの向きと直角になった。
 そのまま、あまり上体を起こしもせず、両肘と腰とを使ってちょっとずぼらにベッドの端へもぞもぞと尻を移動する。シーツが愛液で湿ったところを避けて位置決めし、両膝を立てて開いた。大腿筋がまるで発達しておらず、ブラブラと揺れている。
 私は、梓のものぐさな動きを見ていて、しょうがねえな、入れさせてやっか、と思っているのではないかと想像した。
 それまで外していた眼鏡をかけて床に立つ。仰向きのまま膝を立てている梓の股間を更に引き寄せ、少し腰を落として肉棒をそろりと嵌入した。
 柔らかく、温かい感触を味わいながら、梓の両膝を掴んで上体を支え、激しく腰をスラストさせた。迎賓閣のベッドが低いので、立位で交わると珍妙なガニ股スタイルだけれども、背をそらし腹を引っ込めれば、陽根が出たり入ったりしているところがよく見えた。
 女の下半身がMの字形で剥きだされると、尻たぶや陰唇の対称形がどうにも心を狂わせる眺めなのに、そこに自分の赤黒いシャフトが出入りしておればもう素晴らしい絶景だ。眼がつぶれて卒倒してもおかしくない。
 これを、布団をかけたままとか、部屋を暗くしたままとかの、みすぼらしいセックスで満足する連中は性的情熱が乏しすぎる、と私は思う。
 昔の処女膜の断片なのか、膣口からはみ出た肉片が男根の左に絡みついてそよいでいた。
「こりゃあ、猥褻だぁ!」
 私がにやけた顔で叫ぶと、梓は頭を持ち上げ、両手で陰阜を引っ張って股間の谷間を覗き込んだ。鼻の下を伸ばし、エトランゼ風の瞳が輝いていた。
 私はスローテンポの抽送が好きではなかった。ベッドの高さを活用して、立ったまましなるように腰を送り、いつも速くピストンした。梓の恥毛や陰核茎部の長い稜線を眺めながら、膣道が吸いつくように絡むのを愉しみ、カリ首に散弾を浴びたような灼熱を感じながらズドンと発射するのが常だった。
「早漏とまでは言わないけれど、早いわよ」
 梓が何度かそう言った。
 梓はイキ上手だった。私が愛撫を始めると、初めは静かに寝ているだけだが、そのうちに「はぁーっ」と息を吐いた。
 陰裂が湿るようになると、粘り気のない仄かに匂いのする愛液をたれ流して徐々に昂まり、時間はかかっても必ずフィニッシュに到った。私は梓に気をやらすことができぬままペニスを嵌め込んだことは、初会以外は殆ど記憶にない。
「体調の悪いときなんか、いくら××さんでも、今日は絶対にイカないと思っていても、××さんには結局イカされちゃう」
 そう梓に愚痴られたことがあった。
 私のクンニリングスは、クリトリスを舌と唇で専一に攻めるやり方で、ねぶり、吸い、揉み、こすり、それが長く持続した。
 二十分間クンニリングスすると、指を膣に差し入れたり、膣口やラビアや会陰や鼠蹊部に唇を這わせたりするような、クリトリス攻めと比べればさほど昂揚を呼ばない刺激に費やす時間は三十秒もなかった。ボクサーがサンドバックを叩くようにたゆまずクリトリスを舌先で嬲り、飽くことなく弄い続けた。
 女のオーガズムはクリトリスによってもたらされるものと私は長年の性体験で結論づけていた。性のハウツーものを読むと、クリトリスだけを攻めるのは刺激が強すぎてかえってよくないと書いてあるが、それは間違いだと思った。
 風俗の遊びをして、徹底したクンニリングスで女にアクメをもたらすことは励んでいた。でも、抽送によってアクメへ到達させた経験はそんなにはなかった。
 私がクンニリングスをすれば、大概の女に、本人が驚くくらいに多量の愛液を流させて絶頂まで導いた。
 それで、クリトリスを吸って、その女が深くよがり声を出す時に、多角的に愛撫をしてやろうとして、他のところへ唇を移したりすると、たちまち女の喘ぎ声が収まり、昂揚が静まるようだと思っていた。
 だから、ポルノビデオで、男がクリトリスを少し舐めてから、指を入れてピストンさせ、それで女が一気によがり声を上げると、多分それは演技であろうと判断した。
 梓は、自分のエクスタシーが、膣の奥から生まれるものとクリトリスによって生まれるものと、二種類あると私に説明した。
 クリトリスの愛撫で得られるオーガズムは山が明瞭で、快感がどちらかと言えば表層的で、坂が短くどーんと来る感じだ、これに対しペニスの抽送で得られるオーガズムは、山は明瞭ではないけれども、躯の奥底から快感が生じ、坂が長く、じわじわと来るような感覚で、終わりもはっきりしない、時には、イッたのかどうか自分もよくわからないことがあるというエクスタシーだ、と言う。
 そう講釈されると、私は、梓が抽送で絶頂になるためには、抽送の持続時間とペニスの大きさが少し不足していると言外に指摘されたような気がした。
 梓がペニスの抽送によるエクスタシーだと思うものは、インサートでアクメに達することがあって欲しいという固定概念から来る錯覚ではないのか、ピストン運動でクリトリスが刺激されて快感が生じているけれども、直接的な刺激でないので鋭く突き抜けるような快感になっていないのであろう。
 そんなことを言って、向きになって梓と議論したことがあった。
 二十代の若い女がポルノ作家のように性感論を展開するからおかしく思って聞いていた。

 私は梓と逢う度に、今日はどういうふうに攻めようか?と考えるのが楽しみだった。
 ある時には、ベッドの端に立ち、ベッドの向こうの端から梓に私のほうに向かってでんぐり返りをさせ、半回転して脚や尻が上になったところででかい尻を受け止め、逆さの腰と背中を胸で支えた。
 すべすべした浅黒い内腿に続く股間は一段と肌が黒ずみ、その澱んだ色合いの皮膚がそこだけ毛穴が目立つ。私は強度の近眼だから、裸眼をぐーっと近づけると、その褐色の皮膚のはざまで天井に向かって見事に開口した割れ目と、張りつめて土色の光沢を見せる会陰が、鮮明に眼に飛び込んでくる。
 火山地帯の地獄谷と呼ばれる景観を彷彿させる不思議な光景だ。ぴっちり閉じた、くすんだ色合いのアナルの襞までが気をそそる。なかなか長い陰裂は、舟形の囲みの内側が臓物が露呈したような様相で、照明に映えてぬらぬらと存在を誇示していた。
 ヌメヌメした窪地に顎を寄せてクリトリスをねぶれば、唇の動きにつれて揺れる私の鼻先が恥毛をそよがしているのが梓からよく見える。それを見つめている梓の双眸が私もよく眺められる。
(なんて素晴らしい眼をしているんだろう。こんな美人が尻の穴のまわりの毛を数えさせて、おまんφもパックリ開いて、濡らしているなんて!)
 脚を宙に浮かせたまま結構長い間逆さにしていたから、梓は首や肩がつらくないか、空中に浮かせた足も落ち着かないようだ、と私は気になったが、そんな猥褻なクンニリングスをしたのは初めてだった。
 五年ぐらい後になってから、女をその姿勢にさせるのを、アダルトビデオの世界で「まんぐり返し」と呼んでいると知った。
 梓を逆さにして、陰裂とアナルを天井に向けさせたのは全く私の着想で、決してエロビデオの真似をしたのではなかった。
 でんぐり返りするのを受け止める時、多少の衝撃があるだろうと思って足を踏ん張った。でも、梓の大きな尻が一回転するのを胸と顔面で受けると、軽量の私には実に重量感があった。
 その時踵で蹴られて眼鏡がふっ飛んだ。後で、インサートして腰を使っている間、眼から火が出るような顔面ハイキックの痛みを思い出し、愚痴を言いながらひん曲がったつるを直すのが快感だった。
 前戯というものは、男が受け身でも女が受け身でも、相手を気持ちよくさせようという心と自分が気持ちよくなりたいという心が相互にあって必然的に連携プレイになる。
 一方、抽送行為は男にとっては射精のための作業で、佳境に入れば蒸気機関車のように喘いで腰を振り、自分が気持ちよくなることのみに集中して、女の顔を見ることなんぞはしない。
 女も、抽送が快感を呼ぶものだとしても、自分が快感にひたることに集中し、アクメが得られるまで男がピストン運動に耐えることを願い、男が上々の快感を感じているかどうかに気を巡らすことは少ない。ましてや抽送自体が女にさほど快感をもたらさない場合には、シラーっと射精を待つことになる。
 腰振り最中は、女も男も目を瞑るか、開けていてもどこにも焦点を合わせず、ひたすら動く、あるいはその前後運動が終わるのをただ待っていることが多くなる。
 ピストン運動では自分の快感に熱中してしまう。自分が気持ちよければそれでいい。本気で抽送しているときは、相手の顔を見て微笑むこともなければ、キスを迫ることもない。
 本戯が独立的行為であるのに対し、前戯は相互行為であるといえる。相手を気持ちよくさせることが楽しいと思わない人間は前戯をしない。
 熱い心で前戯をして相手がエクスタシーにふるえるのを拝観するのが面白いと思うからこそ相互行為だ。イカせることが愉しいと思うことがあるから、初対面の赤の他人にフェラチオをすることを商売にする射精産業も繁栄する。本当に不愉快なことは、大金を積まれても人はしたくないものだ。
 抽送は、ある意味ではするほうも受けるほうも利己的に快楽を追っている。
 一方、愛撫は常に背後に相手が気持ちよくなることを願い、相手の官能を愛しげに見つめる心があって、双方向の行為だ。互いに視線を交わしたり、愛撫の対象箇所以外でも躯のどこかを触れ合ったりして、相手の心を確かめる。そこで男と女の関係と言えるものになる。肉体関係は前戯という愛撫なかりせば、ダッチワイフや自慰と同じで『関係』ではない。
 そんなふうに私は思っていたから、本戯をないがしろにするのではないが、充分に時間を費やして前戯を愉しんでいた。
 前戯と比べれば本戯の時間がまるで短かった。抽送によって梓に明確な反応が起きるのを見ることが殆どないから、それが残念だった。
 肉壷の中で放出すると、毎度梓は吐精の瞬間に私が発する声と表情を観察して、ティッシュで後始末しながら感想を言った。
「今日は××さん、いつものように『うぉー、あー』と叫ばずに、『うっ!』と短く言っただけよ。気持ち良いのがちょっと浅かったんじゃない?」
 私が気をやる時の顔を真似ることもあった。
「今日は一段とうなったわねえ、顔がゆがんでいたわよ。こんなになっていたわ」
 若い美女が大仰に真似るからおかしくてたまらない。
「××さんのようにイクときに大きな唸り声を出す男はいないから、ほんとに面白いわ。外に聞こえないかと心配になるぐらい。私、とっても恥ずかしいわぁ。……でも、むちゃくちゃ気持ちよさそう!」
 ニタニタ笑ってからかった。
 私も、梓が達した時の声と躯のふるえと反らせ方を観察して、気のやり方が深いか浅いか、早いか遅いかをいつも判断したけれど、梓のように一々それを論評したりはしない。何でも思ったことを口に出す面白い女だった。
 その梓が突然店からいなくなった。
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(千戸拾倍 著)