18歳未満の方は入場をご遠慮下さい。
ルイ1
金津園のマスターズは平成元年に初めて利用して、恵里亜と並んで大変よく入った店だ。
最初に入ったのが
山口香(初会から1年以上経ってから通うようになった嬢の初めて)で、通い詰めた嬢は、
堀千秋(性交せずに通った女)、工藤舞、
仁科良(見事によがる女の初めて)、山口香と続き、夏木ルイに出合うと山口香に通うのを止めた。
工藤舞は結構長く通ったが、この通いについては何も書いてない。工藤舞が 165cmの長身で細い腰をしていても、美女とはちょっとかけ離れていたのと、人物的に何というかレベルが低く、私は彼女の性的亢奮だけを楽しんで惰性的に通ったからだ。
私は平成五年からソープ遊興のエロ小説を書きためて、それを世に出したかったので良性記を拵えた。そのソープ遊興小説を書くきっかけになったのが、夏木ルイに入浴を続けて心を乱したことだ。懊悩の女神に初めて会ったのは平成四年だ。
私は妻帯者で子供もいて、堅いサラリーマンだから、いくらソープ嬢に惚れ込んでも我を忘れてはならない、と心に決めていた。しかし、時には恋い焦がれた嬢が現れて、金津園のマスターズの夏木ルイが私の心を最も狂わせた嬢だ。
ルイは二十代半ば、やや長身で、瓜実顔が整っていた。パーマのかかった髪を背の中ほどまで伸ばし、前髪は少し垂らして、歳の割には可憐にヘアースタイルをまとめていた。それで、愛らしい顔で丁寧な言い方をして、なかなか淑やかだから、ソープ嬢にしてはお嬢さんぽかった。
ソープ情報誌に一際目立つ美人顔の写真を出して、金津嬢の中では抜群の美貌でも、気高くて近寄りがたい感じではなかった。愛想よく饒舌なほどだから、客がいけ好かない態度をしなければ、誰にでもかりそめの逢瀬と思わせぬ親密さを漂わせただろう。
陽気なときには溌剌と速射砲のように言葉を並べた。根は負けず嫌いでむら気が目立つが、コケティッシュな愛嬌をたっぷりふりまいた。微笑んだ顔が実に魅惑的だから、恋の虜になってしまう男が多い。私は二回りほどの歳の差があるのに、年甲斐もなくその一人だった。
金津園の高級店でも、アナル舐めやアナルへの指の挿入まではやらない嬢が多い。エイズの危険が喧伝されるようになってからは、金津園の女はフェラチオでもコンドームをつけてすることが多くなった。多少贅沢に暮らせればいいという程度の考えで、何の工夫もせずに男の相手をする女もいた。
しかし、ルイは人気を得たい意欲が充分で、純生の攻撃的なフェラチオや熱烈なディープキス、それにアナル舐めもして、指の技もなかなか巧妙だった。
美人のソープ嬢ほど性の技が往々にしておとなしいのに、ルイの指の動きは奔放でねちっこいから、誰でも意外に思うだろうし、心地良さに悶絶したに違いない。
ルイはマスターズの近くのダイヤモンドクラブが初めての店で、そこで一年と数ヶ月働き、指名数はトップだった。私が初めて会った時は、マスターズに移って三ヶ月ぐらいなのにもうNo.1になっていた。
ソープ嬢になったわけを尋ねると、恋人が米国へ行って、後を追いかける金を稼ぐため、友人の紹介でダイヤモンドクラブに入ったと説明した。その後は、男の後を追う気がなくなったようだ。
ルイがダイヤモンドクラブにいた時の話である。
当時その店の指名No.1はラムで、金津園でも抜群の売れっ子だった。
ダイヤモンドクラブでは、月の指名数が三十本になれば、女に専用の接客部屋を与えた。ラムの指名数はその基準をはるかに超えて、特別に大きな部屋をいつも使っていた。
ラムは若く見せていても十年近いキャリアで、ソープ嬢になってから四、五年目ぐらいまでの金津園の最盛期には、月に十九日の出勤として、七本×十九≒百三十本を稼ぐという抜群の人気を得ていた。
まだエイズが話題になる前で、予約していない客は店に入ることもできなかったり、店に入ることができても二時間も三時間も待たねばならないことがあった。ソープランドが全盛の頃だから、売れっ子はそれぐらいの数の客が取れた。
さて、ルイはダイヤモンドクラブに来てすぐ翌月に指名数が三十本に達し、部屋持ちになって喜んだ。しかし、その後何ヶ月か経つと逆に指名が減少し、それもP指名が多くて初会の客の返しが悪いことに気づいた。
ある月、晦日直前までの指名が二十九本の状況で、指名数の伸びも停滞した。ルイはこんな調子では今後部屋持ちが続けられるかしら?と焦った。
それで、ラムがどうしてあんなに人気があるのだろうか?と不思議に思って、ラムにも通っている客に、ラムがどういうふうに男の相手をしているのか尋ねた。
するとその客はラムを褒めちぎった。
「ラムは最初浴槽に一緒に入り、いきなりキスをして、それが舌を絡ませる濃厚なやつで、驚いたよ。マットプレイは時間をたっぷり使って雑なところはないし、笑顔を絶やさずとても愛想がよくて、なかなかサービスがいいねえ。それにラムは、ベッドでも、感じているような甘い声を出して、濃厚なキスをしてくれるから、しっかり亢奮したよ」
そうにやけた顔で説明した。
ラムはかなり前から雑誌に艶やかに微笑んだヌード写真を載せていた。私は初めてその写真を見た時からラムには関心があったので、ルイからダイヤモンドクラブの想い出話を聞いて触発され、ラムに入浴した。
会って、売れっ子の所以が確認できた。
ソープのプレイは、大方は、椅子洗いの後、入浴、マット、ベッドと続く。
私が湯に漬かると、すぐラムも入ってきた。大概の女はそこでせいぜいフェラチオをするぐらいだが、ラムは湯に入るなり何か甘いことを囁いて私にしなだれかかった。やはり濃密なキスをした。私の眼を見つめて唇を離すと、そのまま湯の中で私の腰を膝で浮かせてフェラチオをした。
私は恋愛ムードを求めるから、ヘルスやソープランドではしっかりうち解けてからキスを求めるようにしていた。親しくなったならともかくも、初対面の女に、会うなりキスをしかけることはしないから、女からキスを迫られない限り、マットプレイやベッドプレイに入る前にキスをしたことがあまりなかった。
だから、ラムの接近ぶりが印象に残った。初会でもソープ嬢がすぐさまディープキスを迫るのは、金津園の人気に陰りが出てからの超高級店のプレイスタイルだ。
器量には自信がなくてもとにかく指名を増やしたい、と体当たりで仕事をしている女なら、顔を合わせてすぐにキスをしかける積極さがあるだろう。しかし、当時は、金津園で美貌順位によりベストスリーに入るような嬢が自らディープキスを迫るのは珍しかった。
美人のソープ嬢は、馴染みの客でも、唇だけは決して許さなかったり、キスをしても口を閉じたままというのが多かった。また、自分の舌を吸わせても、男の舌を吸うことはしないという女が結構多い。
ラムは初対面で私の舌を吸っただけでなく、ベッドでクンニリングスされているときの声もなかなか艶ぽかった。
そういうふうに私はルイから又聞きしたラムの人気の理由を後日当人に会って確認した。ただ、ラムは誰に対しても頑張るらしいところに私は妙味が感じられなくて、ゴム着用もあり、さほど満足できなかった。
ルイは、その客がニタニタとラムを褒めちぎるのを聞いて、この業界に入ってすぐ売れたことによる思い上がり、実力もまだないのにラムと張り合うことの間違いをつくづく悟った。思い切った飛び込み方をしていない、好みでない客には愛想が悪い、男の性感帯への攻撃をあまりしていない、等々の反省すべきことがあると思った。
だから、その後は、客と一緒に風呂に入るようにして、フェラチオをするだけでなく、特に嫌な客でない限りラムのように自分からキスをした。そして、本指名の本数を順調に伸ばした。
ルイはそんな想い出語りをした。
満足できる程度に本指名数を増やすことができたのに、ルイはダイヤモンドクラブからマスターズへ移った。そのわけをルイに尋ねたけれど、ルイは明確に説明しなかった。だから、私はあれこれと想像した。
ルイはかなり負けず嫌いのようだから、ラムがいては一番になれないと考えて転身したのかもしれない。それとも、店のソープ嬢に鬱陶しいのがいて嫌になったか、スタッフと衝突したのか、ただ飽きてしまっただけなのか。
ルイにダイヤモンドクラブを辞めた訳を尋ねたのは通い始めの頃で、その時ルイはダイヤモンドクラブの店長から熱心に引き止められたと語った。でも、その後のルイの行動を見ると、とにかく出勤が気儘で、ダイヤモンドクラブの店長に引き止められるどころか、退けられた可能性が高いように思った。
ルイは気持ちを明確に表して喋り、描写も具体的で話が面白かった。ルイと歓談していると、すっかり共感して倦むことがなかった。客の遊び方を面白おかしく批評したりして、話題が抜群に豊かだから、頭の回転が良さそうだと思った。
私は女から奇妙な客の話を聞くことが愉しみだ。大勢の女に会ったが、ルイほど体験談を面白おかしく語る女はいなかった。
ルイは声が女らしくて抑揚も豊かだ。語る表情もチャーミングなその愚痴話は、中年の平凡なサラリーマンの私には、次元の違う世界を覗くような、興味をそそるものばかりだった。
以下は、ルイが語った風変わりな客の話だ。ルイの生々しい描写で、ソープ店に通う様々な人間模様が私には興味深く伝わった。
客A:その客は東京に住んでいて、ソープ情報誌で知ったダイヤモンドクラブのルイによく通った。
男は中京方面にしばしば出張し、月に二、三回その日のラストの指名で来た。
私は、ソープ嬢に気をやらせたり店外デートに誘うにはラストで入るのがいい、と風俗誌に載っているのを見たことがある。ルイがそれほど擦れた感じではないのに、その男を「ラスト狙いの客なのよ」と表現したので意外な気がした。
男は妻帯して、当初はルイから見れば紳士的で、好ましい客だった。
ある日、最終の入浴の後に男に食事を誘われて、断り切れずに深夜を付き合ったところ、ルイの言葉によれば「それにつけ入れられて」、離婚することを前提とした求婚をされた。
ルイは一人の客を失うのを恐れ、また、家庭を持つ男が自分に狂うのが面白くもあり、更に、どこまで本気なのか確かめたいような気持ちもあって、明確な拒絶をしなかった。その男の要求は段々と執拗になった。
マスターズに移った後しばらくは、男が来て鬱陶しい想いをすることはなかった。が、とうとう男はソープ情報誌か何かでルイを見つけて再び現れ、黙って店を替えたことをなじった。
マスターズでも幾たびか来て、そのうちに男は、以前から話している通りようやく離婚が成立したから結婚して欲しいと迫った。ルイがはっきり拒んでも、君のために自分は女房と別れたのだから是非一緒になって欲しい、と懇願する。
ここまで狂う前にどこかで手厳しく拒否しておくのだった、と悔やんでいると、ある日男は名古屋まで車で帰宅のルイを尾行し、居所を探り当てて、自宅にまでやってきた。
窓のカーテンを閉めて、ドアフォーンが鳴ってもいないふりをしたこともある。友人やら店長やらの手を煩わせ、諦めるよう説得して貰ってもなかなか上手くいかず、とにかくしつこいから、警察沙汰もちらつかせたりして、断念させるのに大層苦労した。
客B:マスターズで会った一見の客である。
コンドームのセールスをしていた大男で、部屋に入るなり酒ばかり大量に飲み、やたら大言壮語を言い立てた。
大きな鞄を開けてコンドームを取り出し、その購入を求めて、ルイがそれは沢山あるからいらないと断ると、「金は一杯持っているくせに」と嫌味を言った。
男はあれやこれやと不愉快な暴言を吐き、飲んでいる酒についてまで悪口を言う。こんな奴とセックスするのは嫌だけれど、仕事だから我慢だと自分に言い聞かせてベッドに誘なうと、今度は安全策(コンドーム)を嫌だと言い出した。
再三着用を懇願しても拒否され、ルイは困りはてた。自分に払う料金もいらないし、店に払った料金も返すから、このまま引き取ってください、と頼んでも、男は引き下がらない。それで、店のスタッフに電話で連絡しようと強硬な態度に出たら、男はしぶしぶ諦めた。
性交は、酒臭い息をまともに吹きかけられ、しかも遅漏で、不愉快でたまらなかった。
地獄の苦痛がやっと終わって料金の支払になると、男は釣り銭の有無を確認した。
千円札の用意があると答えたら、見苦しいことに端数を切り捨てるよう求めた。しつこい要求を根負けせずに断ると、あきれたことには、中の料金と外の料金の合計金額で領収書を請求した。
更に極めつけは、滑稽にもルイが用意していたコンドームをごっそりと強奪したことだ。大きな手が一ヶ月分のゴムの束を鷲掴みにして、鞄の中に入っていくのを止めようがない。値引きに応じない代わりということで、あきれて声も出なかった。
客C:ダイヤモンドクラブでの客に、半陰陽の人(男女兼備)がいた。
声は中年女性のようで、裸になると胸が少し出ており、腰もふっくらして、何だか気味が悪い。
ルイは、その客にマットプレイもベッドプレイも両方したが、他の客とは随分勝手が違った。長々とペッティングをされ、優しいやり方だけれども、指の刺激だけでは、ルイはもともとそれほど盛り上がらないから、鬱陶しいこともあった。
それに、ルイが手を伸ばしても握るものがなかった。亀頭と包皮の境界がはっきりしない上に、男根が小さいので、インサートがしにくい。
彼氏(彼女?)は、ルイと互いの局所を摺り合わせることを好んで、これを何度かした。一応イク感覚があるようで、そのときには軽く声を出した。射精らしきものはないように思った。
幾度か来て、話を聞いていると、結構金津園のいろいろな店に入っている様子だ。
ルイがダイヤモンドクラブを去った後も、その客はルイがマスターズにいることを見つけ、再び現れたので驚いた。普通のソープ嬢ならまともに相手をしないだろうに、ルイは気味が悪く思いながらも、気の毒な人だと思って真面目に応対したので気に入られたようだ。
その客は絡みでいつも部屋の明かりを落とすよう求めた。暗闇に近いから陰部がよく見えなくて、さわってもどこが睾丸なのかはっきりせず、目を凝らすと陰裂があったのを縫合したように思えた。もともと大きかったと想像する陰核(極小の陰茎?)が、更に人工的に盛り上げられているようだった。
全体に男性的なところより女性的なところのほうが目立ったのに、無理に男ぽく振る舞っていたのでおかしかった。
客D:「私は霊感というか透視能力というか、不思議な力があるのですよ」
生白い、痩せた若い男が静かな声で言った。
そして、「ルイさんの住まいの光景を思い描いてあげようか」と切り出し、名古屋市の××区に住んでいることや、家の近くに市営のプールがあることや、家の外壁の色などを徐々に口に出して、それが皆ぴたりと合っている。
初めは面白がって聞いていても、出身高校や本名まで当てられるとルイは気持ちが悪くなった。
「貴女と私とは前世から不思議な縁で結ばれています」
そんなことを伏し目がちに呟くので、全く薄気味が悪い。
次に現れたときは、とうとう本音を出した。
「(ソープ情報誌の)写真を見ていつも貴女のことばかりを想っています。是非私と交際して下さい」
じっと顔を見つめて、男の要求には大層な執心が感じ取れた。
「こんな私なんかのどこがいいのか、ご本人は熱い情熱でそういうふうに言ってくれるお客さんが、貴方だけでなく今までにも何人かいて、ありがたいことだと思うけれど、私は今のままでいいの。自由にしていたいの。一時の情熱で私なんかに夢中になっても、それは決していいことではないわ。私のやっている仕事が仕事だから、後で男の人は絶対にそれをとがめることになるのよ。私は貴方のことを知らないし、お付き合いして、もっと貴方のことを知りたいとも思わないわ。貴方もお客さんとして来たい時にお店に来て、楽しめばいいじゃない」
きっぱり断ったのだが、とにかく扱いが難しい男だった。
そのうちにルイの実家に大変な封書が届くようになった。
最初の二通は母親が開け、中身を見て大層驚いたのだが、父親には隠しておいた。しかし、三通目が父親に見つかってしまった。
「貴方の、あの、目に入れても痛くない、かっては大変優秀だったお嬢さんが、今はこのようなとても信じられないことをしています とても残念です お嬢さんがふしだらなことをしているお店に電話をかけて確かめて下さい」
超特大のワープロ文字で書かれ、ソープ情報誌に載せたルイの写真の切り抜きが同封してあった。
「そんなの、出鱈目よ。写真も、その店がきっと勝手に使っているのだわ。そんな、差出人の名前も書かれていない、いい加減な手紙と私と、どちらを信じるの!」
ルイは、母親にはこのようにごまかしていたが、父親には通じなかった。父親は烈火の如く怒って、店に電話を入れたりして大変な騒ぎになった。
写真は店が勝手に撮ったものだなどと、店と口裏を合わせる対策をした。それでも、口論の末に父親にきつい張り手打ちを喰わされ、鼓膜も破れるし、母親はおろおろするばかりだし、ほとぼりが冷めるまでしばらく謹慎したりして、ひどい目にあった。
耳鼻科医に鼓膜の異常が生じた訳を説明するのも恥ずかしかったし、店に出るのも親の監視があって難しくなった。
きっと、変に丁寧なものの言い方をしていた、あの薄気味の悪い男の仕業に違いないと思って、腹が立ってしょうがなかった。
その他にもいろんな男が来た。
遊びに来ておきながら「若い女が何故こんな仕事をしているのか。まっとうな職に就きなさい」と説教する客、女装する男、来ても風呂に入って話だけして帰る男、「ルイちゃん、ルイちゃん、ルイちゃん」と連呼しながら、身体中を舐めまわし、唾液でべとべとにしておいて、その合間に「ルイちゃんは本当に可愛いよ」と呟く、もはや男性が機能しないお爺さん。
そんな体験を語るルイの言葉は、「ねえねえ、××さん、聞いてよねえ」の呼びかけで始まり、リアルでユーモラスで、更には淋しげなこともあり、語るその瞳は輝いて見えた。
逢う度にルイはソープの体験や客について興味深いことを語った。
語尾に「よ」と「わ」と「の」と「ね」を頻繁に用いる、その抑揚に満ちた甘くて女らしい語り口を、私はあまり聞きなれていないだけに、それはルイの乙女らしい仕草と相まって魅惑だった。
「下手糞なお客が本当に多いのよ。俺は上手いんだよ、とか言って、女のこともソープのことも、皆、判っているという態度の人でも、大概は下手糞よ。乳首がもげそうになるぐらいにいじったり、あそこのびらびらやその内側を痛いぐらいにこすったりするの。クリちゃんを上手に攻めることは全然できずに、誰でも、すぐにあそこの中に指を突っ込みたがるんだからー。そして、そんな人に限って、爪なんか、うんと伸びているから、本当にいやになっちゃうの。××さんのように優しく唇で攻めて、それで、必ず私をイカせてくれる人って、本当に少ないの」
「若い人で、セックスのこと、知ったかぶりするのがいるのよ。私にあーだこーだと説明するの。どれぐらい判っているのかすぐ私には底が判るから、適当に聞き流しておいて、おちんちんをぎゅっぎゅっと攻めてやるの。そしたらもう、うろたえちゃってるのよ。後はもう、黙り込んでいるの」
「俯いたままでもじもじしているから、どうしたの?って訊くと、『あのー、僕初めてですからよろしくお願いします』なんて言って、服を脱いでと言うと『ハイッ』、椅子に座ってと言うと『ハイッ』、お風呂に入ってと言うと『ハイッ』、すっかり緊張しちゃっているの。顎引いて、背中をまっすぐにしちゃってさ。こういうのはもう、よしよし、お姉さんが何でも教えてあげる!という気になっちゃってえ。可愛いんだからぁ、もーぅ」
「愛撫をしたがるお客さんでも、もう、ほんと、いきなりごしごしこすってくるのが多いの。あそこを舐めてくれる人って、少ないのよ。しても長くないの。勃てばすぐに入れちゃうから。すぐに嵌めないで、お口でいじっていたい人でも、あそこを舐めるのはほんのちょっぴりしただけで、指を入れちゃうの。もう、まるでかき回しているのよ。そんなので気持ち良くなる筈がないじゃない。本当に頭に来ちゃうわ」
「おちんちんの先がやわな人は多いのよ。マットプレイでほんの少しカリ首ちゃんを摩っただけで、すぐに出ちゃいそうになるの。『ああっ、そんなこと、僕、駄目なんです』なんて言っちゃってぇ。……
大抵のお客さんは何にもせずに私にばっかりやらせておいて、あれが固くなりさえすればすぐに入れて、ひたすら腰を強く激しくぶっつけるのよ。中には、腰の動かし方すら知らないで、腰を使わず、腕立て伏せなんかをしちゃって、汗だくになりながらする男の人もいるの。馬鹿みたい」
「腰の使い方を知らない人で、別の人がまた現れたの。前に話した人と同じで、本当に腕立て伏せをして、全く腰を器用に、皆がするようにひこひこと動かせないの。その人、五十をとうに超えていて、ちゃんと奥さんがいるのよ。奥さんと今まで何をしていたのかしらねえ。あれって、そんなに難しいことなのかしら」
「あまり若いお客さんは好きでないわ。皆、数イッて、それで元を取ろうとするの。セックスって、イケばいいというもんじゃないわよねえ。部屋に入るなり、何回やらせて貰えるかって訊く奴もいるのよ。数を口に出す人に限って、一回しかできないことが存外と多いわ。一回出した後の勃ちが悪いのに、二回目がないと損でもした気がするのよねえ。むしろ、『僕は一回だけでいいよ』って、澄ました顔をしていて、最初の椅子洗いですぐにびんびんになるのは、しっかりと三回ぐらい出すわ」
「私のお客さんはお爺ちゃんの人も多いのよ。だけど、お爺ちゃんは、苦労してやっと勃たせた後コンドームを被せようとするとお辞儀をしちゃう人もいて、そうなると困っちゃうわ」
「私は精一杯お仕事をしているのだから、お客さんも感じているのなら声を出して欲しいと思うわ。××さんのように、私が攻めている時、ちゃんと気持ちよさそうに反応してくれるならば、愛撫するのもやり甲斐があるけれど、何をされてもどてっと無表情に横になっているだけじゃあ、していてもつまらないわ。私が男の人の手を取って、お乳のところへ当ててあげるなんて! 一体、何しに来ているのかしら、高いお金払ってさ」
「たまに、私が一番感じる所へ愛撫を上手にしてくれるお客さんがいると、イカして貰えるのかなぁと期待してしまうわ。でも、すぐにやめちゃって、もどかしいことが多いのよ。イキやすいところと、イキやすいやり方は決まっているんだけれど、私のほうからそれを教えるのは、はしたないでしょ?」
「お店で自分のお部屋を持たないと、お客さんがつく度に、自分の荷物を持ってうろうろしなきぁいけないからいやなの。控え室でちっとも売れない他の子と一緒にお客さんを待っているのは、あまり好きじゃないわ。お部屋を持てば、他の女の子と顔を合わせることも少なくなるからぁ。お店を替えたいと思うこともあるけれど、すぐにはお部屋を持てないとなると、やはり気が進まなくなるわ」
「常連のお客さんは、当然所得の高い人が増えて、それで、上のクラスの人が多くなるでしょ。だから、そうした殿方の気を惹くには、お上品で丁寧な態度をしてたほうがいいでしょ。それでね、努力しているのだけれど、指名が伸びなくて悩んでいるお友達がいたの。その子は言葉遣いがあまり良くなくて、ぶっきらぼうで、不良みたいに見えるところがあったの。神崎愛さんよ。貴方も一度入って、『育ちの悪そうな喋り方をして、ちんぴらぽいからいやだな』と言っていたじゃない。私、そんな言い方を直して、お淑やかに見えるように、もう少し丁寧な話し方をしなさいよ、と教えてあげたの」
ルイが語るのと同様の話を、私はそれまでソープ嬢からしばしば聞いた。その中でもルイの体験談は、表現も主張も具体的で、何よりもその表情が何とも魅力的だから、特に記憶に残るものだった。
普通若い女同士が好んでする会話は、服飾、化粧、食べ物、旅行や音楽・踊りとかの遊び、占い、知り合いとかの噂、芸能関係などについてだろう。でも、こんなことを客と語り合うわけにもいかず、また、売春稼業に身を置く女達は自分の私生活を語らない。まして、客の私生活などはどうでもいいことだ。
共通の話題は何と言ってもソープの仕事、セックス、他のソープ嬢、客などについての話だ。他のピンク稼業と比べればソープランドは接客時間が長いだけに、会話にも比重がかかる。こんな会話ならお互いにリラックスして時を過ごせた。
私はルイに大層関心を抱いたが、個人的なことは殆ど尋ねようとはしなかった。
ルイとの出会いは次の通りだ。
ある日マスターズのマネージャーに「今度新しく、ルイという名のとっても佳い子が入りましたから、是非お願いします」と勧められた。
お願いしますと言われても、二年以上通っているマスターズで、新顔が入ると舌なめずりして入浴するという遊び方をしていない。
どんな女かと訊くと、愛想よく説明する。
「前はダイヤモンドクラブにいたのですが、先月からうちに出るようになって、仕事はとてもできます。××さんには、もう、間違いないと思います」
××さんには間違いないと思いますとは失礼な決めつけに思っても、差し出した写真を見ると、名前を聞いただけでは気づかなかったけれど、以前からソープ情報誌の写真で美貌に感心していた女だ。
しかし、いつも雑誌に登場している佳人は当日の予約が取りにくいのが嫌だ。それに、器量のいいのを鼻にかけ、性的なサービスが良くないことがあると判断していた。だから、「××さんには、もう、間違いないと思います」とは一体どういうことか?……と思いながらも、当初は敬遠していた。
けれども店の女にルイのことを訊くと、P指名だけでなく本指名も結構取るようなので気が変わった。電話しても予約がなかなか取れないから、大層な売れっ子ぶりに何とか会いたいと思うようになった。
やっとのことで実現した初会は、勧められてから三ヶ月ばかり経った頃だ。
ルイに会って驚いた。ソープランドにこれほどの美人がいるとは信じられなかった。
存外に長身で、私よりもかなり背が高かった。写真で見る以上に目鼻立ちがはっきりして、女らしい優しい顔立ちをしていた。しかも、ルイはエレベーターの中から部屋に入って挨拶するまでにこやかで、ソープの女によくある、崩れた感じや突っ慳貪な態度がないから、もう瞠目した。
マスターズの女は私服で客を迎えた。ルイは生地も仕立てもしっかりした茜色のワンピースを着て、なかなか洒落た装いだった。
一度も会ったことがなくて、写真を見るか人から聞いたりして指名することをP指名と言う。
私がベッドに腰を下ろすと、ルイはスカートの裾をふわっと広げて床に座り、顔をほころばせて、「私のような者によくP指をしていただきました」と言った。
ルイがP指という特殊な用語を使ったことに注目した。私がその言葉を理解できるソープ慣れした男だと思って口にしたのか、そこまで考えずに自分たちの用語を使ったのか、どちらだろうと思った。
P指名が途切れることなく入る美貌だから、ルイに派手な笑顔で大仰に歓迎されると、私はルイの謙遜と外交辞令が過ぎるように感じた。でも、ルイが笑みを絶やさず、取るに足らない会話でも親しそうに声をはずませているから、心を浮き立たせた。
ルイは、店の女の誰に入っているのか、また、何故自分を指名したのか、どんな店に行っているのか、などと品定めするかのように早口に尋ねた。
それで私は、ルイがスタンバイするときに伝票の会員番号を確かめ、古くからの店のメンバーと知ったのだろうと思った。
私はその質問には一通り答えた。しかし、よけいな先入観を与えては……と考え、また、身上調査のような矢継ぎばやの質問に戸惑い、軽く言葉を返した。
「どうして私を指名して頂けたのかしら?」
ルイが媚びた表情でまた問いかけた。美人が言うからまるで賛辞を期待したように思え、私は違和感を覚えてにこやかな顔にはなっていなかった。だから、私の応対はルイには無愛想に見えた筈だ。
私は、ルイの浅い円弧を描いた眉、私を見入るような挑戦的な眼差し、紅いぷっくらとした唇、優美な形の顎、すらっとした象牙色の首筋、ロングヘアーを束ねたオレンジ色の光沢のあるリボン、それらのすべてに圧倒され、ひるむ気持ちがあった。それで、口数が少なくなった。
何度か会った後で、ルイに初対面の印象を尋ねると、私自身が普段気にかけている通りの答だった。
「初めは、偏屈そうでとっても気難しそうな、何をしても気に入られなさそうな人だと思ったわ。何を喋ろうか、この人どう対応したらいいのだろう、と気を揉んでいたのよ。少し時間が過ぎたら、お話がしやすい面白い人だと判ったんだけれど」
ソープ嬢は初会の客がどんな奴かと観察するのだから、そのような印象をルイに与えぬよう気遣ったつもりなのだが。
雑談している間、早くルイの裸姿を見たいと思った。私が裸になっても、ルイが喋ってばかりいてなかなか服を脱がないので、私は少しじれていた。脱ぎっぷりの悪いソープ嬢には往々にしてサービスの悪いのがいるからそれを懸念した。
ようやく裸になると、胸と尻がそれほど豊かではなくて、少し胴長に見えた。でも、すらーっとした首筋に肩幅も狭く、ウエストが締まっているから、なよやかな体型になっている。恥毛は穏やかに繁みを作り、足がすっきり伸びていた。曲線がそれほど目立たなくても、肌理の細かい肌の白さが眩しかった。
「胸が小さいけれど、がっかりしないでね」
ルイは媚びるように首を傾げて微笑み、マットプレイに備えて長い髪を束ね上げ、髪留めで押さえた。髪をアップにした顔も、品良くてなかなか素敵だった。アップにすると、襟足のおくれ毛が優しかった。真冬の季節にルイにはまるで暖房効果があるように思えた。
女が初めに客の躯を洗う時、股間の洗い方で私は初会の嬢の技のレベルを判断した。
潔癖な様子を見せて、湯女のように背中や両腋や首筋をごしごしと洗ったりはせず、菊座、睾丸、カリ首の括れだけを重点的に洗う。カリの溝に滓などがあれば間違いなく取り去る。そんな手なれた動きを見せながらも、性器の愛撫を愉しんでいるかのように指を動かし、表情に艶めかしさがある。
ここまですれば、この女は愉しませてくれそうだ、と期待した。
ルイは石鹸液を作る間も椅子に腰掛けた私の前に正座して股間を洗う時も、にこやかに話しかけた。私は初対面でも何を喋ろうかと気を揉むことがなかった。
ルイは男の隆起の手触りを愉しむように指を穂先に絡ませた。右手でペニスを揉みながら、左手でアナルから陰嚢までを洗うという熟練の動きをした。
ルイのような美人が笑みを浮かべて男の股間を洗い、シャンプーまみれのカリ首の溝にすらーっとした指を滑らせれば、誰だって心が躍る。若い美女らしからぬ堂々とした洗い方だ。しかも、ルイには私の遊び慣れ具合を観察するゆとりがあった。
ルイは上等のサービスをしてくれるだろうと思った。
ルイはシャワーで石鹸を流した後、期待通り、そのままペニスを口に含んだ。私はその手順をソープ遊びで何度も経験しても、やはり最初はただ洗うだけで湯船に案内するのが多いから、ルイが早々とフェラチオにかかると悦んだ。
屈んだ背を上から見下ろせば、背中の肌は滑らかで腰から尻がふわーっと広がるのが素晴らしい眺めだ。しゃぶっている横顔を覗き込むと、ふっくらとした淡い肌色の頬と長い睫毛が何とも女らしい。
唇と舌の使い方が意外に上手かった。私はフェラチオをあまりに経験しすぎて、ペニスに快感を呼ぶ摩擦行為以上の感動がなくなっていた。でも、ルイにされていると、まるで初めてフェラチオされるような胸の昂まりを覚えた。
ルイは、カリ首を唇でおずおずと撫でるようなやり方ではなく、手揉みで既に漲っていたペニスの拡張を愉しむように唇でしごいた。美しい顔がペニスを含んで動くことに、何故か新鮮な感動を覚え、気持ちがかきたてられるのが愉しくてならない。
「硬いわ」
ルイがペニスから口を離し、右手で穂先を撫でて呟いた。
私の口と手はルイに対して同様のことができずに、ただ愛撫に身をまかせているのが寂しいけれど、これほどの美人がここまでするのかと嬉しくなった。ルイが挨拶代わりのサービスを終えたところで、ますます期待に胸をふくらませた。
椅子洗いが終わり、私は湯に入った。
すると、シャワーで躯を流し終えたルイがこちらへ向かって来て、「お邪魔します」と会釈するや、くるりと背を向けた。目の前で突然後ろ向きになったので、何をするのかと思った。
ルイは湯を背にしたまま浴槽の縁に腰を下ろし、それから左回りに軽やかに躯を回転させた。湯船の中に入れようとする左足が縁を跨いだ瞬間に、上体を支えるように縁に両手をついて恥毛を隠し、左足が入るや否や残った右足を素早く引いて湯に沈めた。
結局、ルイは腰が沈むまでに浴槽の幅の広い縁の上で躯を流れるように百八十度回転していた。
金津園の女では滅多に耳にしない「お邪魔します」という会釈の声がなめらかで品もある。突っ立ったまま浴槽の縁を跨がず、そこに一旦腰掛けて、両腕をVの字に組んで躯をスピンさせる、淑やかで若々しい動作が私に微笑みかけながらの艶なるものだ。
そんな仕草を眼にしたことがないから、私は眼を瞠った。刹那の流麗な仕草に感嘆した。
ルイはすぐ私の脚の間に割って入り、両膝で私の腰を迫り上げた。湯面から突き出たそれにフェラチオする体勢だ。マスターズのような料金が四万円に満たない店では、ソープ嬢は一緒に風呂に入らないことが多かった。だから、ルイが湯船に入って、俗に潜望鏡と呼ばれる技をするのが、私には予想外だった。
最前イス洗いでフェラチオした時は、洗浄の手揉みでペニスは既に勃っていた。今度は休息中のペニスを咥えるので、ルイがどういうふうに口を使うのかとても興味があった。
ルイは柔らかいものの半ばまで頬ばり、吸いながらカリ首を舌でしごいた。なかなか手慣れたやり方で、ペニスが温かい口内に吸引されて舌がねっとりとまつわりつく、その心地よさに芯まで堅くなった。
勃ち上がると、ルイは肉棒の強張りを愛でるように顔を上下にゆっくりと揺すった。小さな二つの丸みを見せる穂先から小さな断崖を刻んだエラの先まで、すぼめた唇の内側がしっかり密着して往復した。鈴口の裏筋も下唇でねっとりとなぞった。
次から次へと先走り汁が出てくるのをペニスの先に感じた。吸引は深く、時間もたっぷりの濃密なしごきに、翻弄されている気分がした。
ペニスを口に含む妖麗な横顔に見とれ、思わず賞賛の言葉をかけた。
すると、ルイが唇を離して湯の中で中腰になるや、私を見つめた。
一体何かと思ったら、湯船の縁に手をかけて顔をすーっと私の顔に近づけた。唇を合わせて、舌を私の唇の中に突き入れる大胆なキスだった。ルイの積極さに驚いた。
髪や頬から漂う化粧の匂いを胸一杯に送り込み、生温かな舌にむしゃぶりつくと、ルイは精一杯唇を押し当て、鼻がぶつからないように顔を傾けた。
初めて会うのだから、舌を吸いしゃぶろうとすれば拒むと思ったけれど、ルイは慈母のように私の欲求を受け入れた。私はしばらく呼気を抑え、柔らかな舌の応答を愉しみ、吸い取った唾液を味わった。
唇を離すと、ルイが下唇を光らせて妖しい笑顔を浮かべた。
私は照れて、身を隠すように湯船に浸り込んだ。
(キスをしながら、同時に掌でカリ首をくるんでこするような奔放さがあると、もっといいんだがなぁ)
親密さを誘う思いがけないサービスを受けても、そんな贅沢な希望を頭に浮かべていた。
ルイは浴槽でのプレイが済むと、マットプレイをするかどうか尋ねた。私が頷いたので、きびきびとした動作でマットの準備を始めた。
柳腰のソープ嬢が素っ裸で立って、壁に立てかけてあるマットを床に倒す姿は期待感を煽る。何度見てもいいものだと思っていたが、ルイが朗らかに語りかけながら支度する姿は、見なれた動作でもとても目新しく感じた。
立ち上がったルイを横から眺めると、胸も尻も張り出しが乏しく、全体にのっぺりしていて、グラマーとはほど遠い体型だ。それまでルイの華やかな美貌に気後れすらしていたけれど、何もかも完璧な美人に仕上がっているわけではないと思うと、気が楽になった。
どのソープ嬢もそうするように、私がうつぶせになる体勢でマットプレイが始まった。
ルイはマットの上で思いの外器用に動き、私の股間を大胆に愛撫した。しかも、よく判っていない女に間々あるように、性感帯とは言えない、背中や太腿などの心理的抵抗の少ない箇所に唇を這わせたり、乳房で摩ったりしてお茶を濁すことはなかった。マットに伏せた私の背中に乳房をこすりつけるように上体をくねらせている時も、時々はペニスや金的に手を伸ばして揉んでいた。
仰向きのマットプレイになった。
俯せの時と同じで、ルイは、私に抱きつき躯をすりつけていても、同時に手を私の股ぐらに伸ばすよう心懸けているし、ローションでベトベトのカリ首をかっぽりと口に含むようこともした。
美貌のわりにはマットプレイが上手いから、そのことを褒めると、ルイがにっこりした。
「マットをしないお客さんって多いのよ。何故しないのかしら?」
私はルイの意外に大胆な愛撫を悦びながらも、最前、椅子洗いや浴槽プレイでフェラチオされたときと違って、ペニスが充分に堅くならないから困った。
いくら初対面の緊張があるにしても、ペニスがほったらかしにされていないのに、ずーっと半勃ちのままだ。ルイの美貌に圧倒されてペニスが不如意になっているのかとも思ったが、それにしてもおかしい。
私はルイが金的やアナルまで積極的に愛撫する割には、一つ一つの所作が今一歩徹底を欠き、愛撫の技の切替がやたらと早過ぎて忙しないことに気がついた。
ルイは、マットプレイを好まぬ客がいることを怪訝に思うだけあって、ローションを活用した愛技は良いところまで行っている。でも、ルイの息継ぎの音が耳に響き、まるで運動をしているようで、私にはもう一つもの足りなかった。
カリ首を七秒ほど瞬間的に摩ると、金的を刺激し、それも五秒程度でやめて乳首を吸いに移り、また今度は慌ただしく躯を反転して脹ら脛に乳房をこすりつけた。次は、素早く上体を起こして私の腰にまたがり、腰を前後に揺すって股ぐらでペニスの裏側と陰嚢をさすり、その次は、上体を伏せて乳房で脇腹を撫でた。
攻撃ポイントが上半身に向かったり下半身に向かったり目まぐるしく変わり、躯の動きが激し過ぎた。寝そべった私のまわりをこま鼠のように、くるくると動いている。激しく動きまわれば熱烈なマットプレイだと勘違いしているのではないか、と思った。
ルイが額に汗を浮かべて息をはずませているので、痛々しく奉仕しているようで、お色気も出てこない。ペニスを握って男の躯にまとわりつく淫靡な動作がない。
ペニスへのタッチも今一つ圧力が弱かった。頻繁と言えるほど股間のどこかに触れるけれども、肝心のカリ首に止まる時間が僅かだから性感が満ちてくれない。それがもの足りなかった。フェラチオなりペッティングなりじっくりとしてほしかった。
ルイが精一杯努めていることは充分伝わるので、勿体ないような気がした。
(男の性感を揺さぶるテクニックが、判っているようで判っていないな。……私が好むやり方をこの女に頼んだら、「私には私のやり方があるの!」などと切り返さずに、聞き入れてくれそうだ)
私はそのように考えていた。
それで、ルイにカリ首への指の刺激を持続させるように注文した。唐突だったからか、ルイには、何、この人!というような気配があった。
マットプレイが終わり、後片づけも済んだ。
「マットがやりやすかったわ」
ルイはそう呟いて、私の躯をタオルで丁寧に拭いた。
私が小柄だから、ルイがそのように感じたのかと思いながら、躯を這うタオルの丹念な動きを肌で享受していた。
ベッドのある床の石張りの縁に立つと、それより少し低い、浴室のタイル張りの床に立ってタオルを使うルイの眼の位置が私の眼と殆ど同じだった。縁の高さから背丈に八センチぐらいの差があると判った。
私は裸のままあぐら座りをして一服つけ、ベッドの側面に凭れてぼんやりとルイの仕草を眺めた。
バスタオルを躯に捲いたルイは、束ねていた髪を解き放し、髪の捩れを直しまっすぐ流れるように、頭を振った。黒髪が空を跳躍し、首を斜め後ろに傾けて指で髪を梳く顔が嫣然と微笑んだ。
女が最も女らしく見える仕草だった。
ルイが飲み物を尋ねた。
私がブランデーのロックを頼むと、ルイは「えーっ、大丈夫?」と訊き返した。マットプレイのとき、完璧に怒張するのに時間がかかったので心配したのだ。
私は初対面の女には、どういう性格なのか判定することと、相手に私に対する関心を持たせることに気を取られ、どうも勃ちが悪い傾向があった。特に、美人の場合はいけなかった。
ルイがブランデーを用意してから、私とどれぐらいの距離のところに腰を下ろすかと見ていたら、膝が触れるようなところに座った。
(なかなか好ましい性格だぞ。サービス精神があるぜ、この女は。超人気の筈だ!)
私はそのように理解した。
ブランデーを飲みながら、熱烈なマットプレイを褒め、前にいたダイヤモンドクラブの女について尋ねると、ルイは愛嬌良く応じた。
こぼれるような笑顔も、気を逸らさぬ受け答えも、品のいい言葉遣いも、一流のホステスの応答だ。私はいつもベッドプレイにはかなり時間を使うから、夢中で話し合っていると時間が足りなくなるのではないかと心配した。
(千戸拾倍 著)