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ローザ1

 平成四年の五月に金津園の店はコンドーム着用を定めた。その頃私は恵里亜、マスターズ、ヴィーナスの三つの店によく入った。いずれも料金が四万円ぐらいの中級店で、女が揃っていた。
 恵里亜では妖艶な美女の梓(に登場)、ヴィーナスでは超テクニシャンの玲子(驚嘆のマットプレイに登場)がお目当てだった。二人とも歳は三十に近い。
 恵里亜とヴィーナスはサックの使用を守り、梓も玲子も純生のセックスを許さなくなった。
 私は玲子に長年通っても今一つ心が捉えられない気がして、通う頻度が落ちてきて、ゴムが必要になったのを契機に止めた。
 梓は惚れ込んでいたから通い続けた。しかし、サックを着けるのがいやなので、梓とは濃厚なオーラルプレイの後いつも手淫で終えた。とにかく梓が好きだから、全く交合しないことがそれほど気にはならなかった。
 梓に通いながら梓が勧める若い女と時々遊び、どんな女かと観察するのを愉しみにした。性の技が上手く、私の愛技に深く昇りつめて、しかも勝手な言い草ではあるが、できれば私には生のインサートを認める女を発掘して、親密度を深めたいと願った。
 恵里亜でソープ遊びに嵌まった平成五年は、梓の他に由美という二十三歳の女の常連になった。
 由美は若くても地味なところがあり、華やかな梓とタイプが違った。ソープ歴が長くて如何にもすれた感じの梓と違って、由美は純そのものだ。由美が親しく応対し、逢うたびにオーラルプレイで気をやって、嬉しいことに生のファックができるから、私は心から亢奮することができた。
 由美は性的な技は下手でも、ベッドで抱擁すると梓や玲子よりも格段の充実感を得られた。恵里亜で梓以外の女には八人ばかり入ったが、裏を返す意欲が湧かなかったから、私は喜んだ。良いことは続くような気がして、もう一人若い女に入浴してみようと助平心をふくらませた。
 八月に私は恵里亜の上がり部屋に掲げてある写真を見て、ローザという新顔の女に会うことにした。
 ローザは予想通りかなり小柄でチャーミングだった。しかし、見た目も言うことも想像以上にロリータそのもので、それまで童女のような女と遊んだことが全くないから、不釣り合いな年齢差を感じて戸惑った。
 部屋に落ち着くと、ローザはすっ頓狂なまでに愛敬良く関西弁で話しかけた。その気さくさに私は気後れする心を抑え、年齢差を忘れた。
「写真を見て可愛い女の子だなぁと思って、指名したんだよ」
 愛想のいい初対面の挨拶程度の会話が途絶えた後、切り出した。
「私、ロイヤルヴィトンから恵里亜に替わったばかりなので、ロイヤルヴィトンから続いているお客さんの他はまだ指名が少ないの。だから、指名で来て貰えてとても嬉しいわ。ありがとう」
 ローザは大層オーバーなジェスチャーをして、無邪気な顔で喜んだ。「ありがとう」の「とう」にアクセントがおかれ、関西系だとわかる。
 小柄な躯と写真よりもずーっと幼げに見える顔を揺すって、騒がしいほど愛想が良かった。あまり調子が良いので、かえって性の技巧はまるで身につけてないのではないか、と私は一瞬不安を感じた。
(お人形さんを抱くような気分になるかもしれないぞ)
 ローザにフロントへ電話を入れるように頼んだ。
「僕はこの店の常連なので店の人はわかるから『××さんのいつものやつを持ってきて下さい』って頼んでよ」
 ローザに私が店の格別の常連客であることをわからせたいと思ってそう言った。
「いつものでは間違えると困るから、何ですか?」
「いつものはいつものだよ。そう言えばわかるからさぁ」
「でも、私、店の人に尋ねられたら困るから」
「僕はこの店の常連なんだから、それでわかるの。そう言ってよ」
「いつものって何ですか? 教えてくれなきゃ嫌」
 ローザの顔を見ていたら、いたずらがしたくなった。
「変なものじゃないから、安心して頼んでよ。君も喜ぶ」
「私が喜ぶものってなあに?」
「君もしつこいなぁ。じゃあ、教えてあげるよ。××さんのいつもの!って言えば、店のボーイは、はいっと言って、レディの友を持ってくるよ。僕はレディの友を上手に使うから、この店では有名なの」
「レディの友って何ですか?」
「知らないの。天狗の面だよ、天狗の鼻!」
「えー、それなあに?」
「知らないの? 天狗の面から鼻だけ外して使うの」
「?……」
「天狗の鼻って、細長いだろ。張り形のこと。スイッチを入れるとウィーンウィーンと音を出して、ごにょごにょと動く天狗の鼻みたいに細長いやつ。使ったことあるだろう?」
「いやー、そんなの使ったことないし、見たことないー。嫌だー。ほんとのことー、それー?」
「本当だよ。この店の女の子は皆、僕が来るとそれを使って悦ぶの。僕は特別の客で、店もそれを認めているの。心配なら一番細いのを持ってきて貰おうか。どぉ? 取り敢えず、いつものって、電話をかけなさいよ。僕は特別に、そういうことをしてもいいって、許されているの。絶対痛いことをしないからさぁ」
「えー、嫌だー。そんなの、この店が用意しているの。嫌、嫌、ほんとのこと言ってよ。私、そんなの使ったことないもん、嫌だー」
「ははっ、嘘。心配しなくていい。そう言えばブランデーのことだと思ってくれるよ。疑うのなら『ブランデーのセットを持って来て下さい』って言えばいい」
 私は大人のおもちゃという物に一度も触れたことがないけれど、そんなふうにローザをからかうと、とても可愛らしい顔で媚態を見せるので、初対面でも魅せられてしまった。
 ローザはいきなりいたずらをされて親しみを覚えたようで、朗らかに履歴を説明した。ロイヤルヴィトンに十八歳で入って二年ほどいたけれど、あまり繁盛していなくて嫌になり、そこでは結構指名を取っても、思い切って恵里亜に移ったのだ。
 洗い場で私の股間を流しながら、指名で来て貰って嬉しい、と大仰に喜んだ。初対面でソープ嬢にそんなに言葉を尽くして嬉しがられるのは初めてだ。違和感を感じるほど嬉しそうな表情を見せるので、ロイヤルヴィトンに出る前は一体何をしていたのかと尋ねると、飲み屋で働いていたと言う。
 道理で話が上手いと思ったが、ふと気がつくと、ペニスを洗う手つきは揉み込みが充分でなかなか良い。マットプレイはしっかりやれそうだな、と私は期待した。
 ローザは胸がペッチャンコで体つきが子供っぽいのが少々残念だけれども、眼が大きくてパッチリして、口許が何となく男好きのする、写真で客を呼べる顔立ちをしていた。
 屈託のない活発な話しぶりで、二十一歳の年齢よりも幼く見えるのに、マットでは存外とカリ首に大胆な愛撫をした。更に、私が、こういうふうにしたらいいよと指のテクニックを教えると、確認の質問を何度もして貪欲に吸収しようとした。
 ロイヤルヴィトンではソープ情報誌に写真を出して、恵里亜でも店が写真を出してくれるから、P指名は充分に取れているので、本指名を稼げるようになりたい、と朗らかに語り、盛んに意欲的な姿勢を見せた。
 私は、ローザが「店が写真を出してくれるから」と控えめな言い方をしたことに好感を覚えた。
 それで、ローザの願望を受けて、本指名の増加を本当に望むなら接客の仕方と愛撫のテクニックは普通の女とは一段と違ったことをしなければ駄目だ、店に頻繁に来る客を自分に惹きつけるには、特に性技をへルスの女に負けないように、大胆に、淫らに、激しくしなければいけない、と説明した。
 マットプレイで男に躯をすり寄せて、あちらこちらに動くのも良いけれど、そんな疲れることは程々にしておいて、口と指と掌を充分に使い、吐精の限界までペニスの先をしごいてやれば、ソープ通の男に悦ばれる。更に、玉舐めやアナル攻めなどを心掛けたら、本指名は必ず伸びる。そんなふうに煽った。
 マットの上で、姿勢の構えから同時二ヶ所愛撫まで具体的に実技を教えると、ローザは生き生きとした表情でついて来た。
 私が自分の掌でカリ首をこすって手本を示すのを、ローザがまじまじと凝視するから愉快だった。
「こんなこと教えて貰ったの初めてー。でも、とても為になるー。本当におちんちんがずっとぴんぴんして元気やから、私だって楽しくなるわ」
「おちんちんの先をしっかり攻める女は本当に少ないんだ。皆存外にわかっていない。男はこれが気持ちいいんだから、これを徹底的にすれば皆悦ぶよ。カリ首が鍛えられていない男なら、ほんの少しフェラチオをしてやれば充分だ。しかし、カリ首が強い男は、吸い込みの弱いフェラチオを長々としてやっても感動してくれない。そういう場合は、遠慮なく指でグイグイと刺激してやればいいんだよ。相手の眼を見てグイグイとこすってやると、そのほうが悦んでくれる。目の前で、自分の愛撫で男が腿を痙攣させてうっとりしているとなかなか楽しいもんだぜ」
「うん」
 私は、ソープ嬢がペニスの生理をよく知らないと、必ず愛撫の仕方を指導していたから、この指導癖がおかしくなる。
 ローザはとにかく明るくて、驚くほどしゃべり続けだ。マットプレイの動きも随分奔放で、私の希望に応えてフェラチオがねちっこい。口の中にローションが入っても気にせずに舐め尽くしている。
 初対面で好感を抱いたようで、ディープキスも深い吸い込みで応えた。ローザが歳に似合わない深いキスをしたのを私は歓んだ。
(これは人気が出るぞ。ベッドが楽しみだ)
 この頃私はマットプレイでは合体も私からの愛撫もしなかった。だから私は次の絡みを期待した。
 マットが終わって語り合うと、とにかく天真爛漫で、喋るときにしっかり視線を絡めるから心が揺さぶられる。見るからに可憐な笑顔を頻繁に見せるけれど、真顔になると存外眼に妖艶なところがあった。唇が気持ちめくれ気味なのがフラッパーの雰囲気を滲ませていた。
 ベッドの抱擁になって、私はローザを横抱きし、乳首をついばんでから、おとなしいペッティングでとりかかった。陰裂の全体を撫でるのを手始めに、包皮が被ったままクリトリスを優しく揉み、それから、顔を股間に寄せて、肉の尖りを舌先で撫でまわした。
 更に、左手でクリトリスの根元を目一杯つり上げ、舌で丸みの全体をはたいて揺さぶった。ローザの様子を窺いながら、徐々に愛撫をエスカレートした。
 ローザは目を瞑った顔がうっとりとして、反応がなかなか良い。私は一番効き目のある、肉豆しゃぶりつきのクンニリングスをしようと、ローザの脚の間に腹這いになり、あらためて女陰を観察した。
 なるほど若い女の陰裂だ。小柄なだけに割れ目は短い。恥毛は柔らかくてそれほど濃くはないし、ラビアもおとなしい形をして、躯が痩せている割には、土手によく脂肪がのっている。陰核包皮は楽にめくれて、その中身がかなり大きい。
(これは吸いやすそうなクリちゃんだ。性格が明るいだけでなく、クリトリスも明るく突き出ているぞ!)
 ローザは色白だけれども、陰裂から菊座にかけてが妙に黒ずみ、尻たぶや内腿の白いところと境目がはっきりしていた。この線から内側が私の恥ずかしいところよと主張しているようで、これも面白い。全体に体脂肪が少なくても小さな骨盤を包む肉には脂肪がつき、尻がもっこりしている。膝を引きつけると尻の穴が浮き彫りになる。とても猥褻に見えた。
 アナルは綺麗な放射線を浮かべており、見苦しい突起のようなものもなく、綺麗にすぼんでいた。小柄な割に大きなクリトリスを突き出させて嬲ると、声といい肉体の反応といい濃厚な応答を返した。足をたたんで膝を引きつけ、完璧に股ぐらをさらけ出して、すっかり陶酔状態になった。垂れる愛液が多い。
 恥毛はもともと薄めで、大陰唇に邪魔な毛が全く生えてなくて、短めの陰裂がなかなか可憐に見えた。
 体型が未成熟っぽい割には、クリトリスをかなり強めに愛撫しても大丈夫だった。耐久力があるからいろんなパターンのクンニリングスが楽しめた。
 それほど頻繁によがり声が出ないけれども、時々洩れる「あっ!」の声が絞り出すような喘ぎ声で、私の気持ちを揺さぶった。眼と口許の、何とも気持ちの良さそうなその表情が、子供っぽい顔と不調和な感じがするけれども、愛撫されてよがるのはやはり女の魅惑だ。
 私は興に乗って随分長い時間唇の愛撫を続けた。途中で中指一本を入れると、濡れそぼっているので指の通りは良いけれど、その指がとても圧迫されている感触でにんまりした。
 口に疲れを感ずるぐらいに舐めて吸ってしゃぶって、ローザがアクメになるには昂まり具合がもう一つのような気がした。
 快感にひたっていることは間違いないけれど、クンニリングスのし始めと、しばらく継続した後とで、よがり方が同じ調子だった。それで、初対面だからオーガズムの到来を諦めて、愛撫はほどほどにしようと思いかけた。
 すると、若い肉体に突然前兆らしきざわめきが走った。それを私が頬や唇で感知した時、ローザが「イキそう!」と喘いで予告した。
 私は、ここを先途とばかりに舌のバイブレーションを強めた。
 ローザは股に力を込め、肘でシーツを掻くようにして「イクー」の一声で頂点に達した。予告の言葉を発するのは由美や梓と同じだ。ノックアウトの上気した顔がとても可愛らしいし、時間がかかったから、私は攻め落としたという想いがした。
 ロイヤルヴィトンは恵里亜と比べれば熟年の常連客が多く、前戯をする男が多かった、とローザがベッドプレイの前に言った。五千円ぐらいの値段の差でかなり客層が変わるのだ。四万円以上か以下なのかで存外違いがあるようだ。
 気をやるまできちんと攻めた男は少なかったのであろうか、熱烈な愛撫に感激した様子だった。
 長いハーモニカ演奏の間、ペニスはずーっとローザの口も手も触れられない位置にあったけれども、初対面の女が相手では珍しくもはにかむこともなく、見事に怒張していた。
 私がインサートしようと上半身を起こし、腰を濡れた股間に近づけても、ローザはボーっとしていてサックをつけようとする気配がなかった。しめたと思って、そのまま嵌めた。
 ローザは一瞬戸惑った顔をしたようにも見えたが止めなかった。両脚を抱え込み、陰裂を上に向けて私の抽送を受け入れた。
 腿が細いから、その付け根にあるふっくらとした二つの肉饅頭の下部と小陰唇と割れ目の赤い内側の全体が私はよく見渡せる。
 中指一本の挿入でも狭く感じる肉壷へ突き込むのは大層感触が良かった。視線を下げると、ちょこんと突き出たピンクのアンテナが愛らしく、視線を上げると、抽送を受けるローザの顔は快感を愉しむ表情だ。
 たたんだ脚の膕(ひかがみ)を手で押さえつけて、小柄で平坦な肉体にゼンマイ仕掛けのように大腰で送ると、いかにも「犯している!」という気分でぞくぞくした。豊満な女とはまた違った感じだった。
 私は大汗をかいて至上の射精を果たした。
 後で、何故コンドームをつけなかったのか尋ねたら、ローザは「忘れちゃったの」と肩をすくめた。
 マットの後の休憩のときに、コンドームが嫌いで、梓に入ったときはいつも手淫で吐精しているけれど、由美は純生の交合を認めてくれたから嬉しかったという話をしていた。
 だから、ローザがサービスしたのであろうかと想像した。梓に入浴したときは毎度手淫で済ませていると説明すると、ローザは驚いた。
 ローザは、金津園がコンドームの使用を決める前からの常連客にはノーサックを許す男もいるけれど、基本的には純生性交を許さないことは後日確認した。

 私は、関西弁で朗らかに喋り、ベッドでは見事に気をやるローザがとても気に入った。だから、翌月に裏を返した。
 初対面の時と同様に、ローザに明るい笑顔と愛想のいい挨拶で部屋に迎えられると、実に逢う甲斐のある女だと思った。裏を返したときに、「まぁ、嬉しいわ」と朗らかに迎える女はその店のベスト5に必ず入るのが私の経験だった。
 ローザが、若い客が多いというので、私は尋ねた。
「若い男は躯の新陳代謝が盛んだから、股ぐらの臭いが強いと思うことがあるだろう?」
「私、鼻が決して良くないから、男の人のあそこの臭いがきつくても、そんなに苦にしたことはないわ」
「今日は暑くなかったから、汗くさくない筈だよ。ここの臭いを嗅いでごらん」
 私はパンツを脱いで、ふざけてペニスを指さして注文した。すると、ローザはすぐさま股間にぐっと鼻を寄せて、「やっぱり、おしっこくさいわ!」と言うので笑ってしまった。
 そこで私はローザに、指名した訳を教えた。
 内心の動機としては、由美以上に可愛らしい女の子にもう一人入って試してみたい、と思ったからだが、切っ掛けがもう一つあった。
 実は梓が「××さん、ローザさんに入りなさい。いい子よ」と勧めたので、店の写真でローザが可愛らしい女の子であることを確かめて、会うことにしたのだ。
 すると、ローザはその勧められた日がいつのことかを尋ね、その答を聞いて驚いた。
「その日は私がこの店に出てまだ三日目の日よ。そのときまで梓さんが私と控え室で一緒になったのはたった一日ぐらいよ。それで、どうして私に眼をとめるの。私のことがわかったとしても、どうして私が××さんに合うって思って、自分のお客に他の子を勧めるの?」
 つぶらな眼をぱっちり開き、問いつめるような大きな声を出すので、まるで怒られているようだ。
「へー、そんな僅かな対面だったの?」
「そうよ、確かに後からは梓さんにとても可愛がって貰っているわ。でも、その日は梓さんはお客が多くて、私なんかは殆ど見てなかった筈だわ。それで、どうして私のことがわかるの、どうして?」
「君は最初から、控え室で皆とよくお喋りしていたんだろう。そういうのを、梓のようなずーっと年上の姉さんが僅か三十分でも見ていれば、君がどういう性格かはわかるもんだ。この子は陽性で、明るくて、活発にお喋りして、存外と助平そうで、それで器量がいいから、きっと××さんに合うわ、と」
「本当にちらっと見ただけでわかるのかしら? 私、梓さんとは確かお話していなかったわ」
「梓とローザは歳が大分離れているから、梓からローザのことはよく見えるの。それぐらい離れていると、入店して、その日の控え室での君の振る舞い方を見ただけで、性格を見抜けるんだよ」
「へー、そんなもんかなー。……でも、私、ほんと感謝して梓さんを拝まなきゃいけないわねえ。××さんを紹介してくれるし、××さんもすぐ来てくれるし。しかもエッチが上手で、嬉しいわー」
「でも、本当に梓は僕の好みをぴったりと読んだものだね。君は、可愛くて助平で朗らかで、お汁がたっぷり出るんだもの。彼女が僕に店の女の子を勧める場合、魅力的な、いい性格の子ばかりなんだよ。誰でもということは決してないんだよ」
 不思議そうなローザの、大仰に怪訝がる姿がとても可愛くて、梓の行為に心の底から感謝していることが微笑ましかった。
 歳を訊かれて四十六歳と教えると、父親が同じ歳と言うから、私は困惑と欣快の複雑な気持ちになった。
 ベッドでは、初対面の時と同様に、私はかなり長くクンニリングスをしてローザに気をやらせた。
 燃焼して身をよじらせたまま余韻にひたるか細い腰を撫でながら、私は舌の感覚がおかしいのを感じた。これだけ長い愛撫が必要ならば、ローザにオーガズムを与えた男はそんなにはいないだろうと想像した。
 とても個性的なローザと出会えたのが嬉しかった。熱心に通っている由美が物静かで媚びを振りまかないから、ローザのように嬌声満開の女とも楽しみたいと思った。ただ、ローザは話が調子良すぎて、見た目の子供っぽさ通り性格に深みがないようにも思え、そうだとしたら、長くつきあうことはないかもしれない、と感じた。
 由美にしてもローザにしても、玲子や梓に比べれば私には若すぎるという年齢なのに、その二人に逢っていて、何の違和感も生じないのが私は不思議だった。二人とも年輩の客を扱いなれて、年齢の壁を全く感じさせなかった。
 二人の違いは、由美には、こういうことを喋ると気を悪くするのではないかと、私は少し気遣って会話するところがあったのに対して、ローザのほうは、頭に浮かんだことを殆どそのまま口に出した点にあった。
 ローザと喋るとすっかりリラックスできるけれども、いかにも百戦錬磨で、幼い顔の割に羞恥心がないのが贅沢な不満だった。

 十月にはローザが早くも恵里亜のNo.1になった。童女の風貌だけに意外だった。
 ローザは前の店から続いている客も多く、月の指名は七十を超えた。雑誌に可愛らしい顔の写真を載せているから、P指名も大層多いし、本指名の数ではNo.2にかなりの差をつけたNo.1だ。気さくな会話ができるので、ダブル、トリプルの時間で入る男も多かった。
 ある日マットが終わってローザにタオルで躯を拭かせているときに、私は昔一度入浴した「英國屋の蘭」で名が轟いていた大ベテラン嬢ソープ道入門 3に登場)の熱烈な奉仕を思い出し、「おちんちんをちゃんと咥えながら拭くのー!」と冗談半分に求めた。
 するとローザは「はーい」と返事をして、カリ首を吸いながら腿や腰の辺りの水気を取っていた。そんな剽軽なところもあった。
 控え室では歳上の姐さん達と愛敬良くお喋りしているから、やっかみも受けずによろしくやっていた。
 それで、恵里亜の女達は客にローザが店のNo.1だと教えるようで、それを聞いて入浴する男が増えたから、ローザがぼやいた。
「ありがたいけれど困っているの。No.1だからどんないい女なんだろうと期待されて来られると、私、負担に思うわ。お客さんに紹介して貰えるのはいいけれど、No.1だなんて言わずに、人気がある子よということぐらいにしておいてくれたらいいのにねえ。……どんなにスタイルが良くて美人なんだろうかと期待されて、それで、会ってがっかりされたら、私、つらいわ。背も鼻も低いし、バストも小さいし、特別な技ができるわけでもないし、痩せているし。うちの店には、私なんかよりずっとスタイルがいい人も、美人の姉さんも大勢いるんだもん」
「ははっ。身長やバストは女の値打ちにあまり関係がないぜ。君の性格がいいから、No.1になるほど人気が出るんだよ」
「もし、例えば梓さんが雑誌に写真を出したら、うーんとP指名が増えて、その結果本指名の数もどんどん増えて、絶対に私のほうが本指名の数は少なくなるわ。あの人、ものすごい美人やもんねえ。テクニックも巧いし。梓さんや由美さんは顔出ししてないからP指名が少なくて、それで、本指名だけで部屋持ちを取れるんだから、本当にすごいと思うわ。私、あの二人には絶対勝ってえへんと思っているのよ。由美さん、P指名がひと月に三本しかなくて、それでも本指名の数が一番になっちゃったりするんだもの」
「それは、僕みたいな変なのが集中して入るからなぁ。でも君は、若いのに言うことが偉い。偉いよー」
「本当、私、××さんの言う通り、P指名は指名と思ってへんもの」
「確かに、P指名二本は本指名一本に換算すべきだよなぁ。実質的価値は、P指名五本で本指名一本に相当するぐらいのイメージかな」
「お店のお友達がね、ローザさんはどういうふうに仕事をするの?、どうやったらそんなにお客さんに来て貰えるの?って、訊くの。××さんにいろいろとやり方を教えて貰ったのって教えると、私に何とか××さんが来るように頼んでと言うから『駄目、駄目、あの人は私の大切なお客さんだから』って断ったの。××さんが女の子に講習したら、きっと皆、人気が出るわ」
「うん、お金はいらないから、実技指導をやらせてくれないかなぁ。愉しいだろうねえ」
 ローザも梓や由美と同様に、私が逢う度に必ず昇天した。何とも可愛らしい顔が陶然として、耳に響きのいいよがり声を出した。快感が兆してから落ちるまでの、次第に昂揚する表情と喘ぐ声と華奢な肉体の震えには何ともそそられた。ローザが躯を震わせて気をやると、アクメに到達したことがよくわかった。
 ローザは普段の声とよがり声とに変貌が著しく、よがり声が明瞭で、愛液も多いから、私は何の愛撫もされなくても充分に怒張した。長いクンニリングスを終えるといつも亢奮しきって躯を合わせた。
 私は、由美やローザを抱くとやたらとペニスが元気良いのが不思議だ。それはどうも、可愛らしいのが好みという訳ではなく、耳に響きの良い、高いトーンのよがり声と肉体の震えの、エクスタシーが顕著なことに、性欲が昂然と反応しているようだった。
 そう考えると、確かにそれまで相方をクンニリングスで気をやらせると、オーガズムが明確な場合は、女にフェラチオもさせずに、直ちにインサートをすることが多かった。例えば、以前通っていた玲子のようにどう愛撫してもよがらない時は、必ず強烈なフェラチオをされて、それで起立させて嵌め込んでいた。
「君は、マットでは上手におちんちんを構ってくれるのに、ベッドではそんなことは全くしないで、自分が気持ち良くなるまでたっぷりと僕にあそこを弄らせておいて、自分がイクと、おちんちんには何もせずにすぐに入れさせるんだもの。サービスが不公平だぜ」
「ふふっ、だって、何もしなくてもこのおちんちんが勃っていて、貴方がすぐに入れるんだもの」
 全くその通りだった。
 私はその日珍しく、秘貝の直接攻略は避け、乳房、脇腹、太腿など周辺を愛撫してから、中指一本をクリトリスに当ててバイブレーションを優しくかけた。マットプレイはともかくも、ベッドの前戯ではどの女にも口だけを使ったから、そこに指を使うのは久し振りだ。指の愛撫だけでローザがどこまで濡れるのか試してみたかった。
 しばらくペッティングすると、ローザの躯はかなり蠢いていた。でも、割れ目が濡れない。指でよがらせるのを諦めて、オーラルで挑んだら、直ちに愛液が二筋、三筋と垂れてきた。
(やはり指より口でしてやったほうが効き目があるぜ)
 そう思いながらクンニリングスを続けるうちに、次第にローザのよがり声の間隔が狭まり、もうそろそろ到達すると思うと、何故か急に静かになって、肉体の反応もおとなしくなった。
(今日は何だか変だな。遅いぞ?)
 快感がしぼんでしまったかと怪訝に思いながら、なおも舌先でクリトリスをはたいていると、また、ローザの昂まりを感知した。しかし、到達には到らない。
(随分と今日のローザはイクのが遅いぞ)
 そんなことが繰り返されて、戸惑いながら汗だくになってクンニリングスをしていたら、そのうちにようやくローザは揺らぐ声を上げて明瞭なエクスタシーを迎えた。
 私は予めローザに、気をやったら、たとえ如意棒が力強く漲っていても、カリ首をしっかり愛撫して愉しませてくれ、と頼んでいたけれど、亢奮のあまりそんなことは忘れてすぐにべとべとの肉壺に嵌め込んだ。
 ペニスがヌルリと侵入する時のローザの切なそうな顔がたまらない。
(コンドームを着ける手間はいらないし、ずぶぬれの肉孔がまつわりつくから、やっぱり生はいい。でも、今日のローザは、ギブアップまでやけにしぶとかったぜ)
 ローザの忘我の顔を眺めてペニスの往復を愉しんだ。
 フィニッシュの後でシーツを見たら、染みの地図が巨大だった。
 それほどまでに濡れたのに、イキそうでなかなかイカなかったから、一体どうしたのか?と尋ねた。
「すぐにイッたらつまらないと思って我慢して、それで途中イッちゃいそうになったんだけど、廊下で誰かの声がしたでしょ。それで、なかなかイケなくなっちゃったの。××さんが指でしてくれたときも、私、すぐイキそうになったのよ。でも、指でイカされたら癪だと思って、そのときは我慢したの。ねえ、この手を見てえ。震えているでしょ。さっきからずーっとこうなのよ。私、本当に気持ちがいいと、こんなふうに手が震えるの。私、指でされたときも、イキかけていたのよ。だけど我慢したぁ」
「ふーん、そうだったの。女はデリケートだからねえ」
「××さんは、優しくしてくれるからいいわ。私、この間ね、お客にクリちゃんを噛まれて血を出してね、しばらく休んでたのよ。噛まれたときは驚いてすごい悲鳴を上げたのよ。痛かったー。それで、ようやくお店に出られるようになって、今日は久し振りにイッたから、ほんと、良かったわ。……私ね、二週間休んでいたのよ。痛かったわ、本当に。沢山血が出たのよ。今月は前半休んじゃったから、本数が取れないわ」
 ローザは、切ない体験をその日会ってからその時まで話しもせず、ベッドの抱擁が終わった後に、声を力ませることなく語った。
 ローザはつらいことには耐久力のある性格だと思った。力まずにしんみりと話したことに、ローザの大人を感じた。
 ローザに個人的な付き合いを迫る男も二人三人いた。
 まだ若いから店に来る回数はそれほど多くなくても、真面目そうに口説く男がいた。
 客と親密になって、仮に、結婚したところで、男が浮気をしたときにそれを非難したとしても、昔のソープの仕事なんかを口に出されて、「お前、昔は一体何人の男としたんだ」と反撃されたら、言葉の返しようがないから、どんなに真心を込めて口説かれても、その気にはなれないと言った。
「店で、客として知り合った限りは、歳の離れた独身の男以外は恋愛対象にすべきではないね」
 そう言って、私はローザの考えに同意した。
 そして、ローザは自分や周囲のことを冷静に観察し、分析し、存外としたたかなところも窺えるけれど、落ちる時には、狂ったように自分自身がどうにも制御できなくなるように落ちるのではなかろうか、と想像した。

 ローザは話の面白い女だった。
 常連の客が「頼むから、ちょっと薬を使わせて貰えないかなぁ」と言った。
 ローザが「何よ、そんなの、いや!」と返すと、土下座まがいの懇願をした。訊くと、高価な媚薬を買ったので、是非試させて欲しいということだった。男のほうに塗るのは長持ちさせる効用があり、女のほうに塗るのは気持ち良くさせる薬だと説明した。
 そんなに横着な客ではなかったので、ローザは言う通りにしてやろうと思った。それで、男が嬉しそうに軟膏のものを塗りつけた後に一戦を始めた。
 ローザは私に説明した。
「男のほうのは一万円以上して、女のほうのは二万円以上の代物なのよ。すごいでしょ?」
「へーぇ、驚いたね。で、君のほうに効き目はあったの?」
「それが、ちっとも効かないの。私、ちっとも気持ち良くならなかったわ」
「その人はちゃんと前戯をしているの?」
「ううん、いつもすぐに入れちゃう人。その日もそうよ」
「じゃあ、駄目だよなぁ。それで、その男のほうは少しは長持ちしたの?」
「全然。いつもと変わらない。すぐ出しちゃったの」
「ひどい薬だねえ。そんなに金取って」
「その人、怒っていたわよ。『店に文句を言って来る!』って」
「気の毒だけど、愉快な話だねえ」
「ほんとねー。……あの人、私のあそこに、ほんと、嬉しそうに薬を塗りつけていたのよ」
 ローザが、ある日嬉しそうに語った。
「ねえねえ、××さん、私、自分より背の低い人と、初めて抱き合ったわよ。今まで随分と男の人には会っているけど、そんなの初めてぇ。それも、二人も連続よ。二人とも若い人だったけど、私より背が低いなんて、何だか変な気持ちになったわ。でも、可愛いもんだわぁ」
「ローザより背が低いなら百四十センチ台なんだろう? おちんちんのサイズはどうだったんだい?」
「一人は普通のサイズだったわ。だけど、もう一人はとっても小さいの。それが、その人むちゃくちゃ良い男だったのよ。だけど、背はね、私なんかよりずーっと低いの」
「小さいって、どれぐらい小さかったんだい。サックは被せられたの?」
「あれにさわろうとして下を見たら、それがないの。えっ、どこなの?と思って、毛をかき分けたら中に隠れているの。勃っても、せいぜい親指の頭ぐらいなのよ。それでも『サックはつけてね』と、私、言ったわよ。『僕はこんなふうだから、いつも入っている子にはサックなしでして貰うんだけど、初めて会ったのにそんなことをお願いするのは厚かましいから、つけていいです』とその人が言ったわ。だけど、やっぱりすぐに外れてしまうから困ったわ」
「そんなら、どういうふうにずっこんばったんしたんだい? ちゃんとゴムの中にエキスを出させたの?」
「もう、胸なんかを合わせてするのは無理。互いの躯をうんと開いて、お股を脚のほうからぶっつけるやり方でしたわ、先が中に入るように見当をつけて。コンドームは、巻いてあるのを全然伸ばせずに、そのまま当てている感じよ。だから、出した液がそこら中に飛び出しているの。あれぐらいちっこいと気の毒ねえ」
「ふーん。じゃあ、イクのに時間がかかったんだろう?」
「それほど長い時間でもなかったわよ。その人、本当に良い顔しているの。それでね、おへそから下のほうは見てびっくりするほど傷だらけの、無惨な肌だったわ。子供の頃に何回も手術をしたと言っていたわよ。おちんちんが小さいのはそのせいかしら。玉々だって殆ど外に出ていなかったわ。少しだけ膨らんでいて、指で押さえると、あるんだなと気がつく程度。結婚できるのかしら。可哀相ねえ」
「うん、気の毒だねえ」
 ローザは闊達で天真爛漫な喋り口と完全に身をまかせて愛撫に浸るのが、何とも私を揺さぶった。童女の顔で幼女のような体つきなのに、どんな客も必ずにこやかにさせるに違いないと思えるにぎやかな会話がいつも続いた。
(畜生、私一人だけにこういうふうだったらいいのにと思うのは、贅沢と言うべきか)
 プレイが終わった後、素裸のまま鏡に向かって首を傾けて、髪を整えるローザの後ろ姿を見ながらそう考えた。
 鮮やかに黒くて長い髪にいつも細かくウェーブがかかっている。上体を少し前屈みにし、更に右肩を少し落として、黒髪を肩口から前へ垂らし、両手にヘアーリンスをつけて揉む、大層女らしいの字形の姿が、尻の発達した少年のような躯と対照的で、帰路の私に残像として残った。

 その頃私は恵里亜でローザの他に梓と由美に通ったから、店に入る数は大層なものだった。
 八月からローザにも毎月入るようになって、出費の多さを気にかけていたのに、十一月に夏美という女が気に入った。
 夏美は若いローザと正反対のベテランで、梓よりも少し年上だ。私は由美やローザと歳の差を意識したから、大人の女の魅力を放散する夏美に心が激しく動いた。
 毎月逢いたい女が恵里亜で合計四人になった。マスターズの夏木ルイにを加えると五人だ。いよいよ経済的破局が心配になりはじめた頃、驚く事件が起きた。
 恵里亜が営業停止になった。
 平成六年一月に恵里亜が警察の手入れを受けたのは大変な衝撃だ。恵里亜がどうなろうとかまわないが、働いていた女達は完全に行方がわからなくなる。それがとてもつらい。
 ローザは雑誌に写真を出した。もしローザが金津園に残るなら、三ヶ月も経てば雑誌に写真が載るかもしれない。しかし、他の女は雑誌に写真を出さないから、絶対に行方がわからなくなる。
 ローザは月一回のペースで通うぐらいで、逢えなくなったとしてもそれほど打撃ではなかった。しかし、由美と夏美は月に三回入浴したことがあるほど熱を上げたから、喪失は絶望につながった。
 驚いて岐阜に出向いた私は金津園の喫茶店で情報を集めることにした。
 店の親父に尋ねると、「恵里亜の女は全部諦めなさい。一度警察に調べられると、仕事をやめてしまう女が多い。やめない子でも、雑誌に写真を出すならそのうちわかるだろうが……」としゃがれ声でがなった。
 私は、更に、もう一軒喫茶店を訪ねて様子を探った。女主人が私に語った。
「恵里亜が手入れを受けたのは、未成年とか覚醒剤の問題ではないと思うわ。近頃は、店が暴力団とちょっとでも関係があると思われると、それだけで取り調べを受けるのよ。今、警察はしゃかりきになっているようなの。金津園はもう沢山の店が挙げられて、私のところも全く商売にならないわ」
「でも、恵里亜は多分暴力団とは関係がないと思うんだけどなぁ」
「あの店は随分派手にやっていたから警察に眼をつけられたのよ。この地方の雑誌はそれほどでもなかったけれど、恵里亜は全国誌に、じゃんじゃん広告を出していたからねえ」
「女の子の行き先はわかるんだろうか?」
「一度手入れを受けると八ヶ月は営業できないし、女の子は同じ店には戻らないし、行方を掴むのはなかなか難しいわねえ」
 営業停止を受けると、たとえ再開しても男性スタッフが変わって、懇意にしていたマネージャーから女の行方を聞くこともできなくなる、というのが私の経験だった。
 女主人がソープ街の地図を示したので、見ると、閉店中の店は×印がつけてあった。その数は私の記憶よりも随分と多く、三割ほどになっていた。
 そこまで検挙が続くのは自民党政権崩壊の影響もあるのだろうかと私は思った。
 女主人は、警察が今まで挙げていない店を摘発していること、道路拡張の計画があって、その道路沿いの店は挙げられやすいと思うことなどを声高に説明した。
「さっきから私服の刑事がこの辺りをうろうろしているの。今日もきっとどこかが挙げられるわ。どうなっちゃうんだろうねえ、金津園は。今日挙げられそうなのは、きっと手入れが最近入っていない、この列とこの列の店よ。この道路沿いも危ないね。手入れを受けると、客も大変よ。大きな護送車に皆が乗せられて、取り調べを受けて絞られるのよ。自分だけは大丈夫だと思って、遊びに行くのはかまわないけど、後で、あのとき私の言うことを聞いておけば良かったと思うことになるかもしれない。警察に行くのは恥ずかしいわよ。夜まで待つなら別だけどね。夜は、警察は仕事をしない」
 私は悄然と来た道を戻りながらすっかり感傷的になった。頭の中に「シャレード」の音曲が流れていた。
 駅に戻って切符売り場に向かいかけたとき、ふと、ベテランの玲子ならもっといろんなことを知っているはずだと思いついた。
 あわてて名古屋から金津園まで来て、喫茶店で話を聞いただけで帰るのは腹立たしい。
 玲子にはもう二年近く会っていないけれど、昔はよく通った。業界のことに詳しいようだから、参考になることを聞き出せるかもしれない、と私は考えた。
 ヴィーナスにもう玲子はいないのかもしれないと思って電話を入れると、玲子はまだその店にいて、丁度空いていた。

 私は玲子に通っていた二年前というのが随分昔のことのような気がして、突然現れたら玲子にどんな顔をされるだろうか?と気になった。だから、玲子がにこにこして迎えると、ほっとした。
 玲子は二年分顔に若さをなくしていたけれど、肉体のラインはしっかり維持してあった。
 早速玲子に恵里亜の手入れの事情を訊くと、「今回は、警察はばいぼうほうそのもので挙げているのよ」と言った。
 私は「ばいぼうほう」と聞いて、漢字を当てるのに数秒を要した。
「売防法だったなら、恵里亜もどうしょうもないわねえ。前は、警察もこれで来ることはあまりなかったんだけれどねえ」
 売防法なら金津園の全店が対象になる筈だが、何らかの理由で恵里亜が眼をつけられたのだ。多分、暴力団にお金が流れたのを咎められたのだろう。覚醒剤とか未成年者使役の問題なら、当事者だけが調べられるのだろうが、売防法違反容疑ならば、店の女は全員取り調べを受けるに違いない。
 もし、手入れのあった日に由美やローザや夏美が店に出ていて、そのとき客を取っていたならとてもみじめだろう、と思うと不憫だった。
 京都出身のローザは警察にこってり絞られたなら、次は金津園で働くとは限らない。福原、雄琴、吉原、働けるところはいくらでもあった。嫌気がさして、ソープ稼業から上がってしまう可能性も高い。雑誌に顔出しするローザが金津園に残らなければ、由美や夏美を探すのは絶望的になる。
 私は悲観的になった。
 警察の方針が変わって、これからは多くの店がいつも営業停止になるとしたら、上がるつもりでなくてもソープ店への再就職は容易ではなかろう。
 失いそうな女を何とか見つけたいと私が訴えるのを、玲子は黙って聞いていた。四年以上も常連で通ったのをぷつりと止めて、しばらく会っていないのに、玲子は親切なことを言った。
「私はこの業界の女の子は沢山知っているから、行方を調べてあげるわ。名前は何という子なの。もし、この業界に戻って来たら、多分わかると思う」
 私は意気消沈の顔ですがるように玲子を見つめ、源氏名か本名かどちらを教えたら良いかと尋ねた。
「本名なんか聞いたってどうしようもないわよ」
 そう返されて、私は、阿呆なことを言ってしまったと悔やんだ。それで、ローザについては、金津園に残ればきっと雑誌に写真を載せるので名を出す必要がないと思って、由美と夏美の名前を教えた。
 その日私は玲子に久し振りに過激な愛撫をされても、性欲が沈静したままだった。怒張に力がなくて性交をすることができず、玲子の手淫で半勃起のまま射精を果たした。
 ベッドプレイが終わった後、玲子は「由美さんと夏美さんね?」と確認した。それがとても嬉しかった。
 由美、ローザ、夏美と全部逢うことができなくなったら一体どうしたらいいのだろう、と途方に暮れた。掌中の玉をもぎ取られたような厳しすぎる痛手だった。
 ローザは、私にこんなことを言った。
「私、躯を売っているつもりは全然ないわ。男の人に喜んで貰えるようにして、私も楽しんで、それで、後でお小遣いをちょっと貰っているだけだと思っているわ」
 どんな話の流れでそんな会話が出てきたのか憶えていないけれど、ローザが屈託のない明るい顔で喋ったのを思い出した。ローザが警察で取り調べを受けたら、どんな気持ちになるだろうと心を痛めた。
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(千戸拾倍 著)